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第五話

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 老人は東京駅に着くまで俺をずっと凝視し続けた。俺は最初のうちは無視していた。が、そのうち耐え切れなくなってトイレに入った。まさかここまではこないだろう。

 俺は東京駅につくとすばやく電車から降りた。あの初老の男性と一刻も別れたかったのだ。
東京に来たのは大学に通っていたころ以来だった。すると十年ぶりということになる。俺は方向音痴なのでどこに向かうかも分からなかったが?適当に歩いていると八重洲中央口というところから地上に出れた。

 東京に来たのはいいが、俺はそこから先を考えていなかった。とりあえずコンビニに入って、サングラスを買った。これで少しは変装できただろうか。とぼとぼ歩きながら俺は考えた。まず泊まるところが必要だ。アパートは借りられないし、ホテルは金がかかりすぎる。俺の考えの行き着いたところはネットカフェだった。 

 ネットカフェはすぐに見つかった。が、そこで思わぬ事態が発生した。身分証明書の提示を求められたのだ。当然そんなものは出せない。俺は粘ったが無理だった。俺はもしかしたら身分証明書がないとネットカフェには泊まれないのではと思い始めた。が、しかし俺の心配は幸いにも杞憂に終わった。次のネットカフェは普通に使えた。
 
 小さな個室で区切られていて、監視カメラがあるネットカフェはまるで刑務所のようだった。囚人のように生気のない利用者もいた。おそらく彼らははやりのネットカフェ難民なんだろう。明日から俺も彼らと同じ囚人のような生活をするのだ。
が彼らと俺は違う。その気になりさえすれば俺はいつでも本物の刑務所に長く入れるのだ。いや、死ぬまで入れるかもしれない。
 俺は個室に入るととりあえずパソコンの電源を入れた。そして派遣の仕事を探し始めた。が、しかし数分でやめてしまった。そしてそこからずっと好きなことをやっていた。
 
 気がつくと店に入るときは十時ちょっとだったのがもう正午になっていた。俺は腹が減ったのでカツ丼を注文した。このネットカフェは食事ができるのだ。それにシャワーも浴びられる。相当快適だ。
 カツ丼を注文した後、俺は何でこんなものを頼んでしまったのかと後悔した。なぜならカツ丼といえば刑事ドラマで容疑者に良く出されるものではないか。縁起でもない。ばあちゃんが昔よく作ったからだろうか。
 俺が横須賀にある母方のばあちゃんの家に行くと必ずカツ丼が出てきた。すさまじくうまかった。ひどい話だが俺はカツ丼とお小遣いが目当てで遊びに行っていたようなものだ。ばあちゃんは俺が中学校に入った頃交通事故で亡くなった。ひき逃げだった。犯人は若い男らしかったが、捕まらなかった。
 ばあちゃんは良く俺のことをほめてくれた。何しろ俺の成績はとても良かった。一時期偏差値七十ぐらいになった。ばあちゃんは
「頭が悪くなってもいいけど人の道だけは踏み外すちゃいけないよ」
 とよく言った。だがこのざまである。
 
 カツ丼はばあちゃんの味には遠く及ばなかったが、それでもうまかった。食い終えたあと俺はまたパソコンを始めた。もちろん仕事を探すためではない。遊ぶためだ。
 
 俺があるサイトをみていたとき突然隣の席から
「ふぉっふぉふぉっふぉ」
 という気持ちが悪い男の笑い声が聞こえてきた。全く世の中には訳の分からん人間がいるもんだ。俺は嫌気がさしてネットカフェを出ようとした。
 するとなんと二千九百円も請求された。驚いたが別にぼったくりではなかった。パックコースを使えば安くなりますと言われたのを無視したのが良くなかったのだ。俺は別にやることが無いのでとりあえずヤクルトを買うことにした。そういえば今日は飲んでいなかったのだ。俺はさっきサングラスを買ったコンビニへと向かった。
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