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第六話  二対一

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第六話  「二対一」


起:賢者か愚者か

 ”天は人の上に人を作らず”
 とある有名な人物の言葉だ。
 ”人は皆平等である”と言う名言として知られるが、実はこの言葉、続きがある。
 言い回しはもう忘れたがこんな感じであった。
「されどこの世には身分の上下があり金持ちや貧乏人がいる。何故か?それは賢いか、そうでないかの違いである」
 つまりは”偉くなりたければ勉強しろ”と言うその人物の職業を象徴した様な言葉であったのだ。
 この世は賢くなければ馬鹿を見る。そして賢い者のみがこの世で上手く立ちまわれるのだ。

 話を戻そう。
 ついに超人Xが現れたのだ。それも堂々と正門からゆっくりと歩きながら。しかしながら、その姿を確認出来るにも関わらず、警備の兵隊、警察官らはまったく動く事無く、美術館周辺は静寂に包まれていた。
「これはおかしい!すまんが二人共見て来てくれんか?私と足利大佐でこの場を見張っておく」
 大森警部が小声で佐伯先生と綾ノ森少佐に願い出る。
 二人は目を合わせる。どうやら同じ考えである様に見えた。
「駄目です。今は待ちましょう、奴が此処に来るのならば作戦通りこの場で待つのが上策です」



承:あいつが超人X

「何を言っている、すぐ傍まで来ているんだぞ。此処は任せていいから見て来てくれないか?」
 大森警部は再び彼らに促すがやはり二人は動かない。
「大森警部、綾ノ森少佐の申されるとおりです。待ちましょう」
「それとも御自分で行かれては如何でしょうか?…行けない理由でもあるのですか?」
「いや、そう言う訳では無いのだが…」
 ここまで聞いて佐伯先生と綾ノ森少佐は再び目を合わせる。
「もう既にばれていますよ、大森警部。あなたが超人Xですね」
 二人は同時に立ち上がり、体を張って永遠の炎の前に立ち塞ぐ。大森警部は二三歩後ろに下がると少し笑みを浮かべ、二人にこう言った。

「御名答!流石はこの国でもっとも機転の利くお二人だ。いつも通りには出来ない訳だ」
 そう言うと室内に響く、大きな笑い声を上げた。



転:二人の推理

 一通り笑い終えると、超人Xは静かな口調で二人に問いかける。
「何故分かった?」とだけ
 それに対し、綾ノ森は静かで冷たい口調で話しだす。

 彼はこう言ったそうだ
 ”違和感があった…”それが一番重要な部分であった。静かな足利大佐、静かな警備の兵隊達、何もかも”違和感があった”
 そして決定的な一言
 ”「これはおかしい!すまんが二人共見て来てくれんか?私と足利大佐でこの場を見張っておく」”
 これである。
 何故なら、真っ先に動くべきは足利大佐と大森警部なのだから。彼らには指揮権があるが臨時の助人(すけっと)である綾ノ森少佐と佐伯先生には指揮権が無いのだ。
 綾ノ森少佐は現状の与えられた情報から正確に物事を把握し、大森警部を”危険”と判断したのである。

 そして次に佐伯先生が言葉を紡ぐ。

 佐伯先生は此処に来た時、既に大森警部を怪しいと踏んでいた。
 それ故に、大森警部から”「で、何をして来たのかね?何か分かったのか?」”と言う問いにも答える事は無かった。
 もちろんこの時点では大森警部が超人Xであると言う根拠は無い。
 決定的であったのは綾ノ森と同じく”すまんが二人共見て来てくれんか?”と言う言葉であったが、他にも佐伯先生なりの推理があった。
 まず、彼が遅刻した理由は周囲で美術館内の様子を伺っていた事にある。カレイライスの差し入れがあった際、スグに正チャンら少年探偵団に連絡し大阪府警に確認を取って貰ったが、”そんな事実は無い”と言う回答が来た。
 それ故にカレイライスは”罠”である可能性が浮かび、それを持ちこんだ大森警部を危険人物と認識した。
 そして次に正面玄関前を闊歩する超人Xの姿に”ある物”を連想させた。
 超人Xと直接対話をした場所に有った物
 そう”活動写真”である。
 おそらく差し入れのカレイライスの中に入っていた物は催眠薬、現在”大変静かな足利大佐”はその具合を見ても寝ている様であり、階下の兵士達は皆寝ているのであろう。
 起きているのはそれを食べていない三階に居座る三人のみ、おそらく皆寝てしまっていた場合は不要な仕掛けであったその”活動写真”は三階からのみ見える様になっていた、実際に”それ”を食べなかった二人の為に活動写真は見事に役目を果たした。
 その出来栄えは、佐伯先生も大森警部を怪しいと考えていなかった場合騙されていたかもしれない程であった。
 これらの状況下から佐伯先生は三階に居残る事を決め、現在に至る。



結:ピースメーカー
 
 再び超人Xは高笑いをして、二人を睨みつける。
「素晴らしい。完全に見抜かれてしまっていたようだ。だが私を捕まえる事も”永遠の炎”を守る事も出来ないよ」
 超人Xは素早く懐よりColt Single Action Army、通称”ピースメーカー”を取り出し、それを無抵抗な足利大佐に向けた。
「美学に反するのは望まないが、私は仕事を優先する。両手を上げ後ろに下がってもらおうか。抵抗するつもりならば、まずこの役立たずの鬼軍人に大穴を開けた後でお相手致しましょう」

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