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2日目

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十刀目

朝、普段なら寝ているはずの時間に俺は起きた。
なぜかはわからないが、あまり二度寝する気が起きなかったから。

「はぁ……。 夢ってわけじゃなさそうだな……」

見下ろせば入るモノに、俺は溜息をつく。
そして顔を上げて、余計に凹んだ。

「なんだよ……。 この部屋……」

太陽の光を浴びて光る白。
今までの俺の部屋ではありえなかったピンク色なんかが俺の視界を埋める。

「目が痛ぇ……」

淡い色合いが光を反射してるからか、それとも見なれない色だからか……。
俺は目の痛みを感じて、目を閉じた。

「どうでもいいけど、起きた方がいいと思うわよ?」
「あん……?」

目を開いて声がした方を向けば、文がさも当たり前のように椅子に座っていた。
それも俺の通ってる学校の制服を着て。

「なんだ、コスプレか?」
「違うわ。 私も今日からアンタの学校に通うの」
「それよりも、テメェ何で俺の部屋にいんだよ。 鍵かけてたはずだろうが!」

そうだ、確かに俺は鍵をかけた。
開けてたらオヤジに何されるかわかんねーからな!

「あぁ、アレくらいだったら楽に開けれるわ」
「開けれるってテメェ……。 何してんだよ!」
「そんなことよりも、早く着替えないと遅刻するわよ?」

別に俺は学校に行く必要なんてない。
それにこんな姿で行ったところで、それは問題があるだろ……。

「大丈夫よ。 アンタは1年生からやり直しだから」
「は?」
「もう一度1年からやり直せってことよ。 それに、その見た目じゃ3年生なんかには見えないもの」

確かに、昨日見た外見では3年生なら中学生と言ったところ。
それに元の学年に戻ったところで、俺は俺として生活はできないだろう。
それならいっそ……。

「でも、その前にやらないといけないこともあるのよ」
「あん?」
「その言葉づかい、直さないとね?」

文が言うには、女性らしい仕草は過ごしてりゃ身につくらしい。
ただ、言葉づかいは直らない。
だからこそ、徹底的に叩き込む、らしい。

「は? いいんだよ俺はこのままで、女になるつもりなんざねーからな」
「そう? アンタがその気なら、私も戻す気なんてないんだけど」
「テメェ……!」

俺が戻るには、文の力を借りなければいけない。
だからこそ、コイツに逆らうのは得策じゃない。

「だからと言って、俺に女になれって言うのは矛盾してんだろうが!」
「そう? 別に、今アンタは女なんだから、変なことじゃないわ」

むしろ、今の口調の方がおかしい、なんてことを文は言い放つ。

「まぁ、別に。 アンタがその口調で喋って奇異な目で見られたければどうぞ?」
「クッ……!」
「それ加えて無防備な行動をとれば、どうなるかは分かってるでしょう?」

それは即ち、男共の欲望の標的にされるって事だ。
そうなれば、こんな力の無い体じゃ何も出来ずに終わるだけ……。

「クソが……ッ!」

俺には、文の誘いに乗るしかできないってことだ。
十一刀目

「えっと……。 駿河……忍、です……。 よろしく、お願いします……」

黒板の前で俺は喋る。
家で文に言えと言われたことだけを。
けれど、そんな俺の言葉なんて聞いてるのかわからないくらい、教室はヒートアップしていた。

「駿河さんは、一番後ろの席を使ってくださいね。 それと、皆さん。 駿河さんはあの駿河さんなので、くれぐれも軽率な行動は取らないように」

教師のその言葉で男共は好奇から恐怖に。
女共は自分の身を守るように、静かになった。

「若……」
「ん……?」

俺が席に着く直前、前の席のやつが俺の方を向いて、小さな声で呟いた。
よくよく顔を見てみれば、そいつは俺の組の……。

「俊……か?」
「えぇ、若の護衛を、とのことで数日前からこの学校に」

確かに、俊ならまだ1年からでも大丈夫だろう。
外見も高校生に見える。
それに、こいつは確か高校には通ってなかったはずだ。

「えぇ、どうも兄貴が、俊に高校生活を体験させてやりたい、と組長に進言してくれたらしく」
「そうか、それで……。 良かったな、俊」
「はい。 ですが、本命は若の護衛ですので」

そう言って笑う俊は本当に嬉しそうだった。
さすがに、立っているのは注目を浴びるため、俺は急いで席に着いた。
数日前から俊がいたということは、これは計画的ってことか。

「なぁ、俊」
「ん、若、呼ばれましたか?」
「お前は、俺がこうなること知ってたのか?」

俊は苦虫を噛んだような顔をして、知りませんでした、と告げた。
知ったのは、俺が女になった昨日の夜らしい。

「なるほどな……。 俊もある意味利用されたってことか」
「そう、ですね……。 自分は高校に通えて嬉しいですが……。 若のことを考えると手放しでは喜べないです」
「ありがとよ。 ま、こっちはこっちでどうにかすっからよ。 お前は楽しめ」

ありがとうございます、と俊はまた前を向く。
俺は、足を上げようとして、スカートなのに気づき、慌てて膝を揃えた。

「めんどくせぇ……」

とりあえず、好奇の目に晒されないためには、勉強するしかなく、渋々と俺はノートを開いた。

11, 10

  

十二刀目

驚いたのは、勉強が何気に楽しいってことだ。
以前は数学の公式なんか、見るのも嫌だったはずなのに、分かるかもしれないからか、スラスラ解けるのが面白い。

「若、ありがとうございます」
「あぁ、気にすんな。 俺もこんな楽に解けて驚いてんだからよ」

実際、3年なんだから1年の問題は楽で当たり前なんだが、1年の時にはこんなに楽に解けた覚えはない。
むしろ、きっと解けなかったはずだ。

「これも、体が変わったから、か?」

俺の力が物理的なものから、知力に変わった、とかな。
ありえねーって。

「ん? 若、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。 自分でもアホなこと考えただけだ」

しかし、いくら問題が解けて楽しいとは言え……。
授業を連続して受けるのはだるい……。
しかも、授業内容以外にも集中しなきゃいけない部分があるしよ……。

「自然にできるようになる……か」

文がそんなことを言ってた気がするが、そうならないことを祈りたい。
それは言いかえれば、俺が女に染まるってことだから。

「はぁ……。 面倒」

そんな風に考えているうちに、授業は終わる。
転入生には質問が付きものだが、俺にはなかった。
きっと教師の言葉でみんなそんなことする気も起きないんだろう。

「駿河の名は抑止力ってわけだ」

一人の方が気は楽。
少しだけ感じた尿意を晴らそうと、俺は立ち上がりトイレへと向かった。

「うぉ!? 恥女!?」
「は?」

俺が入るとトイレの中は一気に騒がしくなった。
なんだ、テメエら、俺がトイレに行ったらダメなのかよ!

「お嬢様! そちらは男子です!」
「あん? 俊、それがどうかし……」

そう言いかけて俊に強引に手を引かれ、トイレの外に出される。
そして、耳の傍に俊は口を近づけた。

「……今、若は女性です。 男子に入れば騒がしくなるのは当たり前です……」
「ぁ……。 そうか……」

そうか、俺は男子トイレじゃなくて女子トイレ……。
そこまで思考が至って、トイレの方を見れば男子と違うピンクの壁が見えた。

「アレに、俺が、入る、の、か……?」
「と言うか、今の若はあそこに入らないとダメです」
「俊も、一緒に……」

自分は男なので、入ったら犯罪になってしまいます、と笑う。
一人で、入れ、と……?

「な、なんでだよ……。 俺が入っても犯罪じゃないのか?」
「若は大丈夫です。 男子トイレが良ければそちらへ。 その代り、奇異な目で見られるのは若ご自身ですよ」

俊は俺の背中を押して、壁に背を付けた。
まるで、行ってこいと言わんばかりに。

「ちくしょう……。 元に戻ったら絶対に殺してやる!」
「どうぞ。 でも、今はこうするしかないのです。 ほら、泣かないで」
「な、泣いてなんかない!」

そう言って俺は、生まれて初めて一人で女子トイレに入った。
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