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犬C(更新)

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 「さて、ワトソン、問題です」
 赤い屋根の大きな家からの帰り、彼女は呟いた。
 「アルカロイドの説明をしてください」
 はぁ、と溜め息をついてから、僕は答えた、なんだ、そんな事かと
 「高等植物の中、例えば、種子植物、その中に窒素を含んだ複雑な塩基性有機化合物の総称、毒性を持つ、類塩基」
 辞書的に答える、二胡は正解です、と言った。
 「さすが、化学部員だけはありますね」
 空はすっかり暗くなっていた。
 暗い中でもはっきりとわかる
 赤い実の不吉なアーチの如き街路樹が並ぶ並木道の下を、僕たちは歩く。
 ゆるやかな坂道
 建て並ぶ灰色のコンクリート郡
 握り合う手から感じる体温
 「…………ワトソン、ワトソン」
 「なんだい、二胡?」
 つんつんと手を握ってない方の手で僕の体をつつく
 綺麗な白い肌、笑顔
 「ニコチン」
 はじめ何を言っているのかわからなかったが、すぐに理解する。
 「モルヒネ」
 「コカイン」
 「キニーネ」
 「カフェイン」
 「エフェドリン」
 「クラーレ」
 僕らはアルカロイドの名前を言い合う。
 広がる、僕らの、和戸宗司朗と吉野二胡の2人の世界
 すばらしき化学
 いっぱいにひろがる、そのせかい。
 嗚呼、本当にすばらしい。
 空には月、月影に、ふたり。





 後日、ぽちは無事元気になり、庭を走り回っていた。
 お姉ちゃん、お兄ちゃん、と言って萌ちゃんは庭へ僕たちを招きいれ
 それからたまに僕たちは3人と1匹で遊んでいる。
 たまに、おばさんが家に入れてくれて、お菓子やお茶をくれる。
 何故かチョコレイト類が多いが、僕も二胡も笑って食べる。

 ただ、おばさんは気づかない
 二胡にある、小さいながらもはっきりとした喉ぼとけの存在に。
 これまでも、きっと、これからも。

5, 4

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