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2. 学園パニック! 怪人現る!

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 2. 学園パニック! 怪人現る!



「……」
 朝食の場。そこには、不機嫌そうな弥生と、ニコニコ微笑む真由美と、暑苦しい笑顔を浮かべるアキラの姿があった。さわやかな朝の雰囲気、ぶち壊しである。
「今日はどうなさるの、アキラさん?」
「ええ、今日はこれから町内のパトロールをしようかと」
「ふふ、頑張ってくださいね」
 コーヒーを勧めながら、真由美が微笑む。
「やる事無いから、街の中をぶらつくだけじゃない。この妄想無職」
 弥生の鋭い皮肉も、まったく堪えていない顔でアキラは笑う。
「やってられないわ。私、もう学校に行くから」
 早めに朝食を切り上げ、席を立つ弥生。
「ああ、学業頑張るんだぞ、弥生ちゃん」
「あなたに言われたくないわよ!」
 アキラを無視し、さっさと玄関に出る。外は晴れやかな青空。
 弥生は、嫌な事を頭から追いやって、学校へと歩き出した。



「それで、大変なのよ……」
 教室で、弥生は隣の席の眼鏡の少女に愚痴をこぼす。騒がしい教室。授業前のひと時。
「今時、そんな人もいるんですね。自称正義の味方なんて、お話の中だけだと思ってました」
「お話の中だけだったら、どんなに良いか……実際に相手をする方は、たまらないわ」
「大変ですね」
 眼鏡少女は同情の視線を送る。彼女は松原瑞穂。弥生の友人である。今時絶滅危惧種の眼鏡っ娘委員長である。
「でも、もしも本当に正義の味方だったら……」
 瑞穂は僅かに顔を曇らせる。
「どうしたの、瑞穂?」
「あ、いえ。何でもありません」
 慌ててずり下がった眼鏡を直す。その様子に、不審を抱きながらも、特に気にする事もない弥生。
「うおーい、授業を始めるぞー」
 教師が入ってきた事で、その話はそこまでになった。



「したがって、ここの公式は……」
 退屈な授業が続く。弥生は窓辺の席に座り、ぼーっと外を眺めている。
 この学生生活が、一体なんの役に立つのだろうか。自分のため? 将来のため? とにかく、もうすぐ昼休み。それまではこの時間を耐えるしかない。
「あれ、なんだろ……?」
 校門の所、ひとりの男が立っている。生徒の保護者だろうか。しかし、どうも感じ的にそうとは思えない。ここは女子高である。変質者の類かもしれない。
 男は校舎を見回すと、ゆっくりと昇降口へと歩いてくる。
「どうしたんですか、弥生ちゃん?」
 隣の瑞穂が心配げに尋ねてくる。何でもないと答えて、再び外を見ると、男の姿はすで
に見えなくなっていた。
「心配のしすぎよね……」
 そう、あまりにも理不尽な事が身近で起こったおかげで、少々過敏になっているだけなのだ。あの男だって、きっと大したことはないに違いない……。
 やがて昼休みを知らせるチャイムが鳴り、弥生は席を立ち、購買へと向かった。
 サンドイッチと飲み物を買って、教室へと戻る。その途中。
「きゃー!」
 廊下の向こうから叫び声が聞こえた。慌てて叫び声の所まで走る。そこには。
「女子高生なら、きちんとした身なりをしろー!」
 叫びながら生徒を追い回す、見るからに不審者バリバリの男がいた。
「膝上スカート禁止! ルーズソックス禁止! 今すぐ着替えろー!」
 野暮ったいスカート片手に女生徒を追い掛け回す。その姿はこれ以上はないくらいに変質的である。
「まったく、何なのよ、もう!」
 横の掃除用具入れから、モップを取り出す弥生。そしてそのまま男に不意打ちの一撃を食らわせる。ぱたりと倒れこむ男。
「みんな、今のうちに逃げなさい!」
 散り散りに逃げ去っていく女生徒達。やがてむっくりと男は立ち上がった。
「何をする、女。私は風紀の乱れたこの学校を正しい道へと導くために……」
「うるさい、変態」
 再びモップを振るい、脳天に一撃。頭から煙を出し、沈黙する男。
「まったく、こんな奴さっさと先生に突き出して……え?」
 再び起き上がる不審者。しかし、その目の色は、先ほどまでとは明らかに違う。
「大人しくしていれば、付け上がりおって。俺の本当の力を見せてやる!」
 男の周りに、風が渦巻く。そして、唐突に服が破れ、全裸になる男。
「ちょっと、何脱いでるのよ!」
 慌てて顔を手で隠す。そのとんでもなく下劣な姿に、廊下は異次元と化す。
「ふははは、見るがいい、俺の本当の姿を!」
 一瞬廊下が光り輝き、そして静けさが戻る。恐々と弥生が手を離してみると、そこには詰襟の学生服のようなものを纏った怪人の姿。
「俺の名は修正怪人フーキィーン! 小娘、貴様の態度を、修正してやる!」



「……ん?」
 その時、一文字アキラはラーメン屋で昼食をとっていた。
「今、助けを呼ぶ声が聞こえたようだが……」
「はいよ、替え玉お待ち!」
 とりあえず、アキラは目の前のラーメンを征服する事にした。



「ちょっとちょっと、何なのよ!」
 弥生は学校中を追い掛け回されていた。背後から迫り来る、修正怪人フーキィーン。
「その長い髪を切らせろ! スカートの丈を直させろ!」
 変質的にも、ほどがある。怪人というより、これではただの変人だ。
 何とか昇降口を抜け、校庭に出る。
「ええい、修正アーム!」
 突如、追っ手の両腕がびよーんと伸びる。それに足首を掴まれ、その場に倒れこむ弥生。
「ふっふっふ、さあ、このスカートに履き替えてもらうぞ?」
 じりじりと迫る怪人。早乙女弥生、絶体絶命のピンチ……。
「待てーい!」
 その時、辺りに響き渡る声。見回せば、学校の校舎、その屋上に立つひとりの影。
「お洒落ファッション、女の特権! ルーズ、ミニスカ、大いに結構! 着飾る少女を自分色に染めようとする暴挙、断じて許せん!」
 キュピーン。太陽を背に、ポーズを決める!
「宇宙刑事ブレイバー、ただいま参上! とうっ!」
 屋上からダイブする。そしてそのまま……。
 ドゴチーン!
 猛烈に痛そうなオノトマペをあげ、怪人の頭にヘルメットから激突した。
「くおぉーっ!」
 頭を抑え、転げまわる怪人フーキィーン。
 ※説明しよう。ブレイバーのヘルメットは、象が踏んでも壊れない強度を備えているのだ!
「き、貴様! 何の権利があって、私にフライングヘッドバットを食らわせるのだ!」
 革ジャンにジーンズ、ヘルメットだけを装備した男に問いかけるフーキィーン。
「貴様ではない、ブレイバーだ! この地球の愛と平和を守る、正義の戦士だ」
 キュピーン。再びポーズを決める。
「怪人、貴様の行いは、銀河連邦法に違反している。大人しく裁きを受けるがいい!」
「面白い、やれるものならやってみろ」
 にらみ合う両者。先に動いたのは、怪人だった。
「修正アーム!」
 びよびよと伸びる両腕が、ブレイバーを掴む。
「修正スイング!」
 そのままぶんぶんとブレイバーを振り回し、地面に叩きつける。
「ふはははっ! 脆い、脆すぎるぞ!」
 地面に頭から半ばめり込んでいるブレイバーを眺めながら、高笑いをする怪人。
 そんなブレイバーに駆け寄り、弥生は彼を助け出す。
「ちょっと、ヒーローごっこもいいかげんにしなさいよ!」
 この男は大馬鹿者だ。相変わらず自分がヒーローだと信じきっている。それで命を落としては、何にもならないというのに。
「ほら、逃げるわよ!」
「そうはいかない。俺は宇宙刑事だ。怪人を放っておく事はできない」
「……もう、勝手にしなさい!」
 弥生はひとりでその場を逃げ出そうとする。しかしその動きを怪人が見逃すはずもなく。
「きゃあっ!」
 その伸びる腕で、怪人は弥生を捕まえていた。
「さあ、このロングなスカートにこの場で履き替えてもらおうか」
「嫌よ、そんな野暮ったいの! 大体この場で着替えるなんて、どうかしてるわ!」
「……まさかお前、女子高生にあるまじき下着を着けているのではなかろうな?」
「そんなわけないでしょ!」
「いいや、こうなったら確認するまで。さあ、スカートを脱げぃ!」
 伸びた腕でスカートを脱がそうとする。必死で抵抗する弥生。当人達は必死だが変質者が少女を襲っているようにしか見えない。
「待てい! 俺はまだ終わっちゃいないぞ!」
 しかしヘルメット姿のアキラが、そんなふたりを引き剥がす。
「まだやる気か、貴様!?」
「当たり前だ。正義のためならば、俺は負けない!!」
 再びにらみ合う両者。そしてフーキィーンは再び腕を伸ばすが、今度はブレイバーは巧みにそれをかわす。
 そして本体に近づくと、拳を握り、一気に踏み込む。
「断罪パーンチ!」
 充分に加速の乗った拳が、怪人フーキィーンにめり込む。
「げぶらっ!」
 吹っ飛ぶ怪人。そこに再び襲い掛かる。
「断罪キック! 断罪ストンピング! 断罪馬乗り! 断罪ラッシュパンチ!」
 もう、ボコボコである。その戦い方は正義の味方の戦いとは言えず、もはやチンピラの喧嘩レベルだ。
「やめっ、ちょっとタンマ! ストップ!」
「断罪パチキ! 断罪……なんだ、怪人?」
「お前、仮にも正義の味方だろ! こんな無茶苦茶な戦い方するな!」
「悪党に人権はないっ!」
 ……言い切った。
「もっと正義の味方らしい戦い方をしてくれ! こんな事でやられたら、情けなくて涙が出るわ!」
「むぅ……そうか、仕方がない」
 ブレイバーは怪人から離れると、両腕を高く掲げる。
「ならば必殺技で止めを刺す。フュリス、断罪ブレードを転送してくれ!」
 途端に一筋の光が、天から降り注ぐ。その光はブレイバーの両手に集まると……。
 ぽんっ!
 ……ピコピコハンマーに姿を変えた。
「な、なんじゃこりゃー!」
 ブレイバー、大騒ぎ。その時、ひらひらと一枚の紙が空から舞い降りてくる。弥生が手にとって読んでみると。
『経費削減。それで何とかして』……と書かれていた。
「お、俺の断罪ブレードがぁー!」
 もう滅茶苦茶である。
「あの……私、もう帰ってもいいっすか?」
 怪人がブレイバーに言葉をかける。
「むうっ……こうなればしかたがない。怪人、貴様をこれで倒す!」
 上段にピコピコハンマーを振りかぶる。輝きだすハンマー。
 ※説明しよう。ブレイバーの正義が頂点に達した時、宇宙からのエネルギーを得てブレイバーは必殺技を使うことができるのだ!
「必殺、ブレイブバースト!」
 振りかぶられたハンマーが、怪人の脳天を捉える。そして。
「うぎゃあぁっ!」
 殴られた怪人は、一瞬の後、大爆発を起こして砕け散った。
「……やったの?」
 弥生は立ち上がる。ヘルメットを被ったアキラは高笑いをしている。勝利の余韻に浸っているのだろう。……勝負の内容は別として。
 そんなふたりを、屋上から眺めているひとりの少女がいた。
「フーキィーンが敗れるなんて……」
 そよぐ風が、ポニーテールを揺らす。
「次の怪人を、準備しなければ。この世界を、正しい方向へ導くためにも……」
 陽光を反射して、きらりと眼鏡が光った。
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