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第七話 裏切りの代償

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「よーし、流れが来てる……気がする! ここから一気に逆転するよ、馬場くん!」
「……ああ、そうだな」
 のんきにマンガンホーラで浮かれているシマに天馬は気まずそうにしていた。
 そりゃそうだろう、自分を助けようとして(といっても目的は、天馬が知らずに所有している雨宮の財産だろうが)危険なギャンブルを引き受けてくれた人間を裏切っているのだから。
 まったく世の中にはひどい人間がいるものだ。
 きっちりと、この俺が駆除してやる。



<南二局 親:雨宮 ドラ③ピン>

 全自動卓から、前局と同じ黒い背の牌が吐き出される。
 さて、そろそろ好配牌が来そうだが……。
 俺は手牌を開けた。
47, 46

  

 三四五 ③④⑤⑦⑦⑨ 238 東南

 来た来た……。
 この手、タンピン三色が見える。タンヤオで終わらせてしまうのは惜しい。
 それに俺は親だ。安手で連荘してわざわざシマにチャンスを与えてやることもない。
 直撃で終わらせてやる……。イカサマするまでもない。
 真の才能というものは小細工を弄するまでもないのだ。


<11順目>
49, 48

  

 二三四五 ③④⑤⑥⑦⑦⑦ 23

 ツモ:4ソウ


 もう笑いをこらえるのも限界だ。最高のところをツモってきた。
 リーチをかければ一番低めでさえメンタンドラ1。
 それ以外は平和、三色、あるいはツモ、ドラドラなどがついてマンガンを越す。
 シマが振ってくればそこで勝負は決まるが……。
 俺はシマの河を見る。ソーズとピンズの乱れ打ち。
 典型的なマンズのホンイツか、あるいは国士という陣容。
 俺は天馬に合図を送る。
『役は? 張ってるのか?』
 天馬はなにも知らないシマのうしろから、たどたどしい合図を一生懸命に送ってくる。
『国士。張ってない』
 国士か……まあ俺の五面張が負けるとは思わないが、のちのちヤオチュウ牌を引いてくると面倒だ、ダマテンでいい……。
 いまは水一滴もらさない鉄壁のガードが要求される。
 手牌のよさなど二の次だ。

 打:五
51, 50

  

 待ち:②-⑤-⑧ ③-⑥ピン

 今回は八木と倉田にサシコミはさせない。
 恐らく、というか当然だが、シマは通しに気づいている。ならば逆に二人にピンズ以外の牌を切らし、迷彩にする。
 この五面張、かわせるはずがない……。




「ロン」

 …………。
 あ?
 喜色満面のシマの横から、天馬が牌を倒した。

「中ホンイツ。マンガン8000」
53, 52

  

 一一一 二三四 四六 中中中 西西
 ロン:五萬


 天馬の顔は先ほどと打って変わって怒りに満ちている。
 じじいに秘密基地を追い出されそうになった時と同じ、あの目をしながら。
 俺は昔からこの目が嫌いだった……。
 反抗的で、
 好戦的で、
 純粋な怒りを含んだ目……。
「いまさら友達……? やり直そうだ……?
 ふざけるなっ!!!
 人をなめるのもいい加減にしろよ、雨宮……!」
「……てめえ……」
 シマがくつくつと笑い始めた。
「残念だったね、雨宮くん。
 南一局で通しを確認するために手を回したのは、冷静で慎重ないい手だったと思うよ。
 ただ、どんな神技だろうと、読まれていたら意味がない。
 君の心のガードはとても固い。けど自分を頼りにしている人間は『自分で確認した』という事実の前に、もろい。
 君をノーガードにするためなら、両面の②-⑤待ちなんていくらでも教えてあげる。
 だって自分は賢い、優れてると思い込んでるバカが勝手に手を回してくれるんだから。
 そのあとゆーっくりとツモホーラすればいい。
 もっとよく考えるべきだったんじゃないかな。
 人を本気で怒らせるということが、どういうことなのかを」
「……………………。
 馬場、おまえはすぐ後悔することになる。自分が唯一生き残れる道を自分の手でブッ潰しちまったんだからな。
 8000の直撃? それがどうした?
 差はまだ3万以上あるんだぞ。マンガンくらいであがっちまった、おまえらの方がピンチなんだよ。
 バカなやつだな、馬場。おまえ、死にたいのか?」
「……死ぬのは、ゴメンだ。けど」
 天馬がポケットから契約書を取り出した。それを広げてぐちゃぐちゃになった紙面を一瞥もせずに、ビリビリに破く。
 それを見て、シマが幸せそうに微笑んだ。
「おまえの思うとおりになるのは、もっとゴメンなんだよ」


 この勝負に勝ったら……
 この二人を奴隷にして……
 家畜のフンをエサにしてやる。


 シマ 18200
 倉田 11300
 雨宮 52500
 八木 17800
54

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