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なりたきりあ

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彼女は姿かたちがなかった。
きちんと生を受けていたが、母親の腹は膨れなかった。なぜなら、彼女は姿かたちがないためにありとあらゆる物をすり抜けてしまうからだ。
彼女は意識しかもっていなかった。
そして、姿かたちがない代わりに人の心を読む事ができた。
しかし発声器ももちろんなく、人と話すことはできなかったからあまり嬉しくはなかった。
彼女が19歳になった頃、彼女はある男から好意を持たれているのを感じた。
彼女は不思議な気がした。
なぜ、この男は見えない私を好きになどなったのか。
20, 19

  

彼女は次第に不安になってきた。
いままで誰かから考えられることすらなかったのだから当然だろう。
人間は理解できないものが気持ち悪いのだという。今度はだんだんと気持ち悪くなってきた。
男が彼女のことを捜し始めているのを知ったら、もっと気持ち悪くなった。
なんで私を追いかけるんだろう。もう私のことを考えないで欲しいのに。
気持ち悪い。
しかし少し面白かったので観察していた。
どうせ向こうからは見えないのだ。
22, 21

  

男は会社を解雇されたようだ。
しかし彼の思考はほぼ彼女で埋め尽くされている。
彼女はもう気持ち悪くて男を見るのすら気持ち悪かった。
でももうじき男は死ぬ。食べるものももう無く、それ以前からかなり衰弱していた。
最初はただ面白いという理由だけで観察していたが、最近は男の死を見るために観察している。
ようやく、男が死ぬ。
男は最期に彼女の方を見た。そして満足げな顔で死んでいった。
見られたことに彼女は少し驚いたが、それより男の死が嬉しくてしょうがなかった。
彼女に自然と笑みが浮かんでいた。
24, 23

俺と…お前だ! 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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