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第四話「一回戦第一試合 流しのガンマンジョー・ジョニー・ジョー」

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 タモツはヘドロで埋もれた醜い河を見ていた。
「鳴けねえだろ、タモっちゃんよ」
 まだ誰もアガらず、点棒の移動は起こっていないのに、既に勝ち誇ったように笑うのは、「流しのガンマン、ジョー・ジョニー・ジョー(岩手県代表)」だった。

一回戦第一試合

東家 食いタンのみのタモツ(奈良県代表)
南家 テンパイ即リーのバッベボン・B・バベ男(静岡県代表)
西家 人数合わせの伊藤(大分県代表)
北家 流しのガンマン、ジョー・ジョニー・ジョー(岩手県代表)


 タモツの能力は鳴けなければ話にならない。チュンチャン牌(2~8の牌)を鳴き、速攻で勝負を決めていく。しかし彼の上家に居座るジョーは捨て牌にヤオチュウ牌(一九・字牌)しか並べないでいる。チーが出来ないのだ。
「流しマンガンしか狙わない岩手のガンマンジョニーといえばこの俺のことだ。銃なしでは生きていけない無法地帯、岩手。そこで生き延びる術といえば俺にはこれしかなかった。食いタンのみなんていう安手縛りのあんたとの相性は最悪だったな。敗者復活戦で頑張れや」
 タモツは鳴けないままに十二巡が過ぎた。淡々と、タン、タン、と並べられるジョニーの河からタンヤオ牌は溢れてこない。このまま流局してしまえばジョニーはマンガン分の点棒を手にし、タモツの親は流されてしまう。
「がたがたうるせえ」とタモツは言った。
「がたがたがたがたがたがたがたがたほんとにうるせえんだよ! 対面の姉ちゃん!」
 タモツはジョニーなど相手にしていなかった。対局が始まって以降、間断なく貧乏ゆすりを続けていた伊藤に向けて苛立ちの声を発した。動揺した伊藤の手からぽろりと牌がこぼれ落ち、捨て牌の列に加わる。5ピン――「ポン」とタモツが鳴いた。そこで初めてタモツはジョニーに顔を向ける。
「ポン……だと?」赤鬼のようだったジョニーの顔色が一瞬で青ざめる。
「俺の上家でひたすらクズ牌をツモり続けてくれるあんたがいてくれるから、俺の手にはどんどんタンヤオ牌が集まってきてくれた。チー出来なくとも、ポンならどこからでも鳴ける。ジョニー。流局にならなければ勝ちようのないあんたのおかげで、こちらは多少手が遅くなろうと焦る必要がなかった。岩手で銃をぶっ放して何十人殺していようと、卓の上の勝ち負けには関係ねえよ」
 ジョニーの自信と自らのアイデンティティは、次のツモであっけなく崩壊した。打2万。ツキからも岩手からも見離された彼の元に、もはやヤオチュウ牌は舞い降りてきてはくれなかったのだ。
「チー」
 タモツがまた一歩アガりへの道を昇る。
 もはや自分に勝ち目のないことを悟ったジョニーは懐から拳銃を抜き、自らのこめかみに当て、引き金を引こうとした。しかし一本の千点棒が拳銃を弾き飛ばした。
「リーチです」
 それまで静かに打っていた南家のバッベボン・B・バベ男が高らかに宣言した。

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