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レシピNo.4 遠話機

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~オリバー先生と助手オットーのおしゃべり~

「先生、お茶が入りましたよ~」
「ありがとう。
 せっかくだから休憩にしよう。きみもフィナンシェでもあがりながら一緒にどうだい?」
「はい!」

 ***

「ところでオットーくん。
 先ほどのひとはお知り合いかい?」
「あ、いえ……顔見知り程度ですよ。同郷のよしみ、というやつです」
「ああ、そうだったね。
 それでは、かれを信用しても大丈夫かと、聞かれたら困ってしまうね」
「いえ、……
 実をいうと僕も、少し危ういものは感じてました。
 ただ、彼は悪い存在ではないんじゃないか、そう思われます。
 わざわざ指導教官を訪ねて状況確認しようとするなんて、プロジェクトとタイム君への本気を感じますし、……
 あの人がタイム君の名前を言うときの様子。
 まるで恋でもしているように僕には見えましたから」
「恋か…なるほど、言い得て妙だね。
 ぼくはタイムくんを直接には知らない。けれどかれの論文は本当にすごい。ぜひ、更なる研究を進めてほしいと思っていたんだ……先生もそのことは、最後までおっしゃっていたし、ね」
「そのことなんですが先生。いまそのタイム君から面談の申し込みがあったんですよ。OKしてしまってよろしいですよね?」
「ああ、もちろんだよ。
 ぼくから返事しよう。かれにかけてもらえるかな」
「はい」


レシピNo.4 遠話機

 その内側に、風精霊『エコー』のパターンを切れ目なく刻んだ管の一端に音波を導くと、音波は他端まで逸失も減衰もされる事なく伝播する。この方法を応用して、遠距離間での直接音声通話を可能にした機器。
 最近では、パターンの密度や傾斜の調整により、音声伝達のタイムラグがほぼ0にまで短縮された、より使い勝手のよいものが生まれている

 ――錬金術最新アイテム展覧より


 手順1.新任教師(前)

 通話を打ち切ったオレはどっとタメ息をついた。
 あーもー調子狂うわ…フツー逆だろこーゆーのって。
 オレでさえ、ラサに敬語を仕込むまでどんだけ苦労させられたやら。
 脱力のあまり、何だかオレのカオまでふにゃけてきちまったよーな気がする。
 オレは立ち上がり、壁にかけてある鏡を見た――ふにゃけてる。
 ばんばんと気合いを入れ、オレは監視に戻った。
 折しも小僧がラサをどー呼ぶかってんで「先生」「お師匠さま」「ウォータムさん」と列挙しており(その間ヤツが天国にいるかのよーな面してたのは言うまでもない)んなもんラサでいいラサでと強権発動してオレはハナシを先にすすめた。

手順2.新任教師(中)

 そんなこんなで茶を飲み終わると、ラサは立ち上がった。
「さってと、それじゃアカデミーに行くか。
 まずはお前のセンセに挨拶だ」
 小僧は飛び上がる。つか、そんな勢いでヘンジする。
「はい!
 ぼく先生にお会いするの卒業以来なんです。
 早速遠話かけますね!」

 しかしそこでオレたちは軽くショックを受けた。
 先生は――アルマンド先生は、先月末に退官していたのだ。
 オレが何度も通ったあの部屋に、もう先生はいない。

 いや、何も亡くなったわけじゃないのだ、湿っぽくなることはない。
 既にそこには後任がいた。
 オリバナム=W=フランキンセンス。
 アルマンド先生の弟子であり、同じ時空間分野の後継者。オレにとっては先輩ということになる(先生のことを言わなかったところを見ると、どうやらラサは、この男にコンタクトをとったようだ。まあ細かいとこなんだが)。
『先生から、君が訪ねてきたらぜひ頼むと、何度もおおせつかったよ。
 ぼく自身もきみの論文に大いに好奇心をかきたてられていた。
 こちらからもお願いするよ。ぜひ、きみと会わせてもらいたい』
 遠話の向こうから、温厚そうなまだ若い男の声はそう言った、つかいっそ口説いてると言っていい勢いだった。

 その勢いは対面しても変わらなかった――つーか加速した。
「はじめまして、フランキンセンスです。きみがよければ、オリバーと呼んでください」
「は、はい――オリバー先生。ではぼくのこともタイムとお呼び下さ…あ、もう呼んでらっしゃいましたよね」
 出迎えたのは、適度に糊のきいた白いシャツ、明るいブラウンの髪もさわやかな、それでいて父性的な、落ち着いた雰囲気も併せ持つ男。
 そいつと小僧は、笑顔を交わすとしっかと両手で握手した。

 オレに言わすと、大家もそうだが、コイツも要注意人物だな。
 まあ、小僧には基本、ラサが張り付くコトになっている。ほかのヤツとの間違いは起きないだろう――起こさせない、だろう。
 ラサは、オレに執着してる。
 それは、オレと同じ、ように。
 まあ、助手の眼鏡(今小僧に紹介された、ちなみに名前はオットーだそうだ。ぶっちゃけ探偵の助手みたいなカッコをしてる(笑))はただのぼけーとした魔族だ、ほっといてかまわないだろうが。

23, 22

  

手順3.新任教師(後)

 やたらとにこやか、しかもイヤミなくにこやかなさわやか男は小僧に言った。
「ウォータムさんからのお申し出、きみももう聞いているかい?」
「あ、はい。跳躍時計の実用化研究の、スポンサーになってくださると……」
 男、改めオリバーは頷く。
「今日の朝、ぼくのところにもウォータムさんがいらしてね。きみのことをスカウトしたい、ついては…と打診を頂いたんだよ。
 その時ぼくはすごくうれしかった。きみの研究はすばらしい。やっとそれをわかって下さる方が、アカデミーのそとにも現れてくれた、とね」
 一応先輩、かつ指導教官(候補)に言うのもナンだが――ああっ、コイツも学者バカだ! 時間を移動なんてネタにヘタに関わったらヤバいって、フツーの社会人なら誰でもわかるっての!!
 ……まあ、当時のオレもヒトのことは言えたもんじゃないが。
 オリバーは続ける。
「C&N社は知らぬものとてない、大きなしっかりした会社だ。だから、そこでお世話になれるのは君にとって悪いことじゃないと思う。
 もちろん、大樹のかげによるのはちょっと…というのなら、決して強制はしないよ。
 でもその場合でも、ぼくはきみを応援していきたい――ぼくはきみの、正直なところファンなんだ。協力は惜しまない。
 もちろん、それをきみが必要とするかぎり…だよ。あくまでもね」
「先生……!」
 おーいお前ら、うるうる見つめあっていいムードかますな~。一応初対面だろ~。
 C&Nについてツッコむ気力はすでにない。そこがどーいうていたらくかは、このオレの過去を例にとれば充分だろう――ぶっちゃけ禁成人、つか健全なおともだちの皆さんは一生みなくていいってカンジのアレだ。
 ああやっぱラサシメよう。帰ってきたらもうその場で。甘んじて受けろ。オレをそういう男に育てたのはラサ、お前なんだからな。
 報告書がかけなくなる? んなモンどーだって構わない。
 ハナっからそんなもん、単なる口実に過ぎないのだから。

 そのまま一通り盛り上がると――もとい、C&N社の外部研究員として、研究生待遇でアカデミーに出入りすることを宣言すると(アカデミーはそこんとこ寛容だ。公立だからな)――用意してあった仮の身分証と図書カードを受けとり、小僧とラサはオリバーの研究室を出た。

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