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眼鏡

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洋二君は女子生徒のアイドルだ


彼に恋焦がれる女子も多い


私もその一人だ


彼の周りにはいつも可愛い女子が沢山居る
きっと彼は可愛い娘を彼女にするんだろう



奥手で、何の取り得もない私が
彼に近づける訳もない
彼も私なんかに話しかけられても嬉しくないだろう



分厚い、不恰好な眼鏡の位置を直し、私は帰路につく
考えるのは洋二君のことばかり


洋二君はいわゆるイケメンだ
女子の多くはそのルックスに恋をしているのだ

でも私は違う
洋二君とは、小学校からずっと一緒だ

あの頃は良かった
洋二君と普通に話することが出来ていた

中学に入り、彼は変わった
見た目もそうだが、いつの間にか彼の周りには
可愛くて、スタイルもいい女子が取り囲むようになった

彼も私と話すことはなくなった
きっと周りの女子と話しているほうが楽しいんだ


どんどん遠くなっていくなぁ


でも私の気持ちは変わっていない
小学6年生の夏、クラスの皆と肝試しをした

怖がる私を洋二君は手をつないで導いてくれた
やさしく、大丈夫? と、声をかけてくれた

私は、彼の優しさに恋をしたのだ


でも彼は変わってしまった


今尚彼に恋をしているのは
きっと昔の彼と今の彼を重ねてるんだろう


早く卒業して、彼の居ない生活を送りたい
そうすれば、私は分相応な恋が出来るんだろう




ある日、友人が私に言った

「眼鏡、しないほうが可愛いんじゃないの?」

その考えは無かった
幼い頃から眼鏡をしていて、もう当たり前の存在になっていた

無理矢理諦めようとしていた心に、小さな声が響く


眼鏡をしなければ、もしかしたら、洋二君も私に声をかけてくれるのかな


私はその日のうちに、母に相談した
母は驚いていた

当然だ
今まで眼鏡が嫌なんて言ったこともないし、私自身嫌だと思ったことも無い

母は私の顔を見て、小さく笑う

「いいわよ。その代り、ちゃんと眼科の検診受けて、ちゃんとした物じゃないとダメよ?」

母は私の心が読めるのだろうか
コンタクトにしたいと言ったが、その理由は言っていない
なのに母の表情は全てを悟ったようだった

恥ずかしさで頭を掻き回したい衝動を必至で抑えた





コンタクトにしてどれくらい経ったんだろうか
最初は違和感があったが、今はもう慣れた

私と洋二君の距離は相変わらずだ
眼鏡を外した程度の勇気はあっても
変わってしまった彼に話しかける勇気は無いのだ

私にコンタクトを勧めてくれた友人は
コンタクトの方が可愛いと言ってくれた

変わったことといえばこれ位か




部活に精をだす生徒の声がいつの間にか無くなっていた
いつに無く遅くまで図書室で本を読んでいた

早く帰ろう

私は図書室を出て、一階の下駄箱に向かう
校舎内にはもうあまり生徒も残ってないようだ

階段へ向かう私を呼ぶ声がした


「お!横田!」

それはいつも聞いている声
でも私とは関係の無い会話の声
その声が私を呼ぶ


洋二君・・・


「鞄忘れちゃってな、取りに来てたんだ」


何でそんな大きな物を忘れて帰るのか
そしてそれを言う彼の表情をみて思わず笑いがこぼれてしまう


下駄箱までの短い時間、私達は数年ぶりに言葉を交わした
何の他愛も無い、普通の会話

小学生の頃の先生が、気が狂ったように出した大量の宿題
クラスの男子のあだ名の確認、何の他愛も無い会話

嬉しい、でも下駄箱を出るとそれまで

女子のアイドルの彼と、冴えない私
相容れぬ関係にもどり、もう言葉を交わすことも無いだろう


外はもう暗くなりかけていた
楽しかった、短い時間も終わり


「お前の家って、そんな遠くないよな?一応送ってくよ」


彼が何を言ってるのか私には判らなかった


「お前、小学の時の肝試しで暗い所怖がってただろ?覚えてない?」


忘れるものか
私はその頃の君に恋をしているのだ
最も、君は変わってしまったのだけれど・・・


変わった?


彼の表情は、あの時のままだ


彼自身は、変わっていない


何故か、彼にかけられた意外な言葉と表情だけで確信を得ていた


彼は家の前まで私を送ってくれた
あの時のように、手は繋がなかったけど
あの時と同じ、優しさを私に向けてくれた


彼と別れ、家に入る
私は洗面所でコンタクトを外した
そして、外ではかけなくなっていた眼鏡をかける


コンタクトはもうやめよう


本当の私は、こっちだ


私は彼が変わったんだと思っていた
思い込んでいた


今日、私は眼鏡を外した

心にかかる、眼鏡を外した




私は自分自身と彼を、色眼鏡で見ていたのだ









                            おわり
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