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第五話@攻略不可能(インポッシブル)

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 第五話「インポッシブル」

「B-53が消えた?」
 長髪の少女、水無瀬鏡華はオフィスで耳を疑った。
「エリア4からのレッド確認通達を受け、その後消息不明になっています」
「……」
 くりくりした双眸を固く瞑って少女は頭を抱える。
「発信器の行方は?」
「追跡しましたが反応ありません。本当に消えたとしか思えない状況です」
「ありえない」
「追い打ちをかけるようですが、エリア4の衛星映像を保存しています……」

 天井から降りてきたスクリーンにエリア4、つい数時間前にタクヤとナミがいたそこが映し出される。
「男……と連れの女……」
「問題の映像はB-53がこの後数歩接近し、戦闘を開始したところからです」
 画面の中で黒いツインテールが揺れ、携帯で話し始める。通話内容は対象の捕獲の許可だという。
 ナイフの投擲をするために脚へ手を伸ばし、前方へ走る。
 B-53の腕が横薙ぎに振るわれる。そこで映像にノイズが入り、次の瞬間見えていた三人は消えた。
「!? これはどういうこと?」
 時間を表す表示は一秒たりとも飛んではいない。
「これが、社長の仰る敵ということでしょうか」
「…………」
 その後、水無瀬鏡華はこの数秒のシーンを丸二日に渡って見続けることになる。

「そう、B-53はやられたのね」
 冷淡な口調で夜風に吹かれる少女がいた。
 端正で可愛らしい容姿ながらもビルの屋上ではその横顔も儚さと妖艶に満ちていた。
『相手は空間転移能力者か、攻略不可能(インポッシブル)レベルの能力者です――』
「攻略不可能?」
『はい、戦いにならないほどの反則的能力保有者をインポッシブルと……
 データによると今回、B-53は敵と同時に消失したようです。映像を送ります』
 少女の目の前にモニタが映し出される。衛星からの光を屈折させて映し出す光学技術である。
「そう、恐らくこれは隔離空間ね」


『空間を隔離したと――何故?』
「敵に味方はいないという証明。だからこそ、人目を避ける力を一番初めに使った――どうかしら?」
『なるほど、それならばこの状況で真っ先に観測不能になったのも頷けます』
「このことは鏡華も知らないでしょうね。あの子は少しずつ理解していくタイプだから」
『瑞華さまは――どうされるんですか?』
「相手は男なんでしょう? それに味方はいない。
 となれば、そう、恐らく側近にいたこの女が唯一の仲間なんでしょうね。F-88にコンタクトを取って頂戴」
『F-88ですか? しかし、あの方は苦手だと……』
「そんなことも言っていられないでしょう?
 この世界はおかしい、それだけは解る。
 その答えを知っているのはこの人しかいないんだからそれを問い正しに行くのよ」
 闇夜に舞う一輪の白い花。ワンピにニーソックス、ローズブリット、
 瑞華と呼ばれた少女は長い髪を舞わせて一人、街明かりの中へ消えていった。

「タクヤ、訪問客です」
 ナミの流麗な声が僕の耳に響く。
 僕は黒服の少女の治療を終え、地下室を上り玄関先へ行く。玄関からは見えない位置でナミが待機していた。
「――はい」
 扉を開くとそこには柊みつきと朝陽鈴音の姿があった。
「ちょっと、今いいですか」
「え?」
 ぐいと引かれる腕。僕は少女独特の力加減に興奮した。

 住宅街を闊歩する三人。公園の一角で朝陽鈴音は口を開いた。
「あの子に何をしたんですか?」
「あの子って?」
「とぼけないで、タクヤ先輩、いいえ、タクヤ。私は見ました。
 ちゃんと答えないと警察に突き出しますよ!」
「タクヤ君……」
 柊と朝陽は対照的な面持ちで僕を見る。何か嫌な予感がする。
 僕は公園の死角にナミの気配を感じ取り話しを続けた。
「二人ともいつの間に知り合ったんだい? 見たって何を?」
「黒と白のスカートの子ですよ。背負って帰ったでしょう?」
 どういうことだ? 隔離空間は完璧のはずだ。いつ解けた?
「誰かにそう聞いたのかい」
「いいえ、この目で見ました。家に連れて帰るところまではっきりとです。警察を呼びます。いいですね」
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 朝陽は制服のポケットから携帯を取り出してコールを掛ける。
 しばらくして巡回中の警官が駆けつけた。もちろん、美少女だ。
「私を呼んだのは誰ですかぁ~?」
 公園の入り口から緊張感のない声で恐る恐る入ってくる少女。僕の脳内はデフォルトで彼女の身体測定を行う。
 ――94、60、86。比率0.70。演算終了=(結果)黄金比率。
「私です。あの男が少女を誘拐したんです」
「あらぁ、それはいけませんねぇ。すぐ自首してください~」
 タクヤは睥睨する。朝陽はもう知るところまで知ってしまった。どうするか?
 施設の一員として取り込むのは容易いが、今は人数が多い。そしてこの婦警は底が見えないのだ。

「断ると言ったら?」
「いいえ、そんなことはできません~。あなたは悪人の眼をしていますからぁ~」
 おもむろに拳銃を引き抜く婦警はそのまま銃口をタクヤに向ける。
「え、それは流石にやりすぎじゃあ……」
「やれるものならやってみるといい」
 婦警は迷う素振りも見せずにトリガーを引いた。閃光と火花が散った。
「ちょ……」
 ごおおんという反響音の後に朝陽と柊は瞑っていた目を恐る恐ると開いた。
「あっ――、あぁぁ……」
 かちゃりと先に音を立てたのは美少女警官の方だった。
 銃を手から落とし、内股になりながら甘い声を出している。

「いい感度だ……」
 銃弾はタクヤに触れてすらいなかった。
 弾頭がどこへいったのかはわからないが、タクヤは無傷のまま指先だけをイヤらしく動かしていた。
「俺が悪人の眼だと言ったな?
 お前は人の善し悪しが眼で解るのか? ならば、この状態で読んでみるといい」
 タクヤはおもむろに指先をつまむようにする。
「はあぁぁああ――」
 柊と朝陽はその婦警の変貌にただ目を丸くするだけであった。
「そんな――ここまでリアルに感じて……?」
 少女はだらしなく口から唾液の糸を引かせ、目は虚ろになり、身をよじるようにしてひくりひくりと痙攣しだした。
「馬鹿だな、俺の眼を見るってことは力の影響を強くするだけだ」
「え? アっ、来る――何かが、来ちゃうぅ――?」
「あばよ」

 咄嗟にタクヤは手を放した。
 それは愛撫の中止であり、遠目から見てもわかる内股の生理現象を放棄したということでもある。
「――ふぇ? ァっ、えっ? ッ――」
 直前で止められた甘美は小さな余波となって少女を襲った。
 それは熱い舌でありとあらゆる性感の地肌をゆっくりとなで上げられたような快感。
 彼女は得体の知れない心地に吐き気を催すほどの歓喜と劣情を焚きつけられた。
「う――ッ、はぁ、ぅく」
 生殺し。まさにその一言でしかない。
 少女は周囲の状況など忘れ、何かを求めるようによろよろと公園を出て行く。

「(計算通り)」
「あんた……普通じゃない」
 朝陽はあからさまな敵意を見せ、柊は女の敵と言ったような目つきでタクヤを見る。
「今頃気づいたのか。まあ、気づいたところで、お前たちには何もできない」
 おもむろに素早く朝陽は銃を拾いタクヤに向けた。
 ――ダンダンダンダンダン。
「…………」
 リボルバー式の拳銃の衝撃は相当だろうが、
 それを転ばずに撃っただけでも朝陽は射撃の才能があるに違いなかった。
「タクヤを殺すことは私がいる限り、させない。不可能」
「うそ……」
 そこには映画でしか見たことがないような弾頭だけが空中で止まっている状態があった。
 その後ろに長髪のナミが端正な美顔で二人を睨んでいた。
「化け物……」

 そう言った時だった。公園の頭上から突如巨大な影が差し込んだ。
「そう、殺せないのね、なら封印するまで」
 白いワンピースに身を包んだ少女が涼しい声で突如朝陽たちのそばに現れた。
「ちょっと、何あれ……」
 頭上には直径100メートルはあろうかという巨大な岩の塊が落ちてきている。
 気がつくと朝陽と柊は公園の外に立っていた。
「え?」
「やっちゃうよ~!」
 思考が追いつかないまま、元気な声が何処からか聞こえる。
 ナミとタクヤは声を失っていた。岩の造形は籠のようにドーム型になっている。
 無難にやり過ごすなら逃げるしかない。
「ナミっ!」
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 ワンピースの少女はハンドシグナルの後、タクヤとナミを指さす。
「にひひ~、りょうかい!」
 瞬間移動と言うほかない。白いワンピースの横に突如現れたのは小さい女の子だった。
「よ、幼女!」
「タクヤ、油断している場合では……っ」
 どしゃりと地面がめくり上がり、ナミとタクヤの前方が花弁のように塞がれる。
 影は暗みを増し、もう逃げ場など何処にも残っていない。
「だっしゅつ~!」
 白い子と幼女は一瞬の間に数十メートルも後方へワープし、影の下から逃れる。
「馬鹿な!」
 反対側に走って行ってはもう逃れることはできない。
 誰かと立ち位置を置き換えるにしてもそれはあくまで最終手段だ。
 落下する巨大岩石に封されようとした時、どこからか聞き覚えのある声がした。

「そいつを殺すのは私だああ!」
 確かに影の外から発せられたその声は黒い制服姿をさせていた。
 タクヤは傷を治しておいたがまさか追ってくるとは思わない。
『――(絶対因果斬)エンペラム』
 彼女が頭上の巨大岩石に向けて投擲したナイフが、それを一瞬で小粒の雨に変えた。
「これは……B-53の……結衣!」
「ああぁぁ! せっかく聖果が運んできたのに!」
 タクヤは瞬時にナミを抱き寄せ、頭上に鉄板を創造していた。
「あいつをやるのは――はぁ、……私――」
 公園に駆けつけた結衣と呼ばれた少女。
 タクヤは前回同様、彼女の中へと逸物を納めていた。
 それを意に介した様子もなく、平静な様子を見てタクヤは苛立ちにも似た焦りを感じていた。

「ほぅ、今度は耐えるんだな」
「ふん、何を言ってるんだか。それよりあんたのこれ、ちょっと小さくない?」
 青ざめた顔でいうが、彼女の表情はうっすらと笑みを浮かべていた。
 そんなはずはない。僕の巨根は16センチオーバーだ。今もぎちぎちな秘宮に収まっているじゃないか!
「死ね!」
 タクヤが我に返ったとき、目の前に投擲されたナイフが迫っていた。
『しまっ――、鉄』
 注意を逸らす為の布石だと気づいた頃には遅かった。
 想像創造には最低でも2秒はかかってしまう。間に合わない!
「タクヤ!」


 常人では反応できない状況で、ナミはタクヤを押し倒した。
「……」
 その様子を黙って見つめる四人。そしてタクヤはゆっくりと起き上がり、盛大に笑った。
「はっ――、ハハハハハハ!」
 それが一瞬覚えた死の恐怖への虚勢なのか、彼女たちにはその笑いの意図するところがわからない。
「やってくれるな。だが、覆せない力の差ってもんを知れよ!」
「くっ――」
 結衣にとっては今のが最後の攻撃だった。まだ開通して間もない結衣の狭い秘所にタクヤの巨根は大きすぎる。尚かつ、好きでもない奴の逸物をくわえ込んでいるというだけで、結衣は吐き気すら覚えていた。

『半径40メートルの女に●●●●●を与える』
「っ――?!」
 ナミを除く五人がその場で膝を折った。突如襲ったのは激痛と血の気が引く感覚だ。
「どうだ? 身動きできないだろう?」
「どういうこと……?」
「くっ、F-88早く離脱してっ」
「うわ~ん、お腹痛いよぉ~」
「ッハハハハ、そこまで痛いか」
「これ……どう考えても生理痛よね……?」
「そうだ。身動きできなくなるほどの生理痛だ。初体験だろう?」
 タクヤはナイフを投擲した少女、結衣のところへ近寄っていく。
「また……負けたのか……」
「いいや、ただの負けじゃない。お前は二敗目、完敗だ。そろそろ手篭めにしてやる」

「――え?」
 ナミ以外の誰もが驚愕した。タクヤはこの晴天の下でレイプすると公言したも同然だったからだ。
「今なら確実に四つ子くらい孕んじまうぞ?」
「はっ、あっ――いや……来ない、で……」
 にやりとしたタクヤの顔は般若より恐ろしい形相であったに違いなかった。
『空間転移解除』
 ここに来て圧倒的強さを誇ったタクヤは逞しくいきり立ったモノをズボン越しに結衣の顔面に近づける。
「――ナミ」
「はい」
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 ナミは動けなくなった結衣の前に立ち、薬瓶を取り出した。
 白い布にその内容物を垂らし込み、結衣の口を二の字に割るように縛る。
「はひお……」
 口から首回りにかけて、固く結ばれた布からは甘く痺れるような感覚が押し寄せる。
「ん、はぁ――」
「媚薬――だが、ただの媚薬なんかじゃない。そいつは遺伝子レベルでお前に催淫効果のある媚薬だ」
「はっ――、はっ――」
 浅く速くなっていく呼吸で必死に四つん這いに逃げて、抵抗しようとする結衣。
 だが、媚薬と生理痛のコンボはただただひたすらに彼女の本能を煽り、唆す。
 劣情を催したことのない結衣にっとてはいきなりの快楽にただひたすら戸惑い、涙していた。

「ひっ――」
 後ろからタクヤに抱きつかれた結衣は軽く昇天した。
 今や生理痛も快楽の一部でしかない結衣が、男の体に触れられた。
 その時、彼女の全身にはほしかったおもちゃを貰った子供のとき以上に歓喜と恍惚が駆け巡ったのだ。
「あ――、あ――」
「お前は俺に負けたんだ。大人しく俺のものになれ」
 結衣は劣情と肉欲の狭間でその言葉がどれほどの正当性を持つかはどうでもよくなっていた。
 ただ、目の前にいる男と一つになるだろうという喜びと、負けたということで手に入れた快楽とが、
 どんなものよりも嬉しいものだと思ってしまった。
「――はひ」

 媚薬を口に咥えさせられたまま、体を貪られる仲間を目の当たりにして、瑞華はゆっくりと立ち上がる。
「動けるのですか」
 ナミが眼前に立ちはだかり、瑞華の行く手を阻止する。
「あなた、そこをどけなさいよ……結衣が……」
「あの方は敗北しました。敗者は勝者の餌食となる。この世界では当たり前のことだと思いますが」
「どういうわけか知らないけど、あの人は全てのものに自在に干渉できる。
 確かに攻略不可能……でもどうしてあなたには生理痛が起こらないの……そう、あなたはあの人に――」
 突然瑞華は浮き足になった。ナミが瑞華の首を掴み、持ち上げたのだ。
「私はタクヤの為に存在する。お前たち苗床とは違う」
「ぅぐ、ふ、なんで怒るの、かしら? ふふ、そう、あなたは私たちとは根本的に違う。
 生理もこない、ただの、まがいものなのかしら」
 ぎりりと音がするほど瑞華の首を締め上げるナミ。

「おい、ナミ!」
 タクヤがナミの肩を掴んだ。とさりと瑞華の体が崩れ落ちる。
「申し訳ありません……」
「興が覚めたぞ」
 結衣もぐったりとした様子でいつの間にか気を失っていた。タクヤは結衣を担いでその場を後にする。

 公園に残った四人はただ仲間の到着を待つしかなかった――。
 タクヤが去った後に隔離空間から解除された四人はほどなくしてリンクポトンの先鋭部隊に救助された。
 瑞華は社長の鏡華に事の顛末を説明し、部隊からの脱退を申請した。
 リンクポトン社ではタクヤの存在が明るみに出たことで士気が下がり、辞めるものも出てきた。
 しかし、同時に新たな人材を手に入れることとなる。
「柊みつきさんと、朝陽鈴音さんね」
 鏡華は二人を歓迎した。唯一、タクヤの能力に影響されることがなかった二人。
 リンクポトン社はそれを引き入れた。

「はい、よろしくおねがいします」

 
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病芽狂希 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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