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突然ですが、世界を救って下さい。-03

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 電車から降りた僕は、梔子高による口頭での道案内を殴り書きにした地図を見ながら進んだ。
 新鮮な気分である。平日に、普段着で、見知らぬ町を徘徊しているという現状は、罪悪感と優越感の混じった、言葉に出来ない妙な感覚を覚える。少しだけ、非行少年達の気持ちが解ってしまった。
 しかしまぁ、随分珍妙な場所をと言うか、ある意味納得と言うか、ポポロカは完全に予想の範疇外だった場所を指定してきた。
「へぇ。見事なもんだ」
 目的地が視野に入るなり、僕は感嘆の息を漏らす。天照町から少し離れたとはいえ、似たような田舎町にこれほどの規模のものがあるとは驚きだ。
 それは、霊園だった。
 何でも、今朝のハユマ探索作業でここ近辺を回ったらしいのだが、その際、ポポロカがこの場所に目をつけたそうだ。曰く、この霊園は、リオラの濃度が段違いに濃いらしい。確かに、そういう何ていうか……オーラ的? なものが濃いと言われれば、何となく納得出来てしまいそうな場所ではある。
 霊園に入るのは初めてだったが、管理人のような人の姿は見受けられない。シャッターや門みたいなものも無いことだし、勝手に入り込むとする。
 
 
 神聖なものを感じた。
 真夜中に来訪すれば、さも身の毛もよだつような空気が蔓延しているのだろう。しかし、ツヤのある墓石の一つ一つが早朝の朝日を反射するその風景は、何か神秘的なものを感じさせる。昨今では、墓石の一つにもアートの要素を持ち込むようだ。容器から取り出すのを失敗した木綿豆腐のような、朽ち果てた直方体の石だけに留まらず、様々な形のものがある。
 ふと、数ある墓の中の一つに向かって手を合わせているお婆さんが目に入った。お婆さんが目を開けて、こちらを向く。
「おやまぁ、朝早くから感心な子だねぇ。お早う」
「お早う御座います」
 挨拶をしてから気付いた。僕からすれば事情がある故のことなのだが、事情を知らない人であれば、学校にも行かずに何をしているのだろうといぶかしむのではないか?
 とはいえ、今更おどおどしていてもかえって怪しい。ここは開き直って、堂々としていよう。
「今日は、珍しい客人が多い日だねぇ。こんな時間にこんな場所で、坊やみたいな若い子と二人もすれ違うなんて」
「……小さな、男の子ですか?」
「そうだよ。こぉんなに小さい、可愛い坊やだったさ。妙な格好をしていたねぇ。今の若い子達の間では、あんな格好が流行っているのかい?」
 ポポロカのことだ。
「僕の知人です。その子は今、どこに?」
「さぁてねぇ、私も挨拶をしただけだったから。ずぅっと奥に行ったんだけど、迷子になってなきゃいいんだけどねぇ」
 そう言うと、お婆さんは僕の目を見て、苦笑とも微笑とも言い難い、妙な笑い顔を作った。
「坊やも、何があったのかは知らないけど、元気を出すんだよ」
「はっ?」
「私も、長ぁい間ここで過ごしてきたけどね。坊やみたいな目をしてた人達も、沢山見てるわけよ。そういう人達は大抵、何か辛いことや難しいこと、困ったことを抱えてるもんさね」
 すっかり皺の一部となってしまっていた瞼が持ち上げられ、黒目と白目の境がよく解らない老人特有の瞳が、僕を直視する。
「坊やも、あの子も。特にあの子は、何か大きな悩みを抱えているんじゃないかい?」
 思わず、首を傾げてしまった。
 確かにここ最近、僕の身の回りでは姦しい出来事が次から次へと起こっている。そしてその結果として、大なり小なり僕が頭を悩ませているのは事実だ。ポポロカとて、それは同じである。無論、ポポロカの証言をすべて鵜呑みに信じれば、の話だが。
 しかし、これまで僕が観察してきたポポロカから、疲労と苦悩の残滓を感じ取る機会は、一度も無かった。ポポロカという名前を聞いて思い浮かぶのは、あのにへらとした罪の無い笑顔である。
 やはり、悩んでいるのだろうか?
「坊やもお兄さんなんだから、しっかりとあの子を見ていてやらないと駄目だよ?」
「はぁ……はい」
 どうやら、お婆さんの脳内では、僕とポポロカは兄弟になってしまっているらしい。多分、もう二度と会うことも無いだろうし、否定することなく曖昧に頷いておいた。
 去り際。
「心配する事は無いさね。大変なものや大問題に見えても、冷静になって見たり過ぎ去って見たりすれば、実はちっとも大した事じゃないもんさ。だから、元気を出すんだよ。何とかなるもんさ、大概のことはねぇ」
「……失礼します」
 背中越しに礼を言うと、僕は霊園の奥へ歩を進めた。

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六月十七日 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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