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道化に五秒の戸惑いを-03

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 その後は、何の変哲も無いショッピングだった。
 高名なブランドの直営店にしけこんで(本当に、何の躊躇いも無く入店してくれやがったものだ)、僕が普段出入りしているショップで見受ける値札の数字に丸を一つ二つばかり追加したような有り得ん値段の衣服を山のように抱えた梔子高は、一も二も無く僕とポポロカを試着室に押し込んだ。コーディネイトは僕の役割らしいのだが、生まれてこの方一度も他人の衣服を選んだことなど無かった僕は、当然何度も何度も梔子高に駄目出しを喰らう事になる。……三時間も、だ。店員さんの視線の、それはそれは痛いことと言ったら無かった。しばらくあの店には自主的に出入り禁止令を発令したい。尤も、元々あんな高級ブランド店にお世話になる機会など無いのだが。
 その後、真新しい衣服に身を包んで耳をぴこぴこ跳ねさせるポポロカと、僕の親父の給料の三分の二くらいの金額になったその会計をカードで済ませたにも関わらずほくほく顔でポポロカを見つめる梔子高と、相も変わらず冴えない格好の僕は……いや、自分的には相当に頑張ったつもりなのだが。とにかく一向は、そのまま何をするでもなく、ブラブラとショッピングモールで冷やかしや何かをして過ごした。
 正直に申し上げよう。楽しかったさ。
 もしかしたら、梔子高のお誘いがそのまま実現するよりも、よっぽど気を使わずに純粋に楽しめていたのかもしれない。
──否。
 もう、この話は持ち出すまい。
 
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六月十七日 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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