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お前は住める?

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あの後のこと。
家に帰るなり母親は事情を話すよりも早く猫を愛で始めたのには驚いたが、その数時間後に帰って来た父親が
「あぁウチで飼えればいいのになぁ…」
と言ったのには驚きを越えて呆れてしまった。
何にせよ第一関門は労せずに突破出来たのだからこれは喜ぶべきことだろう。
おかげで今朝は目覚めがよかった。



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おかしい…。
目はしっかり景色が見えている。
耳はちゃんと人の声が聞こえている。
今朝の味噌汁は美味しかった。
なのになんで?
俺は昨晩風呂に入ったし、朝食後には歯も磨いた。
因みにワキガでもない…ハズ。
これがどういうことかというと、この地下鉄構内が間違いなく『臭い』ということになる。
この臭気…人臭、便臭、腐臭。どれにも当てはまらない匂いだ。
電車に乗り込めば治まるかもと思ったが、どうやら先ほどよりも匂いが強くなったようだ。
嗅いだことのない香り…もしかして何か毒ガス的な何かもしれない。
が、周りに異常を来たしている人は見えない。
それどころか不快感を催すこの悪臭の中で顔を顰める者すら見当たらないのだ。


校門に向かって歩いていている最中、気づいたことがある。
何処から悪臭が漂ってくるのか?
俺の考えに間違いがなければ、コレは人間から匂って来ている。
そして、それに加え信じがたい事だがこの悪臭を感じているのは…恐らく『俺だけ』だろう。


予想していた通り、地下鉄ほどでは無いにしろ教室の中も臭い。
頭が痛い。
額と髪の毛の境目に掌を擦りつけながらの席に着くとよく知る声が近づいてくる。

「よぅ大助」

――!?

「ん?どうした?」
「いや…」

あまりに強烈な悪臭に眩暈がしそうになる。
おまけに喉の奥から酸っぱ辛いモノが、今か今かと飛び出さんと元気な限りだ。

「顔色悪いぞ?大丈夫かよ?」
「ちょっとな…」

眼前の竹馬の友から見た俺の顔は顔面蒼白か、それとも土気色だろうか?
心配してくれるのは非常に有り難い。
しかし、今俺はその友に、出来れば離れて欲しいと思ってしまっている。
何せ、俺の不調の原因そのもの。
無礼、失礼は承知の上だがまぎれも無い事実なのだ。

「ダメかもな。保健室行ってくる」
「マジかよ…付いて行くか?」

正直なところそれはご勘弁願いたい。

「いや、いい。一人で行ける」
「でもよ」
「いいって言ってるだろ」
「そうかよ…」

しまった。
これでは八つ当たりだ。
正確には八つ当たりなのか怪しいが、本人がこちらの事情を知らない以上、八つ当たりは成立しているだろう。
啓太は無表情で俺が教室から出て行くのを見守っている。
これは謝罪の言葉を考えなければいけない。
そして今の俺の状態。
アイツに話せば信じて貰えるだろうか?
廊下に出ると対面から見覚えのある影が近づいてきた。
影というのに相応しいほど体表面が黒で賑わい、頭には相変わらずLサイズのヘッドホンをつけている。
しかし、この緊急を要する事態にクラスメイトごときで歩みは止めるつもりはない。
すれ違った瞬間、明楽は眼を見開いてこちらを向いたかと思うとすぐに顔を伏せてしまった。
この反応、やはり俺は相当な顔色をしているようだ。
とにかく、今は保健室のベッドが恋しい。
小学校から現在までで使うのはこれが始めてだが。


保健室独特の薬品の匂いが良い匂いと感じたのは初めてだと思う。
しかし、それはそうとこの調子ではどうやら今日中には啓太に謝れそうに無いな。
隣りのベッドに誰も来ない事を願いつつ俺は瞼を閉じた。
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