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目覚め 〜仮面現出〜

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目覚め ~仮面現出~

8月のとある蒸し暑い日の夜、
俺、真紀谷卓弥(Makiya Takumi)の父が誰かに刺されて死んだ
鞄に財布が無かったことから警察は金銭目当ての強盗殺人として捜査を始める――

あまりにも突然のことだったからか
警察の人が事実を告げたとき、初めはそうですかとしか言えなかった
お袋は少しぽかんとして
妹の亜弓(Ayumi)はそんな、と言って部屋へと走り去っていった
俺も逃げたかったけど、ショックを受けているお袋一人を
置いて行くことは出来なかった。

警察の人は分かってる範囲の捜査状況と
親父の発見されたときの状況を説明し始めた
ほとんど聞き流していた先程までのTVのニュースと同じ内容だっただけに
聞いているのが嫌になった。
事実、そのニュースの被害者は身元が明らかになった親父だった
親父は顔を無惨に何度も刃物で斬りつけられ、発見当初は身元が分からなかったらしく
鞄の中に入っていた手帳から身元を確認できたそうだ。
お袋は言われること全てに「はあ…」「はい…」と上の空で答えている
大概の質問は俺が代わりに答えた

ある程度の説明を終えて、警察の人は比較的平静だった俺に話しかけた
「…必ず犯人は俺達警察が捕まえてやる。だから君、
…君はお母さんと妹さんを守るんだよ…高校生の君ならもう、分かるね?」
「はい…あの必ず、必ず犯人を…」
言葉の途中で堪えきれなくなった感情が目から漏れだした
すると警察の人は俺の頭をわし掴んで乱暴に撫でた。
きっとこの人なりの励まし方なんだろう。
「…分かった、必ずだ!だから強く、折れずに生きてくれ!!…約束だ」
ここではじめて警察の人の目を真っ直ぐ見た
すごく真っ直ぐな目――
普段の俺なら馬鹿にしただろうけど、今の俺にはとても頼もしく見えた

警察の人が帰ると、お袋は崩れ落ちるように泣き出した
俺も耐えられなくなって自分の部屋へ戻ろうと階段を登り始めた
亜弓の部屋の前に来ると啜り泣く声が聞こえた
あいつ…普段はクサいから近寄らないで!とか言ってたけど
…本当は親父のこと好きだったんだな

ようやく自分の部屋に戻ると机の上に見覚えのない白い仮面が置かれていた
音楽の教科書に載ってた特に飾りっ気のないオペラの仮面に似ている
「…なんだこれ?」
とりあえずどかそうとして仮面に触れると、フッと意識が途切れた

何もない空間に浮かぶ感覚の中で目が覚めた
服は…着ているし手足も動くし息も吸える。
ただ足が地面に付かない感覚が少し落ち着かない
そうこうしていると頭の中に誰かの声が響いた
中性的で男か女かは分からない。
『少年、仮面を得し少年よ、この声が聞こえるか』
「…感度は良好だぜ。ただ訳分かんねーし、頭がキンキンする」
どう返したら良いか分からないので普通に喋り返した
どうやら向こうにも通じているらしく、話は続いた
『では少年、君の父上を殺した存在が何か知りたいか?』
少し音量は下がっている、気は使ってくれている様だ
「そりゃ知りたいけど、お前は何者なんだ?」
『私は仮面に宿る精霊』
「訳分かんないけど、まあそれで良いよ。続きは?」
『…君の父上を殺したのは魔界から送られた魔物だ』
さらに訳が分からなくなった。
しかし、この不思議空間やら脳に響く声やらを思うと嘘に聞こえない。
「…マジ、かよ」
『言葉を借りるとマジだ。そこで先程触れた仮面を思い出して欲しい』
「あの真っ白い仮面のことか…でも何の関係があるんだ?」
『あの仮面を顔にかざすと仮面は顔に張り付き、
人間の秘めた力を開放させる。…その力で魔物を倒してくれ』
「…考えさせてくれない?」
少し考える
まるで漫画の出来事だ、しかも俺が、変身して、魔物を倒す
もしかしてこれは夢じゃないのか、起きたら親父は生きてるんだよな

ピーピッ ピーピッ ピーピッ
「…う…んっ」
朝を告げるいつもの電子音、いつもきっかり7:30に起こしてくれる――
気が付くとやはりベッドの上に居た
ほら見ろ、夢じゃないか!
階段を駆け下りる。
この時間なら親父がコーヒー飲んで
ニュースの野球コーナーで今年の○○はあかんなとかボヤいて…

誰も居ない。
お袋が起きるのは俺が学校に行く8:10頃だけど…今日は行けないな。
仕方ないから亜弓の様子を見に行くか。

階段を上り直す
亜弓の部屋の前に来たが、まだ寝てるのか何も聞こえてこない
…いや?目覚ましのけたたましいベルの音が聞こえる
目覚ましより早く起きた?…違うな、下の階には誰の気配もなかった
不審に思った俺はドアをそっと開けてみた
妹は壁を背に座り込んでベルを消そうともせずに俯いている。
やれやれと思いながら目覚ましを止めて亜弓に話しかける
「おーい、起きてるかー」
返事がない
うなだれた頭を手で起こすと妹は目を開けていた。
しかし何も感じていない様に動かず、何も話さない。
一応、鼻で息はしてるみたいだけど口は一向に動かない
「…おい亜弓、しっかりしろ!」
ガクガクと前後に揺さぶったがやっぱり反応がない。
完全に訳が分からなくなった。
俺はどうしたらいいか分からず妹をそっとベットに寝かせた
(寝ているかなんて分からないけど)
「…待ってろよ、必ずなんとかしてやるからな」
静かにドアを締めて、急いで自分の部屋へ向かう
仮面…!あの仮面に聞けば何か分かるかもしれない
俺は再び仮面に触れた

漆黒の空間にまたいきなり謎の声が響く
『少年、君の妹の記憶はこの町一帯に散らばっている』
「どういうことだ?」
『…この仮面はお前の妹の感情の一つ一つで出来ている』
「続けてくれ」
『怒り、不安、愛しさ…人間を構成する感情は数知れない。
その中でも大切な41の感情が一つ一つ〔仮面〕としてこの町に散った』
「――誰が、やったんだ」
『…私も分からない』
「それで…それであいつは抜け殻みたいになっちまったのか!」
『そうだ、そして私は彼女の勇気を具現化した物だ』
「…よし!勇気だけでも戻して…」
『ちょっと待て少年、全てを取り戻す方法が二つある』
「それは…何だ?」
『一つ、恐らく手にした大半の人間はこの仮面を纏い、その力を何らかの形で使うだろう
同じ仮面の力を持つもの同士は引き合う…そこでその力を奪えばいい』
「奪うって…」
『仮面を纏った人間を倒すのだ』
「…くっ」
高校入ったばっかりのガキに人殺しさせろってのか!!
糞ッ、親父が死んで亜弓もあんなになって…
『…二つ、話し合いの上で仮面の力を貰うのも可能だ』
「それは本当か!?」
『…しかし、私利私欲で使おうとする者達はそれでは止められまい
そこで倒す必要はいずれ必ず出てくるのだ』
畜生ッ、結局は殺すのか!
『この仮面の力は人に人外の力を手にさせる。
その者達の私利私欲はやがて人外の物へと膨れ上がっていくだろう
その時、誰がそれを止めるのだ』
「け、警察とか…」
『自衛隊を持ってしても勝てる相手ではない。それ程までに仮面は人を変える』
「…一つ、聞いて良いか?」
『何だ』
「倒した人間はどうなるんだ」
『ダメージの度合いによるが、仮面と人間が強制的に分離する。
致命傷なら…人間は存在自体が消滅する』
「消滅?」
『同じ仮面を持つ者しかその記憶を共有できない。
仮面を持たない者達の記憶からは存在すら消え去り、
世界の自浄作用によって誰も知ることなく辻褄が合わせられる』
「俺には…出来ない!」
『誰か、がやることは無い。いずれお前自身が戦う理由を見つけるだろう
…その日まで私はお前を見守って居るぞ…』

視界に光が戻る。
見ると机の上の仮面が手のひらサイズに縮んでいた
仮面の言を思い出してすかさずズボンのポケットにしまい込んだ
「いつ必要になるかは分からないからな」
そう言って俺はあてもない犯人探しに外に出た

『私だ』
「うわっ!」
謎空間に放り込まれてもないのに仮面の声がする
お陰で早朝ランニング中のお爺さんがすれ違い際に
軽くこっちを怪訝そうに見た
『肌身離さず持って居たら私がいつでも話しかけられる様になっている
これからよろしくな』
「あ、ああ…でもよ、いきなりは止めてくれ!心臓に悪い」
『済まない、今度からは音楽を流そう』
「ケータイの着メロかよ…」
『ちなみにこの声は骨伝導を応用した物だからお前以外にはまず聞こえない』
「そうかい、そりゃ助かる」
『ただ周りから見ると、さっきからお前一人で喋ってる様に見えて危ないぞ』
「じゃあ何とかしてくれ!」
一人で話していていきなり喚きだした俺に
後ろに走り去ったお爺さんはドン引きしていた
『口に出さずに文章をイメージするんだ』
(こうか)
『そんな感じだ』
(で、犯人の…てか魔物とやらの位置は分からないのか?)
『奴は夜に現れるタイプだと思うんだが』
「先に言え!」
やっちまった。
後ろの方に走り去ったお爺さんが今度は振り向き際ににらみつけてきた
(この会話方法凄くめんどくさい)
『我慢しろ』

「あら、お帰り。今日は学校休んでも良いわよ
…もっとも、行く気分にはなれないでしょうけど」
家に戻るとお袋が起きていた。
気丈に振る舞ってこそ居たが、やっぱり昨晩の出来事で憔悴していた
キッチンでみそ汁を掻き回す手が心なしか震えている。
「ああ、明日からは行くよ」
お袋の手が止まる
「そ、そう?…お葬式は明日なんだけど…」
「んじゃ、明日も休みか…」
「ごめんね…思い出させちゃった?」
「お袋こそ、…ごめんよ」
「良いのよ…本当ならあたしも泣いてちゃいけないんだろうけどね…」
「今だけは泣いて良いんじゃねえのか…」
「馬鹿息子、あんたに言われなくってもねぇ…えぐ…ぐすっ…」
(…くそっ、魔物め)
もらい泣きしてしまった
そしてみそ汁の焦げる臭いを嗅いでお互い我に返った
お袋が慌ててコンロの火を消したが汁の水位が半分まで下がって
豆腐が申し訳なさそうに顔を出していた
俺は思わず吹き出しそうになる。
「…ふふ、そうね。でも泣き終わったら
笑ってあの人の分まで強く生きなくちゃね」
「ああ…3人で頑張ろう」
「…内緒にしておこうと思ったんだけどね…4人よ」
「え?」
「昨日、警察の方が来る前に久しぶりに産婦人科へ行ったの…3ヶ月だそうよ」
「おめでとう…お袋」
「あの人にも言ってあげたくて…帰ってきたら…」
「…やる」
「…え?」
「俺、絶対にお袋の敵をとってやる、だから…!」
するとお袋は急にキッチンから出て俺に迫ってきた
「な、なんだよ」
パチン!
―小学校以来の平手打ちだった
「馬鹿!殺されたからって殺して何になるのよ!…そんなの――!」
「――ごめん、つい…」
お袋は俺を抱き締めた
―いつ以来だろうか、この温かさは

――そうだ
守るんだ
このぬくもりを
家族を
生まれ来る命を
この世を生きる命のために――

頭にオーケストラが鳴り響く
『―ようやく見付けた様だな』
(ああ、もう…逃げやしない)
『なら私も気兼ねなくこの力を貸すことが出来る…さらばだ』
(どこ行くんだよ)
『元居た場所へ帰るだけだ。正直ここは窮屈でな』
(…元気で)
『もし分からないことがあったら強く念じろ、また現れてやる』
(ありがとな…頑張るよ、俺)
『気張れよ、少年』
人間界とは異なる世界のとある場所にて――

〈ふう…どうなるやら〉
〈どうした、シュコルツェ。仮面の使い方はもう教えたのか〉
友人らしき無骨な巨漢の影がちょうど右からやってきた
シュコルツェと呼ばれた悪魔は、やれやれと言った口調で返事を返す
〈ああ、お前の方はどうだ、ユーティ?〉
〈は、全然だ。やっぱりきっかけが無いと動こうともしねえ〉
そう言ってユーティと呼ばれた巨漢はシュコルツェに葉巻を勧める
しかしシュコルツェは首を横に振りながら胸元から禁煙ガムを取り出す
〈…不便だな、だが人間らしい。それも良かろう〉
〈全く、お前ほど悠長に構えたいもんだぜ〉
〈あいつは覚悟を決めた、だからこそ俺も悠長に構えられる〉
〈早く教えてやらないとな~…仮面を使わずに死なれちゃ賭けが台無しだ〉
〈それもそうだな、じゃあなユーティ〉
〈おいっ、帰るには早いんじゃねえのか〉
〈少しあいつの様子を見てみたくてな〉
〈ケッ、好きにしろい!〉
シュコルツェは後ろを向いたまま右手を挙げてユーティに別れを告げ
自宅への帰路に着いた

シュコルツェの家には地上界の土産と称したガラクタが沢山置かれている
変わった絵の道路標識、カーネルおじさん、怪しげな壺など種類は様々。
その中でも目を引くのがレンズが下を向いた大きな天体望遠鏡だ
レンズは地面にめり込んでいて、動かす事は恐らく出来ない。
しかしレンズに映る景色はこの異次元の世界ではない、
紛れもない人間の世界が映っている。
望遠鏡を覗きながらシュコルツェは一人呟いた
〈…さて、少年。最初の試練を生き残れるかな?…期待を裏切ってくれるなよ…?〉

お袋に(仮面の話した云々を含んで)今の事情を説明したところ
最初は信じられない顔をしていたが
亜弓の原因不明の異常を見て、段々と話しを信じ始めた
「…お袋は嘘だと思わないのか?」
「こんな時にそんな破天荒な嘘を飛ばす息子を生んだ覚えは無いけど」
「お袋…」
「――戦うって決めたんでしょ、しっかりやんなさいよ」
「お、おう」
「おう、じゃなくてはい、でしょ!」
「…はい」
「よろしい!…ほら、これ」
お袋は手のひらに家の鍵を乗っけていた
「夜に…戦いに行くんでしょ、持って行きなさい」
「え、でも―」
「もう高校生でしょ、自分で考えて行動なさい
――って4月の始め頃に言ったこと、もう忘れたの?」
俺は震えながらお袋の手から鍵を取った
――今日中に決着(かたき)を取ってやるぞ。待ってろ…怪物!

お袋と俺はどうすれば良いのかも分からないし
亜弓はとりあえず病院に移された。
心臓は動いている、息もしている、怪我もしていない。
何処から何処までが人間の生の定義かなんて分かりやしない
だが一つ言えることは――生きていない。
音の出ない玩具のように
静寂が周りを包むと
こうも死の感じが付きまとうのは何故か
結局、医学の力を持ってしてもただ医者の首を無駄に捻らせるだけだった

個室の病室に移された亜弓は未だ何もそぶりを見せない
お袋は亜弓の横たわるベッドの手すりをさすりながら俺に問いかけた。
「亜弓は生きてる、ってその仮面さんは言ったのよね」
「ああ、戦って亜弓の感情を取り戻せなんて言うけど…どうだろうか」
「あたしはあえて何も言わないわ、でも動き出さなきゃ真実も見えてこないじゃない」
「そうだよな…やってみるよ、俺」
「あんたが後悔しないようにやんなさい、まあ、やらないって言ったらはり倒してたけど」
「ひでえ…」

午後8時
家までお袋を送ってから俺は勘を頼りに夜の街を駆け回った
ある程度走って一息着いていると目の前に千鳥足で帰宅する男が目に映った
そして背後に見える異形の影
カマキリの様な胴体にトンボのような顔、ニワトリのような足
人ではない何か――瞬間に体に戦慄が走る
影は右の鎌を振り上げる
――させるか!
俺はポケットの仮面を顔の前にかざした
後はもう意識のブッ飛ぶままにまかせた――
「変、身ッ!!」
仮面が顔と一体になっていく感覚
しかし一向に身体の方に変化が無いなと思うと
案の定、変身したのは仮面だけだった
異形はいきなりの声に驚いて男から飛び退いた
男はまだほろ酔いで、「おおっ、ようできた仮面やなー」
と笑い飛ばしつつその場を後にした
…酔っててくれてよかった

「?だ者何は前お」
「…ダメだ、何言ってるか分からない」
「!なたれくてし魔邪もくよ」
異形がいきなりまっすぐ突っ込んできた
喧嘩だってろくにした事の無い俺の反応は一瞬遅れてそれを捉えた
構えようとした時には体は宙を舞っていた
(こいつ…速い!)
慌てて着地体勢をとり、地面に降り立つ
ここで改めて仮面の力の凄さを知ることになった
「着地点がえぐれた…?」
仮面の力は落下エネルギーすらも強化して
固い地面をいとも簡単にえぐってしまったのだ
またも異形は高速を持ってこちらに迫ってくる
今度は両腕の鎌を前部に向けて俺を両断する気でいる様だ
(くそっ、このままじゃ…)

『少年、敵を目で捉えるな』
(お前…)
久しぶりの声に虚を付かれたが、尚も敵は迫っている――
『良いか、その気になればあの異形よりも速く動けるし
あの動きを目で捉えることもできる、全ては少年次第だ』
(でも、俺にはどうすれば良いか分からない――)
『敵を肌で感じろ
速く動きたければ足に集中しろ
強き拳を撃ちたければ拳に気合いを込めろ
全ては意志の力でこの力は底上げできる』
(俺の――意志)
『…やれやれ、私が付いてることを忘れるんじゃないぞ?』

敵はもう目と鼻の先
しかし先程よりもゆっくり動いているように見える
「分かったぞ…これが戦い!」
迫る影に渾身の右回し蹴りをお見舞いすると
今度は異形が無様に転げ飛んだ
受け身を取れずにジュースの自販機にその体をめり込ませる――
「?!たっがやりなく強に急!だ何,な」
「相変わらず意味はわかんねーけど、パニくってる事は分かった―けどよ」
今度は拳に力を込めて異形の反撃に備えた
しかし異形は先程から動こうとしない――

〈…よくも好き勝手やってくれましたね〉
頭の中に響く声、しかし仮面の声とは違う――
「…ようやく、まともな言葉を喋ったか…聞きたいことがある」
〈あなたの父親の事ですか?〉
「知ってるならさっさと言え!」
拳に熱が籠もる
〈…殺しましたよ、ええこの我々がね〉
「うおぉぉッ!」
動けない異形に何度も拳を叩き込んだ
しかし異形の声は何事も無い様に聞こえてくる
〈ああ痛い痛い…いくら殴っても無駄ですよ、所詮それは戦闘員です〉
「…ぐっ!」
俺は拳を止めた、
いくら殴っても痛くないはずの拳がジンジンと痛い
後で血が滲んでいることに気付いたが、今は全然気付いていない
〈ようやく無駄であることに気付きましたか〉
「…一つ、聞いて良いか」
〈どうぞ〉
「こいつを操るお前が人間じゃないことは分かる、なら何故人間を殺す?」
〈仮面使いを誘い出すためです、その為なら誰でも良いのですがね〉
「何故誘い出す必要があるんだ」
〈全ては我々魔族の遊びの一環なのですよ…このマスクドバトルは。〉
仮面とそれを付けた人間を1チームとして
9チームがただ一つの勝利を求めて戦うゲームなのですよ
もちろん君以外のライダーも何かを人質に取られながらこのゲームに参加している
我々はあなたたちというコマを使ってギャンブルをしているんですよ
しかし、初期の配当は全員実力が分からないから低い、
そこで我らカジノがこの人間界に獣を派遣することで
そのライダーの配当倍率を決めているのです
「…ふざけるな」
〈うん?〉
「ふざけるな!…絶対にいつかお前を倒してやる」
〈…ははは、まずはこのマスクドバトルに勝ってから言いなさい〉
「良いぜ、すぐに勝って全てを取り戻してやる!」
〈ふははは…嫌いじゃないですよあなた…まあ期待してますよ〉

頭の音が鳴りやんだと思ったら異形も消えて、
戦いの傷跡は全て元通りになっていた
ただ、この戦いで結局親父は帰ってこなかった
「…勝ったのか」
いつまにかマスクは顔から外れて
勝利の安堵からすっかり腰が抜けていた
「なあ仮面」
『どうした』
「…お前も知ってたのか、この事を」
『知っていた、だからこそこの戦いを止める為に――』
「…今更止められるかよ」
『戦うというのか、他者の希望を奪って進む道に向かって――』
「そうじゃない、全てはあのカジノの野郎をぶっ潰せば解決する
だからまずは仲間が必要だ」
『無理だ、いくらマスクドが揃ったところで勝てる相手じゃ――』
「マスクドと、それに付く悪魔が全員揃ったらどうだ」
『勝てない訳じゃないが…かなり厳しいな、最低8人は要る』
「…どうせ、お前は俺以外には手を貸せないルールなんだろ?」
『仲間集めは出来ないな、私の身が危なくなる
ただ一人だけアテは有るが…それだけだ』
「出来る限りの事は…頼む」
『ああ、少年も頑張って生き残ってくれよ…?』

翌日になっても亜弓は相変わらず目を覚まさない
実感が沸いてこないけど今日は親父の葬式だ
…見てろよ、親父。必ず敵は取ってやる…そう、必ずだ
だから…俺に力を貸してくれ
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