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勇者ときどき小説家

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そう、まっしろな女の子なんだ。
少女の周りは全部灰色の世界でさ。
そうだね、例えるなら――

正しいのに正しくなくて。
間違えてないのに間違えてるんだ。

すごく滑稽(こっけい)だよね。
うん、なによりもすごく理不尽だと思うよ。
でもさ、何でだと思う?
女の子がまっしろであり続ける理由だよ、り・ゆ・う。
私なら染まっちゃうな、灰色に。
頑なにまっしろを守っててもさ。
一つもないんだよね、良いことなんて。
でも、女の子は待ってるんだよ。
いつか自分を見つけてくれる。

――勇者様をね――


カラン――
氷が溶けて崩れる音、そんな七月の上旬。
太陽はジリジリ、アスファルトもジリジリだ。
けれども私はいなかった。

――ジリジリの中には、だよ?

いつものコーヒーショップ。
ガラス張りの中から私は外を眺める。
ジリジリの中をせわしなく行きかう人々。
あんなに急いでどこへいこうというのだろう?
もっと、のんびりすればいいのに。
私は少し伸びてきた前髪を弄りながらペンを走らせる。
茶髪に染めたショートボブはカッコイイ髪型を考えた結論だ。
黒いシャツにダメージジーンズ。
今年の夏はラフに行こう、そんな感じ。
両耳につけたヘッドフォンから流れるのは私の大好きなあの曲。
口ずさむメロディー。

「こんにちは勇者様」

その言葉とともに曲は終わりを迎えた。
私はヘッドフォンを外す。

ズズズ――

むなしく、意味もなく。
ストローから役目を終えた氷たちを少しばかり吸い上げる。
「ここだと思いましたよ」
「私がどこに行こうが勝手でしょ?」
チェックの紺スカートにブレザー姿。
いかにも中学生っぽいのがにこにこしていた。

見なかったことにしよう。
私はノートに向き直った。

さて、けれどもなんて言ってこいつのこと追い返そうか……

「宗教には興味ないんで」
「私、宗教団体なんかじゃありませんよ?」
「えっと、じゃあお金持ってないんで」
「チャッチセールスでもないですね」
だめだ。
趣向を変えることにしよう。
「あ、じゃあレズ趣味はないんで……」
「あら、私は興味ありますよ?」
言葉を失ってしまった。
「冗談ですよ、真に受けないでください」
コイツ、いつか泣かせてやる……

「それで、次回作の案、まとまりましたか?」
私の横からノートを覗き込んでくる。
って言うか近いんですけど、顔。
「んと、……まっしろな女の子? なんですか、これ?」
「これは案じゃなくて単なる私書きっ……」

――クスっ

コイツ今笑いやがったなっ!
自然に私の顔が赤くなるのが分かる。
「可愛いところもあるんですね」
「なんでそういう発想に繋がる……」
「まぁ、私ほどではないですけどね」

私はため息をつきながらももう一度コイツに向き直った。
「はい、白状しますよ」
「はい?」
「いや、ちょっと詰まってるんだよね、案に」
「あら」
こういう聞いてもらうときだけはコイツが担当として優秀なんだなって思うよ。
「それでしたら……、そのお話を膨らませてみてはいかがでしょうか?」
私のノート。
まっしろな少女の話を指差しながらそういってきた。
「それって、……、これ?」
予想外だ。
っと、いうかあんまり他人に読ませるために書いてないから結構めちゃくちゃなんだけど……
「私、その作品の雰囲気すごくいいと思いますよ?」
そう言ってはにかまれても。
「それに、お仕事ないとこまるんですよね?」
ああ、無理やり丸めこまれていく私がいる……
けれどもさ、そこまでいうなら。
書いてみようかな。

――まっしろな、少女の話を――
3, 2

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