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第弐話 幼馴染

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「啓太ちゃんホントに来てくれたんだぁ!」
普段からは想像も出来ないほどのテンションで僕に近寄ってきたそれは、待ちわびていた恋人にでも出会ったかのような態度で僕にそう言うと、にっこりと満面の笑みを浮かべた。




第弐話 幼馴染


   
6月下旬。




 台風12号が関東地方を直撃したことで、せっかくの休日?も大雨で外に出れず僕は悶々としていた。とはいっても今日は晴れていようがなんだろうがある予定のせいで遊ぶことはままならなかったが。そして、その予定に向けて今まさにこの大雨の中最寄の駅まで行かなければならない状況なのだ。正直だるい。なぜこんなことになったのかとも思いながら僕は駅まで歩き出した。
 駅に着くと同時にメールの着信音が鳴り響いた、送信相手はどうやら今日の予定の主である幼馴染の由紀のようだ。

「今最後のリハが終わりました。開演は一時間後ですけど来てくれるんですか。」

 内容は今日のことだ。由紀とは小さい頃からの友人で一応女でそれなりに可愛い、よくもてるようなのだが浮いた話がひとつとしてなくしょっちゅう二人で遊んではからかわれたりしている関係だった。高校に進学してからは僕の学校のすぐ近くの女子高に通っており全国大会常連の吹奏楽部に所属していた。そして今日は学校主催の年一回の定期演奏会を市民ホール貸切で開催するから暇なら来てほしいとのことだった。

「もう駅、余裕で開演前に着く。」
正直、こいつとメールするのは何だか慣れない。中学まで顔をあわせて会話していたからだろう、メールを使い始めて2年以上たつ今になってもどーしてもぎこちない。淡白に用件を送ることしか出来ずいつも情けないと思ってしまう、まぁ向こうもそんな感じなのであまり気にしないことにしてるが。用件だけ伝えるメールを送信するとすぐに返信が来た。

「花束ほしい」

 なんのこっちゃ!急に花束ほしいと言われても何が何だかわからんし、間違いメールか?軽くパニックになっているともう一通由紀から、

「冗談です。すいませんでした」
ときた。返信に時間があいたことでパニくったのがわかったのだろう、それか自分で言ったことに耐えられなくなったか。どちらにしろ由紀のほうもパニックに違いない。演奏前で緊張してるだろうし。「頑張れよ」と一言だけ送ると、「ありがとうございませう」とだけ来た。なぜこいつはメールだと敬語なのだろうか、やはりぎこちないのは一緒なんかな、そんなことを思いながら僕は会場へと向かった。


 見られてねぇよな、たぶん。そんなことを思いながら僕は花を片手に会場までの道を歩いていた。雨もすっかり上がり水溜りの道路をスーツで花を持って歩いている、友達に会ったらどうしよう、いや会うならちゃんとわけを話せるからいいが目撃されて学校でうわさになったらどうすりゃいいんだ。自分でも恥ずかしいくらいの格好をしている、変なうわさが広まったら終わりだな。そう思うと急に恥ずかしくなった。でもまぁ、今日だけはみんな学校にちゃんと行ってるはずだからこの時間に校外で目撃されるわけないか、だって今日は、うわさの転校生が来る日だし。

 そんなことを考えてるうちに僕は会場に着いた。ご丁寧な受付係が来賓の検査をしている、さすが全国常連校の演奏会だけあって人が大勢あふれていた。僕は手に持った花を見ながら、あの駅の花屋は今日儲かったんだろうな~と思い周りと同じように受付係に花を預けた。僕の花はとてもしょぼかった。

 ふと、視線を感じた気がした。


 由紀の演奏会は、クラシックに疎い僕でもわかるほどたぶんすごいものだった。会場に入ってから即寝てしまった僕はとても夢見がよかったことと文字どうり目が覚めるような衝撃しか印象になかった。でもまぁいい、今日は来たことに意味がありあいつは喜んでくれるだろうし。
 演奏が終わり生徒達が最後の挨拶をしているとき、僕は一人立ち上がった。由紀は僕に気づき、小さな花を上に上げて見せた。やっぱしょぼい花だ、でも一応1050円したことはいつか話して飯でも奢らせよう、そう思った。



「啓太ちゃんホントに来てくれたんだぁ!」
いつになくハイテンションな由紀は花を片手に僕のところに走りよってきた。こうしてみるとやはり可愛い、来てよかった。

「こいって言ったろ?言われりゃ行くさ。」
そっけない返事だ。しかしいつもと違う雰囲気の彼女に、僕は純粋に照れていた。

「でも今日学校あったでしょ?サボってきてもらってごめんね。」
「自分で選んだ行動やしまったく問題ねぇよ。てか今日のお前すごかったぞ、うん。80点くらいだ。」
僕は言葉を選びながら由紀と久々に会話をした。やっぱメールはめんどい、こんな簡単な会話におそろしい時間がかかるし。そんなこんなで話をしていると向こうのほうで部員たちに集合の令が下った。由紀はあわてて戻る準備をしながら、

「今日はホントにありがと!このあと打ち上げなんだけど終わったら一緒にご飯しましょ、啓太ちゃん!」
と言ってきた。僕は少し間を置いてから、

「そんな約束したらお前は打ち上げ途中で抜け出すだろうに。今度いつでもいいから行こうな、だから今日はちゃんとみんなと騒いでいい想い出作ってきなさい。」
そう告げて彼女を送り出した。由紀は少し寂しげに花を持って集合場所へと走っていった。


 僕はヘたれだった。




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