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バテレントXvsブラック大帝 第二話 博士と魔人と

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 バテレントXの足元を人々が囲んでいる。睨みつけるように魔神を見上げている。勇が降りてくるとそれはさらに強くなった。
「返してよ! 私の子供、返して」
 一人の母親が叫ぶと、堰を切ったように次々と群衆が非難の声をあげた。
 バテレントXが戦闘の中で壊したものの下敷きになったり、魔神に踏み潰された人間は十や二十の数ではなかった。
怪獣を倒した勇とバテレントXに対する感謝の気持ちなどまるでなく、逆に怪物がいなくなり怒りの矛先は勇達に向けられていた。しかし、そういう戦い方をしなかった勇にも責任があり、仕方のないことだった。
 勇は群衆をうつろな目で見つめた。彼らの言葉はまるで頭に入ってこなかった。
 怒りにまかせ怪物を殺したところで真尋がかえってくるわけなどなく、もう二度と自分に笑いかけてくれることがないのだと思うと途端に虚しくなっていた。
 民衆には勇というはけ口がまだ残っているが、勇にはそれがもうなくますます空虚になるのだった。
 群衆の中から一人、男が抜け出て勇に近づいてきた。鼻の頭がぶつかるほど近づくと男は勇をにらみつけた。
 にらみ合う二人、突如拳がとんだ。
「この馬鹿野郎が!」
 突然のことにふんばりの効かない勇の体は地面に倒れた。
「バテレントXは正義の使者だ! それがなんたることかっ」
 男――団弾平は怒鳴りつけた。魔人が反応するほどの強い意志が怒りや憎悪の類だったことに弾平は憤慨していた。
 博士の作った魔人はブラック大帝の機怪兵に対抗するためのロボットなのだ。それが正義のために使われないばかりか、目の前の少年の方が自分よりも魔人の力を引き出していることはどうにも認めがたいことであった。
 地面に倒れている勇に追い打ちをかけようと拳を振り上げる弾平を博士が慌ててとめた。
「よく見なさい。気絶してるじゃあないか」
 それは弾平に殴られたせいではなく、魔神に乗ったことが原因であったが弾平の怒りを鎮めるにはじゅんぶんだった。
 弾平は勇を担ぎ上げると、博士の車にのせ、研究所へと向かうのだった。
 ブラック大帝の側にしわくちゃの顔をした老爺が歩み寄ってきた。老爺は跪き、頭を垂れる。
「申し訳ありません、大帝様」
「何を謝る? Dr.イエロ」
「よもや、人間があのような兵器を持っていようとは」
 すると大帝は高らかに笑う。
「しょせんは神の前の前座。その気になればひねり潰すのは容易い。問題はその後なのだ。わかっているな? イエロ」
 ドクターは神妙に頷くと、大帝の御前からさがり、研究室に戻っていった。
 ドクターの表情は生き生きとしていた。大帝の期待に応えるべく頭を働かせているときは、自然と頬がゆるむのだった。


 次に勇が目覚めたのは見たことのない部屋のベッドの上だった。左腕から点滴のくだがのびている。
 体を起こすとあちこちに痛みが走った。痛くないところを探すのが困難なくらい体中が痛かった。
 頭もぼんやりとしていた。なんで自分がこんな状態なのかわからなかった。それが寝起きのせではないことがわかった。
「あら、起きたのね」
 机に向かっていた女性がベッドの側までやってきた。
 明るい茶色の髪を巻き上げている。縁のない眼鏡をかけ、口元のほくろが色香を漂わせる。化粧が濃いせいか年食っているように見えるが、秋元はまだ二十代だ。
 しかし、勇は秋元を確認するとこう言い放った。
「おばさんだれ?」
 秋元の眉の先がぴくぴくと動く。三十近い彼女に「おばさん」という単語は禁句だった。弾平でもその言葉は控えている。
 秋元はひきつった笑みで言った。
「私は秋元玲子。ここ、X原子研究所で医師として勤務しているわ」
「俺、なんでここにいるの」
 勇が訊くと秋元は「記憶障害かしら」とつぶやいた。彼女が説明をはじめようとすると勇はそれを手で制した。
 ぼんやりと霞がかっていた頭の中が急にはっきりとしたからだ。
 勇は急にベッドから降りると、点滴の針を引き抜き部屋から飛び出した。
「ちょっとどこ行くの!」
 秋元が叫ぶが無視された。
 勇はただひたすらに走った。真尋がいないのだ。思い出したくもないことも全てはっきりと鮮明に、まるでもう一度目の前で繰り返されたかのように思い出した。
 真尋を助けられなかった。勇でも誰でもどうすることもできない状況だった。そうだからこそ余計に自分の不甲斐なさが胸を絞めつけた。
 勇の足は自然と格納庫に行き着いていた。
 勇は魔人の足元に立った。バテレントXを憎々しい思いで見つめた。
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