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第五話 再結成

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 全員集まったのを見た木島は皆に呼びかけた。
「えーと。皆さん。お久しぶりです。とりあえず、宴会場のある居酒屋に行きましょう」
 木島より三学年上の石原が文句を言った。
「おいおいこんな時間から宴会かよ。だいたいどうしてこんな時間に招集をかけたんだ」
 木島がこんなにも早い時間に招集をかけた理由はただ一つ。一刻も早く反社会同盟を再結成したいからだ。
 居酒屋を選んだのは特に理由はない。適当だ。木島はなだめる。
「まあまあいいじゃないですか。何か不都合でも」
 石原は黙った。木島は皆に呼びかけた。
「じゃあ行きましょうか。すぐ近くにあります」

 駅の近くの大手チェーン店のその居酒屋に木島は既に予約を取っていた。名前はさすがに恥ずかしくて反社会同盟同窓会とはしなかった。大学の同窓会ということにしておいた。

 店にゾロゾロと入り、とりあえずみんなでビールを頼み、乾杯する。そして、皆で自己紹介をし始めた。まずは幹事の木島からだ。
「えーと、十八期生の木島です。卒業後はごく普通の会社に勤めて最近退職しました。子供もいます」
 彼は倒産したということは言わなかった。離婚したということも言わなかった。恥ずかしかったのだ。小さくパチパチという拍手の音が鳴った。
 そして、その後は木島の横に座っていたものから時計回りでどんどん自己紹介をしていった。
 木島の同級生は三人だった。他は皆先輩だ。ほとんど皆会社を退職していた。
 が、米倉という木島の先輩だけは違った。彼は大学卒業後もずっと共産主義者であり続けた。働いたことも一度もないらしい。が、共産党員ではないらしい。

 その後は皆好き勝手に喋ったり、飲み食いをしていた。木島は同級生の篠崎、浜田と話していた。
 両人とも愚痴をこぼした。
「介護のせいで、会社を辞めることになっちまったよ。まあ、でもしょうがないことだし死んじまったおふくろのことを悪く言うのもな……」
 と浜田は言った。
「俺なんかなかば無理矢理早期退職させられたんだ。今は何もやることがなくて毎日テレビを見てる」
 と篠崎が言った。浜田が聞いてきた。
「木島はどうなんだ」
 と。木島は結局本当のことを話した。木島は緊張しながら、話した。
「実はつい最近会社が倒産したばかりなんだ……。それに離婚しそうになっている……」
 二人は一瞬固まったが、励まし始めた。浜田は
「人生万事塞翁が馬というじゃないか。落ち込むなよ」
 と励ました。篠崎は
「別にそんなにたいしたことじゃないぞ。離婚する人なんていっぱいいる」
 と励ました。木島は二人の言葉に元気づけられた。その後は世間話をした。
 そのうち、米倉が来て共産主義革命について熱弁を振るったが彼らは適当に受け流した。他の参加者も米倉に対して同じような行動をとった。

 宴会開始から、一時間ぐらい経ったときだいぶ席が和やかになってきたのを見て木島は皆に話しかけた。
「皆さん。こちらを注目して下さい」
 皆木島の方を見た。木島は行きを大きく吸い緊張しながら一気に言った。
「私がこの会を開いたのは同窓会のためだけではありません。反社会同盟を再結成したいのです。反対の人はこの席から出て行ってください」
 皆唖然とした。が、やがて木島の二学年上の磯山が不機嫌そうに言った。
「そういうことだったのか。なるほど。ふーん。残念だが、私はそんな変なものに関与したくはないんだ。帰らせてもらう」
 と。そして、席に金を置いて言った。
「これだけあれば十分だろ」
 それに続いて次々と皆、金を置いて出て行った。篠崎と浜田も出ようとしたが、木島が無理矢理引き止めた。

 気がつけばその場に残ったのは木島を含めて四人だった。木島、篠崎、浜田、米倉の四人だ。
 木島は意外と多く残ったことに驚いた。そしてこう語り始める。
「皆さん。いや、これからは同志と呼ばせてもらいます。よく残ってくれました。とても嬉しいです」
 パチパチパチパチと米倉が大きく拍手した。そしてこう勢いよく続けた。
「同志、木島よ。よくぞ革命精神に目覚めてくれた。私は感銘を受けた。さて、それはさておき相談なのだが私が入っている共産主義組織にも入ってくれないだろうか」
 と。木島はその勢いに面食らいながらも答えた。
「い、いや。やめておこう。でもよく考えておくよ」
「そうか」
 米倉は満面の笑みを浮かべながら言った。
 その後も米倉の独壇場だった。三人は米倉の大演説にたじたじとなった。一方米倉は自分の演説に心酔しているようだった。
 やがて、米倉は
「諸君、つまり、今こそ労働者諸君と我々は結束して、断固資本家を撃滅する必要があるのです」
 と言ったところで演説は中断した。米倉がトイレに行ったのだ。その隙に三人は相談して席に金を置いて逃げるように店を出た。
 木島は二人にこう言った。
「やばいぞ。あいつ。どうにかなってる。きちがいだ」
5

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