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 ある男が病院の一室で自殺をすることを考えていた。
 その男は赤ん坊のころからずっと病院に入院していた。未熟児で重い病気になってしまったからだ。

 男はいつからか心の中で自殺をすることを考えるようになっていた。なぜならば男の病気は治ることがない。生きながらえても外に出られることはないのだ。莫大な治療費もかかっている。生きていても苦痛があるだけなのだ。なにしろ毎日毎日大量の薬を飲み続けなければならないのだ。
 男は最近自分は本当に生きているのかと思い始めた。毎日大量の薬を飲み、看護師に世話をされて生き続けるだけの生活。生きていると言えるのだろうかと。俺は薬に生かされているのだ。そして生きる意味は何もないのだと。

 迷いの後男は残ったわずかなを振り絞り自分の人工呼吸器を外した。これでやがて酸素が足りなくなり、死ぬはずだ。少し、男は不安を感じた。が、やがてそれは消えていった。
 思えば、これは男にとって人生初の自分で考えてやった行動かもしれなかった。これまで男は周りの言われることをずっと聞いて生きてきたのであった。そうするしかなかったのだ。自分でできることなどなかった。
 
 その時である男の主治医が部屋に入ってきた。男が人口呼吸器を外しているのをみて顔をしかめて
「だめですよ。こんなことをしては」
 と言って人工呼吸器をまた元通りにした。男は主治医に
「やめてくれ。死なせてくれ」
 と叫んだが取り合わなかった。
「自分で外したんでしょう。こんな行動は困ります」
 と諭すように言った。男は反論する。
「俺が死にたいんだから好きにさせろ」
「やれやれいけませんね」
 そう主治医は困り顔で言った。が、やがてあることを思い出しこういった。
「そうだ。いい薬が最近発売されたんですよ。そんな感情は全部吹っ飛ばしてくれます。今ここにありますから飲んで下さい」
 そう言って主治医は無理やり男に薬を飲ませようとした。男はそれを拒否しようとする。
「やめろ。い、いやだ」
抵抗むなしく男は薬を飲んだ。その数分後男は急に笑顔になりだした。

 こうしてまた男が飲む薬の量が増えた。
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