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「ダンスオブノースノース」作:熊

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 真っ赤な世界。一人の男がひとつの大きな魔方陣を守り続けていた。

「おーい」

 背後から声がする。声は聞こえども姿は見当たらず。あるのは1000年前からこの場所に浮遊する魔方陣のみ。気が遠くなるような時間の果てに、ついに私の頭も狂ってきたのかとその男グルグルは思考をめぐらす。そしてまた、魔方陣の前でたたずむのだった。

「なーなー、何シカトしてんだよー。1000年一緒にいる仲だろー?」

 やはり聞こえる。どうやら幻聴では、ないようだ。奇怪な規則性を持ち浮かぶその円陣の奥から声が聞こえるのだ。

「おーいってば」

―なんだ?…というか貴様は誰だ?
 グルグルは1000年ぶりに口を開いた。口はその機能を忘れてはいないようだった。

「会・話・成・立!」

―…。

「おおっと、黙るなよ。こちとらせっかく1000年ぶりくらいに話すことが出来た喜びに打ち震えてたってのにぃ、お前コミュニケーション能力ないだろ」

 余計なお世話だ、とグルグルは思った。

「そうだったそうだった。俺が何者か、という質問にまだ答えていなかったな。質問に質問で返すとテストで0点って言われたっけか。お前に質問するにはまずその質問に答えなくちゃあ」

 グルグルはその魔方陣に何が封印されているのかを知らなかった。ただ偉大なる先代の魔方陣の守り手には、邪悪なものを封印しているので守るように、と。そしてその魔方陣から溢れる魔力をお前の生命力に変換するように少しいじっておくから死にたくなったら代わりの奴をみつけてその場所から離れるように、とだけ言われていた。グルグルはこの仕事を名誉な事と信じて疑わず、ただひたすら1000年間魔方陣の前にたたずんでいた。
と、思い込もうと努力した。しかし本当は彼はただ死ぬのが怖かった。だからなんとなく1000年生きてみた。もっと死が怖くなった。
 すると、1000年間ずっと沈黙を守り続けた幾何学模様が急に喋りだしたのである。グルグルは狼狽した。

「どーも、魔王です」

 物騒な言葉が聞こえてきた。そしてたてつづけに、聞いてもいないのに喋りだすまほうじん。はじめてのまほうじん。

「いやー、1000年前にミグミグとかいう変な格好した奴に封印されちゃってさー」

 ミグミグとは先代の名前である。

「封印される前調子に乗って食べ過ぎちゃってねー、ブクブク太ってたんだよねー。まさか封印されるとは思わないじゃん。ほら、魔方陣の出口って小さいでしょ?おなかがつっかえちゃってね」

 これ通用口だったの。

「ミグミグひでぇよなー。そうそう、1000年間お前に魔力を吸われ続けてさ、あと少しでつっかえたポンポンもここから抜けそうなんだけどね。それまで黙っていようかとも思ったんだけど…」

 それは困る。と、グルグルは思った。魔方陣を守るのがグルグルの役目だからである。

「一つ問題があることに気づいてお前に声をかけてみたってわけ。」

 グルグルは目線をそちらへやり、話を促した。

「ミグミグってのがまた策士でさぁ。丁度この魔方陣を通り抜けることができる体型が、またギリギリ俺が消滅するかしないかぐらいの魔力量なわけ」

「俺としては千年も待ったのにそんな大博打は打ちたくないわけよ。死ぬか生きるか、そんなのは嫌だ。確実にここを通り抜けたいのだ」

―で、なぜ私に話しかけた。

「俺はお前に死なれたら困る。なぜなら俺がここに封印されているという状態において、お前が俺の魔力を吸収する以外に自分の魔力を放出するスベを知らないからな。お前がいなくなったらここからは出られんのだろう」

―ふむ。

「だからといって、お前に魔力を吸い尽くされると俺は死ぬ。そんなのは嫌だ」

 どうしようもない、堂々巡りってわけだ、と魔王もとい魔法陣は続ける。

「というわけで俺は何とかするスベ、それを探しに行こうと思う。お前が俺の魔力を吸い尽くすまで、というタイムリミット付きの旅だ」

―なん…だと。貴様、動けるのか?
 私の言葉を無視する魔法陣。

「まぁお前が俺についてこなかったらそこで終わりの提案なんだけども。このままダラダラここにいるよりもいいかなぁ、と思ってダメもとで聞いてみた」

―ひとつ聞きたい。

「動けるのかって質問か?」

―いや、違う。俺が死んだら魔方陣は解けるんじゃないのか?

「え、お前そんなことも知らずに1000年も?」

―どういうことだ?

「お前が死んでも俺はこのままだぜ?ハイ、ひとつだけの質問終わりね。俺もう行くわ、時間が惜しい」

 そういって1000年もの間浮遊し続けていた魔王もとい魔方陣はゴトリと音を立て地面に落ち、ゆっくりと転がり始めた。

―ちくしょう、動き方が実に原始的だ!

 私は魔方陣の後をゆっくりと着いて行く。



 真っ赤な世界、ただし魔法はしりから出る。






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