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第一話 ミッドナイトシャッフル

■神楽家
ピンポーンっと、神楽家の呼び鈴がなる。
総司 「はーい、今でます」
ピザ屋 「こんにちは、ご注文頂いたピザをお届けに参りました~」
総司 「あれ、そんなの注文したっけ?」
ピザ屋 「ええ確かに神楽様からお電話頂きました」
総司 「いや、こっちはそんな覚えはなくてね・・・」
紅葉 「ただいまー。わぉ~、もう来ちゃってるよ、はっや~い」
ピザ屋 「あ、もしかして電話の声の方・・・でしょうか」
紅葉 「うん、ボクが注文したんだよ。学校から~」
総司 「ちょっとまて!分かるように説明しろ」
紅葉 「えっと、授業が終わっておなかへったなぁって話してたら急にピザが食べたくなったから
    携帯で注文しておいたんだ。ボクが家に着く頃にちょうど間に合うって作戦だったんだけど・・・」
総司 「俺がいなかったら大変なことになってたぞ」
紅葉 「わかったよわかったから、冷めないうちに食べないと、はいおにいちゃんお金払っておいて」
総司 「(ピザ屋がいなかったら・・・!)」

■キッチン
総司 「さて、食い終わったんだからちゃんと片付けろよ・・・ってもう寝やがった」
紅葉 「スヤスヤ・・・ZZZZZZ・・・むちゃむちゃ」
総司 「寝顔だけは可愛いもんだな。」
総司MONO 「俺は神楽総司、こう見えてもこの話の主役です。そして、眠ってるのが俺の妹の紅葉。
        俺たちの両親は10年くらい前に行った家族旅行で行方知らずになってそれ以来二人だけの生活を続けてる。
        とはいっても、生活費は両親の親が出してくれてるんだけど」
紅葉 「・・・おにいちゃん・・・すやすや・・・だい・・・きらい・・・」
総司MONO 「みなさん、真に嫌われてるわけではないので誤解しないでください・・・」

■県立守川高校
 昼を告げるチャイムとともに購買部へと走り出す男たち
 女子A 「幸子~早く行かないと全部持ってかれちゃうよ」
 女子B 「大丈夫よ。武士に私の分も買ってくるようにちゃーんと言ってるから」
 女子A 「へぇ、幸子も結構あれだね」」
 女子B 「だめっ、その先は言わないで。自己嫌悪になっちゃうから」
 女子A 「だったらもっと彼氏らしく扱ってあげなよ」
 女子B 「どうせすぐに自分から別れろっていってくるからどうでもいいの」
 女子A 「なんかたくましいよ。私も見習わないと・・・」
 女子B 「そうよ。ちょうどいい男子がいるよ、ホラあれ
 女子A 「・・・って神楽君?あの人って幸薄そうだから近寄りたくないよ~」
 女子B 「人のこと図太いとか言ってるわりに、あんたもイヤな性格じゃない?」
 神楽MONO 「ぜ、全部聞こえてんだよ!!あんちくしょう、俺に聞こえるように言ってんじゃないだろうな・・・」
 女子A 「あ、武士君帰って来た。ほら、出迎えてあげなさい」
 武士 「はぁはぁ、ぼ、俺がんばったよ。ほら、頼まれてた焼きそばパン2人前・・・」
 女子B 「ちょっと!みんなに聞こえるでしょうが!ぶん殴るわよ」
 武士 「ご、ごめん・・・。俺嬉しくてさ、ホラ、早く食べようよ」
 女子B 「(ちっ、がっつきやがって、このタコすけ) そうねぇ、食べよっか」
 武士 「へへ、幸子とこうやって毎日昼メシ食えて俺は幸せだぜ」
 女子A 「た、武士君ってホント喜びが顔にでるタイプよねー」
 女子B 「りょ、良子!さっさと食べて遊びに行こっ」
 女子A 「う、うん。私もそう思ってたの・・・」
 武士 「え~?何して遊ぶのぉ?」
 女子B 「(こいつ、もしかして仲間に加わる気なの!?
 武士 「ねぇ、俺も入れて3人でバレーしようよ・・・」
 女子B 「(こ、こいつ本気!?)  そ、そうだね。でも私たちバレーやったことないから・・・」
 武士 「だーいじょうぶ。俺、こう見えても中学の時バレー部のキャプテンだったから」
 女子A 「あ、あらら。そうだったんだぁ、武士くんってすごいねー」
 武士 「いやぁ~それほどでもないよ~」
 女子B 「・・・食欲ないから、もういらない」
 武士 「だめだよ、ちゃんと食わないと。女の子は将来のこともあるんだから今のうちに・・・」
 女子B 「あんたねー、黙って聞いてたら図に乗って、ばっかぁじゃないの?」
 武士 「え!!なんだよ、いきなり」
 女子A 「さ、幸子・・・!お面壊れてるって」
 女子B 「もうだめ、もうキレちゃった・・・っ。私はあんたなんか―― 」
 総司 「利用価値がないと分かるんだったら最初から男遊びは控えろ、ドブス」
 女子A 「か、神楽君・・・っ」
 女子B 「あんた何でしゃばってんの?ウザイんだけど」
 武士 「神楽、俺らの輪に勝手にはいってんじゃねーよ、消えろカス」
 総司 「自分で自分自身が分からない貴様はカスではないのかな?武士くん」
 武士 「マジぼこるぞ、こら」
 総司 「これだから野生児は困る。ここは学校だ。人を殴る場所じゃないよ。殴るならボクシングでも――」
 言い終わる前に、武士の右ストレートが総司の顔面を直撃する
 総司 「ぶぅ・・・っはぁあ・・・。てめー、本気で殴りやがって、お前のことを思って俺は・・・!」
 再び殴られる総司。周りは騒ぎを聞きつけて集まる野次馬ばかり。
 武士 「きこえてねーよ、ハゲ」
 総司 「・・・心配なんか、してやらなかったら良かった。ぐはぁ、いってぇー・・・」
 武士 「なんだ?俺に向かって来るの?喧嘩弱い癖に頭も弱い奴は救いようがないな・・・」
 総司の正拳が武士の顔面を パコーーン と人殴り。
 武士 「ぐひゃぁ・・・」
 女子A 「た、武士くん!酷いよ、神楽君」
 女子B 「・・・」
 総司 「悪いが俺はボクサーだ。」
 女子A 「そんなことはどうでもいいから、武士君を・・・っ」
 総司 「黙れメガネっ子。俺はこの女に用があるんだよ」
 女子A 「め、めがねっこ・・・」
 女子B 「用ってなに?付き合ってとか?」
 バチコーン 総司の平手打ちがジャストミート
 女子B 「ぶ、ぶったわね!親にもぶたれたことないのに!!」
 総司 「ふん、お前が分からないなら何度でもぶつぞ」
 先生 「こ、こら!やめないか神楽。相手は女の子だぞ」
 総司 「教諭、あんたはダメだ、ダメすぎる」
 先生 「はぁあああa????」
 総司 「この女は人間の皮を被った妖怪ばあやだ。男ドモを食い漁る鬼畜に等しい」
 女子B 「ひ、ひどい・・・!ひどいよ、そんな言い方するなんて・・・」
 泣き出す女の子。
 総司 「ったく、女は最終的に泣きだな。この泣き上戸!」
 先生 「お前は意味が不明すぎる。停学処分確定だ」
 総司 「教諭よ、あんたに俺の生き死にを決定するだけの権限と給料は与えられておらず!」
 先生 「き、きさま!!無礼にもほどがあると知らんのか!」
 総司 「俺への停学を下すのは最終的に校長だと言っているんだ」
 校長 「はい、神楽君は停学ね」
 総司 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 総司 「お前本当に校長か?」
 校長 「退学したい?」
 総司 「停学がんばりますですー!」

■神楽家
 総司 「というわけだ」
 紅葉 「そんなことだろうと思ったよ。ていうか、お兄ちゃんって前から思ってたけど、バカだね」
 総司 「ああ、自分でも思うよ。俺は頭に血が上ると自分でも意味不明になっちまうんだ」
 紅葉 「ただの情緒不安定だと思うよ。停学1週間なんて、善良な学生が受ける罰?」
 総司 「あのときの俺は、善良な生徒ではなかったんだよ」
 紅葉 「いい訳ならあとからいくらでもついてくるっての。ちょうどいいや、あたしも明日からガッコ休みだから」
 総司 「お前も停学か?
 紅葉 「違うよー。創立記念日と土日が続くから」
 総司 「いっそ休みにしようということか。しょうがない、明日から3日は一日中愛する妹と一つ屋根の下か」
 紅葉 「バカ!いつも一つ屋根の下だろうが。ったく、なんでどこか遊びに連れて行ってやるとかいえないわけ?」
 総司 「バカだからな、どうせ俺は」
 紅葉 「そういうときだけ拗ねないでよね。というわけで、どっか連れてけコラ」
 総司 「おいおい、ギャグマンガみたいなフリはやめてくれよ」
 紅葉 「フリじゃねぇよ、連れてけ連れてけ」
 総司 「参考までに聞くけど、何処に行きたい?」
 紅葉 「そっだなー、雪国行きたい~」
 総司 「そんな寒空の下何ができるというんだ、妹よ」
 紅葉 「凍死ごっこでしょ、遭難ごっこでしょ、なりきり雪だるまでしょ、雪崩スノボでしょ・・・」
 総司 「ノーセンキュー」
 紅葉 「ユアウェルカム」
 総司 「さて、俺はバイトに行って来るよ。帰ってくるまで泣き崩れてソファで眠るようなマネだけは寄せ」
 紅葉 「しねぇっつーの。てか、兄ちゃんおかしいよ」
 総司 「今に始まったことじゃないだろ。いってきます
 紅葉 「だね、いってらっしゃい」

■総司のバイト先
 店長 「やあ、調子はどうだい?」
 総司 「今日は何の調子を聞いてるんですか?」
 店長 「そうだなぁ、右腕の握力とか」
 総司 「良好ですよ。今日人を殴りましたから」
 店長 「えーマジマジ?で、何メートルぶっとばしたの?」
 総司 「2メートル35センチ」
 店長 「さっすがボクサーだね、元」
 総司 「元ボクサーでも毎日トレーニングは欠かしてません。今日だってここに来るのに5時間かけました」
 店長 「ほう、どのような歩行できたのかな?」
 総司 「今日は右足一本でぴゅんぴゅんと跳ねてやってきました」
 店長 「その心得は?」
 総司 「踏み込みの弱さを鍛えることで更なる・・・って言ってる俺がアホに思えますね」
 店長 「そうだね。気づけてよかったよかった」
 総司 「で、今日も豆乳を投げ売ればいいんですね?」
 店長 「うん、キミができる仕事なんてこれだけだから遠慮なくやりたまえ」
 総司 「有難いです。どりゃ~!」

■神楽家
 総司 「ふう、今帰ったぞー。紅葉~紅葉ちゃ~ん」
 紅葉 「すやすや・・・ZZZZ」
 総司 「眠る良い子、いとうつくし」
 総司MONO 「こんな生活を続けていると将来がまったく見えてこない。俺たちはどこに進んでいくのか?」

■翌日
 紅葉 「じゃっじゃーん!!これみてこれみて」
 総司 「なにごとだ?な・・・お前それはまさか ピクニック!?」
 紅葉 「そだよー。今からピクニック行こうよ!!」
 総司 「へぇへぇへぇ~。おしまい」
 紅葉 「正拳で5メートル飛ばされたいですか?お兄様」
 総司 「さて、今日はいい天気じゃないか!まさにピクニック日和じゃあーりませんか」
 紅葉 「ピクニックといっても、山のぼりじゃないよ。森の中をクマさんに出会うように歩いていくの」 
 総司 「そしてクマさんに殴られ5メートルぶっ飛ぶのか」
 紅葉 「ごめん、変なこと言っちゃったから話それちゃったね。目的の場所は「熊井の森」、またの名を妖精の森」
 総司 「妖精の森?今記憶回路を辿って過去にそのネームを聞いたかどうか調べている」
 紅葉 「多分あるよ。あの日、お父さんとお母さんとボクとお兄ちゃんで行った、あの森だから」
 総司 「そ、そうだったな。俺は確かにあの日、あの場所にいた。お前と」
 紅葉 「あれ以来ずっと敬遠してきたんだけど、今日もう一回あの森へ行ってケジメをつけたいの」 
 総司 「・・・俺も行く。暇だってこともあるし、記憶が薄れないうちにもう一度だけ行っておきたかった」
 紅葉 「えへ、決まりだね。じゃ早く用意して」

■道中
 紅葉 「あーるくー、あーるくー、ボクらは元気ー。あーるくと遅すぎとっととゆこうー♪」
 総司 「紅葉らしい歌だな。なんとか森の中を歩いてるけど、同じ風景ばっかりだ」
 紅葉 「そりゃあそうだよ。森っていうくらいだから、どこをみても木しかないよ」
 総司 「うーん、そうでもないな。ほら、あそこに煙突が見える。森の中にペンションがあるのかも」
 紅葉 「それはおかしいね。だって地図には何も載ってないもん」
 総司 「てか、気づいたら着いてるよ。あ、なんかいいにおいがしてきた」
 紅葉 「ちょっとお兄ちゃん待ってよ、においで誘われるなんて黒光りした不死身の虫とかくらいだよ」
 総司 「例えが悪すぎ!でも、こんなデリシャスなにおいは経験がない・・・。」
 紅葉 「あそこで女の人がキャンプファイヤーしてるよ」
 総司 「一人でキャンプファイヤー?しかも真昼間から!?」
 紅葉 「お、おにいちゃん、唾が飛んでる~」
 マリー 「あ!あ、ああああ・・・・」
 総司 「なんだ・・・?女が近づいてくるぞ・・・!」
 紅葉 「お兄ちゃん怖いよー。誘拐目的だったら身代金誰が払うのー?」
 マリー 「あの~・・・」
 総司 「ばか、うちに身代金なんてあるわけないだろ」
 紅葉 「ならいっそのこと玉砕覚悟で・・・」
 マリー 「あの~、よろしければご一緒にカレーライス食べませんか?」
 総司 「あ・・・。か、カレーライス?毒入りとか?」
 紅葉 「す、睡眠薬入りとか?うわ~ん、外国に売られちゃうよー」
 総司 「そんなことさせるか!おい、このアマァ!俺の可愛い妹をよくも売ってくれたな!」
 紅葉 「まだ売られてないよ」
 マリー 「さっきから何を言ってらっしゃるんですか?」
 総司 「え?俺たちを誘拐して妹は外国に売って、俺は生涯あんたの奴隷になるのでは?」
 マリー 「そんなこといってません!私はただ、一人でカレーライスもなんだから、一緒に食べませんかって」
 紅葉 「か、カレーライス食べたい~」
 総司 「フフ、すみませんでしたお嬢さん。ささ、どうぞおかけになって」
 マリー 「はぁ・・・」
 総司MONO 「目を見開いてよく見れば可愛い~♪」
 紅葉 「お兄ちゃん、鼻の下伸びてるよ」
 総司 「おっと失敬。レディの前ではスタンダードな男を演じないとね」
 マリー 「さっきからあなたがおっしゃってる言語は日本語でしょう?」
 総司 「うーん、あまり自覚してないからね。多分日本語じゃない?いや、日本語だったらいいなーって」
 紅葉 「お兄ちゃん!僕らは日本人で日本語しか話せないでしょ」
 マリー 「あはは、よくわかりませんがお二人とも面白いですね」
 総司 「というか、話が変わって悪いが、何故一人でこんなところでカレーライス作ってんの?」
 マリー 「それは・・・」
 総司 「それは?」
 マリー 「私が一人ぼっちだからです」
 紅葉 「なーるほどね。大変分かりやすい説明でした」
 総司 「俺たちにはね。だけど、この物語を読んでる人にはわかりにくいよね」
 紅葉 「それいえてる!」
 マリー 「実は、お二人をずっと待っていました」
 総司 「俺たちを?やっぱ拉致目的で?」
 マリー 「いいえ、あの日から今日まで10年間この場所で待っていました」
 紅葉 「あの日からって?10年間って・・・」
 総司 「気の長いストーカーだな」
 マリー 「違うんです!私はあなたたちがあの事故に遭われた日からずっとこの森で待っていたんです」
 総司 「おい、待ってくれよ。あの事故ってもしかして・・・」
 紅葉 「お母さんとお父さんが行方不明になっちゃった・・・」
 マリー 「そうです」
 総司 「普通の人間ならここであんたを怒るでしょうね。だけど俺は冷静に質問をしますよ。
     貴様はどこのどいつだコラァ!!!!」
 紅葉 「お、お兄ちゃんタンマタンマ」
 マリー 「・・・く・・・あんなに小さく弱弱しかった二人の子供がこんなにたくましくなるなんて・・・ちょっと意外かも」
 総司 「何をにやけてんだ?」
 マリー 「あーかったりぃな。もう敬語使わなくていいでしょ?」
 紅葉 「うわ~ん、この人いきなり人が変わっちゃったよ~」
 マリー 「あの時、事故からあんたたちを助けたのは、私よ」
 総司 「ほざけ!あの事故から生還できたのはこの俺の悪運の強さだ」
 マリー 「キミィ、よほど強く頭を打ったみたいね。こんなバカになって」
 総司 「く・・・すごい形相すぎて反論できねぇ」
 マリー 「こっちだって真剣なのよ。ちゃんと聞きなさい。あなたたちのお父さんとお母さんは、生きてるわ」
 紅葉 「・・・おそうさんと・・・お母さんが?生きてる・・・」
 総司 「まさか、あの事故で・・・死んだはずじゃ」
 マリー 「でも、遺体は確認してませんよね?」
 紅葉 「ねぇ、お姉ちゃん!お父さんとお母さんはどこにいるの?会わせてよー」
 マリー 「それはできないの。彼らは・・・罪人だから」
 総司 「嘘だ、父さんも母さんもアリ一匹殺せないほど優しい人だったんだ!」
 マリー 「いい?よく聞きなさい。私は妖精、そしてあなたたちのお父さんとお母さんも・・・妖精なの」
 紅葉 「・・・妖精?」
 マリー 「そして、私は妖精の国から来た・・・マリーといいます」
 総司 「あんたの、目的ってなんだよ。俺たちを親に合わせるんじゃなかったの?」
 マリー 「誰もそんなこと言ってないわ。ただ、あなたたちを不憫に思われた私たちの国の長のお申し付けなの」
 紅葉 「国?もしかして、それって妖精の国?」
 マリー 「そうよ。私たちの長はおっしゃったわ。”彼らが余りに悲しい。真実を知らぬことはある意味では幸福であるが
     ある一方では大変なる不幸である”とね」
 総司 「そんなことはどうでもいいんだよ。もし、本当に父さんと母さんが生きているなら、俺は・・・っ」
 紅葉 「ボクは・・・っ、会ってお話がしたい!」
 マリー 「会えるかどうか私には保障できないけど、できる限りの手助けはするつもりよ」
 総司 「ひとまず、このカレーを食ってからということで・・・もぐもぐ」
 紅葉 「だねー、久しぶり手料理食べたんだから」
 マリー 「あ、悪いけどコレはインスタントよ・・・。私の国で人気の”フェアリーカレー”」

 総司 「カレーは食い終わったんだが満腹で動きたくねー」
 紅葉 「お兄ちゃん、ボクも動けないよー」
 マリー 「よっぽど貧しい食生活を送っていたのね・・・可愛そうに」
 総司 「気づけばもう午後6時じゃねーか。そろそろ暗くなる時刻だ
 紅葉 「は、早くおうちにかえんなさいとー」
 マリー 「帰宅の必要はないわ。ここに泊まりなさい」
 総司 「なさいって、命令口調だな」
 紅葉 「ピクニックのつもりだったのに、気がついたらキャンプに予定変更だね~」
 マリー 「明日の朝、すぐに私の国に来て頂きます。よろしいですか?」
 総司 「まあ、会える会えないは別として、妖精の国に行ってみたいからなぁ」
 紅葉 「夢みたいだね」
 マリー 「夢なら覚めるわ」
 総司 「覚めない夢もあるさ・・・」
 紅葉 「覚めて欲しくない夢も」
 マリー 「あなたたちのご両親は大変素晴らしい人たちで、国でも敬われる存在だった。けれど、
     ある時、二人は国を出て行きこの世界にやって来たの。
     あなたたちのお父さんは人間の子で、お母さんは妖精の子だった。
     その二人が結ばれるのには障害が多すぎたわ。
     長は認めなかった。そして、長の命令で人間界に送り込まれたフェアリーによりご両親は連れ戻されたの」
 総司 「俺は・・・妖精の血を引いてるのか?」
 マリー 「いいえ、代々男性には受け継がれにくいものなんです。
     それに現存するフェアリーの8割が女です。
     ある一定の周期で限られた数だけ男のフェアリーが誕生します」
 紅葉 「・・・ボクは、ボクには妖精の血が流れてたりするの?」
 マリー 「その可能性はあります」
 総司 「待て!紅葉はごく普通の人間だ。妖精とかありえない」
 マリー 「妖精の力は表面的ではありませんので外見だけではわかりませんよ」
 紅葉 「えへ、やった~、ボク妖精なんだよ」
 総司 「・・・なんで父さんと母さんは黙ってた?」
 マリー 「知る必要が無かったからでしょう・・・その時は」
 総司 「もしだ、もしも、俺たちがあんたの国に行かなかったらどうなる?」
 マリー 「長はあなたたちをつれてくるように言いました」
 紅葉 「お父さんとお母さんはどうしてるのかなぁ?」
 マリー 「現在、牢獄の中で生きていらっしゃいます」
 総司 「罪人扱いかよっ、その長ってやろうムカつく・・・!」
 マリー 「私たちの国に来る場合、絶対に長には逆らわないように。
     ご両親と獄中再会したければ別ですが」
 総司 「したいわけねーだろ!」
 マリー 「ではくれぐれもご承知置きください」
 総司MONO 「俺たちの前に突如現れ予定はずれのキャンプをさせた女マリー。
       自称妖精の彼女は10年前の事故で行方知らずになった俺たちの
       両親が生きていることを告げた。
       信じる信じないは別として、会いたいという気持ちが先走ってこの夜があまりに長く思えた」
■翌日
 マリー 「心の準備は良いでしょうか?」
 総司 「大丈夫。紅葉、お前はじいちゃんの家にしばらく厄介になってくれ」
 紅葉 「うん。なんか羨ましいな、いやマジで。 それじゃあ 、楽しんできてねー」
 マリー 「出発です」
 総司 「え?一瞬でワープするんじゃないの?映画みたいに」
 マリー 「はぁ?そんな単純に済めば昨日のうちに行ってるよ」
 総司 「ど、どれくらいあるの?妖精の国まで」
 マリー 「ざっと見積もって、10キロ弱」
 総司 「はぁあああ!?ピクニックとキャンプは昨日で終わりだって」
 マリー 「それじゃあ行きましょう」
 総司 「(話を聞けよ)」
 総司MONO 「俺たちの長く険しい道のりがスタートした。」

- 続く -
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