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第一話 動乱の始まり

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 大きく豪華な部屋の中に着飾った何十人もの男たちがいる。議論をしていた。いま議論しているのはストロームとファルミン。白ひげで小太りのストロームは宰相。つまりは政治のトップ。それに対し大柄で厳格なファルミンは軍の総司令官。議題はエリンスト王であるテミロサがテミジアに領土要求をしたことだった。背が高く眼が青い少年―つまりはピサロ公ルイは退屈そうにあくびをした。
それに対しストロームは
(この方で本当に我が公国は大丈夫だろうか)
 と思いながら
「ピサロ公は今回のエリンスト王の暴挙についてどう思われますか」
 と質問した。ルイはこのときわずか一四歳であった。
長年公国を支え続けてきたストロームが心配するのは当然だろう。それにストローム自身このような事態は初めてだった。北方の騎馬民族ブンを破って以来タスマイヤーは三百年間平和だった。まあ一揆や多少の反乱はあった。だがどれも小規模で鎮圧されたのだ。国同士の戦いは一度もない。

 若き君主ルイにとってはそれよりもこの会議がいつ終わるかのほうが重要であった。
内心
(お前らのほうが詳しいんだから勝手に決めろよ)
 と思っていた。
しかし体面上答えないわけにはいかない。
「別に大丈夫だろう。連邦は数百年間平和だったんだぞ」
 しかしこの答えはストロームの意には沿わなかったようだ。
「何を言っているのですか。閣下。タスマイヤー連邦の歴史の中で連邦国の中で領土をめぐる主張が異なったのは最初期以外ありませんぞ。いまさらエリンスト王国が大テミジア帝国の領土の一部の領有権を主張したということは連中には野心があるということです。これは…」
 とストロームが状況を説明しようとしたがルイが理解するのは無理だった。
「もういい」
 ルイはストロームの言葉を途中でさえぎった。そして
「どちらにせよドジュリア大公国とアブス公爵領の使節団が来ない限り連邦西三国会議は開けない。それまでは僕は休んでいてもいいだろう」
 と言い放ち部屋に帰っていった。ストロームは不満そうな顔をした。
 
 説明をすると連邦西三国会議とはピサロ公国ドジュリア大公国とアブス公爵領の三ヶ国で行われる会議である。この三ヶ国の王室は血のつながりがある。そのため友好関係を築けた。

 だがルイが思ったように政治、外交、戦争に詳しいのはストローム、ファルミンそのほかの重臣たちである。ルイが抜けたからと言って会議が止まることはない。ルイは会議の結果、決まった方針を承認するだけ。否認することもできるが英才教育を受けても一四歳の少年。どうすればよいのかなど分かるはずもない。結局は重臣に任せきっりになってしまうのだった一方ルイは
(大体あいつらは心配性すぎるんだ。西三国会議も退屈そうだけどアブス公爵のグルコスに会うのは楽しみだ)
と思った。

ピサロ公国の首都ルテにルテ城がある。その一番豪華な部屋で三国会議は開かれる。今回で一四三回目だ。取り仕切るのはストローム。
まず三国の君主がそれぞれ見解を発表するところから始まる。ピサロ公のルイがまず最初に発表する。とはいっても、家臣が書いたやつを読むだけなのだが。初めはルイ次は女大公のミンテス、次はグルコスが発表する。三人とも滞りなく終わった。その後細かい会議が始まった。ルイが結構近い親戚にあたるグルコスに
「会議の終わったあとに面白い話を聞かせてください」
 と言った。するとグルコスはこう答えた。
「ルイよ。少しはまじめに考えたほうがいいぞ」
 それはルイにとって意外なことだった。ルイはグルコスのことを面白い人と思っていたし、これまではそうだったのである。

 会議のつまらなさにルイがあくびをしようとしたとき伝令が駆け込んできた。そしてこう叫んだ。

「エリンスト王国が大テミジア帝国との交渉の決裂を宣言。同国は連邦からの脱退と連盟への宣戦を布告」
会議場がざわめいた。エリンストの戦争狂とかテミジアの外交上手はどうしたとか言う声が聞こえた。このときに戦争が始まるなどと思っていた者はほとんどいなかったのである。
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