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2.START!

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 翌朝、狂ったように鳴り響く五個の目覚まし時計を一つずつ止めながら、俺は昨日のことを考えていた。だってそうだろ、電波女にバンドに誘われたんだぜ?
 「どうしろってんだよな…」いつもの数倍の倦怠感が押し寄せてきて、どうにも調子がでない、時計の短針はそろそろ10に差し掛かるところ、今日は自主休校するとしよう。    
 そう決めると、俺はもう一度布団にくるまり、うざったい髪の毛をかきあげた。季節はあと二か月もすれば夏、次の髪型を考えながら、意識はまどろみへと消えていった。





 ────────嫌な夢を見た、そりゃあもう、嫌な夢だ。
 寝汗でべったりと身体にくっつくシャツが実に憎たらしいので、さっさと脱ぎすてる。
 「…俺だって、ジミヘンドリックスになりたいわけじゃあ、ないさ」昔、友人に言った言葉をリフレインする、嫌な夢ってのは、忘れられないもんだな。
 薄汚い部屋の隅っこで埃まみれになっていたストラトを、俺は珍しく引っ張り出した。
 弦は錆つきネックは反っている、ブリッヂに至ってはジャンク品と比べても遜色ないくらいだ、金銭的にはまったく価値のないギターに成り下がっているだろう。
 適当に鳴らしてみても、チューニングのずれた腑抜けた音が鳴り続けるだけだった。だが不思議と、音は心地いい。乾いた音っていうのは、それだけで心を潤してくれる。
 その後も適当にギターをいじっていると、枕元の携帯の赤い光が点滅していた。誰かからの電話だろうか、おもむろに画面を見ると不在着信の文字、しかし番号登録されていない番号からの着信だ。
 どうにも怪しい番号にかけるかどうか迷っていると、手の中の携帯が震えだした、どうやらまたかかってきたらしい。電話に出ると、スピーカーからはか細い女の声が聴こえてきた───────電波女、影沢の声が。
 「あ、もしもし、河部クン?昨日ぶりだね。電話番号はマキちゃんに聞いちゃいましたー!んー、どうかしたのー?何かテンション低くないかー?」などとのっけから自らのハインションを押しつけてくる、朝からやかましい。あ、でももう昼か。時計の短針は三時を指しているし、何より俺の腹から鳴っている醜悪なハーモニーが夕方だということを知らせてくれている。というかマキ、お前明日何か奢らしたる。
 「…いや、寝起きだからさ、悪いな低くて。それで、何のようだ」昨日の今日ということで、自分の中で当たり障りのない語彙を選んで応える、また殺すとか言われたら精神が持ちそうにない。
 「低くてもダイジョーブ!これから私とマキちゃんと柚井クンと河部クンとで、カラオケにいってテンションをあげるからダイジョーブ!」明らかに行くことが決まっているかのような言葉だ、というか影沢のキャラが違う気がする…といってもまだ知り合って一日だから素を知らないだけかもしれない。
 「いや、わりぃ、俺カラオケとか得意じゃないんだわ。俺のこと気にしないで、三人で楽しんできてくれ」カラオケは苦手だ、カラオケヴォーカリストも苦手だ。
 大体そんなに歌いたいくらいなら、それこそバンドを組めばいい。カラオケで喉自慢をしている奴らはエコーを切ってから自分の歌声を聴いてみるといい、もうカラオケになんか行きたくなくなるはずだ。
 「ダイジョーブだって!私もそんなに得意じゃないからさっ!」それは自称上手いやつが使うセリフだろう、行きたいという意思が声で思い切りわかるぞ。
 しばらく影沢と電話で話していると、急にスピーカーにノイズが走る。あちら側の電波状況がよろしくないのだろうか?
 「今すげぇ音がしたけど、大丈夫か?てかカラオケのことしか用がないならそろそろ…」言い切る前にインターホンが鳴る、どうやらお客さんのようだ。親もいないことだし、ここは俺が出るしかない。影沢との電話を切って、玄関に向かうと、玄関の向こうからは柚井の声がした、友人が家に訪ねてくるなんて、いつ振りだろうか。
 「フトシー、開けても大丈夫―?」柚井が女みたいな声で呟く、こいつは本当に女みたいなやつだな、と内心思いつつも、ドアを開けてやった。
 「…フトシ、ごめんな。悪気はあった、だってお前が困るところ、僕大好きなんだ」
 そこには妙にSな発言をする、着崩した制服を着た柚井と、
 「やっほー!元気にしとったかね、カワベ君!いや何せそろそろ私の身体が君の暴力を欲しているようでね…いやー困ったものだよ、まったく」
 そういって乾いた笑いをする幼馴染のドM女と、
 「さっきはなんで電話切っちゃうのさー!…次切ったらこr…怒るからね?」
 理不尽な怒りをぶつけてくる、昨日から俺の彼女となった電波女───────ヤンデレ王女影沢様がそこにいた。
 「…はぁー…とりあえずマキ、お前は後でお仕置きだ」
 「く、悔しいけど感じちゃう…」
  



 おいおい、どういうことなんだ一体、俺の人生はこんな3バカラスに狂わされるってのか?これまた、随分と──────笑えねぇ話だ。

 
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