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04 はじめてのパトロール

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 一週間はあっという間だった。
 高校生活に慣れた三年生には、たった一週間位では大して慌てるような出来事も起きない。
毎日決まった時間に、寮を出て昼食を購入し、登校する。
昼休みには、いつものトイレに篭り午後の授業が終わると、補習授業が無ければ、そのまま下校。
この日常は殆ど変わっていなかった。
 そんな中一つ、変わったことといえば。
「岡山くん、昨日の『おざなりマスカット』見た?」
 下校途中の通学路にて、宮崎は俺に尋ねた。
「見てない、ていうか寮にテレビ無いって言わなかったっけ?」
「言ったかも…」

 下校中、初めて彼女が俺の前に現れたときは、俺に自己紹介やその前に起こった、あの出来事の説明の為だけに現れ、もうそれっきりだと思っていた。
しかしそれは間違っていた。いや、自己紹介に違いはなかったが俺は今、一週間彼女と帰路を共にしている。
 だから、今週の学校生活を無事乗り越えた今日こそは問いただすことに決めた。
なかなか、止まらない宮崎の口が閉じた時に
「なあ、少し疑問に思ってる事があるんだ。」
 俺は立ち止まって尋ねた。すると彼女は大袈裟に首を傾げた。
「なんで、俺と一緒に帰るんだ?」
「あら、いけなかった?」
「いや…、いけなくは無いけどさ、なんというか、俺たちはカップルでもなければ友達でもないじゃないか」
「じゃあ、付き合う?」
「は…」
 絶句した。
「冗談よ。」
 何故彼女はこんな冗談をいえるのだろうか、なんなんだ?俺を怒らせようとしているのだろうか?
「ごめん、ふざけすぎだったわ、でももう私たちは友達よ。」
「どういう事…?」
「だって一週間も一緒に帰ってるじゃない、友達よ」
「…そういうものなのか?」
「そういうものよ、それとも、嫌?」
「嫌じゃないけどさ、ていうか俺が言いたいのはそういう事じゃなくて…」
 その時、宮崎の微笑に続きの言葉を奪われた。
俺は大きく溜息をついた。
「もういいや。」
 結局宮崎から答えを聞くことはできなかった
もうどうでもよくなって、俺は再び歩きはじめた。
「岡山くん。もしかして、さっきの期待した?」
「してない、あまり興味ないから」
「へえ、変わってるのね」
「ああ、変わってるよ」
 宮崎のペースで話をしている内に宮崎との別れ道についた。
 さて、帰ったら何をしようかと考えていたその時。
「待って。」
 宮崎が俺を引き止めた。
「携帯持ってるよね?」
「ああ、持ってるけど」
 彼女はまたお得意の微笑を見せた。
「貸してよ」
「なんでだよ」
「貸しなさい」
「…」
 突然強気になった宮崎に俺は何も言えず、
渋々、ポケットから携帯を取り出して渡した。
彼女は携帯を手に取り、俺に背を向けた。
「おい、何してるんだよ」
「ん?…へえ、女の子のアドレス一杯入ってるのね。興味ないって言ってた癖に」
「殆どやり取りしてないけどな」
「…はい、完了」
 彼女は俺に携帯を渡した。
携帯を開くと、やはりアドレス帳に
「宮崎 千歳」の名前が増えていた。
「メールするからね」
「…」
「友達でしょ。」
 と言って彼女は俺に練習でもしているかのような綺麗な笑顔を見せた。
クラスの連中が美人だと騒ぐのも少し分かった気がした。

 漢字検定の勉強は順調だった。
以前よりも過去問の正答率も上がっていた。
間違った問題の訂正に取り掛かろうとしたときだった。
 携帯のバイブ音が狭い寮の部屋に響いた。
携帯を開くと、ディスプレイには宮崎の名前が浮かんでいた。
メールを開いた。
『今すぐ、中央駅前に来てね』
という内容がハートの絵文字で飾られていた。
時間を確認すると。もう9時を回っていた。一体何を考えてるんだと思い、携帯を置き再び勉強を始めようと思った。
しかし、「友達でしょ。」と言う、宮崎の顔が俺の脳裏に浮かんだ…

 俺は何をやってるんだ。こんなに自己嫌悪に陥ったのは久しぶりだ。
約束の場所で彼女を探した
「良かった、ちゃんと来たんだ。」
「ああ」
 宮崎はあの時と同じコートとスカートの下にジャージという奇抜な格好をしていた。
「さあ、行きましょう」
「行くってどこに?」
「仕事よ」
 
 夜の街を歩くのは久しぶりで、居酒屋やバーのネオン、千鳥足で歩く酔っ払いなど、新鮮味があった。
「仕事ってなんだよ、パトロールか?」
「そう、パトロールよ。私は主に若者犯罪対策に務めてるの」
 俺はどうなるんだ?と聞きたかったが、まともな答えは返されそうに無かったので諦めた。
 それから、たむろしている学生や、怪しい人間を注意しながら30分くらい歩いた頃
「こんな事毎日やってるのか?」
「いいえ、週末だけよ、普段は学校に通う為に有休を取ってるの」
「そんなに取れるのか」
「私は高校に通いたかったの、そのためにずっと溜めてたのよ」
 溜められるようなものなのか。だがどうせ聞き出すことはできないので、深入りはしなかった。
彼女にまつわる謎がどんどん増えている。
「他にも高校に通っている同業者の人は日本中に居るのよ」
「宮崎みたいな高校生が日本中に!?」
「そうよ。でも、うっかり秘密をばらしちゃったりして強制送還になったりしちゃう人もいるの、だから…」
「誰にも言わないよ、ていうか俺と一緒に歩くのはいいのか?」
「…バレなきゃいいのよ」
 相変わらず言っている事が目茶苦茶だった。
「さあ、そろそろ帰りましょうか」
 宮崎が言った。その時
「やめてください!」
 遠くから、誰か女の人の叫ぶ声が聞こえた。
 咄嗟に宮崎が振り返った。
「行くわよ!」
「俺もか!?」
 しかし答えずに彼女は走り出していた。
俺は物凄い速さで走る宮崎の背中を通行人の間を抜けながら必死に追いかけた。
 ようやく追いついた頃には、宮崎は一人の中年の男を投げ飛ばしていた。
その途端、傍にいた男に襲われていたと思われる女性が逃げ出した。
宮崎が逃げる女性に気をとられている隙にそれと同時に男も立ち上がり逃げ出した。
「岡山くんは、あの娘を追って」
「え?」
 そう言うと彼女は逃げる男を追いかけた。
いつの間にか今の騒動で、人だかりが出来ていた。
 俺は人だかりから逃げるかのように、仕方なく逃げた女性を後を追いかけた。

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