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噂の魔王

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一面の荒野が広がるこの大陸にぽつんとたっている禍々しい城がある。
それは魔王城と呼ばれ世界征服を企む魔王が住んでいると噂されているが誰一人とてその真意を知るものはいない。
なぜならば魔王城へ向かったものは誰一人生きて帰ってこなかったからである。
そして魔王城の最深部にある玉座に座っているのは二十七代目魔王である。
黒の服装に漆黒のマントに身を包んで威風堂々と玉座に座るその風貌は正に魔王に相応しいのであろう。
しかし、なんとも似合わないのはその顔である。
黒色の髪、深黒の瞳、少々きつめの目つき。美形である。加えて細身で長身。
黒一色で統一されている魔王は静かに重々しく口を開いた。

「暇だ」
ああ、しかし暇だ。
俺はこの魔王城に住む魔王だが暇だ。やる事が何も無い。
俺の先祖は世界征服とかそう言うのに燃えていたらしいが全く俺はやる気が起きない。
何しろそんなのめんどくさくいのでぼっーとしているほうがマシである。
寧ろ俺は燃えるではなく萌えるの方がすきなんだ。
ああ、しかし暇だ。
何もやる事がない。本当に無い。
少し思案してから俺は一つの案を思いついた。
召喚中でも呼んで暇を潰そう。
とりあえず博識なシヴァでも呼んでいればとうぶんは暇つぶしができるだろう。前回はイフリートをよんでいたしな。
そうかんがえて俺は召喚することにした。
「我が声が聞こえるのならば汝応えよ、さあ我もとに来たれ!」
ぱっと床に六旁星が浮かびあがりその中から光に包まれて出てきたのは背の小さい巫女服をきた少女だった。いや、立派に狐の耳と尻尾が生えている所から人ではないのだろう。
しかし当の魔王は困惑していた。
こんな幼児体型な奴がシヴァではない。
シヴァはこう、もっとお姉様なのだ。
「私を呼んだのはお前か?」
「いや、呼んでない」
即答だった。
「ああ、間違えたっぽいから帰って良いよ」
めんどくさそうに手をひらひらさせる魔王。
しっしっとまるでハエでも払うかのようである。
「な! 私を呼びつけておいてその態度は何だ!!」
顔を真っ赤にさせて叫ぶ少女。
しかし幼児体型のせいか全然恐くない。
すこしむっとした魔王だったが冷静に言い放った。大体はこれで怯えるものである。
「お前こそ俺を誰だか知っているのか俺は……」
「ああ知っている。魔王だろう? だがそんなこと知ったものか! 私は誇り高き九尾の狐だ!」
心底頭にきているのか怒鳴り散らして喚く少女に魔王は目をひそめる。
魔王と知ってなお態度を変えない少女に魔王は内心感心したが、あくまで魔王はふんっと鼻で笑った。
「九尾の狐など恐れるに足らん相手だ。この魔王に対していい度胸ではないか小娘」
「小娘ではない! リリィという名がある! それに私はこう見えて200年は生きているぞ!」
魔王はリリィを完全に見下している。
態度も見た目も。なぜならリリィと魔王には身長の差がかなりありリリィは魔王を見上げる形だからである。
ちなみに魔王も200歳だ。
「ほう、俺と同い年か。まぁいい、さっさと帰れ」
「ふんっ! 言われなくても帰ってやる」
リリィは六旁星の中に戻ったが一向に消えない。
30秒ほど待ったが魔王は遂に痺れを切らした。
「早く帰れ!」
「黙れ、器量の狭い奴だな……くっ! このっ……むむむ」
「むむむじゃない。何してる」
「…………帰れん」

2, 1

  

ぼそっと呟いたその言葉に魔王は唖然とした。
帰れないなど理由は一つである。召喚術を間違えたのだ。
召喚術とは全部で三つある。
一つ目は召喚獣のように契約して短時間の間呼び出すもの。
二つ目は使い魔として召喚し契約時間まで自由に使えるもの。これが人間どもが主に召喚術だと信じている。
三つ目は一生涯主人が死ぬまでそばに居なくてはいけないものである。魔王が使ってしまったのはこれだった。
「そんな……俺ともあろうものが間違えるなどありえん。認めんぞ俺は」
頭を抱えて悩む魔王に下から声が聞こえる。
「しかし現に失敗しているのだから仕方ない。私も腹を括ろうではないか」
魔王は気を取り直してじっとリリィを見つめた。
ショートカットの黄金色の髪、大きくてパッチリとした目、長いまつげ、きつく結んである唇。
容貌はわるくない。寧ろ可愛い。
それに加えてこの幼児体型。ロリコンには堪らないだろう。
じっと下から上まで見終えた魔王は溜息をついた。
しかし心労からではない。
「可愛いからよし」
満足げにそう応えた魔王の言葉を聞くや否やふるふると震えだすリリィ。
怒りに打ち震えているのだろうが魔王にはそれが感激の余り震えているものだとおもった。
おめでたい野郎である。
「おーおー、俺に仕えるのがそんなに嬉しいか」
「ふ、ふざけるな!! 可愛いからよしだと!? 貴様私を何だと思っているのだ!?」
余りの声の大きさに片耳を指で塞いだ魔王だったが玉座に座りなおして言い放った。
「召使だ」
「くっ…………!」
玉座に座る魔王の威圧に耐え切れずリリィは押し黙ってしまった。
傲慢不遜に言い放つ魔王だがリリィはまるで勝てる気がしなかった。
「それではこれから貴様に三つの法を定める。もし破ったらキツイお仕置きだからな。一つ目は俺に逆らわない事。二つ目は俺を崇める事。三つ目は俺の事をご主人様と呼ぶこと。以上」
「ちょ、ちょと待て! 一つ目は分かる。二つ目もなんとか分かる。しかし、三つ目は何だ」
「分からんのか? どこまでも低脳だな」
魔王は魔法で剣を取り出した。
すっと片手で音も無くリリィの喉元に突きつける。
つーと一筋の細い血が流れた。
「なんだ、私がどうしたというのだ」
「いや、かっこいいかなって」
また魔法で剣をしまう。
「魔王、そういう戯れは私ではないものにしろ。疲れる」
「お前いきなり破ってるじゃないか。それにお前以外にする奴などおらん」
「はぁ? ここには私のほかにたくさんの下僕が居るのだろう?」
「俺以外に誰も居ないぞ」
その言葉を聞いた途端おとなしくするリリィ。
「そ、そうか。それはわるい事を聞いた」
「気にするな。いや、お仕置きだな。夜の相手でもしてもらおうか」

「なっ!? き、貴様は突然何を言う!」
少し経ってから真っ赤になって困惑するリリィ。
言葉の意味を理解するのに時間がかかったようだ。
くっくっと喉の奥で笑う魔王はそのまま魔法でリリィを浮かせる。
「は、はなせ! ええいやめろ!」
「じたばたするな」
必死の抵抗空しく軽々と寝室まで運ばれてしまったリリィ。
無造作にベットへと放り投げられる。
魔王もベットに飛び乗りすぐにベットの周りにだけ結界を張る。
これでもうリリィは逃げられなくなった。
「ひっ……や、やめろ魔王」
呼び出されたときとは正反対に完全に怯えた表情で懇願するリリィ。
その表情を見てにっこりと笑う魔王。
「いいぞ、その表情。もっと俺を楽しませてくれ」
彼は正にそのときだけ魔王だった。
「げ、外道!」
「外道で結構。俺は魔王よ!」
「いやぁぁぁあぁぁ!」
その日リリィは眠れない夜を過ごした。
鬼畜外道で傲慢不遜。
これはそんな魔王の生活を描いた物語である。

4, 3

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