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セルモーター

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 「パイロンにもっと寄せろ、ブレーキが甘い、ってかそもそもアクセル踏めてないだろ、アクセル踏もうとおもうな。床を踏み抜くつもりで行け!!」

 サーキットのパドックで怒号が飛んでくる。自動車部の先輩からキツイ指導を受ける。
乗り始めでこんなところ連れてこられて、いきなりタイム出せってそりゃ無茶だよ。
早速EGに乗り始めハッピーカーライフを期待していた身としては、

正直嫌になる。

でも、

どんなに嫌になってもこの部をやめられない理由が僕にはある。
 さっきから怒号を浴びせてくるこの鬼教官こそ、高校時代に僕を振った先輩だからだ。


春、大学に入り、授業になれてきて、体育館で催されていた新歓大会にてヲタサークルを物色していた僕は、

「トンダ?」

という声に振り向いてしまった。そこに居たのは、あの生物部の先輩、山野さんだった。

生物系が好きだった先輩はそのまま理学部に進学していた。先輩が居たから、あえて地元ではなく、この大学に入ったというのは無くは無い。もちろん先生からは、進路理由を問いただされたりしたが、親が放任主義だったので先生も諦めて、行くなら行けよという感じで来てしまった。

まあ、ともかくキャンパスで会えたら、というかすかな希望を広大な敷地を前に早々に諦めていた僕には、声を掛けてもらえただけで、僥倖といったところだった。但し、こんなヲタサークルの机の前でなければもう少し恥ずかしい思いはしなくて済んだのだが。

「お久しぶりです」
「へえ、ヲタクだったんだ」
「あ゙ぁ、ハイ(知られたくなかったぁ)」
「私もヲタクなんだ」
「へっ?(嘘だっ!!)」
「車ヲタクなの。車興味無い?」
「車ってどういう方向の?(車かあ、だいぶ興味あるけど、この人車好きだっけ?)」
「本格的に競技やるんだ」
「レースとか?」
「そこまで行くと金掛かるから、タイムアタックとかだね」
「ははあ、(タイムアタックとかw全然大したことないじゃんF1でもGTでも予選じゃん、車と車が競い合う感じ全然しないじゃん)おもしろそうですね」

 先輩の笑顔に見とれつつ、半分バカにしつつ、適当に相槌をうっていると

 「じゃあ、うちのぶ見にこない?」
 一瞬不気味に笑顔が3割増になった気がした。
 「えっ?ぶ?」
 「じどうしゃぶ」
 「まあ、良いから見に来てよ」
 「はあ、はい」
 
 先輩の笑顔に騙されてフラフラと付いていってしまった。連れていかれたのは、体育館の隅の薄暗いエリアだった。そこには2つのバケットシート並べてハンドルコントローラで対戦しあう、おっさんが二人いた。そしてその周りで笑顔を振りまく謎のイケメン。

とてもシュールだ。一瞬にやついた僕の背中を知ってか知らずか先輩が思いっきりドついて、一言

「一匹ゲットだZE!!」

えっ、いつから僕モンスター?しかもゲットってただ見に来ただけなのに・・・
おっさんが声に気づいて振り向きつ・・・振り向かずに視線は画面上に釘付けのままで
「ようこそぉ、よく来たね」
その言葉言う前に、ゲーム止めれば良いのにと思いつつ
「どうも。ちょっと興味が有って見に来ました」
すると、今度は反対側のおっさんがシフトレバーを叩きつつ
「山野に?」
・・・。「いえ、車に」
「ひどいなあ、私には興味ないんだ ハハハ」
キツイ、言葉のカウンターパンチ、キツイ 
3, 2

  

「好きな車教えてよ。僕はSWが好きなんだ」
イケメンに聞かれた
「へえ~(えっ、何それ食えるの?えすだぶ?そんな車知らねえよw)」
「好きなメーカーは?」
随分矢継ぎ早に質問する人だな、まあ車は好きだしな好きな車くらいあるさ。ここは自慢げに
「トヨタのMR2って知ってる?あれ好きなんだよね」

「・・・・・・・・・・・。」

場が凍りついた。
おっさんが笑いをこらえてる、ってかさっきからおっさんと言ってるけど多分上級生たぶん。こらえるのが下手すぎてもうニヤニヤしてるようにしか見えないしね。
イケメンが残念な同情とか哀れみとかの目で見ている。仲間にしてあげますか?
山野さんといえば

「ブワッハッハー、ダセー、ワハハ」

オヤジ臭のする大爆笑。
あれっ?僕間違えた?なんかスゴイ間違えた?MR2はトヨタの作った日本車初のミッドシップエンジンの車で、とってもカッコよくて、とっても速くて。チョイスとしては悪くないはずなのに、なんで?

僕の頭が?と恥で一杯になってると、イケメンが流石に可哀想と思ったのか助け舟を出してくれた。

「僕が言ったSWって言うのはMR2の型式のことだよ」
ああ、さいですか。そうなんだ。うん、やっちゃったね 知ったかぶり。最高に恥ずかしいね。死にたいくらい恥ずかしいね。山野さんの目の前で知ったかぶり。むしろこの場でSW知らないの ボ ク だけだネ。消えてなくなりたい。
 型式なんかシラネーヨ、そんなの知ってるの車ヲタ位だよ、ああ、わかったよ、山野さん、あんた車ヲタだぁ。  こんな頭の中が爆発している僕は
「ちょっと用事思い出したぁ」
こんな捨て台詞しか残せずに、山野さんの声も聞こえずにその場を立ち去った。
もう嫌だ、せっかく山野さんに会えたのに ダ サ イ ままだ。
あの頃と何も 変わってないじゃないか。
「サスとロアアーム固着してるわ、やっぱ純正長いから嫌い」
「しょうが無いだろ、だからストリート足ヤフオクで落としとけって言っただろw」
「金無い」
「1デカパイ1000円払うぜ ヒヒヒ」
「指一本でも触れたら、手が滑って電動ドリル突き刺さっちゃいますよ ハハハ」
「冗談だから、冗談だから、マジに冗談だからぁあ、うわぁ、やめてぇ」
翌日、もう、昨日の都合悪い記憶の消去に成功した僕が、サークル棟裏の掘っ立て小屋もとい自動車部部室を訪れると、山野さんとヒゲの方のおっさんが卑猥な会話をしつつイチャついていた。・・・ぽかーん 因みに電動ドリルは作業着に絡まって止まっていた。
・・・本当にやるんだ・・・
「お、きたか少年」
おっさんが声を掛けてきた
「本田です、本田 直樹です」
「豚田だろw、その格好でホンダを名乗るなw」
山野さん、生物部の時から思ってましたが貴方は僕の事本当に愛してくれますね、もう貴方の愛は僕には耐えられそうに有りません。僕はMでは無いです、もちろん豚でも無いです。多少太ってるけど・・。
「そうかトンダか、良いあだ名だな」セクハラヒゲおやじに言われたくねえ
「そうか、うちの部入るのか?」
ヒゲが聞いてきた
「はい」
「残念、免許持ってねえやつは入れないんだ、免許とってから来な」
「免許もってますよ」
「マジで?w、冗談で言ったのに、気に済んな よあ うぇるかむ」 冗談でもそういうこと言うな!
どうやら受け入れられたようだ。にしてもこのおっさんだれだ?
「この人が4年で部長の田中さん」部長かよ
「っで、私が2年の山野 徹子 てへっ」自己紹介要りませんて、舌出しても無駄です。貴方の本性はモロバレです。
「よろしくお願いします」スルーに限る
「今日練習ないから、みんな居ないんだけど、今日の夜空いてる?」
「一応空いてます(いきなり何誘って来てるんだ?これも冗談なのか?)」
「じゃ、ドライブに付き合いなさい」
そう言って山野さんは車の下に潜って行った。
セクハラヒゲおやじ改め田中さんがジーとこちらを見てる ゲイ?
「まあ、とりあえず中入れや」 えっ、僕未だ・・・。
5, 4

  

ガレージは町の自動車修理工場といった雰囲気が漂っていた。実際そう変わらない気もするが、なんというか、雑然としている。そこら辺に足回りらしいパーツが転がっていたり、エンジンらしいものが、蓋を開けて放置されていたりしている。
田中さんが早速、触り始めた。
「あの、何をするんですか?」
「お前には分からないよ」
「教えてくれても良いじゃないですか」
「段々分かるようになるさ」
「イテッ」
「ゴメンな乱暴な性格なもんで」
田中さんが取り外したエンジンパーツの一部を無造作に放り出してきた。それが膝小僧に当たったのだ。どうやらエンジンを分解しているらしい
「オーバーホール整備ですか?」
「だから、お前にはわからねえって言ってるんだよ」
「教えてくださいよ」
「ただ気晴らしにバラしてるだけだ、直す気なんてさらさらねえよ」
な、何を言ってるんだこの人は?
「よく見ろよ、お前の目は節穴か?ブロックに大穴あいてんの見えないのか」
あっ、これ壊れらエンジンだったのか
「どうして壊れたんですか?」
「踏みすぎた」エンジン踏んで壊すのかこの人は、ドンだけ怪力なんだ?
「アクセルの踏みすぎ、リミッターカットしてたからな」
「バラしてどうするんですか」
「捨てる」
・・・・・・・・・・・ポカーン
この人がすることが理解不能な事が多すぎる。
「ところで、お前乗る車はもう決めてるの?」
「やっぱり、後輪駆動がいいですね」
「漫画の読みすぎだなw」
「そうですか?」
「ケツ掻きなんて、遅いだけだ」
「なんでですか?運転しやすいじゃないですか?」
「全く分かってないな、FFの速さが。」
「でも、レースだとFRかMRばっかりじゃないですか」
「そりゃ、レースならな、と言いたい所だが、レースでもFFは速いんだがな」
「でもゲームでもアンダーばっかり出て」
「FFはアンダーが強いってか?まあ、今日のドライブから帰ってきてからもう一度言ってくれ」
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