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魔法の壷

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一人の男が砂漠を行くあてもなくさまよっていた。
その男の乗っていた飛行機が数時間ほど前に
不時着したのだ。助かったのは男だけ。しかし
数時間歩いても見えるのは砂漠だけ。飛行機の
残骸の中からかき集めた水も、あと一日持つか
どうか。いっそのことあの時死んだほうが
良かったかなどと男が考えているときに、
足元で何かの感触がした。足元を見た男は思わず
叫んでしまった。
「うわっ 。何でこんなものがここに」
それは人間の骸骨だった 。男の頭の中が不安で
広がっていく。自分もこのようになって
しまうんではないかと。男は早足でその場から
立ち去った。不安を打ち消すため、また
早く離れたいという意味もあった。男は早足で
その場から立ち去った。数時間後男は単調な
砂漠の中で赤色の部分があるのを発見した。
幻覚かと思いつつそこに近づいてみるとなんと
それは壷だった。男は喜んだがそれがすぐに
ぬか喜びだったということに気づいた。
壷には何も入っていなかったのだ。大きな壷なのに
これでは全く意味がない冷静に考えれば、当たり
前のことであるが、男の落胆は大きく、無意味
なこととは分かっているが、壷に罵声を浴びせかけた。
「やい。お前。なんでこんな砂漠の中に置いて
あるんだ。人は馬鹿にするのも、いい加減に
しやがれ。どうした。反論もできないか」
しかし
「うるさいですよ。八つ当たりは良くありません」
と壷から声が出てきたので男は驚いて今度は丁寧な
口調で話し始めた。
「何なんですこれは。はあ。分かりましたよ。
救助隊か何かの無線機が壷の外側に入っている
んですね。この形ならたいていの人間は声を上げて
寄ってくるいいアイデアだ」
「いや違います」
「じゃあ何なんです。私の幻聴か」
「それも違います。私は魔法の壷です」
「そんなもの存在するわけないじゃないですか」
「実際にここに存在しますよ」
「なら証拠に水を出してくださいよ。」
「いいですよ。その代わり向こうを向いていてください」
「分かりました。それくらいお安い御用です」
しばらくしてから
「終わりました」
という声がしたので壷の中を見た男はがっかりした。
中に入っていたのは水ではなく黒い布だったのだ。
「どういうことですか。一体」
と男は抗議すると壷は
「まああせらないでください。次はそれをかぶせてみてください」
と言ったので男はそれをかぶせた。するとしばらく
して、
「終わりました」
と言う声がしたので中をのぞくと、そこには水が
たっぷり入っていた。男はそれをがぶがぶ飲み、
のどの渇きが癒されると恐る恐る壷に、頼んでみた。
「食料を出してくれませんか」
「いいですよ。何でも頼んでください。なんたって私は魔法の
壷です」
その言葉の通りその後も壷は男の要求するものを
何でも出してくれた。例えば家や様々な彫刻品や美酒、
高級食材などだ。砂漠対応車などを出させるなど、脱出
する方法もあるにはあったが男はそれをしなかった。
何しろ壷はこの地を動けないと言うのだ。それなら
街に戻るよりもここでのんきに暮らしたほうが
楽しいに決まっている。しかし男には一つだけ
気がかりなことがあった。壷は布をかけなければ、
物を出さないのだ。なぜだろうか。男の疑問は
日に日に高まっていった。そしてついにある日、
男は金の彫刻を頼んだ途中で布を取ってしまった。
男が壷のそこに見たものは痩せ細った子どもが
鞭で叩かれながら働いた姿。男は驚いて聞いた。
「これは何なんだ」
「あなたのために働いている子どもですよ」
「何だと」
「いくら私と言っても無から有は作り出せません
今までのものはどこからか盗んできたものなのです。
今回の金の彫刻の金はこの子どもが働いている鉱山で
取れたものを盗んだのです」
「それでどんな影響が出るんだ」
「言うまでもありませんよ。莫大な被害が出たので閉山
でしょう。」
「よりにもよって貧しいところから取ることはない
じゃないか」
「それが私の信条だからしょうがありません」
「と言うことは今までのものは…」
「そうです。貧しいところから盗んだものばかりです。
難民支援の穀物を盗み、それを売っていい酒を買った
こともありました。あなたのせいで数え切れない人が
苦しみました」
「私のせいじゃない。頼むからやめてくれ」
男は涙声で叫んでいた。もともとは善良な市民
だったのだ。
「あなたのせいです」
「違う。もう全て終わらせてくれ」
「いいんですか。もう私には一生物を出させることが
できませんよ」
「それでもかまわない」
男がそう言うとこれまでそこにあった物は壷を残して
全て消えうせた。男はぶつぶつつぶやきながら
そこを去った。男の姿が完全に見えなくなってから
壷はつぶやいた。
「やれやれなんであんなふうになっちゃうんでしょうかね。
私もたまに人間の社会を観察していますが、本質は変わら
ないじゃないですか。少しだけ理屈がついていたりする
だけ。さて後どのくらい待てば次の人は来ますかね」
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