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諦めと閃き

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さぁ、切るとするか。」
春は詰まらなさそうな顔で話していた。
「切ってみろよ。痛くもなんともないですよ。」
モロクが強がって言葉を返してみる。
「うん。じゃあ切るよ~。」
ハサミの刃がロープにくいこみ、切れ掛かった状態になった。モロクはその瞬間に目を瞑ってしまった。それを見て春はにやつき、確信した。モロクのところにストッパーは無いと。しかし、さらに自信を得るために他の人の前でもロープを切る寸止めをやってみる。
「うっ!」
「んっ!」
二人とも目を瞑ったり驚いたりしている振りをしたが、春の目を欺くほどの演技力があるわけも無く。結局春はモロクの前に立つ。
「なぁ、知ってるか?
 この3kgの鉄アレイ落とされて病院送りになったやついるんだぜ。」
「!!」
モロクは自分にあたりがつけられていることも知っていたのでビビッテしまった。そして、春は決断!天王山の3回戦。ロープが切られたのは・・・




バチン!!!





ボゴッ!!

「ぐああああ!!!
 っう~!!あうっあっ!!くっぐぅ~!」
モロク!3kgの鉄アレイが脳天直撃!!絶えられない!我慢ならぬほどの痛み!その場でうずくまるほどの痛み!
カイムとアスランがその場に駆けつけて心配してやるが何もよくならない。心配して、励ましの言葉をかけたところで何も変わらない!3連敗という圧倒的に不利な状況は変わらない!モロクの頭にできたキズは治らない!モロクの心にできたこの作戦を立てたカイムに対しての恨みは変わらない!
そして、カイムたちのグループは崩壊!仲間割れ!
「カイムさんがわるいんだ・・・・」
モロクがつぶやき始める。
「え?なんだって?」
カイムは不安な表情でモロク確認しようとする。
「カイムさんが全部悪いんだよ!」
「モロク・・・カイム殿は何も悪くないでござるよ。
 精一杯がんばってるではありませんか。」
「意味が無いんですよ!がんばっているだけじゃ!
 結果的にどんなにがんばっても負けてたら意味が無いんですよ!
 ここにたどり着くまでにどんなに適当にしてようが、まじめにしてようが・・・・
 同じ位置に立ってたら無意味なんですよ!」
「モロク・・俺が悪かった。だから落ち着いてくれ。な?」
「うるさいんですよ!カイムさんはいつだってそうやってえらそうに上から目線・・・
 そりゃ相当なかなのいい女性がいる時点で俺は負けてるけど・・・・
 そこまでえらそうにされる筋合い無いんですよ!」
「俺はいつもそんなつもりは・・・」
カイムは反論しようとするが、今までの自分の態度を振り返ってみると、反論できなかった。
カイムはいままで他人に対して、さりげなくだが自慢していた。頭がいいこと、背が高いこと、スポーツもそこそこできること、仲のいい女の幼馴染がいること、女性並みのきれいな赤い長髪を持っていること・・・・・思い出せばキリが無い。モロクは今日の朝知り合ったばかりだがいくつもの自慢をしてきた。中学からの知り合いのアスランにはもっと自慢してきただろう・・・・カイムはこの戦いの作戦指揮をとる意欲が薄れてきた・・・気迫もなにも無い。ただ無気力。物事すべてがどうでもいいような感じである。
「カイムさん、悪いですけど今後の作戦指揮は僕が取ります。
 カイムさんは僕たちを3連敗にした張本人なんですからいいですね?」
モロクは普段はカイムにとって見下ろす、小さな存在だったのに、今は座り込んでいるカイムに大きく覆いかぶさって話しかけている。
「ああ・・・・好きにしろ・・・」
「ほんとにいいんですか?カイム殿?」
「いいんだ、俺はこのチームのリーダーとして作戦指揮を執る資格は無い。」
「では、これより、席を決めます!」
そして崖っぷちの4回戦のオーダーが決定した。




鉄アレイの重さ   1kg  2kg  3kg
座る人       モロク アスラン カイム
ストッパーの有無    有   有    無




モロクの考えはカイムにもわかった。これは復讐である。いままでミスの連続で負け続けてきたカイムに対する復讐。後3回も連続でしのがなければならないので、アスラン以外はあきらめていたのである。もう勝てないならばせめてカイムにも同じ痛みを与えたいというモロクの願望がもろに出ているオーダーである。しかし、こんなみえみえの采配でもカイムは逆らうことはできなかった。
そしてゲームは始まり、春が問いかけてきた。
「いったい誰のところにストッパーがないんだ?」
誰も答えるはずが無い、無言で無視。誰もがそうすると思っていたそのとき。
「カイムさんのところにはストッパーがありませんよ!」
「え・・・・えええ!!!!????」
カイムは思わず声を出してしまった。
「え?ちょっと、何言ってんだよ、お前・・・・
 あ!いや俺だ!俺のところにストッパーはない!」
怪しまれないようにモロクに口裏を合わせたがもはや無意味だった。カイムはそのことに気づき、あきらめた。
(あ~あ・・・・負けちまった・・・・
 もう退学か・・・退学したらどうしよっかな~・・・・)
カイムはそんなことを考えていた。さらにモロクがつづける。
「さぁ、春さん!
 これで誰のところがあいているのかわかったんですから切ってください!
 そしてカイムさんに与えてください、制裁を!」
その様子を見てアスランもあきらめ、あきれた。
(モロクにプライドはないのか?
 せめて一度ぐらい勝ちたいという気持ちは無いのでござるか?
 まぁ、今まで世間の隅に追いやられてきた人間にプライドもないでござろうね・・
 春殿も信じきっている。もうだめだ・・・
 退学したら就職しないとな・・
 仕事なんてあるのかな?この男性が不必要に差別される社会で・・・)
春はモロクのロープにハサミをかけたままだった。
アスランとカイムはあきらめ、モロクだけが意気揚々と話し続ける。そんな時、自体は急変した。


バチン!!

(え?何の音だ?最近よく聞く音・・・ハサミで何か切ったときの音だったけな?
 ああ、それなら落ちてくるんだな、俺の頭上に3kgの鉄アレイが・・・・
 あれ?落ちこない・・・どうしたんだろう・・・)
そう、落ちてこない。春が切ったロープはモロクのロープ!よって勝利!4回戦はカイム側の勝利!
「お・・・雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!!」
カイムが喜びの雄叫びを上げる。
「うっ、はっ、あ、うやっ、やりましたぞモロク殿!
 モロク殿の奇策がうまくいきましたぞ!」
「え?あ、はぁ・・そうですね・・・」
モロクも喜んでいる、三人はとりあえず喜んだ。勝つことが不可能じゃないということに喜んでいる!勝ったことではない!勝てる可能性があることに喜んでいるのだ!
それとは反対の意味で春の心拍数も急上昇していた。
「なんで?なんではずれて・・・・
 あ!!なんだ・・・そうだったのか・・・それなら・・」
(勝てる!!十分勝てる!!
 それに、これで軌道修正されてカイムたちの思考は・・・
 また勝ちたいという方向に向かっている!!
 さっきはこれが読み間違えていたからミスをしただけ・・・・
 同じ過ちは二度としない・・・・次で決めさせてもらう!)
春はまた自信に満ち溢れた表情をしていた。
「さぁ、もう日も暮れたことだし急いで5回戦のオーダーを決めてもらおうか?」
春が催促するので、カイム達はオーダーを決定する。話し合いの結果、4回戦とまったく同じオーダーになった。ストッパーをセットするところは、たらい落とし機の後ろ側に、他の誰からも見えないように壁をはさんである。そこは狭いので2人か3人しか入れなかった。このセットは今までどうり、カイムがセットしに行き、そのストッパーを渡すために咲がついていった。
「さっきはカイム達があきらめてるのがばれなくてよかったね。」
咲が話しかけてくるのでカイムは答える。
「ああ、あれは運がよかった。絶対ばれると思ってったのに・・・・」
「ほんとだね。あたしでもあきらめてるって気づいたのに、
 何で気づかなかったんだろ?
 まぁ、カイムが怪我しなかったんだからそれでいいんだけどね。」
「そういわれてみればおかしいな。
 あれほど人の心を読んでいたのに、何でわからなかったんだ?」
「あれじゃない?たぶんモロクって人がやたら興奮してドキドキしてたから、
 その鼓動が聞こえて、ドキドキしてるからストッパーがない!
 って、勘違いしちゃったんじゃないの?」
「聞こえるわけ無いだろ、聴診器とかつけないときこえな・・・・」
(あ!え?まさか・・・
 そうだ・・もしもどこかにあれがあってそれを確認する何かがあるとしたら・・
 いや、そんな大掛かりなことができるのか?
 いや、できる!このたらい落とし機ほどの大きなものをつくれるのならありえる!
 そうだったのか・・・そんなイカサマを・・・あのやろ~!!!!)
カイムの顔は何かに気づいたような顔をしたあとどんどん険しくなっていたので咲は心配した。
「カイム?大丈夫?」
「・・・・・」
「どうしたの?」
「あ!悪い、考え事してた。」
「こんなときになにやってるのよ!」
「悪い・・・でもこれで大丈夫!絶対勝てる!」
「え?絶対勝てるって、何か策でもあるの?」
カイムは咲に作戦を話して席に着いた。


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