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  『ひとつのヒンメル』
  (das himmel)



 


1.「エビのフライ」
  (Offnung)

 朝起きると私はテァラララララララツァットミル星人になっていた。
テァラララララララツァットミル星人とは銀河系のはずれに申し訳程度に存在するというちいさなちいさな物語の中の住人だ。
地球人とテァラララララララツァットミル星人の外見はほとんど見分けのつかないまでに酷似していて、それだから地球人とテァラララララララツァットミル星人とを外見で区別することは非常にむずかしい。

精神的な構造も同様で、科学的に分別することは不可能だとされている。

ではなにが地球人とテァラララララララツァットミル星人とを区別するのか?
私が自分をテァラララララララツァットミル星人と認識した理由はなにか?

それに触れるには、テァラララララララツァットミル星学の権威であるジャステラゴウ博士にふれなければならない。
ジャステラゴウ博士はこの分野において偉大なる貢献をした人物だ。
彼の著した本の中にはベストセラーになったものもあるが、それらの説明は省いてここでは彼の言葉のひとつを引用させていただくとしよう。それがそのまま答えになるはずだ。

『地球人とテァラララララララツァットミル星人とを区別する方法であるが、「私はテァラララララララツァットミル星人だ」といううごめくような意識が自分の中にあれば、それは自分がテァラララララララツァットミル星人だという証明である』

―Q.E.D




つまりは、そういうわけだ。
ちなみにテァラララララララツァットミル星人の公式略称は「テラ人」である。





2.「早起きなポセイドン」
  (wertlose Sache)
 
 愛犬のポセイドンは早起きだ。彼の吠える声で私はいつも目を覚ます。
彼は私がテラ人となっても相変わらずなついてくれるようだった。
朝の食事を要求するように足元に近づきキャンキャンと吠える。

かわいいな。
そうやって一生地べたに這いつくばり吠え回っているのが貴様にはお似合いだよ。


私は出勤した。


3.「裏庭の雑草を抜いた老人がそれらを全て掻き集め隣人宅の庭にまた植え直すということ」
  (Massen Ballabwehr)

 出勤時間帯のホームは盛況で人が溢れている。
どいつもこいつも同じような顔をして白線の内側に並んでいる。こいつらは電車を待つという名目でホームに立っているが、それはきっと一種の言い訳に過ぎない。

こいつらはホームという存在が大好きなだけだ。

ホームさえあれば電車が来なくともそこに集まってしまうようなホーム愛好病末期症状の患者達。
日々このように忙しそうに仕事をするのも、電車に乗るということ、つまりは『何食わぬ顔で出勤する常人の仮面をつけて』毎日ホームに来るための口実に過ぎないのだ。
下らない連中。


プオオォォォンという音と共に電車が3番線のホームに参った。



「いやぁ今日も参ったねぇ!参った!参ったよ!さぁ元気に右足を踏み出し電車に乗り込もう!」



スーツに身を包んだ中年の男性がにこやかな表情で周囲に言って回っている。
うるさいのでふくらはぎを三回蹴った。






―Mission・1「ラマーズ法で走れ」―






老婆と老婆が二人三脚で走っている。





「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」
「ひっひっふ」




















「まるでラマーズ法のセッションだな!」

ガリレオは叫んだ。












4.「火に油を注いでしまってもあわてないで、挽回のチャンスは必ずやって来るわ」
  (「Ich gebe keine Hoffnung auf.」)


「『エヴァーラスティングサンライズ教団』、ですか?」

電車の中で私は一人の男性に話しかけられたのだった。
彼曰く、彼自分もテラ人だというらしい。
テラ人とテラ人は相互に認識が可能だと聞いていたが、やはりそういうことなのか。

「あぁ、そうだ。いま彼らの活動が活発化してきていてね」

その男性は警視庁に勤めていると言った。
私の知る彼の情報はそれだけであって、それ以上の事は分からない。
彼は「エヴァーラスティング・サンライズ教団」の存在にたいそう頭を悩ませているようだった。

「エヴァーラスティング・サンライズ教団といえば私だって知っています。『永遠に太陽を昇り続けさせる9つの方法』を実践している政府非公認の団体。言ってしまえばカルト集団で・・・」
「しっ!・・・奴らはどこに身を潜めているか分からない。そういう言動は止したまえ」
「はぁ、すみません」
「で、そのエヴァーラスティング・サンライズ教団だが・・・あぁ、ところで君、エヴァーラスティング・サンライズ教団についてはどう思う?」
「どうって?」
「まぁ、その信念に肯定的か、否定的か、とか」
「私は・・・そうですね・・・」

思案している間に電車はプスススと音を立てて駅に到着した。

「おっと、失礼。私はこの駅で降りるよ」
「あぁ、はい。さようなら」
「いやぁ、久しぶりにテラ人と会えたのが嬉しくてね・・・では、またいつか!」


そう言って微笑むと彼は電車を降りていった


それから閉まったドアの向こうで射殺されたのだった。

わたしはそれを見届けていた。
電車はふたたび動き出す。









―カルデラ駅の伝言板・1―(6月7日)


 ヴァージニアーッ!!
  オレだーッ!!!
   結婚してくれーッ!!










5.Schlaf




スペシャル参考サンクス:

・エキサイトドイツ語翻訳
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