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4話 共感する変態

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ブルマとボロボロになった養豚が入店しても
ファミレスの店員はそのスマイルを崩さなかった。

さすがのプロ根性である。

と、感心するも束の間、笑顔を一つも崩さない店員に案内され
有無を言わさず、人目に付かない奥の席に通された。


4.共感する変態


テーブルをはさんで、僕の目の前には横山と幸子が並んで座り下を向いている。
僕の右手通路側には美穂、左手側には川原。

「…………。」

それぞれ無言でメニューを開くと、適当な注文をする。
狙ったかのようにカツ丼を頼む横山よろしく、始まる事情聴取。

「どういうことなの?」
最初に口を開いたのは美穂。

「どうって…」
幸子が俯いたまま、呟く。それを遮るように横山が口を開く。

「ぼ、僕はただ、助けようと…」
        「了解、とりあえず黙ってて。」
                「――かつ丼のお客様は?」

流れるようにかつ丼が横山の前に出現する。
美穂に遮られた横山は、黙りこむと、かつ丼を前に無言で割りばしを割る。

「――どういうことなの?」

再度、真顔で、同じ質問を言い放つ美穂。
その意図していることは明確だった。

「…違うわ、私はただ…」
         「何が違うの?」
有無を言わさぬ気迫を放つ美穂。


暫しの沈黙の後


「――要は、“変態に絡まれてたところを助けようとした奴が返り討ちにあった。”そういうこと?」
美穂が確認するように言い放つ。

幸子は俯いたまま、身動き一つしない。

横山はかつ丼を食べている。

ファミレスの雑踏が行き交う重苦しい沈黙の中。
僕の中では、美穂の発言は当たらずも遠からずといったところだと感じていた。
あえて訂正するならば、そこにいた3人全員が特殊な趣向を持っている時点で
“その場において変態は変態ではない”ということだった。

しかし、幸子が黙ってるということは、本人にもそういった(自分が変態だという)自覚があるのだろう。


再度、暫しの沈黙の後


「――いいじゃん、東山がもう許すって言ってんだし」
それまで黙っていた川原がドリンクバーのコップを傾けながら言う。

それに応えるように、ため息のような呼吸で美穂が口を開く
「――…まぁ、ね。別に私は警察じゃないし、取り調べられる立場でもないしね。」
そう言うと美穂もコップに手を伸ばすとその淵を口へ運ぶ。

 “でも” そう、美穂が前置きをして口を開く。

「でも、友達に迷惑をかけるのはダメなことだと思う。」
そう言うと、美穂は視線を遠くへ投げた。

当然の正論に反論は出来ない。

仕切りなおすように川原が口を開く。
「とりあえず、幸子はそれでいいのか?これからもここにいる奴とは顔を合わせるんだから
ここでとりあえず何か言っといた方がいいと思うぞ。」





「…“かわいいね”って言われたの…」






「は?」「え?」

「小学生のころ、先生に“ブルマ似合うよ、かわいいね”って言われたの…」

「それが…理由?」

「…突き詰めればそうだと思う。その頃、私いじめられてたし、いつも“きたない・汚い・穢い”言われてたから…毎日…すごく辛かったの…、でも、体育の時間に言われたの、“ 似合うよ ”って。それって “ きたなくない ” って…ことでしょ?ブルマを着れば私もきたなくなくなると思って…そしたら、すごく気が楽になったの…。それ以来ブルマが私のよりどころになった…んだと思う。」


ファミレスの雑踏だけが行き交う。


「…ぼ、ぼくも…」
沈黙を断ち切る様に横山が口を開く。

「ぼ、僕が…2次元を、好きなのは…。さ、3次元の、女子にはいい思い出無…いけど…。ほら…“2次元の、女の子は裏切らない”…でしょ?い、いつも、ありのままの…ぼ、僕を受け入れてくれる世界だったから…好きになったし…幸子…さんの気持ちも少し、わかるかも…」

そう語る横山の口の淵には卵黄の欠片が付いている。

「リアルの女子を前にして良く言うねぇ」
語る横山を笑顔で威圧する美穂。

「…でも、共感できるってことは良いことなんじゃない?特に今日のことがあったなら、なおさらね。」
ストローに手をかけながら、呟くように、美穂は言った。



川原の声が聞こえた

「俺もあるよ、そういうの。」
「「「え?」「は?」」」

突然の告白のような声のトーンに、横山以外3人の視線がコップを傾ける川原に移る。

「ん、いや、別に大したことじゃなくて、誰だってあるだろ、そういうのって。(笑」
そう、川原は笑顔で答える。




横山「――ごちそうさまでした。」




ファミレスを出ると
外は帰宅の人々が行き交い賑わっていた。
藍色の空に薄い半月が浮かんでいるのが見える。

帰路につくのは僕らも例外じゃない。

「“反省会”お疲れ様。」
美穂はそう言うと、ニコっと笑い、ヒラヒラと手を振りながら背中を向け、雑踏の中に消えていった。

「…東山君…ここのカツ丼、悪くないよ。」
そんなことは聞いていない。が、去りゆく汗に濡れたシャツの背中が妙な説得力を醸し出していた。

そんな折、視線を川原へと向けると、幸子が小声で川原に話しかけていた。

「あの…川原君はブルマとか…」
「俺は、大丈夫(笑」

川原は、そう笑っていた。
4

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