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「相棒」作:山田一人

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 すがすがしい青空の下、俺たちは大草原で風を切る。
 ここでは俺たちを縛るものなんて何もない。ここは俺たちが唯一自由になれるところだ。
 俺はこの大草原で風を身体中に感じながら走るのが大好きだった。相棒もきっとそうだと思う。昔から今日みたいな晴天の日には何も考えずに駆け回っていたんだ。いつだってそれが一番の楽しみだった。それは今も変わらない。
 でもこれからは……これからはどうなのだろうか。
 今日だって本来ならよけいなことを考えずに楽しむはずだった。実際、相棒は無心でこのひと時を楽しんでいるはずだ。俺だって一応は楽しんでいる。
 でも俺は違う。この後何があるかを知っているから。もうこのひと時がやってこないということを知ってしまったから。
 だから何も考えずに楽しむなんてことはできないんだ。相棒に悟られないため、表面上は楽しんではいるのだけれど。
 なあ、相棒。お前はこの後殺されちゃうんだ。俺さ、聞いてしまったんだ。帰ったらお前は処分されるんだよ。
 なあ、相棒。俺たちって小さい頃から一緒だったよな。あの頃は俺もまだ子どもだったから色々なものに怯えてて、お前と会ったときも不安でいっぱいだったんだ。何せ言葉が通じ合わないんだからさ。でも、すぐに仲良くなれたっけ。むしろ子どもだったから言葉なんかなくても心を通わすことができたのかな。
 なあ、相棒。このまま逃げちまおうか。お前が死ぬ必要はないんだ。お偉い人間の勝手な判断で殺される必要なんてないんだよ。
 なあ、相棒。俺は今ほど強く願ったことはないよ。お前に俺の言葉を伝えられたらって。そうしたら、俺が聞いたこと、これから起こることを全部お前に話していたと思う。そしてお前に選択をさせたと思う。このまま帰るか、それとも逃げるか。
 でもさ、そんな願いかなうわけがない。俺はお前に何も伝えられず、お前は何も知らないまま、時間だけが過ぎていくんだ。
 ほら、気づけばもう帰る時間だ。相棒の様子を伺うと、まだ走り足りなそうな表情をしている。
 そうだよ。お前はまだ走っていいんだ。これからもずっと走っていいんだよ。
 恨まれたっていい。俺はもう心に決めた。相棒、絶対にお前を死なせるもんか。
 俺は帰るべき方向に背を向けると、全速力で走り出す。
「お、おい! どこ行くんだよ!」
 どこ? そうだな――俺たちの知らない世界、かな。
「おい、止まれって。俺は王子なんだから帰らなきゃ行けないんだよ」
 相棒は手綱に力を入れて、俺を静止させようとする。でもな、相棒。そんなの全然痛くない。お前が死んだときの心の痛みを考えれば、こんなの蚊に刺された程度にしか感じない。
 お前の父さん――王様は国を捨てて一家心中をするつもりなんだってさ。俺は吼える。相棒には伝わらない。
 相棒に選択できないなら、俺が選択するしかないのさ。後戻りはもうできない。見知らぬ景色、果てしない空。あの先にはいったい何があるんだろう。
 相棒、お前が俺をどう思っても、俺はお前のために生きるよ。
 陽が沈み、黄昏れていく空に――俺は吼えた。
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