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プロローグ僕の視点

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田中凉樹はよく人に「かわっている」と言われる。
彼女自身別に人と何か違う事をしようと思っているわけではなく
ただ自分の普通が人の普通と違うだけなのだ。
そもそも凉樹は名前が「すずき」というだけで「変わっている」と言われる事が嫌いだった。
個性なんてものに付加価値をつけてありがたがっている奴らを皆殺しにしてやりたいと思う程であった。しかしそれを
友人に話すと「やっぱりかわっている」と言われる始末だ。

この前だってそうだ。彼女の通う大学でボヤ騒ぎがあった時も大騒ぎする学生に消化器をぶち撒いたのだ。
幸い火は無事に消し止められたが消化器で体中真っ白になった生徒達は凉樹に詰め寄った。「なぜこんなひどいことを」「誤れ」「目に入った」怒濤のごとく喚き立てる生徒達に凉樹はニヤニヤしながら凉樹は「手が滑った」と言った。

沈黙

確かに騒ぐだけの人間より緊急事態と判断して消火活動をする人間の方が行動としては正しいのだろう
自分が何もしていない事に気付いた生徒たちは凉樹にそれ以上になにも言えなかった。

しかし、しかしだ
凉樹の魅力はここにある。火事を目の前にしてただ騒ぎ立てる群衆が彼女にとってうっとおしい怒りの対象以外の何者でもなかったのだろう。
そんな普通の人間を「皆殺しにしてやりたい」彼女がそいつらに消化器をぶち撒くのはさぞ気分が良かったに違いない。
彼女は事実をねじ曲げても罪に問われない状況を作り出す天才なのだ。

「人の考えていることに証拠は残らないんだよ、解るかテツ?」

僕はこの口癖がわりと好きだった。




一章

「次のニュースです。連続放火事件の犯人が逮捕されました。逮捕された学生は当時
不気味な姿をした怪人が校舎に火を放つのを見たと容疑を否認していましたが……」

大学近くの食堂でハンバーグ定食のニンジンを突きながらテレビを見ていた僕は驚いた
「おい、凉樹 あの犯人ってこの前のボヤと関係あるんじゃないか?」
凉樹は少し考えるようなそぶりを見せて「どうでもいいよ」とだけ言ってテレビの方を向いた。

「…ここで臨時ニュースをお伝えします 昨夜未明」

凉樹の眉がピクリと動く。彼女はわりと何にも無関心な性格だと思う。
男にてモテるし運動だってできる。顔立ちも時々ハッとするほどの美形だった。
しかし凉樹はそんなものに関心がない。男だけじゃなく彼はこの世のほとんどの事が「どうでもいい」のかもしれない。
しかし唯一彼女が関心を見せる時があった。

「連続誘拐事件の犯人である組織である通称 ショッカー 残党の組織員である怪人が仮面ライダーの活躍によって破壊されました。この事件は昨夜午前2時頃帰宅途中の男性を刃物で切り裂いた罪で手配中の怪人を仮面ライダーが愛知県○○市の工事現場に独自調査で追いつめ打破したものと思われます。警察関係者からの発表では仮面ライダーによって打破された………」

大学に行きすがら凉樹は目を輝かせて僕に話す。

「もしもさ、テツがある日とんでもない力を手に入れたらその力を何に使う?」

僕は首を縮めて「わからないな」と言った
「もしも僕がうっかりそんな力を手に入れてしまったらさっきの怪人みたいに悪い事をしないって自信が無いよ。」

凉樹は少し考えるような素振りをして「あー」と唸った
そしていたずらっぽく「だろうな」と笑って振り向いた

「なんだよ」僕は恥ずかしくなって笑いながら凉樹の肩を小突くまねをした。

それをヒラリと避けて凉樹は「私だったら」

「私だったら守ってやるのに」

意外な台詞に思わず「何を?」と聞いてしまったのがいけなかった。

目をそむけて凉樹はすこし恥ずかしそうに小声で「…世界の平和」と言った

彼女らしくない発言に思わず噴き出してしまった。
凉樹が顔を真っ赤にして「もういい」と言って先にどんどん進んでいってしまった。
笑いすぎてなかなか歩けない。

「おーい」

呼んでも振り向かない

「凉樹だったらさ」
「なんだよ」
「守れるさ」

鼻をふんと鳴らして凉樹は言った

「守ってやるさ」





その次の日彼女は大学に来なかった。

一週間二週間がたった。
携帯もずっと圏外だ。
凉樹のバイト先や家に行ってみたが駄目だった。

二ヶ月ほどたったある日大学の名簿を仲のいい教員に見せてもらった。
もうこうなったら彼女の実家に行くしかない。
確か実家は○○県だとか言ってたしここからあまり遠くない 車で行ける距離だ。

しかし名簿に彼女の名前は無かった。
おかしい、僕は凉樹の事を教員に尋ねたが話が噛み合ない。
それでけではない彼女の事を誰も覚えていないのだ。

凉樹は…凉樹は…


僕は泣いた
雨が降ってきた
凉樹は僕の幻想だったのだろうか
あんなに美しい少女がなぜ僕と仲が良かったのか思い出せない

おかしい

凉樹と出会ったときの事が思い出せない。
僕は…僕は…
涙と一緒に記憶が流れ出て行ってしまうのではないかとさえ思った

凉樹…すず…


雨に濡れたアスファルトの臭いに包まれて僕は泣いた。



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