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坂下さん(途中)

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 僕にとって一番古い記憶はまだ保育園に通っていた頃のものだ。
僕は母に車で保育園に送ってもらっている。いつもの小さな、本当に小さなトンネルを通る。
 坂下さんが見えた。
 五つ設置してある電灯の3番目だ。

 ここで終了。
 あまりにも断片的な記憶だが幼い頃の記憶なんてこんなものだろう。ましてや僕にとって最古の記憶だ。その時の季節でさえも覚えていない。
 しかし、坂下さんに関する記憶があるという事は、僕は幼い頃から“お化け”が見えていたのだろう。
 坂下さんはいつもトンネルに漂っている幽霊だ。恐らくその場から動けないはずなので、一般的な言い方をすれば自縛霊という事になる。
 
 この自縛霊について、僕は独特な見解を持っているが、それを語るのはまたの機会にしようと思う。

 
 坂下さんは、間違いなく、僕が生まれてから一番多く遭遇した幽霊だ。コンビニに行く時、書店に行く時、小学校の通学路もそうだった、そして現在出勤する際にも遭遇する。
 普通なら自縛霊と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
 恐らくは、呪い、祟りのイメージ。夏にTVでよくやってるヤツだ。実際に、自縛霊にはそういう要素をもった者が多いと、僕は感じている。
 
 だが坂下さんは違う。

 彼からは何も感じない。坂下さんはまったくもって無気力。
 一寸たりとも動かない体。無秩序に数センチだけ浮いている足。そして生気のない目。だって死んでいるじゃないか、という突っ込みは無しだ。
 それらの特徴から僕は、彼には感情がないのだろう、と思っていた。

 しかし、その考えは僕の思い違いであった事を知る。

 
2, 1

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