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“SS”第一話

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俺、安西直人は手元に握り締めている自分のこぶしを見ながら深いため息をついた。
ここ、国立臨海学園高等部に入学したのがつい一昨日のこと。
そして今はクラスでのホームルームの時間で、委員決めを行っていたのだが……
――俺以外、全員パー、だと……?――
各委員がどれほどにめんどくさいものかは、学生ならば誰もがよく知っていることだろう。
その中でも随一を誇る不人気委員会、生徒会。
当然ながら立候補者などいるはずもなく。
「よし、じゃあ男女一名ずつじゃんけんで選出しろ」
という、生徒の自主性を尊重した担任の一言により、大じゃんけん大会が始まったわけなのだけれども。
「悪いな、直人」
むかつく笑みを浮かべながらパンパンと俺の肩をたたいてくるこいつは新藤晶。
「晶てめぇら、グルになって俺をはめやがったな!?」
「さぁーて、なんのことやら……」
口笛を吹きながら俺の追及を受け流す晶。
――くそ、完璧にはめられた――
俺はやりようのない後悔と敗北感を抱きながら、黒板の生徒会役員の下に自分の名前が書かれていくのを眺めていた。
と、その俺の隣にもう一人名前が刻まれる。
どうやら女子の方でも委員を誰がやるか決まったらしい。
――峰岸小春……?――
自慢ではないが人の名前を覚えるのは苦手だ。
だから俺はその名前を見ても、それがどいつのことなのか検討がつかなかった。
「放課後、峰岸と安西は生徒会室に向かうように」
担任のその一言とともに、ホームルームは終わりを告げた。



放課後。
「じゃあ頑張ってこいよ、生徒会役員さん」
「ったく、この借りはいつか返すからな」
晶の言葉に背中を押されながら、俺は観念し生徒会室へと向かった。
ここ臨海学園はとにかく広い。
東京ドーム六つ分という売り文句の敷地の中、東西に別れ二つの校舎が存在する。
校舎はそれぞれが7階立てとこれまたビックスケールで、生徒会室は東館の最上階に位置していた。
エレベーターで七階まで上がると、他の階同様渡り廊下によっていくつもの部屋が区切られている。
俺はその中から生徒会室を探していると妙なことに気づいた。
生徒会室はすぐに見つかったのだが……。
「なんで生徒会室が三つもあるんだよ……」
それぞれの部屋には木製の扉に1から3までの番号が振られている。
The 部屋の無駄遣いもいいとこだ。
生徒会室なんて大きな会議室ひとつで事足りる気がするのだが……。
「およよ、君は新入生君かな?」
その言葉に後ろを振り向くと、一人の女子生徒がニコニコしながら立っていた。
ショートボブは明るめのブラウン。
犬を連想させるような、こちらを見て何かを待っているような表情。
セーラー風のワンピースを基調としたうちの女子制服、首に巻かれた青いタイ。
一年のタイは赤のはずだから、この人は二年生だ。
「どうしたおよよ、もの珍しそうな顔でつたって」
その後ろから、今度は男の声だ。
「亮ちゃん亮ちゃん、みてみて新しい子だよ~」
その男は俺のほうを見て手をあげる。
「よう新人、俺は伊崎亮、んでこちがおよよだ」
「あー、呼び捨てたっ! ちゃんと“ちゃん”ってつけてっていってるでしょ!?」
伊崎と名乗った男はぽかぽか握った拳をぶつけてくるおよよ先輩を制止している。
「どうも、安西直人です」
「おう、よろしくな」
「えっとところで、役員の集まりはどの生徒会室で?」
およよ先輩よりも伊崎のほうが話が通じやすそうだ。
すると伊崎はああ、と不思議そうな表情をすると、
「そりゃ大会議室に決まってるじゃねえの」
俺にそう教えてくれた。
――会議室あるんだったらこの三つの部屋は何に使うんだよ……――
俺は一度眉間にしわを寄せると、二人とともに会議室へと向かった。


俺たちが会議室へ向かう途中。
横道からふと、一人の少女が現れた。
その少女はまっすぐに俺たちを見据え立ち尽くしている。
「あの方も生徒会の?」
「いや、俺はしらねえけど」
「およよも見たことない人だよ」

すると伊崎とおよよ先輩は何かに感づいたように、急にその少女に対して身構える。
「どうしたんですか、二人とも――」
俺がそういいかけたとき、トンと静かに少女が飛び上がった。
けれどもその高さが異様で天井すれすれのところまで跳ね上がると、そのまま伊崎に向かって蹴りを放つ。
「こいつは新学期そうそう元気のよいことで」
伊崎がそういいながらその蹴りを交わすとすぐさま着地した少女に向かって拳を振り上げる。
しかし、その少女もまるで重みを感じさせない羽のような動きでスルっと伊崎の拳を交わす。
「いまだ、およよっ!」
「わかってるよっ!」
伊崎がそういうのと同時に、着地した少女に向かっておよよ先輩は手で銃の形を作るとピっと人差し指を当てる。
「バッヒューン!」
およよ先輩がそういうと同時に、一瞬何かが光ったかと思うと一度痙攣し、少女はその場に倒れこんだ。
するとその倒れた少女から、薄い光に包まれている六角形の結晶がひとつ浮かべあがる。
「収集っと……」
伊崎がその結晶に触れると、それは音もなく半透明になっていき、やがて姿を消した。

「えへへ、およよ頑張ったよ~、ほめてほめて~」
「ったく、犬かお前は……」
主人にすがる犬のように、およよ先輩は伊崎に頭を撫でてもらって嬉しそうな表情をしている。
さて、水をさすようで悪いのだが。
「あの……」
「ん? どうした一年」
「なんなんすか、この超展開は……」
俺はため息混じりにようやくそう口を開いた。



「総会で詳しいことは説明する」
伊崎はその言葉を最後に、さっきのことにふれようとはしなかった。
俺たち3人が会議室へ入ると、そこにはすでに数多くの生徒が集まっていた。
「生徒会ってこんなに人数が多いんですね」
「うちは各クラスから二人選出の形だからな、それに人は多いに越したことはない」
伊崎の説明がすむと、俺たちに二人の生徒が近づいてきた。
「伊崎遅いっ!」
一人は女子生徒で黒髪のポニーテール。
長袖が腕まくりしてあり、およよ先輩と同じ青いタイをしている。
「そうですよ、僕を差し置いて執行部になったのですからもっと意識を持っていただかないと」
もう一人はめがねを中指で押し上げながら淡々と話す男だ。
「あー、悪いな二人とも、廊下で一年が迷ってたからよ」
「ふーん、まぁ、良いわ早くしないと総会がはじまっちゃうから」
そういうとポニーテールの先輩は伊崎とおよよ先輩をつれてどこかへ消えてしまった。
俺は残された眼鏡の男と顔を合わせる。
「気にすることはない、いつものことだ」
そういって肩をすくめる眼鏡の男。
「一応自己紹介をしておこう、僕の名前は瀬野一樹、二年生だ」
「安西直人です」
「そうか、一年は最善列だから所定の場所に座って待っているといい」
一度チャっと眼鏡を治すと、瀬野もその場から立ち去っていった。
ここにいてもしょうがないので、瀬野に言われた通り最前列の机から自分の場所を探す。
すると目に付く生徒が一人いた。
女子生徒なのだが、黒髪のショートカットは前髪がやたらと長い。
特に左側はしっかりと目が隠れてしまうほどに長く、その長い前髪をヘアピンで止めている。
およよ先輩などとは違い、少女は赤いタイをつけていた。
――ということは一年か――
と、その少女が座っているのが俺と同じ一年C組であることに気がつく。
ということはこいつが、同じクラスでもうひとつのはずれくじを引いた。
「峰岸小春、か……」











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