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おぶざーばー

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「いい加減この作業飽きてきたんだけど」

「飽きたって言われてもね、最近のレポート提出状況悪いの聞いてるぞお前。ぐだぐだ言ってないでまずは頭と手働かせろ」

「ゾグはいつも真面目ね。貴方の目にはその古ぼけたディスプレイしか映らないのかしら。嫌にならない?ミジンコ相手に貴重な青春時代を浪費していくのってさ」

「茶化すなよ。僕だって好きでこんなことしてる訳じゃないさ。本当はタンホイザ光学を専攻したかったのに、ああクソ」

「貴方みたいな勉強が趣味みたいな人達に人気よね、あそこは。でも今回配属希望数が枠からはみ出た場合って成績順で…」

「うるさいぞネール! いいからさっさと先月のレポートを出せ!」

「大声上げないでよね、また隣から文句言われるんだから」

「誰のせいだよ!」

「そんなに声を荒げてどうしたんですか。ゾグさんの声、廊下まで響いてましたよ」

「そうなのよ、ハルちゃんちょっと聞いてよ。私達ミジンコの監察なんかで貴重な時間を過ごしてて本当にいいのかしらって、こういう話してたら優等生のゾグ君が怒ってくるの」

「共同研究だからだ! ネールが遅れてるせいで僕の研究まで遅れるんだぞ」

「研究っていってもねえ、毎日毎日ミジンコの観察でしょう? 1日目、平和でした。2日目、平和でしたって子供でもできるんじゃない、この研究。毎日毎日なんの変化も無しに一定の行動パターン繰り返してるだけじゃない」

「だから僕は後悔してるんだよ。教授の道楽で続いてるような研究だろ。発展途上古代惑星の市民の観察なんてさ。変化がある分アサガオの観察日記でもつけてた方がマシだ。でも研究は研究だろ。与えられた課題は確り熟すのが僕の流儀だ」

「だからそれが退屈だって言ってるの。面白くない!」

「何だと! ニールお前研究をなんだと…」

「二人ともちょっと落ち着いてくださいよ。ただでさえ壁が薄いんですからあんまり騒ぐとまた隣の人達に怒られちゃいますよ」

「…うん、悪かった」

「もう、それじゃ3人揃った所で今日の観察開始するわよ」

「言われなくてもするよ。どの口が言うんだ」

「ゾグ、なんか言った?」

「二人とも!」


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「今日も相変わらずマニュアル通りっと。これ本当にやる意味あるのかしら」

「一々不貞腐れるなよ、聞いてる方の身にもなってみろって。それに意味があるからこその研究だろ」

「二人共いい加減機嫌直してくださいよ。ニールさんの悪態とゾグさんの嫌味を両方聞いてる身にもなってください」

「あら、私はこの研究と日常に疑問を抱いただけよ。突っかかってきてるのはゾグの方じゃない」

「こいつ、まだ言うか…」

「もう」

「ニールと張り合ってる時間こそ青春時代の浪費さ。僕は昼飯でも買ってくるよ」

「私の分も何か買ってきて、ほら小銭小銭」

「…お前。いや、もういい。何がいいか簡潔に言え。パンか?」

「なんでもいいよ。適当に任せる。お釣りは取っときな」

「どうせこんな額じゃ取っておく釣り銭なんてないっての。行ってくる」

「渋々行きましたね。ニールさんいつか本気で怒られますよ? その時は止めないですからね」

「いいわよ別に。でさ、ハルちゃん。ちょっと耳かしてよ」

「なんですか?」


……。


「退屈な日常にちょっとしたスパイスってわけよ」

「本当に怒られても知りませんからね…」


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俺の名前は、武田浩太。自分で言うのもなんだが育ち盛りな16歳の健康男児だ。日常に不満を抱いてる訳でもなくただ淡々と人生を謳歌している。周りには勤勉家やスポーツを生き甲斐とするものなど沢山の人がいるが、俺は幼心ながら気がついてしまった。自分は消して特別な存在ではなく、飛び抜けた才能の持ち主ではない事を気づいてしまったのだ。それ相応に学校でいい顔をしながら周囲に置いていかれない程度に勉強ができれば、余程のことがない限り社会的な地位はさほど低いものでは無いということを気づいてしまったのだ。それとほぼ同時に俺は理解した。こう考える自分だからこそこれから何処かに就職してもいつも平均値に近い所に身を起き、一生ぼんやりとした人生を歩むのだと。それでも人生を謳歌しつつなんとかやって行くのだろうと。少なくとも俺はそう思っていた。目の前にまるでネオンサインを切り取ってきたかのような光を背負ったあいつに会う前までは、俺はそう思っていた。



「な、な、」

「ハルちゃん? ハルちゃーん? もう少しまともなインターフェイスなかったのかなこれ、悪趣味通り越して逆に素敵よ」

「な、なんだお前。それにその光だ、ひ、光。一体どこがどう光ってる」

「ちょっとー、ゾグに見つかると色々うるさいんだからちゃんと見張って…、あ? もう廊下まで来てる?本当に?」

「なあ、おい、誰かと話してるのか? おいって!」

「ええい、この際誰でもいい! おっと丁度いい所に健康そうな古代人が!」

「は? 俺?」

「そう君!時間がないから手短に説明するからよく聞いてね。えっと何処だっけさっき書いたテンプレの紙。ああ、あった。えー、君は選ばれし者なの」

「さっき誰でもいいって…」

「お黙り! 選ばれしものなんだってば! そこでこの世界の創造主である私が君の願い事をなんでも…、あらゾグ! ああ、別にサボってないってば。ちゃんとやってるって。もういいから早く自分の机に戻ったら? 私が遅れてる分貴方の分も遅れてるのでしょう?」

「お、おい」

「分かってるって! ねえハルちゃーん。ネールさんはいざという時はできる子ですからねえ。ハイハイハイ自分の机に戻った戻った! はい、少年A! 貴方の願いは何? もう、男の子だしパワーアップでいいわよね! うりゃ!」

「うわっ、おいちょっと、おい、なんだこの煙!」

「はい終わり!それじゃ頑張ってね、少年」

「おい、待てよ! 待…き、消えた?」


それはまさに嵐の様な速さで現れ、去って行った。
この時俺は知らなかった。自らの身体の恐るべき変化と世界の仕組みを。


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「なんとかばれずに済んだわね。ナイスフォローよハルちゃん」

「本当に知りませんからね。後でゾグさんに怒られても絶対に助けませんからね」

「平気よ。ばれる前に中身凍結させてトイレにでも流せば問題無いわ。さてと、あっいたいた。まだぼんやりしてるわよさっきの子。ここから見ものだわ」

「わっ、わっ、またゾグさん来ましたよ!」

「ええー、これからヒーロー誕生の瞬間よ? 見逃せって言う気?」

「ネールさん! いいから早く観測対象を試料5番に切り替えて!」


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俺の名前は武田浩太。自分はまだ人間だと信じたい。あの女は俺に一体何をした? パワーアップだと? ふざけるなよ。とにかく状況を整理しよう。あの後風邪の症状にも似た全身の気だるさを感じた俺はふらつく両脚で早急に帰路を辿った。頭が痛い。次第に真面に目も開けられなくなってきた。まるでこの世の凡ゆる物よりも鋭い針が何本も脳まで突き刺さっているかのような痛みだ。頭痛の感度は時間と共に著しく上昇し始め、やがてその痛みは脳から胸、腕、腹、脚へと体の末端まで等しく拡がり始めた。耐え切れず俺は道端に倒れ込み嘔吐した。朦朧としていた意識が吐瀉物のつんとした臭気で段々と覚醒してくる。同時に冷静に己を客観視する自分の存在を認識した。千鳥足でふらふら歩きながらぶっ倒れてゲロを吐く。我ながら最悪の状況だ。そう笑うと少し楽になった様な気がした。濡れた口元を乱暴に拭っていると中年の男性が心配そうに近づいてきた。ちょっと君、さっきから大丈夫か、恐らく彼はそんなことを言ってきたと思う。勿論俺に返答する気力と余裕は無かった。しかしながら助力いただけるのならば、それに何としてでも縋りたい。とにかく俺は必死だった。すると男は俺が歩くことすらままならないことに気がつき、腕を差し出した。ほら大丈夫か、と。次の瞬間には辺りが真っ赤に染まっていた。男は大声で叫んでいる。それは朦朧とする頭でもはっきりと聞き取れるほどの叫びだった。

「腕が! 俺の腕が!」

顔に奇妙な生暖かさを感じながらも、確かにそう聴き取ることが出来た。同時に、握られた右手の中にある何かは確認せずとも何が握られているか理解が出来た。


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「はいはい」

「どうしたハル。何か騒がしかったんでな」

「虫よ、虫。ハルちゃんてば、こんな小さな虫が出た位で大騒ぎして、私にどうにかしてくださいって縋ってきたのよ」

「虫だと?一体どこから入った。実験資料を喰われたらたまったもんじゃないぞ。捕まえたのか」

「叩き潰してトイレにポイよ。上出来でしょ」

「よくやった。暖かくなってきたからな。密室にしたと思っていても何処から湧いてきやがる」

「ねー、凄く大変。隣の部屋の通気孔から出てくるのを見たのよ。ゾグ、ちょっと見て来てくれる?」

「ああ、わかった。ハル、悪いが僕の今日の分の観測がまだ終わってないんだ。代わりに記録しておいてくれるか?」

「はい、やっておきますよ」

「すまないな。では行ってくる」

「ふう、まんまと騙されてる」

「ある意味これも才能ですかね。よくあんなデマカセを次から次へと…」

「と、まあこんな風にばれそうになっても、ばれる前にトイレにポイ。分かった?」

「はいはい、知りませんからね」


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この場から一早く離れたい。そう強く願った。心から願った。願った時にはそれは既に叶っていた。爆発、突風、叫び声。瞼をゆっくり開くと空は明らかに近くなっていた。脹脛が丸太のように膨張し、裏側にはそれに見合った太い管が生え、禍々しい光が勢い良く噴射されていた。

飛んでいる。

俺は確かに飛んでいた。


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「ニールさん。ニールさん? ちょっと来てください。見て下さいよ。凄いことになってますよ」

「見てる見てる。周囲を圧倒するような超人を作ったつもりだったんだけど、なんか私が望んでたのとはベクトルが違うんだけど」

「回りのミジンコ達もどんどん死んじゃってますよこれ。このままで良いんですか?」

「良くはないわ。これから悪の怪人軍団をどんどん作って戦わせようとしてたのに。付加情報の上書きって物凄く面倒なのよね」

「ヒーロー物を想定してたんですか。この惑星が有する最大武力を一斉にぶつけたとしても到底倒せませんよ」

「これじゃ予め用意してた悪の怪人軍団が総出で掛かっても一瞬で塵にされそうね。スペック調整適当にやるんじゃなかったな」

「だと思いました。他のミジンコにとってはめちゃくちゃな強さですよ」

「んー、どうしようかな」


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友人が、家族が、町が、俺の幼い人生の中で存在した者が、物が、全てが灰や塵となり消えてしまった。眼下に広がる景色は、まるで爆心地。おそらく俺が飛び立つ瞬間に引き起こしたものだろう。一瞬の内に自分が知るものは全て無くなってしまった。誰がこんなことをした。違う。俺じゃない。俺のせいじゃない。俺はやっていない。怒りや悲しみ、罪悪感などの激しい感情が浮かんでは消え、最後はどうしようもない虚無感に苛まれた。どうでもいい。もうどうなってもいい。そう、これは夢なんだ。次の瞬間家族の声で目が覚めて、いつも通りの日々が待ってる。だから、お願いだから、頼むから、早く目覚めてくれ。もう沢山だ。もういい。やめてくれ。その懇願はいつの間にか声となり、叫びとなり、暴力と化した。空に轟き、大地を揺らした。ただ、叫びは誰一人の耳にも入らなかった。

例の頭痛はいつの間にか消えていた。


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「やっぱり出しちゃうか」

「何をですか」

「ラスボス」

「ニールさん…。あのですね、このスペック同士が戦い合ったらおそらくこの惑星が持ちませんよ。勝敗が決る前に装置がキャパオーバーするかもしれません」

「その時はその時よ。あーあ、ヒーロー物やるつもりがセカイ系になっちゃた」

「もう勝手にしてください」


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肌でビリビリと異質を感じた。遥か彼方の出来事と思われる事象が目の前で起こっているかのように感じ取れる。爆発、突風、叫び声。同じだ。俺と全く同じだ。刹那、体の全てが危険信号を発した。皮膚が瞬く間に凝固し、まるで装甲の様に何層もの外殻を構成した。五感が更に延長される。悲鳴、風向き、熱、感情。ありとあらゆる途方もない量の情報が途轍もない速度で頭の中に叩き込まれる。その中でも特に濃い感覚は敵意だった。それは彼方の爆発より遥か高度より、何らかの存在が俺に向けた紛れも無い敵意。それが俺の方に向かってくる。理解した瞬間、恐怖や闘志が生じるよりも先に俺は地上に向かって吹き飛ばされていた。

「さあさあ、クライマックスだ。ラストバトルよ、二人共気合入れて頑張れ!」


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「ニールさん、大陸一つ無くなっちゃいましたよ。あ、また消えた」

「そりゃ世界をかけたラスボス戦だし大陸の一つや二つなくなるわ」

「彼らには世界をかける意味も義理もないでしょう。可哀想に」

「おお、上半身吹っ飛んだ! でもすぐ元通りよ。そんなヤワには出来てないんだから」

「お互いに気付いたみたいですね。腕の一本や二本じゃ軽傷にもならないと」

「例え細胞が全て蒸発したとしても別の時間軸から失われた部位を持ってきてすぐに癒着するの。その時間なんと1ゼプト秒! この世界が存在している限り複製部品は無尽蔵に存在するわ」

「本編50話を2クールやってから劇場版3部作の最後で覚醒して漸く身につくような設定ですね。だったら一体どうやれば決着がつくんです?」

「あー、えー、んー」

「つまり考えてなかったんですね」

「私はドンパチが見れりゃいいんだって。ほらハルちゃん凄いわ! 南半球の海水が全部無くなった!」


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何度致命傷を与えたかは覚えていないがその度に一瞬で元通りになってしまう。初めはそれが腕や足だけかと思っていたがそうではないらしい。首から上を切り落とした所で落ちた首は朽ち、一瞬で新しい首が生え備わる。かと言って全身を骨まで燃やし尽くしたかと思えば、その攻撃を行った事実すら無かったかのように平然としていた。しかしそれは俺も同じことだ。外殻で何重にも重ねたはずの両腕が奴の右肩から腰にまでかけて生えている巨大な刃に容易く両断された時、俺は悶えた。痛みこそあったが次の瞬間には腕は何事もなかったかのように再生し、元通り動かすことが出来た。腕だけではなく奴と同様に腕、足、下半身、頭、を潰されても一瞬で復元が行われていく。それを何百回と繰り返す内に痛みを遮断する方法を覚えた。初めは逃げることも考えていたがそうもいかないらしい。どういう仕組みかは分からないが何処へ行っても奴が先回りし、いとも簡単に俺を補足するのだ。陸でも空でも海でも、奴は予め配置について俺を待ち構えている。戦うしかないと決断した時には右手には拳銃が握られていた。否、手が拳銃に変化していた。頭へ狙いを定め、撃つ。躊躇はなかったが奴へのダメージも皆無だった。こんな小さな武器では駄目だ、もっと大きな武器でなくては。そう考えると両肩から直径1メートルはあろう砲台が6門生えてきた。撃つ。空を裂き、山が消えた。続けざまに数発、そして着弾。しかし一瞬で治癒。もっと大きな武器でなくては。何度もそう思った。次第に俺は人の姿とはかけ離れたものとなっていた。それは目前の相手を倒す事に特化した身体だ。今ではもう腕も足も、顔もない。しかし、奴を補足するための目は体中にあり、奴を倒すための武器は生えては消え、より強大なものが生えていく。願ったら願った分だけ強くなる。円柱状の身体が空を舞い、島ほどの大きさの拳が生じる。無くなれ。強く願いながら奴を殴ると願い通り奴は消滅した。だが、直ぐに新たな奴が現れた。奴の身体も俺と同様に、既に人の形をしていない。スライム状の物体が空をヒラヒラと舞っている。奴だ。奴の体が強く光ったかと思いきや次の瞬間には上方に黒い球体が間抜けな音を立てて射出された。やがてそれは空中停止した。あれは何なのかと疑問を抱かさせてくれる時間を与える暇もなく、何かが俺の体をズタズタに裂く。眼下の海水は拉げるように捲れた後、音もなく消滅した。不可視のエネルギー波だ。体に接触する寸前まで音もせず、見えもしない。敵も学習しているのだ。ならばこれでどうだ。円柱状の体が不規則に波打ち、肥大化。形こそシンプルだが大きさは規格外の大砲筒に俺自身を変形させた。どうかまだ死んでくれるなよと、呟き気付いてしまった。俺は楽しんでいる。奴の心中も俺と同じものならどれほど嬉しいだろうか。


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「それ!そこだ!いいぞ!ぶちのめせ!」

「あの、ニールさん、ニールさんってば」

「おおお、なんかめちゃくちゃ必殺技っぽいの出してる! 死んだ! 死んでない!」

「ニールさん。その装置以外の全てを休止状態にして動力を全部つぎ込んでるんですが」

「うん、なに?」

「そろそろ時間切れです。キャパオーバーするどころか、つぎ込んだ動力が世界に反映された瞬間に動力の消費を始めています。このまま続けると根元まで持って行かれちゃいそうです」

「やれる分だけやっちゃえばいいじゃない。これ一つでレポートも書けそうよ。超人的な力を入手した後に、同じ様に考えられない力を持った存在が襲いかかって来た時の被験体のリアクションって題でさ。あっ、結構楽しそうじゃないそれ」

「マジですか」

「えーっと、今回付加したデータは、これかしら。メモメモっと。で、観測時間は、始めたのが10分前くらいだっけ? その位だったはずよね。大まかな流れは、付加後の行動としては、初めはその情報量の多さから脳が処理し切れず体調を崩す。次に別一般個体を不本意に傷付けたショックで衝動的に辺りを破壊しながら上空へ退避。その際に…うん、これらは後で書こう。結果は動力の不足により観測を完遂できずに終わった、と。これにより今回の実験で個体に付加させる情報と後天的な情報付与にはある程度の限界を設定した方が良い事が判明した。こんな感じかな」

「無理矢理まとめましたね。ニールさんのそういう所にはいつも驚かされますよ。本当に」


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急に聞こえてきた声に戸惑いながら交戦を続けていたが、不可解な単語を幾つか拾っていくうちに途方もない不安が脳裏をよぎった。

「よし、俄然やる気が出てきたぞ」

被験体、観測、実験、レポート。こいつら一体なにを言っているんだ。砕け散ってはまた戻る頭で必死に考えた。

「取り敢えずこれはもういいや。ゾグに見つかる前に捨てちゃおうかしら」

なるほど。その言葉で全てに合点がいく。虫だ。俺達は虫かごの中の鎮痙な虫だったのだ。奴らにとっては。

「それがいいですね。それでどうするんです。その題目でレポート書き進めて行くんですか」

ふざけるな。

「うん、自分の好きな設定盛り込んだヒーローと怪人を戦わせる口実にもなるしね。うん、そうと決まれば今日は早く帰って徹夜で設定作りだ。私はもう帰るよ! それじゃあねえ!」

「あっ、ニールさん! …もう」

やめてくれ。俺は、

「後片付けは結局私ですか。やれやれ」

俺は生きている。俺は生きているんだ。生きているんだぞ。

「あっ、マイク付けっ放しじゃないですか。いつからですかねこれは。あっちに干渉する系統の機器はどんな些細なものでもかなり動力が必要なのに。もう」

俺は生きているぞ。俺は生きているぞ。

「…………」

「ん? …気のせいですかね、何か聞こえた気が」

俺は、

「まあ、いいです。はい、それじゃお疲れ様でした。電源OFFっと」

……。


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「おい、ちょっとお前達、凄かったんだぞ。前に空間セル結合実験中に生まれたあれが逃げ出したって話題になっただろ。居たんだよ。通気口の奥に。そこでなにしてたと思う?周囲の様々な虫が好む特殊なフェロモンを撒き散らし……あれ、ニールはもう帰ったのか?」

「お疲れ様でした、ゾグさん。ニールさんなら先程帰られましたよ」

「あいつ! 残ってるレポートもあるだろうに!」

「それですが、今回の観測実験を独自の方法で行うらしくて、興奮気味に帰って行きました。ゾグさん、どうしました?」

「怒りを通り越して呆れてるんだよ。友人の愚行を目にして君も何故止めなかった」

「止めたところで聞きませんよ、ニールさんって人は」

「ああ、そうだったな」

「それに」

「ん?」

「それに結構面白そうなんですよね、ニールさんの実験。ちょっとだけ私も興味あるかな…なんて。ふふ、冗談です」

「あ、ああ。それで奴の実験とは?」

「私の口からはとてもじゃないですけど説明できません。難しいですからね。明日ニールさんに直接聞いてみたらどうです?」

「…何か知らんがそうしてみるさ」

「ゾグさん、これ」

「お、頼んでた分か。ありがとう」

「いいんです。いつも私ばかり教えていただいてますから。それじゃ私もそろそろ帰りますね。いいアイディアがどんどん、いえ、ちょっと家の用事があったみたいです。それではお疲れ様でした」

「お疲れさん」


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帰り支度を整え研究室を後にした僕は、何者からの視線を強く感じた。左腕に装着した携帯端末機からライトで辺りを照らすが何もいない。思い違いかと気を取り直し歩み始めると、それは突然現れた。眩い光に包まれ神々しささえ感じれる何かに。


おしまい
15

まどのそと 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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