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驚異!! 「ラ部」の実力!

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 ライトノベル部。通称ラ部の部室。ライトノベル部はただいまラーメン部と『ラ部』の略称の使用権について係争中。つい先日、ラーメン部が東京高等裁判所に上告した模様。
 部室内には三人の人物がいる。
(部長=以下“部”。副部長=以下“副”。新入り=以下“新”)
部「総員傾注! 角川書店の方角に向かって万歳三唱!」
副「歴彦閣下万歳! 歴彦閣下万歳! 歴彦閣下万歳!」
新「何をしているんですかあんたら」
副「ラ部員は全員、朝昼晩深夜早朝一日五回角川本社に向かってお祈りをささげなきゃいけないんだよ!?」
部「ときに新入り君、ライトノベルは好きかね?」
副「すっきっとっかーきらいっとっかー最初ーに言い出したのは……お前だー!」
新「ライトノベルなんて読んだこともありません」
副「ずこー!」
部「ずこー! じゃあ、なーんでこの部活に入ろうと思ったぁ!  もしかして青春目当てか!? だが残念、ここには汗臭くて胡散臭い青春も甘酸っぱくて甘っちょろい青春もねえぞ!?」
副「汗臭い部長の柔道着と、酸っぱくなったおにぎりならある」
新「それは早く捨てろ! 持ってくるな! この部は活動が一番楽そうだったからです。文芸部があればよかったんですけど、ないみたいですし」
部「明快な回答ありがとう。さようなら」
副「“すべての言葉はさよなら”」
新「じゃ、この部に入るのやめます。ラーメン部入ります」
部「冗談だからぁ~~~! やめんといてぇ~~~」
副「雷おこしあげるから」
新「それはいりません。といっても、やっぱりライトノベルのことなんて少しも知らない僕がこの部にいるのは、やっぱりおかしいんじゃないでしょうか」
部「大丈夫、誰でもピカソ! じゃない、誰でも最初は初心者! これからラノベのなんたるかを叩き込んでやる! おい副部長、そっちの本棚から『シャナ』全巻もってこい!」
副「ガッテン承知の介」
部「さあ、これを読むんだ!」
新「読み終わりました」
副「早っ! なんなのお前聖徳太子なの?」
新「聖徳太子って速読術身に着けてたんですか?」
部「じゃあこの用紙に感想を記入してくだちい」
新「嫌です」



 ……第一話完。



部「終わらせんといて!」
副「終わらせんといて!」
新「うるさいんで机の上で踊らないで下さい」
副「雷おこしあげるから書いてよー」
新「いりません。いりませんって! 仕方ないなぁ……はい、書きました」
部「早っ。どれ、ふむふむ、『はじめほうの巻は真面目にバトルしていて面白かったのにに進むにつれてラブコメ臭がきつくなって吉田さんがうざくて仕方なかったです』――パーフェクトだウォルター。百点」
副「百点のご褒美にこの雷おこしをあげよう」
新「いりません。これで百点なんですか?」
部「ラ部的には百点。世間的には……おい副部長窓を閉めろ」
副「ガッテン承知の介」
新「窓を閉めなければいけないような話なんですか?」
部「いや、寒かったから」
新「なんだこの人」
部「この感想、世間的には零点だろうな。なにせ、今のラノベ業界を支えている連中ってのは――いや、この話は後にしよう。さて、ライトノベルについて少しはわかった?」
新「多少は。しかし、ライトノベルって全部こんなのばっかなんですか? なら期待はずれです。別に最初から期待なんてしてませんでしたけど」
部「九割そうだといわざるをえない」
副「麻原ショーコー拳を使わざるをえない」
部「そう、今のラノベ業界は脳味噌ピンクなラノベ豚どもの支配するお花畑空間になってしまった。まとめてコバルト爆弾で処理してしまいたい気分だ。ラノベだけに」
副「部長、うまいっ! コバルト文庫と、猿の惑星のコバルト爆弾をかけてる!」
部「そんなに褒めるなよ。あ、雷おこしはいらない」
新「全然うまくありませんがそこには触れないことにして、こんなのばかりなら、ライトノベルとやらを読む気はしません。ラーメン部行きます。とんこつラーメン食べます」
部「待ちたまえ!」
副「町玉枝(ちびまるこちゃんにでてくるたまちゃんの本名)!」
部「キミはこう書いた――『はじめほうの巻は真面目にバトルしていて面白かった』――これだけでわかる。君にはライトノベルを楽しむ素質がある。ターミネーター好き?」
新「ええ、大好きです」
部「エヴァンゲリオンって見たことある?」
新「はい、子供の頃に見ました」
部「面白かった?」
新「面白かったです。子供のころは単純にロボットアニメとして観ていたけど、この前見返したら、アニメなのに深いテーマがあると思えて」
部「なるほど、深いテーマがある、ね。その調子なら攻殻機動隊も知ってそうだね?」
新「ええ、まあ知ってます。劇場版のアニメは観ました」
部「キミはアニ研に行ったほうがいいんじゃないか?」
新「あそこの連中は部長言うところのピンク脳のラブコメ豚ばかりです。ところで、こんな言葉でああいう連中のことを罵るってことは、部長もラブコメが嫌いなわけなんですか」
部「必ずしも嫌いというわけではないけどね。いやしかし、キミは実に面白い。そうだ、実のところライトノベルってのは巷で思われているほどラブコメばかりってわけじゃない。よし、じゃあ次はこれを読みたまえ。わたしの本読みとしての誇りに賭けて言うが、ターミネーターやエヴァンゲリオンや攻殻機動隊より面白い。それら全部をあわせて、さらに上を行った作品だ」
 ハードカバーで、黒を基調にしたデザインの本。タイトルは、
新「ブラック・ロッド……」
部「さあ読みたまえ、早く」
新「読み終わりました」
部「どうだった?」
副「ダッタン海峡?」
 新入りは何も言わない。ただ、今食べたものを反芻しているような表情で本の表紙を見つめている。雨宮慶太画による黒衣の大柄の男がその瞳を見返している。チャイムが鳴った。全員下校の時間だった。
 新入りは立ち上がる。
新「……部長、この本借りて行っていいですか?」
部「どうぞどうぞ」
新「すみませんけど、感想文は……」
 部長はにやりと笑う。
部「うん、明日でいいよ」
 立ち上がり、手を差し出した。新入りは握手に答えようとその手を握り返そうとする。その手をつかまえて、部長は新入りにとびついた。
部「ラ部へようこそ!」
副「ようこそ!」
新「だから雷おこしはいりませんって。ところで部長」
部「ん?」
新「おっぱいが当たってます」
部「あ、これは失敬」
新「それでは」
 ドアが閉まる。
部「見たかい、あの部室を出るときの顔。なかなか、有望じゃないか?」
副「Die Stunde hat geschlagen,Britanniens Macht vergeht,――」
部「くだらないよ。いや、だから雷おこしはいらない」
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