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第九話 ダブルリーチ

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<南四局 オーラス 親:シマ ドラ六萬>

 勝負が始まって二時間ほど……。
 ついに第一回戦のオーラスが始まった。
 カガミの胸元に下げられたアイポッドから、ロックバンドの激しいボーカルが轟いている……。

「リーチっ……!」
 雨宮のリー棒が卓の上を転がる。
 イカサマをする気はなかった。恐らくシマは感づきつつある。
 あの余裕は、こちらがイカサマをした瞬間に現場を押さえ、罰符8000を奪えるからではないか?
 そんなマネをして連荘を許し、次からは平打ちにでもなったら、純粋な雀力を鑑みれば、こちらに分が悪いのは明白だ。
 敗北、すなわち全財産そして自分の身柄をただ失う。それだけは絶対にあってはならない。
 だからといってリーチをかける必要があったのか、雨宮は自問したが、すぐに自答する。
 見定めておきたい。今は散々好き勝手なことを言い散らかし、場を支配しているシマ、その素顔を。
 恐怖に駆られるならよし。しかし、もしこのダブルリーチにも動じないようなら……
 狂っているとしか言いようがない。
 だが、それならそれでいい。
 いっそ狂っていれば……次の半荘から面白いことになるかもしれない。



 一方、天馬は恐れおののいていた。また疑ってもいた。
 本当にダブルリーチなら未曾有の圧倒的ピンチだ。
 しかし、これはやつの作戦ではないか。
 つまり、ノーテンリーチ。雨宮は張ってなどいないかもしれない。
 場が進むにつれ、通った牌は自然に増える。つまり通ってない牌の危険性が浮かび上がってくる。
 そしてどうしても切りきれない牌をこちらが掴み、回し、張りそこなって流局。この半荘を落とす、というものだ。
 もしそれが真実なら、これはむしろアガリ手が一人減ったという点においてチャンスになりうる。

<シマ 手牌>
69, 68

  

 一四六七①①⑥⑦6678南
 ツモ:五萬
 
 天馬はネット麻雀しか遊んだことがない。だからリアルの麻雀はわからない。確率にどれほどの影響があるのか。
 わかることは、ここはとりあえず南か一切りだろうということだけだ。
 そうしてまとめていけば、恐らくこんな形になるだろう。

<天馬予想テンパイ>
71, 70

  

 四五六七八①①⑥⑦⑧678

 三色平和ドラ1。12000。
 雨宮から直撃すれば、逆転とはいかないまでも次の局で勝ちを決められる可能性も出てくる。
 シマの顔色を窺うと、タバコをくゆらせながら何かを思案している。
 恐らく、雨宮のダブリーを懸念しているのだろう。
 ずいぶん長い間、シマは黙考した後、その牌を切った。

 シマ:打8ソウ

 ……は?
 なぜわざわざ三色の要の8ソウを切るのだ。メンツを落として……なにがしたいんだ?
 天馬の背筋を嫌な汗が流れる。
 まさかシマは本当に狙っているのだろうか。
 役満を……。
 だが、いくら大口を叩いたとはいえ、そんな口約束を律儀に守ることが勝ちへ繋がるとは思えない。
 天馬の思惑をよそに闘牌は続けられる。

 倉田:六萬
 雨宮:8ソウ
 八木:8ソウ
 シマ:六萬


<シマ 手牌>
73, 72

  

 一四五七 ①①①⑥⑦ 667 南

 まさか。天馬は吹き出た手の汗をズボンで拭った。
 シマがさっき長考し、メンツの8を切ったのは、アンコにならないと悟ったから?
 不可能だ。一、二順でどうしてそんなことがわかるのだ。
 しかし、中盤を過ぎた頃……


<シマ 手牌>
75, 74

  

 四 ①①①⑦⑦⑦ 66677 南
 ツモ:四萬

 天馬は心底震えていた。動揺を雨宮たちに悟られないよう、さっきから口元を手で覆っている。
 本当に、コーツゼロからツモりスーアンを張ってしまった。
 シマはイカサマをしているのか? いや、自動卓でただツモるだけ、どこにイカサマをする余地がある。
 底なしの魔運……。しかしこの手、役満アガリはツモだけというのが辛い。
 7ソウはまだ見えていないが、四萬は場に二枚見えている。上がれるのは残り二枚の7ソウのみ。
 ならばここはリーチをかけ、雨宮からロン牌がこぼれ、裏が乗ればリーチ三暗トイトイドラ3。逆転だ。
 それでなくてもマンガンは確定しているのだから――

 打:四萬

 天馬の目が回り始めた。
 わからない……なにがしたいのか……。
 そんなに南を切りたくないのか……?
 シマは静かに手牌を見つめている……。
76

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