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実家

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 刑務所から電車で帰りテクテクと見覚えのあるようなないような街中を歩く。
 ボクはここで育ったんだよね?

 笑ったり泣いたり喜怒哀楽がボクの顔に浮かんでいたんだよね?
 いまのボクは難しい顔をしている。

 記憶がないせいだろうか? それとも母に会ったせいだろうか?
 昼間は暑い。セミの鳴き声がうるさい。

 じりじりと照りつける太陽。
 アスファルトが熱を吸収し、鉄板のようになっている。

 目的の家についた。
 おもむろにポケットから鍵を取り出す。

 カチャリ、と小気味のいい音が聞こえると同時にその家の門は開いた。
 開ければ中でこもっていた熱気がボクに向かってくる。
 むぁっとしていて納豆のように肌にはりつくような湿気。

 それでもボクは中に入っていく。
 ここはボクの家だから。
 同時に殺人事件が起きた場所でもある。

 『柳原連続殺人事件』
 大手新聞社にも大きく取り上げられたこの事件は男性一人と女性二人が犠牲となった。
 男性というのはボクの父、瀧澤 尚吾(たきざわ しょうご)であった。
 母はこの事件を起こした後にしばらく消息を断ち近くのホテルで見つかったのだが自殺を図るもののなんとか一命をとりとめる。
 新聞では三人と書いてあったが実際は十人は殺してると思う。
 犯人自身に聞いたことはない。ただそう感じるものがあるから思っているだけだ。

「ふぅ……」
 押入れから座布団を引き出し座る。やっと一息つけたことに喜びを感じる。
 この前は家に入る前にあんなことになってしまったがいまは何も起こらない。
 ボクはなるべく床や壁を見ないで歩く。こびりついた朱をみないように。
 
「先輩。貴女は、誰なんですか?」
 埃を被った何も映らないテレビに向かって話しかけた。
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