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高校生大好き物語

 待ち望んでいた救いという物を今はっきりと告げろといわれると、非常に困る。なぜなら僕には待ち望んでいたものも、救いも、願いさえも既にないからだ。つまり、僕は何者かによって、或いはある事象によってもともとあった願いというものを取り下げられたのかもしれない。
 そんな事はどうでもいいと思いながら、僕は犯されていた。
 目の前の男は醜悪な笑顔を浮かべて、僕の乳房を揉みしだいている。痛みもある。それはそうだ。僕は今乱暴にされているのだから。さながら、雪のある都会を物珍しく喜ぶ子供のように。僕は雪になって無邪気な子供たちの爪のあとを体に刻んでいく。そして、その手の熱でもって、僕の体は濡れそぼっていった。
 熱い、息がかかる。
 とても、眠い。
 左に居る男の粗末なものを握らされる。少し湿り気を帯びていて、興奮しているのか。とも思ったが、単にその男の体液が尋常ではないことがわかって、ああ、こいつは初めて女を犯すのだということを今更のように感じた。初めて襲う女が高校生なら格別だろう、僕はそいつの粗末なものを銜えようかと思う。でもそれは、無礼になる。
 僕は、今。犯されている。
 犯されているという言葉が記号ならば、その記号は今誰が分類するものだろうか。
 たぶん、僕なのだろう。
 僕は、今。犯されている。
 だから、僕は抵抗する。でも抵抗しない。ああ、指が体内に入る。激しく、ミミズのように動かされる。うねうねと、腸をかき乱される気分になって、僕は今日ラーメンを食べたことを思い出す。たっぷり食べなければよかった。そう思う。
 男が、よくわからないことを言う。はっきり言って聞き取れない。し、聞こうと思わない。ひぃ。と一言だけ言うと、男はさらに悦んだ顔をして微笑んだ。もう一人の男は、自らでしごいている。何だもったいない。こんな女が居ればそんな事はしなくてもいいのに。僕の口を、存分にいっぱいにすればいいのに!
 あ、でもちっちゃい。
 考えていることは、伝わったらしく。我慢ができず、妙に初動の早い挙動で僕の顔を粗末なものに近づけた。当然嫌がる。男は、叫んだ。何言っているかわからないけど、銜える。人の古い肌の味がする。別に、嫌いではない。体内に指以外のものが入る。更に、乳房も捕まれて、突起も捕まれて。あああああ、わからない。
 頭がガンガンになる。
 白くなっていく意識の中で、僕は、舌を一生懸命にって動かす。唾液が増える。更に、増える。そして、別の液も混濁し、ついにそれが上回ったことになって、自分を出していいかなと思った。あ、中出しされた。
 男は、興奮が冷めないように。僕の顔を殴る。よくあることだ。別に気にしない。さらにひいぃ。あはははははは。げらげら。パンパン。びゅっびゅ。ああ、すっきり。
 三十分もしないころに僕は解放された。最後には僕も自分から求めていいと思ったから求めたら相手も喜んだ。
 ついでに、少しお金ももらった。次もしてほしかったら、またここに来いといわれた。
 あはは。いこうかしら。でも、人の制服は返せよバカヤロウ。
 返してもらった。まあ、べとべとで気持ちのいいことになっているけど。ちょっといいにおいもする。帰りも多分後一回はあるだろう。家までの帰り道はとても長いから。
 深夜の公園を歩く。不幸を後ろに掲げた中年のおじさんが前からやってくる。コンビニのビニール袋を携えている、その格好も、何か哀愁を携えていて、ああがんばっているということがわかる。なんとなく、僕は声をかけたくなる。だけれども、めんどくさくなって、どうしようとおもったら、あっちから声をかけてきた。おねえちゃん、こんな時間に危ないよ。何が危ないんです。ほら、いろいろと。なにがあぶないんです。おねえちゃん、さそってるのかい。わからないんです。なにがあぶないんですか。おじさんの顔がこわばっていく、とてもいい顔だ、どこかに力が入っていくような、抜けていくような顔。それじゃあ、私、帰ります。う、うん。おやすみなさい。はい。おやすみ。そして、僕はわざわざ、人気のない方へとまた歩いていく。
 後ろから顔をつかまれる。きゃ、なんて、かわいい声を出してみる。人の声がまた聞こえなくなっていく。おじさんは、粗末なものをそのままに、乱暴に僕の中に入れる。おじさんが、歓喜の声を上げる。もう濡れていましたよ。まあ、他人の精子ですがね。





 そして、私は目覚めた。
 体はだるいし痛い。青あざばかりの体に辟易とする。昨日はさすがにやられすぎた。いくらなんでも20回はつらい。でも仕方がないと思う。私の意思ではない上に、私が操っているわけでもない。そして、夜の行動さえも、私の意思ではないと思う。
 思うだけで、私なのだけれども。ベッドから、起き上がって、とりあえず、股間に触れてみた。生理用具に精子がべったりとくっ付いているのを確認して、シャワーを浴びることにする。べたべた、ぱりぱり。陰毛にくっ付いた精子がぱりぱりに乾いてくっ付いている。前張りみたいになっているが気にしない。そのままで、部屋を出る。
 途中で、父親と遭遇した。無視をする。父親はしたを向いている。思うことがあるなら言えばいい。でも言わない。
 しらない、気持ちが悪い。でも、気持ちがいい。コロコロと私の心は変わる。まるで、小学校のころ好きでたまらなかったステーキが中学くらいから食べられなくなった感じに似ている。私は、ソレが早い。その差異が気持ちがいい。
 脱衣所で着替えていると、父親が入ってきて何も言わずに私の乳房に喰らいついた。今は駄目だと告げる。でも吸い上げる。男は嫌がるとその興奮に熱を上げる。私はそれがわかっていた。だから抵抗をしない。けど抵抗をする。洗濯板のようなざらざらとした舌が削るように突起を舐めあげる。生理用具が落ちた。どうやら、濡って落ちたらしい。
 風呂場に入れられる。そこのボディソープでぬるぬっるになった指がいろいろなところに入って、さながら私はオナホールだ。本末転倒はは、わたしは自慰を手伝うための。道具。
 いつから、この生活をしようと思ったのかはわからない。自然となっていた、といっても嘘になる。多分、初めて犯されてみたら気持ちがよかっただけで、それ以外の何かはない。だけれども、私には誇れるものがひとつあって、夜は男の気分になった私の前世が前世でしたかったことをしたからこうなったのかもしれない。
 よく、わからない。
 私の前世はつまらない男だった。生涯を童貞ですごしたこともないが、女という生き物にはよくよく理解ができなかったらしい。常日頃。女は男のためにあれと思っていた。そこ行く女をみれば、なぜあの女は自分に股を開かないのだろう。と。
 男は努力をした。深夜、徘徊をし、警察の目を盗みながら、静かに女を犯した。たいていの女は、一線を越えてしまって、最後には気が触れた。男は長い、長い間犯し、気を触れさせ、その後を観察し続けた。そして、世の男たちの下半身に貢献をした。つもりだったが、馬鹿な偽善者気取りの男のせいで、女は崩れ落ち、そして、そのままその男をくっ付いた。
 それが片手では数えられないくらいになったくらいで深夜の徘徊をやめた。
 生涯その行動は明らかになることはなく、男は世の男のために、男の本能のために行動をし続けたが。男によってそれは覆された。いや、社会の通念によって。
 女を傷つけるな? 泣かすな? 守ってやる? 苦労させるな? 
 その一つ一つの言葉が嫌いだった。だから、自らがやるしかないとおもった。

 そして、今。強固な意志は、後世に。
 私は、私になった。お誂え向きに、顔もスタイルもそこそこになった。きつめの顔でもなく、いたって清楚な、目の大きな女。髪は短くした。好みは長いほうだが、長いと別の男によく切られる事が多かった。いちいち揃えるのが面倒だったので、短めのショートヘアにした。おかっぱみたいにしたら、もっと人は増えた。
 先に言っておきたい。私は娼婦になるつもりはない。
 なぜなら、私は高校生だし。それに、金銭を得るためにやっているわけではないからだ。
 意味のなさがいい。あまりに意味のない行動。誰かに言われた、お前は何がしたいのか。と。
 じゃあ、お前は何がしたいのか。
 私は、そんなことを言ったと思う。
 人生に意味なんてあるのか、他人のためにあろうとする事が人生だというのなら、私は男のために生きようとしているのだ。
 ソレが理解できない程度の人生に、私は私を語ってほしくなかった。
 そして、ソレを問うた人間は今、私の中で暴れている。尊厳も、何もない。いいことだと思う。それでいいのだ、それが、私の望んだもの。望んだ人生。
 私は、病気になることもなかった。妊娠もすることもなかった。病気にならない体質。ある時期から、私の体の成長も、老化も、生理も、何もかもが止まった。停滞しているのだと思う。私は死ぬことができるのかさえわからない。だけども、好都合だった。この、高校生。という未熟な、早熟な人生の三年間。その間に、私は何人の手助けをすることができるのか。
 思考は蓄積していく。
 多分、私は、三年の終わりに殺されるのだと思う。
 そんなことを思いながら私は生活している。せい、かつ、している。
 白いボディソープだか、なんだかわからないものがドロドロと流れる。
 シャワーで流すのも、億劫だ。





 学校に出ると私は優等生になる。
 まさか、そんな行為が毎晩なされていることは誰も知らない。し、そんな風にはしていない。学校は、私の高校生というしるしを輝かせるためのショーケースなのだ。もちろん、制服で出歩く理由もちゃんと用意はしている。先生とはしていない、当たり前だ。アレ、もショーケースの一部。あれは男ではない。先生なのだ。
 私は頑固だった。
 ノートをしまおうとすると、紙がひらひらと机に舞った。なにか、が挟まれていたみたいだ。それをかがんでとる。一つ一つに意識がいく。私には性欲というものがなかった。性欲という衝動は理解できたが、自分の中にその衝動というものがあるということが信じられなかった。楽しいということしかわからない。そのことにその事実に感応していることしかわからない。衝動があって行動しているのだとすれば、それはただの猿だ。あれ、それならば男は猿か。私は猿を助けているのか。それもいい。私はそうなりたくないだけだ。プライドはあるみたいだった。
 内容は告白だった。名前の宛名は書いていなかったが、文字でわかった。後ろの席の冴えない感じの子だ。
 渡辺慶介。とか、ああ、よくよく見てみれば名前も書いてあった。ごめんよ。見えてなかったんだ。
 悪いと思った、私、を好きだという男。私を好きだという男の子。初めて意識をする、私は、誰かに好かれている。愛を知る。愛。を。しる。
 胸の鼓動が早まる。どうしようどうしよう。どうすればいいんだろう。
 私は先ほど記述したように、人を人としてみていない、その相手、奉仕の相手に、愛される。愛、される。愛とは何だろう。繁栄と共存。淘汰の否定。私と、生活をともにし、溶け合いたいということなのだろう。溶け合う。性行為。性行為、性行為というのはこうあるべきなのかと考える。
 ああ、だから子供はできるのか。
 人は愛でできているのだろう。愛という記号でもって、すべての人間にラベルをつける。人間が人間であるという証明が多分アイなのだ。アイ、か。私はそのラベルがきちんと貼られているのかさえわからない。
 それなのに。
 それ、なのに。
 突如として、私の目の前に答えという感情が芽生える。

 怖い。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。こわいこわい。怖い。
 私が、蔓延していいはずがない。私は私だ。私は私だからこそ、子を残してはいけない。私のアイディンティティが崩れる崩れ落ちる。アイというラベルがないからこその、私の自己顕示。なのに、彼はソレを奪おうとしている、自分の、机にがりがりとシャープペンシルを突き立ててみる。死ね、死ね死ね!!! 私を守ろうとするもの、何もかもが恨めしい。私は放って置かれるからこその私であって。それでいて、ヒトカタを模した自慰のための道具だ。人の居ないひっそりとした公園の横にある、薄暗い自動販売機。その自動販売機に人を模した何かがあるとすれば私だ。ソレは私である。なのにコイツはコイツハ! 段々と負の感情が私に芽生え始める。アイの感情、アイなんかに感情があってたまるか。それはラベルだラベルなんだ。
 私は鞄を持つ。夕映えの教室。それでも、向かわなければならない。
 あと、一時間。
 『僕』が現れるのが待ち遠しい。

 待ち合わせもベタに、私は体育館倉庫に呼び出された。
 人気のないところに連れて行かれた、という脳の信号が、私の体に反映を及ぼす。すでに、下着は濡っている。でも、だからなんだというのだ。相手は、不審な挙動で、廊下をあるき、その間に会話はなかった。私は親によって作られた、たったひとつの人形。ラベルが張っていない特別製。そうだ、私はアイドルだ。ひらめく、私はアイドルになりたかったのだと気がついて思わずソレを言ってしまった。
 わかった。だったら、友達からでいいかな。
 なんてことを言われて私は戸惑わず。うん、わかった。これからよろしくね渡辺君。なんて笑みをこぼして、家に帰ってその表情を鏡で見つめてその鏡を叩き割りたくなる。
 でもやめる。いい表情だと思う。思うことにする。好みの顔になって、僕は。

 死のことを考える。
 眠る前の死、眠れないことの死。すべての死を創作し、擬似に戸惑った。
 生を謳歌しよう。地獄のイメージがそうやって呟く。いつも反対方向からのベクトルには呆れている。矛盾というものが大好きではあるが多少の飽きが来ている。飽和された想像に、もうそれでいいんじゃあない? と妥協したのが今の姿だ。
 死んで見るとよくわかるものだと思う。まあ、死んだら何があるか、わからないから、死んだらそこで終わりなわけで。そこがまた死の魅力というものを引き出すのだけれども。そんなものには限界があるに決まっている。
 不治の病というものを考える。
 不治の病は治らないな病気のことを言う。ならば、人間が最初から保有している死は病気なのではないだろうか。生があり、死があるというのは出来損ないの言い訳に過ぎない。つまりこの世界はすべてが粗悪品で、もちろん僕もそこから逃げることができない。もし、それから逃げられるとしたら、死しかないのだろうか。はは、また矛盾矛盾。
 深夜の大通りを歩く。後ろには人が居ない。こういう日はよくある。
 そもそも、この奉仕だって効率が非常によくない。
 ただ夜に徘徊し、それで犯されるのを待つだけの生活。でもしょうがない。僕はそういう設定だから。そうだ、だからしょうがない。
 そうだ、と思い出す。あの、場所にいってみよう。行って見たら意外と居るかもしれない。
 僕は歩を進める。死が前を歩く。後ろについてくるものはない。影も形もなければ何もない。
 だから、僕は今を生きている。いつか、追いついてみせるという気迫もなく、淡々と浪々と進む人生と死。だからなんだってんだ。かわいいランジェリーを身につけたとしても変わらない。もてはやされる流行の曲も僕には何も通用しない。アイを語るな、それはラベルだつってんだろ! 案の定そこには男たちがたむろしていた。般若の面のような素敵な笑顔を携えて僕に近づいてきて、殴られ。僕の服はどんどんと汚れていく。右手には繁栄の稲穂を携えた僕は宛らおとめ座。左手には淘汰の剣を抱えている。振り上げる暴力もなく、ただ淡々と道具として酷使されていく。逃げられると思っているのか。思ってません。だから僕は生きています。はは、こいつイきやがったぜ。相当やばいなコイツ。はははは。褒めてもらっても居ない。だってその解釈は根本から間違っているのだから。男が僕の髪をつかんで引きずり回す、膝の頭が捲れていく。バリバリバリバリ。生傷は耐えない。だけれども、僕なら一日で直る。だから、何度でも何度でも。私は道具として使ってもらえる。
 精神のことを思う。ごっくん。
 人の思考というものは欠くも無駄なものだと思う。人に意識なんてものがあるから、こんなことになるのだ、僕は思考が嫌いだ。だけれども、何かそう思うことでしかできないとして。理由付けのポジションや距離感がつかめないから、アイディンティティの確立なんか考えるんだ。そこまでして、僕は私がほしいのか。アイディンティティなんて持っているだけ無駄だろう。そんなもの道具には必要ないだろう。でも人間としてあるべきは。だから、僕にはアイが、アイのラベルが張っていないんだって。
 じゃあ、君の親は?
 急に涙がこぼれる、母親のことを思う。ばちん。ひいぃ。げらげら。べちょべちょ。母は7年前に死んごっくん。
 なんで死んだか、わからない。覚えていない。交通事故だったらいいな。
 げろげろげろげろ、吐瀉物を吐き出す。殴られた、おなかはやめてほしいんだけど、上乗りになった男がマウントポジションから連打連打連打、げろげろげろげろ。内に潜んだものを感じる。これが混沌か、光明が見える。終わりの味がする。ぐさ。刺された。ずぶうぶぶぶぶぶぶ。意識が混濁する。血だか精子だかわからないものが体の中を流れる。びゅるううううどくどくびゅるどく。
 がくん。
 私は、何も、見えなくなった。




 気がついたのはそれから一週間もあとのことだった。
 私は、市内の病院にいた。白塗りの天井。何も見えない、死の世界だとおもったら、現実に帰ってきていたらしい。思っている時点で死んでいないことを確認できなかったのは私の落ち度だ。何が落ち度なのだろう。何をであればいいと考えていたのだろう。まだ、意識は混濁していて、よくわからない。そばで、父親が看病をしているみたいだった。私の乳房を揉んでいることにもよくよく気がついた。思わず息を漏らしたら、突起を強く潰して来たので、私の用意は完了していた。
 ただ、ずきずきと痛んでいる箇所があった、わき腹の直ぐ近く、人間の急所の近くだった。肋骨をすり抜けるようにして何かが通り過ぎたのだろう。普通死んでもおかしくない傷だと、満足した父親が告げる。私の顔は白い何かでドロドロだった。いいことだ。日常は病院にまで蔓延している。
 父親はごそごそと、ベッドに座りながら続けた。だから、そんなことはやめろといったんだ。心配をしていたらしい。ごめんなさいという、金輪際家を出るなといわれて、泣き叫びたくなるのを堪える。はい、わかりました。それで、この病院からはいつ出れるのですか。あと、2週間だ。長いですね。検査もあるみたいだからな。はい。いい機会だから、よくよく考えてみなさい。
 考えろ、考える。考えてみる。
 どれもこれも、すべてしてきたことだった。
 私が今ままでしたことの間違いはない。それに、今回のことは予想しうる最悪だった。私が動けなること。それがなによりも、この町の男にとっては最悪。わたしという記号はそれでいったん消えうせる。道具に都合はない。私は病院を抜け出すことも考えたが、ソレはかなわなかった。あまりにも傷が深くて動けなかったのだ。くそ、なんだってんだ畜生畜生畜生!!! 動きたい、動きたいけど動けない。むかつく。むかついたから適当なベッドにもぐりこむ。深夜、寝ぼけた振りをして、昼間のうちから目をつけた中年の男性の部屋に向かう。集団部屋だったから、空きのベッドはあった。四人部屋。二人の男と一人の女性がその部屋にはいた。間違えた振りをして、その空きのベッドに寝転がる。
 おじょうちゃん、そこは今朝死んだ人のベッドなんだよ。僕は答えない。当然、Tシャツには下着を着けていない。わざわざ、胸が見えるように寝転がる。目を瞑っただけでも息を呑む音が聞こえる。40台から50台の男は性欲が濃い。中学生や高校生の比ではない。狡猾に物事を進めていく、当然、その男も同様に狡猾に衝動を推し進めていった。隣の若い20台くらいの男が正義感を振りまきながらやってきたが、衝動には勝てず、僕の足を探る。ぐぐぐ。そこはいたい。ずきずきと、傷が痛む。関係ない。私は道具。世の男よ、僕を捨てないでおくれ。
 朝を迎えるころには、もう十五度目の射精を迎えていた。当然、二人の男で一五度の射精はできない。
 そこはそれ、慣れた勝ちというものだ。何に慣れているかいるかは秘密。何に勝ったかも秘密。秘密秘密。血はたくさん出た。とにかく、途中血が滲み出して、まずいなあとおもったのだけどもソレをみて興奮する男がいることもわかった。ニーズにはこたえなければならない。柔軟な発想が必要になる。そして、私は医者に呼び出され、警察に呼び出された。
 そこで言われたことは、今はどうでもいい。
 私は、白い病院に隔離された。
 とりあえず、そこでは性行為はできなかった。処女帯もつけられて、何もできない状態で放りこまれた。人間の尊厳を無視している。まあ私人間じゃないけど。あれ、じゃあ私はなんなんだろう。
 白い、隔離病院の中を歩いていると、とても落ち着いた。ここにはいろいろな人が居た。自分の話がうまい人、自分の傷がおいしい人。自分の頭がいい人。見ていてとても面白い。私は人類を愛したくなる。ねえ、神様私にもアイのラベルをください。願ってみたくなる。ばああああか。いらねぇよ。と吐き捨てて、そのまま、私は病院に消えていこうと思った。
 最近、夜になると僕はつらくなる。
 隔離病院の夜は冷たく、きれいだった。隣に座っている高校生のような老人も、老人のような若い医者も、すべては蔑む様に僕を見ているに違いなかった。だったら、この月さえも僕をあざ笑っているに違いない。クレーターがゆがんでいく、自然と涙がこぼれていた。穴だらけの円球。太陽に照らされている鏡。月は銀色などではなかった。ましてや、夜は暗くない。明るいものだ。しろくぽやぽやとした光が、町中を照らしている。幻想的だとは思わなかった。ただ、その一つ一つが人間の尊厳のように思えて、じゃあ朝になったら消えてしまうのかと思うと非常に心苦しかった。車の通らない道路を見て、更に悲しくなる。ひとつ、ひとつが愛しくてたまらない。だけれども、アイを覚えている僕でも、愛というラベルはつけることは許されなかった。僕は人間じゃないのだから。
 父親が面会にやってきたのは直ぐのことだった。静かな怒りを携えていた。謝りたくなる。ためしに謝ってみようと思った。ごめんなさい。だから、やめろといったんだ。父親は怒りをあらわにしていった。お前が、お前のせいで私まで死ななければならないんだ。なぜ、お前は病院に居るんだ。なぜ、なぜだ。お前は薬をもらい。生きながらえ、私は生活のために、薬をもらうことができない。私もすべてをなげうって病院に入れというのか。どの面下げてそんなことがいえるんだ、っこの親不孝者。キチガイ! キチガイ! キチガイ! お前のような淫売には似合いの死に方だが、俺はそんなことでは死にたくない。なぜ、俺が死なねばなら何のだ。なぜだ。なぜだ! 人間は、等しく死にます。そんなことを聞いているんじゃない。答えろこのインバイ。ごめんなさい。謝ればすむのか。この親不孝者め。お前も。お前の母親も。ただの気狂いだ。死ね。死ね、死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
 はい。
 死にます。私は。やってくる死を迎え入れようと思います。
 


 半年が過ぎて、段々と私の体は箇所箇所で黴が生えるようになってきた。
 もうすでに、道具としては使えない体になってしまっていた。どんどん私の体が黴によって浄化されていく。淡い痛みも、その都度の出血も。別になんていうことはない。静かに死をたたずむのは間違いではない。だって、それが人間としてあるべき痛みなんではないだろうかと思う。あるべき痛みというのは一概に体に残るものだけではない。今、初めて、私は傷みを感じている。胸が痛い。何か不安な気持ちになる。なぜ、そんな気持ちになっているかわからない。いや、わかる。わかる気がする。多分原因は『僕』がいなくなったからだろう。彼と一緒にいた時間は三年にも及ぶ。体に新しい穴を開けられて一年。この白い病院で二人は過ごしていた。僕はもう死んでしまった。野辺の送りに何か送ろうと思ったのだけど、送るような何かは持っていなかったし。私たち自身、そんな言葉も、救いも。必要はなかった。はやく、逝くことに美徳があったようにも思える。今はもうわからない。
 存在しないはずの胎児のことを考える。彼は胎児だったのではないだろうか。私の精神に孕んだ胎児。7年前父親に処女を奪われ、そのまま、私は精神に彼を孕み、彼を育む為にいままでの奉仕を繋いできたのではないだろうか。いや、それだって言い訳だ。私は時間の動きが段々干満になっていくのを感じでいた。死の際、目の前には地獄の釜、置いてきぼりの犬、門番に構えるは漫ろな目をする鬼。さあ、鬼。私を食い散らせ。その食い散らかされた先に本当の私がいるのかもしれない。
 私は未だに愛のラベルをもらうことができない。
 涙がこみ上げる。これまでの人生、流したことのない涙だ。浄化の涙。浄化の涙! 叫びだしたくなる。私は矮小で世界は広かった。奉仕する男たちのことを思う。私は、世界のために役立てをしてきたわけではない。人間のために。あくまで社会のためにいままで存在してきて、ある人には感謝されある人には罵倒された。渡辺君は、こんなわたしのことを知ったら幻滅するだろうか。いいや、多分、彼の人生に私の文字はすでにない。友達なんていうものはいつだって、個人ではなく環境に依存するものだから。
 おかあさん、おかあさん。体中の黴は私の体を蝕んでいく。そして、最後には、私は私を取り戻すことができなかった。ソレは、愛のラベル。愛はなんだったのだろう。ふと、臨床の床で考える。そばに居る医者の顔もうつろに、何も考えることができない時間が続いた。だけれども、ふとした一瞬から、急に自分の思考がクリアになっていった。私は時間をもらうことができた。これならどこまでも愛について考えることができる。
 断片的な記憶がよみがえる。見てこなかった分だけ、私はどんどんと取り戻していく。私の体は黴だから。もう、人を奉仕することはできない。私は神様と非常に近い位置にいるのだとわかる。神様は手を伸ばした所にいてくださる。そう信じてもいいでしょう。だって、私はもうあの場所に入ることはないのだから。お父さん、お父さん。お父さんお父さん。私の体をもてあそんだ張本人よ。社会はあなたを認めないかもしれない。あなたも自分の行いに気づきいつか絶望するかもしれない。だけど、それは間違い。だって私は。あなたを。

 体がブスブスと音を立てている。私は何も見ることはできなかった。感じることもできない。だけど音は聞こえた。それだけで、何が起こっているかは容易に想像できる。ああ。ついに離れていく。私は、私であることを思い出せるか、思い出せないか。私の存在意義はなんだったんだ。人間はそのことを考え続けいき続ける。緩やかな矛盾と、その先に待ち続けている、答えなきモラトリアム。粘り気を帯びたマグマはどろりと地面を流れていく。その先にある海を目指して。いつしかの死を考えながら、それでも固まることのできない。体が凍るように冷たくなっていくのを感じている。速度は遅くまるで、スローを飛び越えたストップだ。すべての速度が私をおいていっている。いや、私が世界を置き去りにしているのかもしれない。世界は思うとおりにはならなかったし、まして、私は世界の思うとおりにもなれなかった。ただ、著しく磨耗した倫理観をその体に刻み付けながら、これでいいさと矛盾したモラトリアムに身をゆだねていた。傷ついていく体に、傷ついてはいないと嘯き、病魔に冒されている体を神に愛されているとのたまいながら生きた。私は地獄に落ちるのだろうか。愛のラベルは多分死んでいるだろう今でも私の胸の前にぶら下がってくれない。愛のラベルってなんだろう。そのことをはじめて考えてみる。私は、ほしい物が何であるかを考えずにこれまでそんなものをほしがっていたのか。愛のラベル。愛のラベルってなんだ。実生活を振り返ることはさっきまでやっていたことだ。だが、その中に、愛のラベルが欠如していたからの弊害はあったのかということを考える。いや、ない。ないだろう。もしかしてと気が付く。私が、愛のラベルを欲していないことこそが、愛のラベルの欠如の弊害なのではないだろうか。根本の、物事の根本の根の部分。私は生まれながらにして、愛のラベルをもらうことができなかった。だから、もうすでに。そのときから、私は、愛のラベルをもらった後の自分を考えることができなかったのだ。そこを、『僕』に漬け込まれた。だから、彼は一つの別の意識として、私の子宮で孕み、また、堕胎したのだろう。生まれることもなく、ただ中途半端な死として。愛のラベルの生んだ悲劇は、私では悲劇ということができない。だって、悲劇のヒロインが自分を不幸だと思っていたら、それはただのメンヘルでしょ?
 
 足の裏側が消えていくような感覚に襲われる、ブスブスと、さっきまではくすぶっていたものが、一気に広がり始めた。火に焼ける絵画を連想する。白い紙ではなく絵画、私は自分のことを白い紙なんてキザなことはいわない、私は絵なんだ、色が三色ほどしかない絵、誰かはそれを美しいといってくれるだろうか。美しいといってくれた人はいるのだろうか。その絵の中央に、唯一つリンゴが置かれていたとしても、美しいといってくれるだろうか? 多分、そんな人がいたとしたら、その絵は大胆な変貌を見せるだろう。絵自体は変わらないかもしれないが、その額縁、ガラスは急に輝きを取り戻すだろう。たぶん、それが。愛というものなのだ。
 気が付く、私は火葬場にいるようだった。もう燃え尽きているかもしれない確認することはできない。だけれども、今の私はすべての時が止まっている。別れのときだ。ここは、あそことそちらの分岐点。時の止まる場所。悲しみのない世界のことを思う、ひとつひとつの真珠のような魂が、輝ききらめき、そしてお互いを反射させ、また自分も輝くようなそんな世界。私は死んだ後にその世界にいくことができるのだろうか。死の先で考える。どちらにしても、私は考えるということを死んでも手放すことはできなかった。ははは、とわらう権利さえ欠如している今でも、それでも、思考は笑っている。楽しげに、うらやましいと生きている人間を泣きながら、こんな風になってしまった人間をのろいながら。
 それでもいい人生だったと。笑っている。
 
 これが最後のメッセージ、私は人間たちが尊厳を主張している世界に対して、なんのこともない言葉を送る。


『人類皆な平等に死を。』


 私が空気に溶けていく。

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カキタレ 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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