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第二十章 両雄再び

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フォービドゥンタワー上層

あれからどれぐらい経ったのだろうか? 一行はひたすら螺旋階段を上り、ようやく上層までたどり着いた。この閉ざされた白い空間では時の流れを感じられず、まるでここだけ時が止まったかのようである。

「やっと、上層までたどり着いたか。む、これは一体・・・。」

ロイドは不思議な光景を目にした。上層は階層ごとに天井で区切られており、広い部屋には無数の台座のようなものがバラバラに配置されていた。そして、その台座からは様々な色の光が溢れている。

「どういうこと? 階段が見当たらないわよ。」

ユリアは眼を凝らして周りを見た。しかし、どこにも階段は見当たらない。

「きっとあの台座に仕掛けでもあるんだろ。」

マルスはそう言って、意気揚々と台座に向かった。

「馬鹿、勝手に突っ込むな。罠かもしれないぞ。」

ロイドの忠告を無視して、マルスは台座に乗った。すると、光に包み込まれ姿が消えてしまったではないか。

「消えただと・・・。」

ロイドは目の前の光景に目を疑った。

「大丈夫、僕の勘が正しければ、マルスは別にこの世から消えたわけじゃないよ。」

そう言って、ワトソンも台座に向かっていった。

「さあ、皆来て。マルスの後を追うよ。」

ワトソンにせかされ、一行も台座に乗った。ロイドは目の前が眩しい光で真っ白になった。そして、視界が戻ったかと思うと同じような部屋の光景が眼に映った。しかし、台座の配置が違うことから最初とは別の部屋なのだろう。

「おお、お前らも来たか。これは別の部屋に飛ばされたってことか?」

マルスが腕を組んで首を傾げていた。

「たぶん、この台座は転移装置だよ。原理は双子の魔術士やエリックという男が使っていた空間転移魔法と同じさ。おそらく頂上まではこの転移装置を使っていけってことじゃないかな?」

ワトソンは感づいた。

「なるほど、そうと分かれば話は早い。」

ロイドたちは転移装置を使い、数回転移を試みた。しかし・・・、

「ちょっと待ってくれ。」

ロイドは何かを察した。

「最初の部屋に戻ってないか?台座の配置が全く同じだ。」

そう、一行は再び最初の部屋に戻ってしまったのである。

「やはり一筋縄ではいきませんか。考えても見てください、ただ装置を使っていくだけなら、一つの部屋に6個も装置はいらないでしょう?」

ウォーリスは冷静に分析した。

「ということは、ほとんどの転移装置はフェイクで、正しい転移装置を選び出して進んでいかなければならないってことか。」

ロイドは閃いた。

「ご名答です。」

「ちょっと待って、6個の中から正しい装置を毎回選び出していくってことは、部屋が全部でいくつあるかわからないけど、6×6×6×・・・・。組み合わせは膨大な数になるじゃないか!! その中から正しい順番を見つけるなんて不可能だよ!!」

ワトソンは驚愕した。

「いくら古代人でも、そんな理不尽なことは要求しませんよ。我々は試されているのです。探してみてください、きっとこの部屋に装置の順番のヒントが隠されているはずです。」

ウォーリスの提案により、手分けしてあたりを探すことにした。

「おい、こっちに来いよ、変な石版があるぜ!!」

数分も経たないうちに、部屋にラッドの声が響いた。何かを見つけたようだ。相変わらず、こいつの野生の嗅覚には驚かされる。

「これは・・・。」

白い壁の中には石版が埋め込まれていた、なにやら謎の模様がびっしりと掘り込まれている。

「古代ラインガルトで使われていたルーン文字ですね。」

ウォーリスが模様を指でなぞりながらつぶやいた。

「ウォーリス、読めるのか?」

「ええ、文献の中にはルーン文字で書かれているものも少なくありません。簡単なものなら解読できます。」

そう言うと、指で文字をたどりながらゆっくりと唇を動かし始めた。

「『自然の摂理に従え、全ては水より始まらん。』と書いてありますね。」

しかし、この言葉が何を意味しているのかは誰にも分からなかった。

「意味不明だな。自然の摂理と転移装置の順番に何か関係があるのか?」

ロイドは腕組みをして考えこんだ。ふと、転移装置に目をやる。

「それぞれの装置は全く同じ形をしている、違いといえば、それぞれの放つ光の色ぐらいか・・・。」

装置はそれぞれ赤・黄・青・緑・白・紫の6つの色の光を放っている。

「そういえば、この色の組み合わせをどこかで見た気がするのですわ。」

ジョアンは6つの色の光を見ながら、必死に過去の記憶を手繰り寄せていた。

「『自然の摂理』『6つの色』そして『水』・・・・。」

3つのキーワードがジョアンの頭の中で一つの答えに結びついた。

「思い出しましたわ!!」

ジョアンが何かを思い出したようだ。

「本当か!! 話してくれ、何かの手がかりになるかもしれん。」

「僧侶学校の精霊学の授業で、この世界には8つの属性があり、それぞれを象徴する色があると教わったのですわ。赤は火、黄は土、青は水、緑は風、白は氷、紫は雷、金は光、黒は闇をそれぞれ表すのですわ。」

その話を聞いた時、ロイドの頭をゴーレム戦のユリアの言葉がよぎった。

「土は風によって削り取られる・・・。」

その瞬間、ロイドは閃いた。

「分かったぞ!! 『自然の摂理』っていうのは属性関係を表してるんじゃないのか?『全ては水より』っていうのは、それが水から始まるってことだ。」

「なるほど、つまり水から始まる属性関係を表す色の順番が、転移装置の順番の答えというわけですね。見事ですよ、ロイドさん」

ウォーリスは賞賛した。

「ユリア、ゴーレム戦の時に言った属性関係の続き、全部分かるか?」

「当たり前じゃない。魔術士の常識よ。」

ユリアは少し不満そうな顔をすると、眼をつむり呪文のような言葉を暗誦し始めた。

「『水は火を消し、火は氷を溶かし、氷は風を凍てつかせ、風は土を削り取り、土は雷をせき止め、雷は水を分解する。光は闇を照らし、闇は光を飲み込む。』これが属性相関よ。」

「つまり、青→赤→白→緑→黄→紫が転移装置の順番の答えというわけですね。おそらく私一人の力ではこの仕掛けは解けなかったでしょう。素晴らしいですよ、皆さん。」

ウォーリスは思わず拍手をした。

「それはこちらも同じだ、ウォーリス。マルスの行動力、ワトソンの機械の知識、ラッドの探索能力、ウォーリスの解読能力、ユリアとジョアンの魔法の知識、そして俺の閃き。
全員の力があったからこそ、俺たちはこの試練を乗り越えられた。」

ロイドはウォーリスに諭した。

「おい、ぐずぐずしてる暇は無いぜ、帝国の奴らに取られる前に最上階に行くぞ。」

マルスは足早に青の光を放つ装置に向かった。

「ああ、行こう!!」

こうして仕掛けを解き明かした一行は、最上階へ向かって動き始めた。


一方・・・・

フォービドゥンタワー最上層 「神託の間」

「少々時間がかかったな。」

「ええ、転移装置の仕掛けに思ったより時間を食ってしまいましたからね。」

エリックとマーク率いる近衛部隊は塔の最上層に到達していた。

「ありましたよ、王石です。」

何かの女神を模した金の像が左手に王石は掲げられていた。その台座にはレリーフのようなものが掘られている。エリックが王石に手を伸ばそうとした時、

「おい、転移装置が光りだしたぞ、俺たち以外に来客がいるのか?」

マークがあせり始めた。

「そんな馬鹿な。この塔の、ましてや最上層に到達できる人なんて滅多にいないはずですよ。」

転移装置が眩しい輝きを放った時、二人の眼には7人のシルエットが映った。

「着いたぞ、ここが最上層か?」

「貴様は!!」

その時、ロイドの聞き覚えのある声を聴いた。

「お前は、マーク!!」

「何、知り合いなの?」

ユリアは訪ねた。

「ガストラング近衛部隊長『マーク・ラングリース』。士官学校時代のライバルだ。」

ロイドは背中の大剣に手をかけた。

「やはりお前もここへ来たか。まあいい、今度こそ決着をつけるぞ!!」

マークは銀の長剣を引き抜いた。

「私はこの結界では魔法が使えませんからね、頼みましたよマーク。」

「ああ、任せておけ。お前らは取り巻きどもの相手をしろ。指一本たりとも王石には触れされるなよ!!」

マークの命令で、近衛兵たちは一斉に襲い掛かってきた。

「マルス、ラッド、まともに戦えるのはお前達しかいない、近衛兵たちの相手は任せたぞ。ウォーリス、ユリアとジョアンの護衛を頼む。ワトソン、お前は結界の解除を頼む、多分あれが制御装置だろう。」

ロイドはなにやらボタンのたくさん着いた巨大な機械を指差した。

「分かった、やってみるよ。」

「ふむ、わざわざ結界を解除してくれるとは・・・。こっちにとっても好都合ですね。」

エリックは不敵な笑みを浮かべた。

「さて、邪魔者は居なくなったな。本気で来いロイド!!」

マークが魔力をこめると、柄にある悪魔のレリーフの目が不気味に光った。

「なんだその剣は・・・。」

ロイドは見たこともないような剣を見て息を呑んだ。剣から発するおぞましいオーラは恐怖さえ感じさせる。

「魔剣『ストームブリンガー』だ。その一振りは嵐をも巻き起こす。」

「いいだろう、魔剣には聖剣で迎え撃ってやる。」

ロイドは聖剣イングラクトを構え、魔法で神聖属性を付与した。

「いくぞ!!」

両者は気合とともに斬りかかった、剣と剣がぶつかり激しい金属音を塔の中に響かせる。ロイドは剣を返しマークの胴を薙ぎ払おうとした、マークはそれを騎士盾で受け止める。次いでマークは剣でロイドの頭部を狙う、ロイドはそれを剣ではじき返した。一進一退の攻防である。

「やはり、魔剣の力を使うしかないか。」

両者は再び間合いを空け、マークはストームブリンガーに魔力をこめた。

「こいつは文字通り嵐を呼び起こすほどの力を持っている。下手に使うと自身の身すら危険に晒すが、試すうちに多少力を制御できるようになった。見せてやろう。」

マークはストームブリンガーを下段に構えた。

「シックルウィンド!!」

剣を振り上げると同時に、凄まじい烈風が巻き起こった。

「痛っ、これは・・・。」

烈風が過ぎ去ったかと思うと、ロイドの頬は切り裂かれ血を流していた。

「ストームブリンガーの起こす風を制御して鎌鼬を作り出すとは。やりますね、マーク。」

エリックは静かにつぶやいた。

「当たり前だ、俺を誰だと思っている。次は当てるぞ。」

マークが再び剣を下段に構えた時

「目には目を、風には風だ。」

ロイドはイングラクトの先端をマークに向かって突きつけ、走り始めた。

「馬鹿め、ついに業を煮やしたか。バラバラに切り裂かれるがいい!!」

マークが剣を振り上げると、烈風がロイドに再度襲い掛かった。

「ゲイルズスラスト!!」

なんとロイドは剣に纏った真空の刃で、烈風を切り裂きながら進んでいるではないか

「まさかそんな芸当が・・・。」

マークは咄嗟に騎士盾を構えて、ロイドの刺突を防いだ。剣と盾がぶつかった衝撃で、激しい火花が散り、甲高い金属音があたりに響く。騎士盾にはヒビが入ってしまった。

「くそ、こんな物はもう使えん!!」

マークは盾を放り投げた、重たい音を響かせて盾は床に叩きつけられる。

「遊びは終わりにしよう・・・。」

空いた左手で今度はティルヴィンクの柄に手をかけた。

「止めなさいマーク!! 魔剣を二刀流するなんて、魔力も精神力も持ちませんよ!!」

静観していたエリックが、突然声を荒げて忠告した。

「黙ってろ!! これは俺とロイドの戦いだ!!」

マークは忠告を無視して、鞘からティルヴィンクを抜いた。突如、全身のエネルギーが吸い取られるような感覚に襲われ、たまらずその場に膝をついてしまった。

「なんて力だ・・・、まるで・・・魔力はおろか・・・、生命力さえ・・・奪い取られて・・・いるような・・・感覚だ・・・。」

マークは息を切らしながら、剣を床に突き立てその場に跪いている。

「今すぐ魔剣を手放せマーク!! このままでは命が危ない。」

ロイドは叫んだ。

「貴様に・・・・指図される・・・覚えは・・・ない!!」

なんとマークは全身の力を振り絞り、剣を支えに立ち上がった。

「うおおおおおおおおおおおお!!」

猛烈な雄叫びを上げると、二本の魔剣を構える。もはや、そんな力は残っていないはずである。おそらく気力のみで立っているのであろう。「憎しみ」、今のマークを突き動かすのはこれだけであろうか。

「俺はなんとしても貴様に勝つ!!」

ロイドの眼には、もはやその姿は人間ではないように映った。

「哀れな、魔剣に魂まで売ってしまったか・・・。いいいだろう、俺が目を覚まさせてやる!!」

かつての好敵手の姿を取り戻すため、ロイドは再び聖剣を構えた。

                                            第20章   完
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