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苗ちゃんの酢豚の話5

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 苗ちゃんの、やりきったぞ!どうだ!という声に誘導され、僕ら3人は1階のダイニングへと向かった。
木でできた4つのイスと、木でできた4人用テーブルに、僕ら3人は座った。座り方は、僕が一番左端で、隣が苗ちゃん、僕の向かい側が吉田、
苗ちゃんの向かい側が菊蔵、という座り方だった。個人的にとても良い座り方であった。
そして苗ちゃんは、手に持っていた大皿の「酢豚」をテーブルに置いた。結構な量の酢豚だった。
「どうだ!酢豚!この苗ちゃんの酢豚は!!」
「うひゃああ、こりゃすげえ量だ!一人で作ったのか?」と吉田。
「ええそうよ、すごいでしょ!」
「すごいですね!おいしそうです!」と菊蔵。
「お、おいしそう!早く食べよう!」と僕。
「あ、ありがとね。じゃ、じゃあ食べよっか」

「いただきます!」


「ど、味はどう?」

「…苗にしてはいいと思うぜ」と吉田。

「いいと思いますよ!」と僕。

「好きです」と僕。

「じゃあ私も食べてみるね」と苗ちゃん。

「まずっ」と苗ちゃん。

「なんで正直に言わなかったのよ、あんた達!す、すっぱい!!!」
苗ちゃんの作った酢豚は、決してまずくはなかった。でも、とてもおいしいとは言えるようなものでもなかった。
とてもすっぱかったのだ。おそらくお酢の量を間違えたのだろう。

「ごめんねぇ~、ごめんねぇ~ ;;」
と、苗ちゃん。
「初めてにしては上出来なんじゃないのか?」
と、吉田。
「気にしなくても、食べられるんで大丈夫ですよ!」
と菊蔵。
「好きです」
と、僕。
「みんなありがとね~、ありがとね~ ;;」
と、泣きながらの苗ちゃん。


「ところで苗ちゃん、その……、今悩みとかないの?」
「うーんと…、さっきまではあったよ。よくわからない悩みだったけど」
「じゃあ、今はどうなの」
「うーんなんだかね…」


「こう、なんかよくわからないけど、みんなのさ、その笑顔と優しさを見ちゃってさ、それで涙流しちゃって…」
「もうそれで、なんだか解決しちゃったの」

「ほうほう、それはよかった!」
と、僕。

苗ちゃんは、絹子ちゃんのようにはならなかったのだ。本当によかった。仲間とは、本当に大切なのだと、心から思った。

「もしさ、俺が死んだらどうすんのさ
と吉田。
「悲しいけど、現実を受け入れる、かな?」
と絹子ちゃん。

そのやりとりに僕は感動を覚えた。

「まあでも、この4人でこうやって集まってさ、こうやって永遠に一緒に居たいんだけどさ、現実はそうはいかないよね」
「うんうん、そうなるなぁ。で、苗。おまえはどうする」
「うーん……。やっぱりどうにもならないことは、どうにもならないわけだから、」


「とりあえず、今のような関係が永遠に続くのを祈る。……しかないんじゃないかなぁ。それでいいんだと思うんだけど」

と、苗ちゃん。

今、おそらくこの場にいた僕を含め4人は、同じことを考えていたのではないかと思う。
僕はその考えが、とても素晴らしいものだと後に知るだろうと悟った。


「酢豚オフ」が終わった夜、僕は布団に入った。

でも、新しい朝が来るのが待ちどおりすぎて、眠りにつけなかった。人生初の、徹夜であった。

朝一番で見た、窓の外の景色は、とても青く美しかった。

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