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「正直いって退屈なんだ」
 鏡に向かってひたすら話しかけるタクヤ15歳。
 好きなことはちょっと人前では言えない。お年頃思春期。あれ、一緒か?
「ん? いや、違うよ。僕はね。あの時確実に股に視線がいってたよ」
 それは何というか、懺悔であった。
 女子を見るときタクヤは必ず性器をまず一番初めに確認してしまう。
 そして体臭だ。処女は何故か青リンゴのような匂いがするのだ。
「さて、今日も学校に行くか」
 タクヤは学校が嫌いじゃない。だって、通学途中には必ずいるだろ? 一人や二人、可愛い子がさ。

 タクヤの夢は日本全国の女たち、約5000万人のうち、
 4歳からを守備範囲に14歳。この間の673万人、
 約700万人中、美少女比率1/100の70万人の美少女を手に入れるため目下野望を打ち立てている。

「いってきまーす」
 表向きは好少年。実態は唾液駄々漏れ状態のド変態。それが彼の実体だ。
 70万人の美少女たちを手に入れてどうするか? そんなことは決まり切っている。
「孕ま●……ッ!」
 全く防ぎきれなかったモザイクボイスでタクヤは今日も発起するのだ。
 この計画は通称:美少女ハラマと名付けている。

「タクヤ君、おはよう」
「ああ、おはようっ」
 好意的な少女に挨拶をされ、好意的に返す。タクヤはまず地味なところから完全に網羅することに決めた。
 5歳の頃、ブサイクな女の子に好かれてから苦汁を舐めさせられ続けたタクヤはいつしかこう思うようになっていた。
『美少女はすべからく僕のものでなくてはならない』と。

 信号機が青に変わり、タクヤは姿勢正しく闊歩する。髪型、制服、顔立ち。
 何をとってしてもマイナスのイメージだけは持たせない。
 それがタクヤの信条であり、美少女へ近づくための一歩だと心得ている。
「タクヤ君、今日も早いのね」
「ああ、おはよう。柊さんも」
 柊さんはクラスメイトの生活委員だ。明るく活発で成績も悪くない。長い髪を元気に揺らしている姿は愛らしいが、僕的美少女判断基準法にはすんでで届いていない。
 容姿は結構、男子からのアプローチもある。しかし、考えてもみてほしい。
『か弱くなければ美少女とは言えないのではないか?』
 剣道三段、柔道四段、空手二段、おまけにテコンドーもかじったことがあるという。
 風紀委員にいけよと言わんばかりの経歴だ。

 何故こんなことを知っているのかというと、かくいう僕は生徒会長を務めている。
 そしてもちろんこれは生徒会長の特権を行使して得た情報だ。
 大概の男子はこの話しを聞くと尻込みする。
 だが、しかし彼女自身、手の皮が厚かったり、耳の表面がタコになっていたり、
 足の皮が剥けていたり、体が擦り傷だらけだったりということはない。
 去年のプール授業で僕の従僕といっても女の子だが、
 彼女たちによればそういう情報を得ている。
 頼めば写真も撮ってくれるだろうが、何しろ金ありきの関係なので正直危ない橋を渡っている。
 詳しくは追々話すとしよう。

 僕は下駄箱に靴を入れ、上履きへ履き替える。
 この間、女の子からの挨拶四十三。野郎からの挨拶が四十。問題はない。
 今の僕の立場は至ってグリーンだ。しかし、中学三年になった今年はそろそろ動いていかないとまずい。
 僕の大いなる野望『美少女ハラマ』は18歳までに完了しなければならない。
 残り三年で70万人の美少女を選定する。この作業は尋常ではない。一年で23万人は捌く計算だ。
「ちっ」
 自然とイラ立つというものだ。
 僕は鞄を机の横にかけて着席する。
 じっとしていると気がおかしくなりそうなのでWAPPED PASSAGES という本を取り出す。
 いわゆる洋書と呼ばれる英文でしか書かれていない本だ。

「タクヤく~ん」
 この声は天水さんだ。童顔で男子受けはいいが、甘え上手すぎて隙を見せるとすぐにたかられる恐るべし女だ。
「なんだい、天水さん」
 無論、僕の『美少女ハラマ』にこの手の女は入らない。
 判断基準はご想像にお任せしたいが、正直言って可愛ければいいというほど僕は考え無しじゃない。
 女として価値のある者を落としてこそ、僕の中では極上の喜びとなるのだ。
「ジュース傲ってほしいなあ」
「百五十円だな」
 ポケットから百五十円を取り出して天水に手渡す。
 2011年から消費税は十パーセントになったおかげでただのジュースでも百五十円する。
 言ってることがやってることと違うって? 何いってるんだ?
 僕は誰にでも好かれる好少年だ。信じられない世の中でも、たかだか百五十円で目くじらを立てたりはしないさ。
「わ~い、ありがとタクヤ君」
 全く感謝の意がこもってない言葉を逆にありがとうと言いたいくらいなワケで、
 水を得た魚のように去っていく天水さんは他の男子にも何かをねだっている。

「タクヤ先輩? ちょっといいかしら」
2, 1

  


 彼女は副生徒会長の朝陽鈴音さん。
 後輩で今時珍しい金髪のハーフだがリアルでツンデレいってるあたりはまじで引く。
 正直真性ツンデレなんて物語のだけの存在だ。
 もし、それが現実世界で存在するとしたらそいつは猫かぶりか、人を人と思っていない。
「聞いてます? タクヤ先輩」
「ああ、ちゃんと聞いてるよ。僕の会計予算案が合わないんだったね」
 会計委員はタバコ現行犯で現在停学中だ。復学するまでは僕が会計をすることになっている。
 マジで謎だ。そんな気持ちから巧みに2000円くらい各予算からさっ引いてみたが往々にして見落とすと思ってた僕は甘かったらしい。
「こことこことここだ。書き直そうか?」
「……え?」

 生徒会室では朝陽さんが豆くらうハトと化していた。それもそのはずだ。
 予算案をいじったのは実は僕で、問題のそれを瞬時に言ってしまったんだから。
「なにいって――。ちゃんと確認してください」
 僕は貴重な二年生とのコンタクトを失うわけにはいかない。内心しぶしぶと外見は爽やかに頷く。
 価値ある美少女は同じ学舎にいるのかもしれないのだから。
「わかったよ。ちゃんとやることやって出るから朝陽さんはもう教室に戻るといいよ」
 正直こういうのは面倒臭い。生徒会長とは往々にして便利なだけではないのだ。
 朝陽さんが退室してから三分。
 そろそろ頃合いを見て出ても良い頃だ。出口に立って戸を引いた。もちろん仕事はこなしたぞ?

「――きゃ」
 ??? 誰かが僕にぶつかってきた。
 合気道をたしなんでいたおかげで誰かは僕の重心を崩すことなく反動で倒れた。
 なんてことはない。ただの美少女だ。脹よかな胸、黒くしなやかな髪。
 ロリータの方々には少々残念かもしれないが、立派な美少女だ。
「すみません、お大事ありませんか?」
 僕の僕的美少女判断基準法は全てに及第点を叩き出していた。
「あ、ありがとうございます。私急いでおりましたもので本当にすみませんでした」
 今時珍しい絶滅危惧種『淑女』だ!

「いえいえ、礼には及びません。どうぞお気遣いなく、気を付けて」
 そういうと僕は踵を返す。教室とは逆方向だが、彼女とも逆方向だ。
 だが、これでいい。第一印象とは短ければ短いほど良い部分も悪い部分も増長される。
 つまり、良い部分だけを残して別れるとその効果は何倍にもなり、印象付けられる。
 外見より中身などと言う人間ほどこの真理を解っていない。
 先ほどの女の子は僕の数少ない美少女帳2ページ目の#3に記載されている少女だ。
 境野満子さんか、今時珍しい……。

 住所、電話番号、生年月日からおおよそのプロファイルまでこの地域の学校の美少女は全て暗記している。
 これだけの情報を学校から手に入れるのは生徒会という力とインターネットというものがあれば難しいことではない。
 ただし、犯罪に近い側面は無視できない。

 ――ガラガラ。
 僕は再び席に戻るが今思い返すと1/100美少女率の約大半は朝の一連で邂逅したことになる。
「不思議な日もあったもんだな」
 全校生徒971人。女生徒は443人だ。男子生徒が500人もいるとは物理的に考えて不要だ。
 そしてこの日も僕の夢とはほど遠いコトを繰り返すのかと思うと憂鬱で仕方がなかった。

 ――ヴヴヴヴ。
 携帯のバイブが鳴る。
 まだ一時間目の授業途中だというのに誰かと思えば父親だった。
 ディスプレイには一言『ハゲ』と表示されている。
「先生、ちょっと家族から緊急の連絡のようなので、失礼します」

 僕は母親が入院中で危篤であるという理由を元に携帯所持を許可してもらっている。
 これは普通の生徒には許されないことであるが、生徒会長、そして素行良質な生徒という前評判があっての許可だ。
「もしもし? 親父か、何してた」
 母親はとっくに死んでいる。危篤状態の女性は病院にいる有志に協力頂いた。
「おー、タクヤ、ついに出来たんじゃ。はやくもどってこい」
「なんだか知らないが、親父も僕の夢は知ってるだろ? 今は授業中なんだ。それより大事なことか?」
 いくら授業中とはいえ、みんなと違う行動をしていては風評が悪くなる。
 みんなと同じ。それがこの国における仲間はずれにならない方法なのだ。
「大事じゃ、お前の夢に必ず役に立つ!」

「それを聞いて安心したよ」
 ピッと携帯を畳むと僕は全力疾走で校舎を駆けた。
 親父は世界屈指の学者だった。2030年から学生時代にネットの論文で数々のノーベル賞を受賞し、
 挙げ句自分の研究施設を持ち、研究に没頭していた。
 詳しい分野は知らないが洋書を全く読めない僕が親父の研究を理解することなど出来ない。
 僕はただ、親父の作ったものをうまく利用するだけなのだ。

「――はぁはぁ」
 家につくと、親父がプレートクローシュを持って玄関で佇んでいた。
 その顔は痩せこけてもう何日も日を浴びてないような小汚い色白の肌で笑っている。
「待っていたぞ、我が息子」
4, 3

  


「親父……」
 親父が僕に教えたのはただ一つだ。
 夢を持って生きろと、どんな汚い夢でも欲望でも活力に満ちた行動をせよと、ただそれだけを教えてくれた。
「いいか、このプレートを空けたらお前の人生は無量大数度変わる。もう絶対に後戻りできない。
 お前は人類で最初で最後にして神にもっとも近い力を手に入れるだろう」
 そういって親父が差しだしたプレートクローシュの中には錠剤が一つあった。

「これは……?」
「飲めば解る。悪いようにはならん、絶対じゃ」
 タクヤはそれを一呑みにした。得も言えぬ快感が体を駆け巡る。
「カオスヘッドという昔のギャルゲを知っておるかの。妄想が具現化してしまうというものじゃ」
「ああ、あの大昔の……」
「それが、その薬の効果じゃ」
「えっ……」
 タクヤは試しに手にバナナが出てくるのを想像した。

「ああ、だめじゃよ。ちゃんと話しを最後まで聞くんじゃ」
 効果は一生涯、試験体は自分で行ったという。森羅万象全ての事柄が実現可能になるらしい。
「ただし欠点が一つ、死ぬと思われるようなことは実現しない。例えば宇宙までひとっ飛びとかの。
 そしてもう一つが、存在するものを消すことはできないという欠点じゃ」
「な、つまり、バナナを出したらそのバナナに消えろと念じても消えないってことか?」
「そういうことじゃ。するとパラドックスが発生する。
 いつバナナは消えるのかという問題じゃが……それはどうやら心配しなくて良いようじゃ」
 話しはまだ続くぞと親父は言った。

「第二に漠然とした想像についてじゃ。
 絶対に折れない剣だとか壊れない盾だとかそういうものはなるべく想像しないほうが良いな。
 例えば絶対折れない剣は文字通り折れることのない柔軟性を兼ね備えて具現化するし、
 壊れない盾はスライム状になって『盾』という形だけの概念を持つ不完全なものとなった」
「便利なようであまり使えないんじゃないか、これ」
「逆じゃい。裏を返せば現実にあるものはいかようにでも自由に操れるということじゃ」
「極端な話し、目の前にサイフがあってその中身がほしいと念じれば、それは自分の手の内に入るのじゃ」
 犯罪じゃねえか。
「やっぱり使えないな。そもそも俺今色々想像してるけど何にも起こらないぞ」
「当たり前じゃろ、そんなにほいほい具現化してたらあっという間に世界はおかしくなるわ。
 具現化するには目を瞑って3秒頭の中をこれから具現しようとすることで一杯にする必要があるんじゃ」
「3秒?!」
 訓練が必要なレベルの話しになってきた。
「厳密に言うとアルファ波が出ている数秒間の微妙な数値の値が必要なんじゃ」
 僕は必死にバナナを想像した。ぶっちゃけバナナをまず具現化しないといけない気がしたんだ。
「お」
 手に感触があった。バナナだ。しかし、全く嬉しくはない。
「ここで質問じゃ。そのバナナはどこから発生したか?」
「そんなの知らないよ、ただ強く思ったら出てきたとしか言いようがない」

「ハズレじゃな。例えばこの先お前が某アイドルを手に入れたいとする。
 その時想像して具現化したアイドルは何者かという問いじゃ」
「元のアイドルはどうなるんだ……?」
「もちろん、想像の仕方にもよるじゃろうが、二人存在することになるぞ」
「…………わからない」
「バナナを食ってみろ」
 タクヤは言われた通り、出したバナナをほおばる。
「……?」
「どうじゃ、どんな味がする」
「なんか、不思議な話しだけど。記憶にあるバナナ以上のものではないな」

「そうなんじゃ、お前がこれから具現化することは全部、お前の知識と体験を大きな拠り所として顕現される。
 それはつまり、お前が想像できない部分でその力だけでは働かないこともあるということじゃ」
「ほんっと使えるんだか使えないんだかわかんねー力だな」
「まあ、色々試して見るんじゃな。ワシはもう眠いから行くぞ」
「ああ、ありがとう親父!」

 ここに人類最強にして最悪の人間が誕生した。


6, 5

病芽狂希 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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