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首切り村連続殺人事件

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『第6話、高豪村の死神』



[当日]

全員、時間通り8時に学校に集合していた。4日間も高豪村で泊まるとなれば、それなりの
荷物の量になっている、みんな先生の車に荷物を入れ車は発進した。

「斎京町から高豪村までどれ位掛かるんですか?」
「佳奈さんの実家には一様、3時までには着くように連絡は入れた」

彼女の名前は唐坂 佳奈。今回の事件を殺人事件研究クラブに依頼してきたクライアントである。

「形だけでも、事情聴取をさせて貰えませんか?部長の役割なもので…」
「ええ…別に構えませんが…」
「今、唐坂家には一体、何人住んでいるんですか?」
「母に兄が2人と父のお弟子さんに使用人の5人です」

母:唐坂 タカコ(35)
長男:唐坂 信夫(30)
次男:唐坂 早貴(25)
弟子:君川 敬(22)
使用人:田辺 千代(49)が現在、唐坂家に住んでいる。
長女:唐坂 佳奈(17)(クライアントの佳奈は澄長高校に通うために斎京町に引越)

「お父さんがお亡くなりになった時、遺言状か何かは出てく無かったんですか?」
「…はい…確かに」
「そーですか…」

車は走る…何時も見慣れていた斎京町を後にして悠木の全然知らない道を走っている…このまま何処かに消えてしまいそう恐怖を感覚が悠木の体を突き抜ける…

[発進してから4時間後の12時]

道路脇に車が止まり、みんなで昼ご飯を食べ始める。

「それにしても、随分と森の中に入って来たね…」
「良いでは無いか、セナ君。こういった所で皆で昼飯を食べる!!!なんて我々は青春を楽しんでいるんだ~!」

これが殺人事件研究クラブでなければ完ぺきだったのに…
悠木は声には出さず、心の中だけでツッコミながら大好きなあんドーナッツにかぶりついた。

「あ!佳奈さん。質問して良いですか?」
「何?名探偵さん」
「め…名探偵?」
「篠原君とは同じクラスだから、話を聞いたのよ」
「あぁ…」

あの先輩ならありそうだな…一発で落ち込んでるのが解りそうだ。

「で、質問ってなに?」
「佳奈さんは本当にお父さんから、何も聞いてないのですか?遺産の事や…」
「どーしてそう思うの?」
「この前、部室に来た時に遺産の話をしましたよね?あの時にどーして遺産の中身が『唐坂家に代々伝わる高豪樹の加工方法を記した古文書』だって解ったんですか?」
「……記してあるとするならば…加工方法かなって思っただけよ…」
「…そーですか」

爽やかな陽気の中、鳥の鳴き声だけが僕らを包む…その時の佳奈さんの遠くを見つめる瞳は、とても真っ直ぐで綺麗だった…

「おーい!お前ら、行くぞ」

先生の掛け声が森を響かせる。全員車に乗り込み、まだ2時間以上も続くこの道を僕らは走り出す…
いつの間にか、悠木は寝てしまっていた。
そして、夢を見た…遠い昔の自分が出てくる夢…あれは…確か俺が6歳の時の…懐かしいな!姉さんがいて…父さんがいて…
そこには母の姿が無かった。
母さん…母さんは何処?……
母さんがいた事は覚えている…でも母さんの顔は思い出せない。
悠木は気がつくと病院にいた、そこには姉さんとお父さん…そして顔を黒のマジックで塗り潰された様な事になっている母さん…
そうか…俺が生まれた時から母さんはずっと病院にいて、母さんにあった事は無かったんだ…
悠木は同時に嫌な事も思い出した。
そうだ…あの時からだったな…父さんが俺を冷たい目で見ていたのは…

「う…ここは…何処だ…?」

悠木は目を覚ました。

「やっと目が覚めたな。南条」
「先生、ここは何処ですか?」
「もう、着いたよ…高豪村へ」

そこはいかにも田舎といった感じの村で、本当に何もない。周りは高豪樹であろう森に囲まれており、お土産屋も見当たらない。

「他の皆はどこですか?」
「もう、荷物を持って唐坂さんの実家の方行ってるよ」

悠木は自分の荷物を持って先生と唐坂家に向かった。

[唐坂家]

「お帰りなさいませ。お嬢様」
「ただいま。千代さん」
「佳奈、久しぶりだな。向こうでは元気にしていたか?」
「うん!元気にしてたわよ早貴兄さん」

家族との再会を楽しむ、それもその筈、佳奈曰く高校入ってから1度も実家に帰っていないそうだ。

「でも、本当に良かったですよ。死神祭りに間に合って」

その言葉に部員全員が反応した。

「死神祭り…?」
「あ、悠木君起きたの」
「うん」
「それで、その死神祭りって言うのは何ですか?」

大正初期に高豪村の高豪樹が高く売買される事を聞きつけた、とある大富豪が村にやって来て高豪樹を独り占めしようとした。だが、独り占めにはした物の、その加工方法が解らず唐坂家に方法を尋ねるが、その方法は第5話に説明した様に唐坂家の当主しか知らない。教えて貰えない事に腹を立てた大富豪は当主と村の人半分を殺して、その古文書を奪った。だが、古文書を奪った次の日にその大富豪と一味(4人)は首が無くなり殺されていた、その横には鎌と黒いマントが落ちていたそうだ…

「本当は『首切り様』って言うのが本当の呼び名だけど、その鎌とマントが『死神』に当てはまる事から死神祭りってわけ」
「で、具体的には一体どんな事やるんですか?」

死神祭りは全部で4日間行われる。死神に扮した村人が村中を練り歩き、最後に死神に捧げる生贄として、高豪樹で作った首の木彫りを1日1体燃やすのだ。
死神役と燃やす役は決まっており、1・2日は死神役は君川、3・4日は佳奈。
燃やす役は1・3日が君川、2・4日が早貴。昔はもっと弟子も沢山いて名誉ある役だったが、今は衰退の一途を辿っている。

「何とまぁ…物騒な祭りな事…」
「いやだな~、実際に鎌は使いませんよ!高豪樹で作った鎌を代役に使っているんです」
「そーいえば、お嬢様。その方々は?」
「こちらの方々は澄長高校さ―――――」

急に部員全員で佳奈を取り押さえ、皆で囲った。

「部長。さすがに『こちらの方々は殺人事件研究クラブです!』ってな事を言って、あちら側がフレンドリーに接してくれるとは思えません!」
「私も今そう思っていた所だよ!悠木君」
「じゃぁ、私何て言えば良いんですか?」
「…ここはやっぱり、王道の…野球部で」
「…王道過ぎて多分アウトです…」
「じゃぁ、サッカー部」
「サッカー部が一体何しにこんな所に来たんですか?練習ですか?」
「奥の手の、バス―――――」
「今度行った殴ります」

使用人さんがこちらを様子を伺っているのが解る。

「先生が思うに歴史研究部あたりが良いと思うぞ」
「それだ!!!!!」
「何すか!もう、大声なんて出して…」
「私に良い案がある、先生の言った『歴史研究部』を参考に最高の方法を思いついたぞ!!!」

自信満々に篠原が使用人の所まで行き、ずっしりと構えて立った。本当に良い案が浮かんだのだろう…悠木は篠原の自信満々な態度に安心を覚えた。

「我々は……」
「はぁ…」
「我々は…殺人研究部で――――――」
「違いまーす!!!!今の違いまーーーーーす!!!」
「さっきのなし!!我々は歴史研究部です」

部員全員で部長を抑え込んだ…

「何言ってですか部長!!!殺人研究部って殺人事件研究クラブより不味いじゃないですか!!」
「参考にする所、絶対に間違ってるぞ!!殺人研究部ってもう犯罪の匂いしかしないからな」
「あ、あの~。歴史研究部のみなさん…家の工房に行きますか?今なら君川君も居るだろうし…話が聞けると思いますが…」
「も、勿論ですとも!!!歴史研究部いっきまーーーーーす!!!」

無事に高豪村に着いた殺人事件研究クラブ一同。
死神祭りが行われる中、次回黒いマントの影が第1の死者を生む…
『第7話、唐坂家の人々』


長い道のりを超えてようやく到着した高豪村、そこでは『死神祭り』と呼ばれる奇妙なお祭りが部員たちを待っていた。
殺人事件研究クラブとは名乗らず歴史研究部として行動することになった悠木達は、この欲望や嫉妬そして憎悪が渦巻く不思議な町で今宵死神が姿を現す…

「ここが、家の工房です」

そこはお屋敷から少し離れた所にある作業小屋で、悠木の想像していた工房とはかなりのギャップがある。
そこには若い男の人と多少年齢のいった女性がいた。

「おや?佳奈ちゃん!!!」
「お久しぶりです、敬さん」
「本当に大きくなって、綺麗になったね」

この人は君川敬。亡くなった佳奈のお父さんの弟子である。

「何だ、戻ってたの」
「ただいま…お母さん…」

この会話から察するにあまり両親とは上手くいってないようだ…

「あの……この方々が例の?」
「澄長高校の歴史研究部のみなさんで、高豪樹について興味があると言っていたので」
「ふん…まあ、死神祭りの邪魔さえしなければ何でもいいわ」
「みなさん紹介しますね。こっちの若い男の人がお父さんの弟子の君川敬さん。そして、こっちがお母さんの唐坂 タカコよ」

君川はとても優しそうな表情をしていた、それに比べてタカコは鋭い瞳でこちらを見ている。

「これが高豪樹で作った木彫りですか?私初めて見るんです」
「確かにこれはすごいな~」

部員たちは作業小屋にある専用の道具や作品に興味津々の様子。
作品は確かに立派な物でこれが高値で取引されているとなれば納得も出来る。

「今、持っているその木彫りの首ってもしかして死神祭りに使う奴ですか?」

悠木は君川が持っている木彫りの首を指さした。

「そうだよ。これから最終調整をする所さ」
「じょあ、そこの戸棚の上にある首は?」
「それはもう完成した、1日目と3日目の首だ」

篠原が戸棚の上にある完成した首を手に取ろうとした。

「触っちゃダメだ!!!」

急に君川が大声をだして完成している首を急いで別の所に置いた。
その声にその場にいた全員が驚いて作業小屋が静まり返る…

「い…いや…その、すいません…私自分の作品に触れてほしくなくて…つい」
「…こちらこそ…知らなくて…すいません」

再び、場が静かになった…

「あ、あの…もうすぐ夕飯だと思うので…屋敷に戻りませんか?」
「そ、そーだね」

悠木達は作業小屋を後にして屋敷に向かう。すると、やしきの方から大声で怒鳴り合う声が聞こえる、悠木達は急いで屋敷に戻った。

「智和おじさんまで帰ってくるとはね」
「兄さんが死んだ今、遺産を相続できる権利を持っているのはお前らだけじゃないんだぜ」
「父さんから破門されて置きながら、遺産を相続する?馬鹿かあんた」
「信夫、知ってるんだぜ?唐坂家の落ちこぼれって兄さんに言われていたらしいな」

佳奈が止めに入る。

「信夫兄さんも智和おじさんも止めて下さい!!!お客さんも見てるんですよ…」
「佳奈…」

タイミングを見計らったように使用人の田辺が料理を持って入って来た。

「さあさあ、みなさん。今晩からのお祭りのためにちゃんと食べないとね」

口論もうやむやになり、豪華な食事を皆で楽しんだ。田舎の良い雰囲気においしい料理、これで遺産相続や死神祭りなど無ければ良い入部歓迎会になるのだが…
だが、悠木にはこの時すでに嫌な雰囲気を感じていた、とても禍々しい人の闇を…

[午後7時]

「おいしいご飯だってね。南条くん」
「本当においしかった」
「先生も久しぶりにあんま美味しいご飯を食べたよ」

夕食後、和やかな雰囲気になっていると篠原の後ろから鎌を持った黒い影が現れる。

「う、うわぁ!!!」

それは黒いマントを着た君川さんだった。

「何だ君川さんですか~。本当にびっくりしましたよ」
「さっきは失礼な事してしまったのでお詫びにと…」
「自分も悪かったので別に気にしてませんよ。死神祭りはこれからですか?」
「今からタカコさんと行ってきますよ。皆さんは佳奈ちゃんと一緒に『生贄の火』の所に行ってくれませんか?」

『生贄の火』それは生贄のために使用する木彫りの首を燃やす所でキャンプファイヤー並みの大きさらしい。

「それはこの屋敷からどのくらいの所なんですか?」
「そうですね…結構山を登りますから…歩きで片道20分といった所ですかね」
「20分って結構ありますね…」

悠木は少し落ち込んだ。あまり運動が得意でないので片道20分となれば、相当の体力を消費する…
そんな事を考えていると佳奈が現れ、部員全員を呼んだ。

「みなさん!!!そろそろ行きませんか?」

佳奈に呼ばれて皆は片道20分もある山道を歩きだし『生贄の火』に向かって。
そして、1日目の死神祭りは開催される…
『生贄の火』はかなりの火力でそこには村の人が殆ど集まっていた。
その頃、屋敷には…

「父さんの遺産は俺の物だ!!!だ、誰にも渡すものか…」

誰かが屋敷の物置きで何かを探している。無我夢中で探しており、その姿は人間の本性が現れている…本当に醜い…
すると、障子の向こうから黒い影が現れる……だが、その人は気付く事は無い…欲望という名の呪いにかかってしまったその人間は……死神の一振りにより、裁きを受ける事になる…


プルプルプル……急に佳奈の電話がなる。

「もしもし…あ、千代さん。どーしたんですか?」

その声はとても震えていた…死に脅え、とても正常な状態ではない。

「の、信夫さんが……死んでいるんです…鎌を持った死神が……」

電話を聞いていた佳奈はあまりの衝撃に持っていた携帯電話を落としてしまった。

「佳奈さん?どーしたんですか?」

悠木が言葉をかけたと同時に佳奈は泣き崩れた…

「しっかりしてください!一体どーしたんですか」
「…信夫兄さんが……死神に…殺されたんです…」
「何だって!!!!…部長聞きましたか?」
「…聞いたよ悠木くん…」
「天川さんと先生は佳奈さんをよろしく!!!」

悠木と篠原は一斉に村への道を走り出した…
感じていた事が本当に起こってしまった…遺産相続だけで終わる問題じゃないと思っていたが…まさか、人が死ぬなんて…

暗い夜道の中、2人は走る。死神の待つ高豪村へ
7, 6

  

『第8話、惨劇の始まり』



信夫さんが死んだと聞いて、悠木と篠原は必死に走った。その道のりは歩きで20分。
ようやく、到着したときには使用人の千代さんと次男の早貴さんが信夫さんの部屋の前にいた。

「ハァ…ハァ…な、何があったんですか?」
「…あ……」

千代さんはもう喋れる状態ではない…
その理由は現場を見て悠木自身も目を背けてしまう程の悲惨さだった…

「これは…ひどい…とりあえず…早貴さんは千代さんを別の部屋に…」
「わ、わかった…」

そこには千代さんが電話で話していたように、首が無くなって信夫さんがいた…部屋は血で溢れており、吐き気が襲ってくる様だ…

「千代さんの様子から察するに…あれは多分トラウマ物だな…」
「悠木君…この部屋には誰も入れない方が良い。私はちょっと警察に連絡してくる」

篠原は部屋を後にした。

「血はそんなに乾いてない…電話があってから俺たちがここに到着にかかった時間が約10分前後…って事は殺されてから結構時間は立ったかもな…」

悠木は血を避けながら、真正面にある障子に向かった。障子には何かで切り裂いた様な跡が残っている。だが、障子自体にはあまり血はついていない…

「って事は…障子越しに殺したんじゃなくて部屋の中に入ってから殺し、帰る際に障子に切り裂いた跡はつけて逃げた訳か…でも、おかしいぞ…普通、首なんて切り落としたら自分だって返り血は浴びてしまうハズ…」
「それは犯人が服を着替えたって事では?」

警察に電話していた篠原が帰ってきた。

「確かにその線なら大丈夫ですね…服を何処かに捨ててしまえば隠滅出来ますから」

すると、玄関の方から佳奈さんと一緒にいるセナと先生の声がこちらに近付いて来る。
こんな悲惨な現場を天川さんに見せたら、一生のトラウマになるに違いない…
そう思った悠木は大声で叫んだ。

「来ちゃだめだ!!!」
「どーしたの?南条くん」
「信夫さんの首が無くなっているんだ。見ない方が絶対に良いよ…」
「うぇ…そんなに悲惨なの?…でも、私も部員のメンバー何だから…何か手伝えること無い?」
「事件が起きた時間にこの村にいた人たちのアリバイを先生と一緒に聞いてきて欲しいんだ。後で状況教えるからさ」

そう、事件の起きた時間帯にこの村にいた人は…
母:唐坂 タカコ(35)
次男:唐坂 早貴(25)
弟子:君川 敬(22)
使用人:田辺 千代(49)
病死した先代の当主の兄:唐坂 智和(54)の5人。
村人の全員と佳奈は歩いて片道20分の所にある『生贄の火』にいたのだ。

「悠木君…これ、何だと思う?」

篠原は何か気になる物があるらしく悠木に尋ねた。
そこには所々、血が付いていない円の様な形をしている物がある。

「1か所だけの様ですね…何でしょうか…とても故意に拭き取った様には見えない」
「本当に首が無くなっているが…何処に行ったと思う?」
「犯人が持っていたと言いたいんですか?まぁ、昔あった『死神が大富豪を殺した事件』(6話参照)に見立てているんでしょうけど」

悠木は遺体のそばに何か白い物が落ちている事に気付いた。それは何かの花びらか何かだろうか…

「部長…これ何の花か解りますか?」
「…うーん。見たこと無い花だな…何の花だ?」

すると、悠木の携帯が鳴った。友達の少ない悠木は他人にメルアドも電話番号も教えた事がない…無論、高校に入ってからも教えた事はないはず。
悠木は電話に出た。

「あ、南条くん?」

その電話はセナからだった。

「…どーして、天川さんが俺の電話番号知ってるんですか?」
「え…篠原先輩から教えて貰ったけど…」
「なんで部長が俺の連絡先を知ってるんですか!!」
「…なんでだろ…」
「なんでだろじゃねーよ!!!」

今まで張っていた緊張の糸がすっかり切れてしまった。
まぁ…わ、悪くないか…
悠木は少し照れた。

「あ、それで南条くんに言われたように、殺された時間この村にいた人のアリバイについて調べてきたから報告するね」

次男の早貴:殺害現場の上の階である自分の部屋で1人でいた
長女の佳奈:歩きで片道20分の所にある『生贄の火』にセナや先生や村人全員と一緒
母のタカコ:死神役の君川と一緒に村を回っていた
弟子の君川:タカコと一緒に村を回っていた
伯父の智和:使用人の千代と一緒にいたが、途中から『生贄の火』に向かった
使用人の千代:台所で夜食の準備をしていた

「この状況から察するにどう考えても早貴さんだけアリバイが無い…」
「それも上の階となると犯行も容易だろな」

悠木と篠原は現場の障子から中庭へでた。
辺りを捜索して見てみるが目新しい物は何も見つからなかった。

「あ、天川さん。今、そこには誰がいますか?」
「智和さんよ」
「智和さんに聞いて欲しいんだが…もしかして、この地方にしか咲かない花がありませんか?あれ…そーいえば君川さんとタカコさんは?」

君川とタカコは死神役で生贄になる木彫りの首を『生贄の火』で首を燃やしているはずである。

「私達が『生贄の火』に行く途中ですれ違ったよ。その時に事情聴取したのよ」

電話が智和に変わる。

「智和だ。それは多分、高豪花」
「高豪花?」
「高豪樹の周りにしか咲かない花だ。その花はここから少し森を抜けた所に湖で沢山咲いているんだ」

高豪花?これは今回の事件と重要な関係があるのではないかと悠木は察知した。
さっきから頭痛が止まらない…この前の事件の様に頭痛が俺に何かを知らせようとしているのか?
だが、証拠といった物は見当たらない…

「本当に何も無いですね…」
「やはり、本人達の部屋を調べてみるしかないが…俺たちに見せてくれるか?」

立場上、歴史研究部と名乗っているの悠木達にとって容疑者達が自分の部屋を簡単に見せてくれるとは思わない。

「警察は何時頃来るんですか?」
「明日は来る予定なんだが…」
「気になる事でも?」
「この近くで大規模な土砂崩れがあって…その影響でお祭りの4日目の夜に到着するそうだ」

とんでもなく急話だが、作者からのお願いだ……土砂崩れの件は本編とは全く関係ないのでツッコまないでね!

「とりあえず、死神祭りの1日目がもうすぐ終わる…それからみんなに詳しく聞かないとな」

ここまでの疑問
・返り血
・血が付着していない円状の跡
・なくなった首
・落ちていた花びら

死神が遂に現れた高豪村。第1の生贄になったのは長男の信夫、そしてその時高豪村にいたのは6人……はたして、この中の誰が死神のだ!!
次回、死神祭り2日目突入…
『第9話、高豪花と懐かしい記憶』



死神祭りの1日目の夜に唐坂家の長男である信夫さんが何者かによって首を切られて殺された。それは昔この村に起こった『大富豪が殺された事件』に見立てた計画殺人。だが、現場には殆ど証拠いった物はなく捜査は困難を予想された…

「……」

部員全員大広間に集まり、今回の事件のについて話始める。

「殺された時にアリバイが無かったのは次男の早貴さんだけ、しかも犯行の起こった部屋の真上の部屋にいた1人でいたらしい」
「でも、夜食を作っていて途中から1人になった千代さんも犯行は可能よ」
「彼女の今の状態から察するにそれはありえないだろ…」

確かに第1発見者である千代さんも信夫さんと一緒に屋敷にいたので犯行は十分可能だが…彼女が電話を掛けてきた時、明らかに動揺しているのは声で解る。
あの声や態度が演技とは思えない…

「……」
「南条くん。さっきから黙り込んでどーしたの?」
「何か気になる事でもあるのか?」
「いや…なんでもない…」

悠木は前回から死体の側に落ちていた高豪花の花びらが気になってしょうがない。
何のために死体の側に落ちていたのか…いや、もしかしたら信夫さんが俺達に残したDM(ダイイングメッセージ)なのかも…

「何かとんだ入部歓迎会になっちゃね」
「ほんとだよ」

結局、死神祭り1日目は終了し容疑者達から良い話を聞く事が出来ないまま、2日目に突入する。

[死神祭り2日目の朝]

朝から重苦しい空気が大広間では流れている。
だが、そこには使用人の千代さんの姿はない、おそらく今でも寝ているのだろう…信夫さんの首が無くなった姿を見たのは千代さんだけ、よっぽど怖かったに違いない…

「みなさん、おはようございます…」
「佳奈さん、おはよう。ご気分はどーですか?」
「…ええ…大分良くなりました…」

佳奈さんも強がっているようだが、顔色はとても良いとは言えない状態。

「早貴。お前なんじゃないのか!!事件の時アリバイが無いのはお前だけなんだろ?」
「ぼ、ぼくは何もやってない!それに、智和伯父さんだって前日に喧嘩していたじゃないか!!!」
「止めて下さい2人とも!」
「そーですよ。君川さんの言うとおりです」

篠原が止めに入る。

「死神祭り…まだ続けるんですか?」
「そーですよ!人が死んでいるんですよ?」
「それは駄目よ!!!死神祭りは中止するなんて絶対に反対」

タカコが怒鳴る様に悠木に反論した。唐坂家として代々続けていた祭りを途中で中止する訳にはいかない。
昔1度だけ中止した事があり、その年はこの村だけに流行病が発生したそうだ。

「あの、佳奈さん…高豪花が咲いている所に連れて行って貰えません?」
「え!?高豪花ですか?」
「南条さん。私が案内して良いですか?佳奈ちゃんあんまり顔色が良くないから…」
「ええ。別にいいですけど」

昼ご飯を食べた後、君川さんと一緒に行く事になった。

「皆はどーする?」
「悠木くんもちろん私も行くよ」
「先生も行くぞ」
「南条くんばかり任せてられないからね!」

仲間とはやはり良い物だと思った。小学校・中学校そして高校と友達と呼べる人が居ないせいか、こういう場面になるとどーして照れてしまう。
何だかこの事件も乗り越えれそうな気がする…

[昼ご飯後]

昼ご飯を食べた後、部員全員と君川は晴れた高豪樹の森の中を歩いていた。

「ここから一体どれ位歩いた所にあるんですか?」
「そーですね……そんなに遠く無いですよ。10分も歩きませんから」
「大体、高豪花って何ですか?」

高豪花とは、この村にしか生えていない特殊な木で高豪樹の周りにしか咲かない花である。外部との接触を極端に嫌う高豪村では、外から来た学者を村の中に入れて貰えず、そのせいで殆ど高豪花の詳細を知る者いない。

「白くてとても綺麗な花なんですよ」
「この近くにある湖に沢山咲いているそうだ」
「これから行く所はそこじゃないんですよ」
「智和さんが湖の近くが沢山咲いていて屋敷からも近いって言ってましたけど…」
「ちょっと遠いけどこれから行く所は良い場所なんですよ」

君川さんはとても楽しそうな顔している。
少し歩くと目的地に到着し、その綺麗さに部員全員は息を飲んだ。

「すごい、とても綺麗…」
「あぁ、こんな綺麗な花は初めて見たよ。この花をこの村だけに止めるなんて…もったいない…」

そこには一面に広がる高豪花。
こんな綺麗な花が今回の事件に一体なんの関係があるんだ…
悠木は信夫さんの血で染まった高豪花を思い出す。

「どーです?本当に綺麗でしょ?この場所は小さい頃良く佳奈ちゃんと来ていたんですよ」
「佳奈さんとは幼馴染なんですか?」
「ええ、よく遊んだもんですよ。近い歳子供が少なかったので…佳奈ちゃん…高豪花が大好きなんですよ。昔は先代の当主もこの花が大好きで良く工房に飾っていたんです」
「そーいえば、大広間にも飾ってありましたよね」
「千代さんも高豪花が好きなんだよ」

心地良い風が吹く…すると、高豪花が風に揺れて花びらが舞いあがる。
何度も言うが…本当に綺麗だ…佳奈さんは達が好きになる気持ちも解る。

「そろそろ、帰りましょう。死神祭りの準備もありますし…」
「そーですね。皆も心配するだろうから」

そう言って、悠木達はこの場所を後にした。この風景を心に焼き付けて…
君川さんはお屋敷に着くと死神祭りの準備のために作業小屋に向かった。悠木達は君川さんに頼まれてタカコさんを呼びに行った。

「タカコさんの部屋って屋敷から少し離れた所にある、離れに住んでるんですね」
「家内別居ってやつだな」

コンコン
篠原はドアをノックする。

「………返事がないな…」
「どーしたんでしょうか?」
「留守じゃないですか?」

その時、悠木の脳裏に嫌な感覚が走った。必死にドアを開けようとしたが、鍵がかかっている様だ。

「ど、どーしたの南条くん?」
「ドアをぶち破る…」

その言葉に全員が驚いた。

「南条、大丈夫か?」
「安心してください先生。いたって正常です…」

部屋の前で大声で騒いでいると鍵を開き、ドアが開いた。

「ちょっと…何なのよ?人がせっかく寝ていたのに…」
「タ…タカコさん!いたんですか…」

悠木は急いで部屋に入る。が、特に争ったり荒らされた形跡もなく、いたって普通の部屋だった。

「な、なんなのよ!!いきなり人の部屋に上がり込んで!!」
「いや、すいません…君川さんが呼んで来いと言っていたので…ほら、悠木君も一緒に謝ってくれ…」

悠木は辺りも見回す。特に変わった所はない…だが、さっきからこの頭痛が治まってくれないのだ…何かある…この部屋には何か手掛かりがある。
そして、悠木はあるものに発見した。

「ちょっとあんた!さっさと出て行ってよ!」
「タカコさん…1つ聞いて良いですか?あの窓…」

悠木は部屋に1つだけある大きな窓を指さした。

「どーして、カーテンをしてないんですか?」
「私カーテン嫌いなのよ」

そー言ってタカコは部屋を出て作業小屋へと向かった。

「カーテンが何か関係あるのか?」
「あの部屋にあった大きな窓、タカコさんはカーテンが嫌いだって言っていたが、きっちりとカーテンレールがあったんだ」

この事件、悠木はずっと暗闇の中手探りで出口を探していたが、ここに来て光が少しだけ差し込んだ。新たな手掛かりを見つけた悠木だったが、それは同時に新しい疑問を生む事になる…
次回、死神祭り2日目、第2の生贄が死神の前に捧げられる…
9, 8

  





人と言うのは果てしなく貪欲な生き物だ。何かを得てもまた他の何かが欲しくなる…例えどんな地位の人間でも…己の欲求を満たすことは恐らく出来ない…それが神の仕える神官や神父といった聖職者、もしくは仏の道を極めた坊さんでもだ…


なら……真の解放とは何だ?人がこの止まる事を知らない欲求から解放する方法は……
悠木は1つだけ心当たりがある、それは



死だ。
死んでしまえば何もかも終了する、ハズ。
仏教には『輪廻転生』と言う言葉がある、簡単に説明すると死んでもまた別の何かに生まれ変われるっと言う事だ。
今の悠木にはその答えを結論にすることは出来ない、それは悠木自身が実際に死んだ事がないからだ…いや、死んでしまおうと思った事は何度もある…


だって、俺は生まれてきた時から一度も『生きている実感』を感じたことがないじゃん…今まで学校や家でも居場所と呼べる所はなくて…友達もいなくて…ずっと一人で………寂しくて…

すると、悠木の目の前にもう一人の自分が現れ、俺に問いかける。

「じゃぁ、なぜ死ななかったんだ?」
「だって、死んだら人生それで終わりだろ?」
「でわ、どーして死んでしまおう。と思ったんだ?お前自身死んだように生きている癖に、今され生きたいと感じているのか?」
「俺だって…好きで死んだように生きているんじゃない!!」
「ほぉ…でわ…誰のせいなんだ?」
「……それは…」

悠木は言葉を詰まらせた。

「言ってしまえばいいだろ?父さんだって。お前もそー思っているハズだ」
「…俺は…」
「アハハハハハハハハハ!!そーだよな?お前はそー言う人間だったな。全部自分で抱え込んで、本当は悪くない事も自分せいにしてしまえば、全部楽だもんな?」
「……」

そこには高笑いする、もう一人の自分とは別に反論できないちっぽけな自分がいた。

「俺は覚えているぜ。母さんの病室の前でお前が言ったあの言葉…お前だって覚えているだろ?」
「…覚えて…ない…」
「嘘だ!!!本当は覚えている癖に、忘れたふりしている。言ってみろよ?なぁ!」

もう一人の自分が急に6歳の時の自分に姿を変える。
少年は泣きだした…あの時と同じように…

「やめてくれ…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」

悠木はその次に何を言うかを知っている…だって本人なのだから…

「…お願いだ…もう、やめてくれ!!」






「生まれてきて…ごめんなさい…」





『第10話、欲望を狩る者』




ここまでの疑問
・返り血
・血が付着していない円状の跡
・なくなった首
・落ちていた花びら
・カーテンのついていない窓

だんだんと周りが薄暗くなる。もうすぐ夜が来る…

「ねぇ。南条くん、もうやめない?」
「…」
「聞いてる…?南条!!…バカ」

あれから何時間経っただろうか…もう死神祭りは始まっている。
セナの強い口調も今の悠木には届かない。
悠木は一生懸命タカコの部屋の周りで何かを探している…

「悠木君がここまで必死になるなんて…よっぽど重要なものなんだな」
「何言ってるんですか部長!!人が一人死んでいるんですよ?次に狙われるのは俺達かもしれないのに…悠長になんてしてられませんよ」
「そーなのか?」

悠木は探すのは一時中断し、部員達に向かって叫ぶ。

「当たり前です!普通は犯人だって口封じしに来ますよ。後から警察に見つまると厄介ですからね」
「だからと言って、闇雲に探すのは無謀だとは思わないのか?」
「それは…」

篠原の言うとおり、悠木は断定的な物を探してはいなかった。
『何か』落ちているハズ…イメージすら湧かない物は悠木はさっきから探している。それはまさに雲をつかむような話。

「だって、カーテンの事はどー考えてもおかしいじゃないですか!」
「単にカーテンを変えている途中だったとか。だから今はなかった」
「じゃぁ、どーして『嫌い』だなんて言ったんですか?」
「今使っているカーテンが嫌いって意味じゃないの?」

確かにその線も絶対に無いとは言い切れない…だが、今やっと掴んだ新たな手掛かり、ここ見逃したりしたら次に誰が死ぬか…
今はこの小さな手掛かりから来る『疑問』を解決するしかない。

「…タカコさんって若いじゃないですか?まだ、オシャレとかしたい年頃なんですよ」
「タカコさんって今何歳?」
「35」
「35!?」

母:唐坂 タカコ(35)
長男:唐坂 信夫(30)
次男:唐坂 早貴(25)
弟子:君川 敬(22)
使用人:田辺 千代(49)
長女:唐坂 佳奈(17)
病死した先代の当主の兄:唐坂 智和(54)

「病死した佳奈さんのお父さんって何歳なの?」
「54歳」
「智和さんは双子の兄ってことになるな…」
「そして、何らかの事情があってタカコさんと再婚したのか…何か複雑な家系なんだな」

いつの間にか話が変わり、その間に周りはすっかり暗くなってしまった。
悠木は屋敷に帰ろうとした。その時、作業小屋の方から男性の叫び声がする。

「な、何だ今の?」
「作業小屋の方からだ!!」
「わ、私先生呼んで来る」

セナは屋敷の方へ走り出した。悠木と篠原もまた作業小屋の方に向かう。
そして、同時に悠木に寒気が襲った…
この感覚は…いつもと違う…怖い…怖いよ…

「まさか…まさか二人目の犠牲者が…」

篠原は作業小屋のドアを開けた。

「大丈夫ですか!?」
「ゴ…ゴキブリが!!!」
「へ!?」

そこには恐怖に怯える君川さんが机の上に立っていた。そして、タカコさんはそのゴキブリを大きな斧で切り殺そうとしていた…

「な、何やっているんだすか!」
「ゴキブリが…ゴキブリが…」
「何だゴキブリか…心配しましたよ」

緊張の糸が一気にほどけた。

「タ、タカコさん。何やっているんですか!早くそんな斧置いて下さいよ」
「ゴキブリはねさっさと殺すのが一番なのよ」
「僕は殺し方に問題があるって言っているんです!」

悠木はタカコの持っていた斧を即座に取り上げた。
死神よりもむしろこの人の方が怖い…

「大体、この斧って何ですか?」
「それは高豪樹を切るために使う斧で、わたしは毎日の様に使っているんですよ」
「にしてわ、泥とかおがくずとか着いていませんね」
「当たり前です。道具は職人の命ですから、毎日綺麗に手入れしてますよ」

すると、屋敷の方からセナが先生と共に大急ぎで走って来るのが見えた。

「大丈夫ですよ先生。事件とは無関係ですから」
「違うんだ南条。智和さんが…さっきから帰って来ないんだ!」
「智和さんが!?…いなくなってどれ位たちましたか?」
「もう、かれこれ1~2時間だ」
「みんな、一生懸命に捜索はしているが…見つからないんだ…」
「私達も探しましょう」

部員全員に先生、そして君川にタカコがそれぞれに探し始め様とした。
その時…

「ちょっと、待って下さい…」
「どーした。南条」
「さっきから、感じていた寒気はこれだったのか…だとすれば…」

悠木は辺りを見渡した。静まり返る暗い森の中で…悠木は必死に感覚を研ぎ澄ます…

「あそこだ…」
「あっちは…湖の方だ!急げ!!」

篠原と先生が湖の方に向かって森の中に入る。

「わ、私達は人を呼んできます」

君川とタカコが屋敷に向かった。

「南条くん大丈夫?」
「あぁ…ちょっと疲れただけだ…行こう」

二人は走り出す…

[湖]

悠木とセナが到着した時にはもう篠原や先生そして、君川とタカコがいた。
さっきとは比べ物にならない寒気がする…いや、もう寒気の領域を完全に超えている…色んな人の感情が悠木の体の中を通り抜けていく…その感覚がとても気持ち悪い…

「…状況は…」

篠原が湖の方指さした。
そこには白い物が湖に浮かんでいる様に見える…遠くて良く解らない…
悠木は湖に近付いた。
その時に一体何が起こっているのか、ようやくする理解することが出来た…

「智和さん…」

智和は死んでいた。白いボートの中で…
体と首が完全に分かれている、小学生でも解る…これは死んでいると…
ボートの中には水が入っており、そこに沢山の赤く染まった高豪花が散らばっている。

「また、高豪花ですか…」
「これを見ろ悠木君」

篠原が悠木にある紙を渡した。

「それは死体の側に落ちていた物だ…」

紙にはこう書いてある…

『我、欲望を狩る者なり。遺産に目が眩みし者達よ…汝らのその首、死神に捧げたまへ』

それは…死神からの挑戦状…
『第11話、作戦』




智和は死んでいた。白いボートの中で…
体と首が完全に分かれている、小学生でも解る…これは死んでいると…
ボートの中には水が入っており、そこに沢山の赤く染まった高豪花が散らばっている。

「また、高豪花ですか…」
「これを見ろ悠木君」

篠原が悠木にある紙を渡した。

「それは死体の側に落ちていた物だ…」

紙にはこう書いてある…

『我、欲望を狩る者なり。遺産に目が眩みし者達よ…汝らのその首、死神に捧げたまへ』


それは…死神からの挑戦状…


「二人目の犠牲者が出てしまったのか…」

先生が死体の処理をし始めた。智和さんの死体に大きな布を掛け、両手を合わせて祈る…

「信夫さんの時もそうでしたけど…貴方達は一体誰なんですか?」
「そーよ!さっきから死体をずっと調べているようだけど…」

部員達は顔を見合わせた。
お互い目で会話し理解したらしく、全員はうなずいた。

「我々は本当は歴史研究部なんかじゃありません…」
「私達は殺人事件研究クラブです」
「殺人事件研究クラブ?」
「実は佳奈さんから遺産問題ついて依頼がありまして、そのためにこの村に来ました…警察には顔が利きますので、警察が到着するまでは我々の指示に従ってください」

そう、部長の篠原は現警視総監の息子さんなのだ。親から特別に捜査が出来る権限を持っているらしい…

「死んでから恐らく、一時間~二時間はたってるな」
「智和さんをここに呼んで、殺したって事?」
「そーかもしれない…わざわざ、こんな所に呼んで殺して、ボートに乗っけて流しているしね…」
「ご丁寧に高豪花まで添えるからね…。とりあえず、みなさんのいた場所を聞かせて下さい」

悠木はまず君川さんとタカコさんに聞いた。

「僕はタカコさんと一緒に死神祭りの準備していたよ」
「今日は死神役は早貴さんなのにですか?」
「こっちにも色々準備あるんですよ…」

次は早貴さん。

「私は死神役なので村を回っていました」
「一人でですか?」
「ええ…」

佳奈さんにも聞こうと思ったが、よく見ると佳奈さんと…いや、千代さんも姿が見えない…

「先生。そーいえば、佳奈さんと千代さんは?」
「あの二人は今も屋敷にいるよ。智和さんが見当たらなくなった時からずっと一緒だった」

まず、悠木はここである疑問が出現…
まただ、また早貴さんだけアリバイが無い。信夫さん時もそうだった…

「う~ん」
「南条くん今何考えてるの?」

悠木は皆にある提案を持ちかける…それはもう誰も死なないために、悠木ができる精一杯の死神に対するあがき。

「今日、皆一緒の部屋で寝ませんか?」
「え?」

その場にいた全員が驚いた…

「な、なんで私が南条くんと一緒に!!」

セナは顔を真っ赤にして、慌て始めた。

「いや、別に天川さんと寝る訳じゃないよ。死神はこの中にいる…だから、もう死神の思い通りには絶対にさせない!」

この作戦はもっと早めに決行すべきだった。
悠木は今更ながら後悔している、信夫さんの時は余りにも手掛かりが少なすぎて作戦を実行する事は出来なかった。だが、そんな自分のせいで智和さんまで殺されてしまった…もう、悠長な事は言ってられない…

「私も、南条くんの意見に賛成です。わたしはもう周りの人間が死ぬのを見たくない…」

君川さんが悠木の案に賛同した。

「まぁ、仕方ないわね…」
「わかったよ」

早貴さん、タカコさん共に賛成。

「ありがとうございます。それでは屋敷に戻りましょう」

全員が屋敷に向かって歩く。
悠木は思った。
乗ってきた…死神が自分の作戦に乗ってきたぞ…という事は、死神も何か手があるってことだ…絶対に油断できない!これは俺と死神の心理戦だ…

「悠木君もしかして犯人がわかったんだね?だから、あんな提案を…」
「ほんとか!南条」
「智和さん殺しでかなり見当がついてきましたよ。疑問の思ったのは死にかたです」
「死にかた?」

そう、信夫さんの時は首が完全になくなっていた(8話)が、智和さんの時は首が無くなっておらず(10話の最後らへん)首と胴体が離れていただけ…

「考えられるのは、首を処理する事が出来なかったってことですよ。信夫さんの時は死神に見立てるために、わざわざ処理したが智和さん時は出来なかった…そう考えるのが妥当です」
「…なるほど。その日はどーしても処理できなかった理由があるってことだな」
「だけど、今回の殺しではかなりの量の高豪花が使われていましたよね?あれがどーも引っ掛かる…」
「私も高豪花の事はずっと考えているんだがね…」

今回の事件で言える事は犯人はかなりの計画を練っている事だ…
二人も殺しておいて強力な手掛かりが少ない、これが計画殺人って奴なのか?…

「あれ?そーえば、天川さんは?」
「そーいえば…」

さっきから姿が見えない…まさか、死神に…

「天川ならずっと、あそこにいるぞ」

先生が湖の方を指さす。悠木はセナの所に走った。

「何、やってるんですか?」
「…」

セナはまだ顔を真っ赤にしている。どうやら恥ずかしくて悠木を直視出来ないらしい…

「あの…何か勘違いしていませんか?俺は『みんなで』寝ると言った訳で…一言も『天川さんと』寝るとは言ってませんけど…」
「そ、そんな事…わ、解ってるわよ…」
「俺…興味ありませんから」

無論、悠木は悪気あって『興味がない』といった訳ではない…
悠木自身はそういった『寝るという行為』に興味がないだけであって、けして絶対に『天川セナ』という一人の女性対して興味がない訳じゃない。
だが、人という生き物はどーして解り合えないのだろうか?すれ違いに、すれ違いを重ねて人はようやく解り合えるようになれるのかもしれない…それが何十年にもなろうとも。

「きょ、興味無い…南条くんは私に興味無い…興味無い…南条くんは私に興味無い…」

セナはうつむきだした。
だんだん声が小さくなっていき、ブツブツと呪文の様に繰り返し始める。

「そーだよ!やっと、わかってくれたのか。俺は興味がないんだよ!」

あぁ、勘違いとは怖い物だ…

「篠原…青いな…」
「はい、先生!本当に青いですよ」

ここまでの疑問
・返り血
・血が付着していない円状の跡
・なくなった首
・落ちていた花びら
・カーテンのついていない窓
・犯行が起こった日
・アリバイ

首切り村編もそろそろクライマックス。
対死神用の作戦を決行した悠木は次回、死神祭り三日目に突入する…
11, 10

  

『第12話、決戦前夜』




悠木は皆にある提案を持ちかける…それはもう誰も死なないために、悠木ができる精一杯の死神に対するあがき。

「今日、皆一緒の部屋で寝ませんか?」
「え?」

その場にいた全員が驚いた…

「な、なんで私が南条くんと一緒に!!」

セナは顔を真っ赤にして、慌て始めた。

「いや、別に天川さんと寝る訳じゃないよ。死神はこの中にいる…だから、もう死神の思い通りには絶対にさせない!」

この作戦はもっと早めに決行すべきだった。
悠木は今更ながら後悔している、信夫さんの時は余りにも手掛かりが少なすぎて作戦を実行する事は出来なかった。だが、そんな自分のせいで智和さんまで殺されてしまった…もう、悠長な事は言ってられない…

[屋敷の大広間にて]

「みなさん、今日からこの部屋で寝泊まりしてください。そして、一人では絶対に出歩かないでください…」
「明日の死神祭りの時はどーするんだ?」
「今は言いません…死神がこの中にいるかもしれないんです。みすみす、作戦を明かす様な事はしませんよ」
「そーか、この中に死神が…」

目には解らないが、明らかに緊迫して状態。口には出さないが、誰もが他の人間を疑っている。
悠木は思った。
これで良い…誰が死神か解らない状況でのこの緊張感…これで死神もだいぶやり辛くなったはずだ。
もし、この状況で人を殺そうとした場合、必ず人に見つからないようにしなければならない…無理やりにでも行動してみろ、俺が絶対に見逃さない…

「とりあえず…早いですけど、今日はもう寝ませんか?俺はもう疲れちゃって…」

まず、悠木が一手仕掛ける…早いも何もまだ夜の9時。
これ以上、死神に準備をさせない…

「そーですね…私も疲れました」

君川も悠木に賛成。

「私はまだ、眠たくないわ」

タカコを反対。

「俺もまだ…」

早貴も反対。

「佳奈さんと千代さんは?」
「私は別に…いいですよ」
「私も」
「それじゃ、私達だけでも先に寝ましょう。布団は私達殺人事件研究クラブと千代さんが取りに行きますから、みなさんはそこにいて下さい」

悠木は大広間を出て、部員達と先生に指示をだす。

「これから、重要な事は全部メールで会話します。着信音とバイブはちゃんと切っておいてください」

悠木達は全員分の布団を用意して、大広間に敷き詰める。

「トイレとかに行く時は必ず誰かに言ってから、出て行って下さい」
「そこまで徹底するのかい?」

早貴は疑問に思った。

「犯人扱いされますけど、それでも良いですか?」
「それは…」
「それじゃぁ、今まで言った事をきちんと守ってくださいね!お休み」

悠木は布団に入った。
それを見て、篠原・セナ・先生・佳奈・千代・君川が布団に入る。

「…」
「…」

タカコと早貴はそれを見て嫌々布団に入り、電気を消した…
さっきまで騒がしかった大広間が急に静かになる…

だが、悠木達はまだ寝ない。必死にメールを打つが普段全然使わない機能のせいかかなりぎこちない…

――――――――――↓メール会話だと思ってくれ―――――――――――――

悠木:みんな起きてれ?
篠原:「起きてれ?」って悠木君普段メールを使わないんだね。完全に誤字脱字じゃん
セナ:かわいい
先生:起きてれ
篠原:先生がやったって全然かわいくないですよ
先生:…
悠木:そんな事はどーでも良いですけど…明日が勝負ですよ
セナ:どーいうこと?
先生:何か掴んだんだな
悠木:明日、恐らく死神がやってきます
篠原:それは誰かが死ぬってことかい?
セナ:誰が殺されちゃうの…
悠木:殺させやしないさ…明日絶対に俺が捕まえる
先生:って事は、犯人がわかったのか?
篠原:実は私も大体の見当はついているんだよ!
セナ:本当ですか!?
篠原:嘘…ごめん…
悠木:死神は恐らく、今日皆で寝る事も想定内だったんでしょう…
先生:そこまで考えていたのか。そりゃ、決定的な手掛かりが落ちていない訳だ…
セナ:それで犯人は?
悠木:犯人は……まだ、わからん…どーしても繋がらない所があってね…
篠原:それは?
悠木:アリバイです…二回とも早貴さんだけアリバイがない…後は全員アリバイがある…そのせいで、どんなにトリックが解っても崩せない
先生:確かにまるで早貴さんを犯人に仕立て上げる様な感じだな
悠木:それじゃ、報告はここまでにして。おやすみなさい
セナ:おやすみ~
篠原:おやすみ
先生:おやすみ

――――――――――↑メール会話だと思ってくれ―――――――――――――

悠木は携帯電話を閉じた。
こんなに人とメールをした事は生まれて来て一度もなかった…メル友か…
少し考えたがすぐに眠気が襲ってくる、今日は父親の出てくる悪い夢を見ても大丈夫そうだ…

[三日目の朝]

悠木は一番に目が覚めた。
早寝をしたせいか、いつもよりも一~二時間はやく起きてしまったそうだ。

「みんな寝てるのか…」

悠木はふと佳奈の寝顔に目が止まる。
佳奈さんって綺麗な顔しているよな…やっぱりこんな森に囲まれていてのびのびとした田舎で育ったからかな?学校にいた時はそんな感じはしなかったが…これがギャップって奴か?…

「南条くんどこ見てるの?」

ついつい、佳奈の寝顔を見るのに夢中になっていた。

「いや…別に…」
「今、佳奈さん見ていたでしょ!」
「あぁ…見てたよ」
「何で…」
「だって、綺麗な顔しているから」

そこまでハッキリ言われるとセナも嫉妬する気も起らない…

「佳奈さんは確かに綺麗だけど…私はどう?」

セナは恐る恐る聞いてみた…
悠木は少し考えて答えた。

「天川さんは……佳奈さん程美人じゃないな!」

悠木は悪気があって言っている訳ではない…
こういう性格なだけだ…

「……」
「どーした?」
「顔洗ってくる…」
「一人じゃあぶ―――――」
「バカ!!!!」
「へ!?」

そして、またこの二人も起きていた。

「篠原…青いな…」
「はい、先生!本当に青いですよ」

ここまでの疑問
・返り血
・血が付着していない円状の跡
・なくなった首
・落ちていた花びら
・カーテンのついていない窓
・犯行が起こった日
・アリバイ
『第13話、沈黙』





ここまでのあらすじ…
殺人事件研究クラブに唐坂佳奈から依頼があった。その内容は唐坂家の遺産を巡る問題だった、そして唐坂家のある高豪村で悠木達を待っていたのは死神祭りと呼ばれる奇妙なお祭り。
その死神祭り一日目の夜に唐坂家の長男である信夫が死体で見つかり、二日目には病死した先代の当主の兄である智和さんが殺された…

第一の犯行で重要な手掛かりと言った物は殆ど残ってあらず、悠木には手も足も出せない状況だったが、智和の死で死神からの挑戦状を受け取り悠木はある作戦を実行する…

『「今日、皆一緒の部屋で寝ませんか?」』この言葉によって強引かつ正確に死神の行動を抑制する事ができる。
だが、死神の方も悠木がこの作戦で来ることは予測済みだったらしく、中々尻尾を出さない状況…

そして、死神祭り三日に突入する…

ここまでの疑問
・返り血
・血が付着していない円状の跡
・なくなった首
・落ちていた花びら
・カーテンのついていない窓
・犯行が起こった日
・アリバイ

「みなさん!!おはようございます」

悠木は何時になくハイテンションで皆に挨拶をした。

「…お、おはようございます」

早貴はあまり寝付けなかったらしく、目にクマが出来ている。

「それじゃ、朝ご飯食べましょう。千代さん、朝食の準備は出来てますか?」
「ええ…出来てます」

千代・佳奈・セナの三人が朝食の準備をし始じめる。
今日の朝食は鮭の塩焼きに白菜の浅漬け、だし巻き卵、味噌汁にご飯。

「ちょっと!私達死神祭りの準備があるんだけど」

タカコが悠木に向かって吠えた。

「ダメです。死神祭りが始まるまでは、原則この大広間にいて下さい」
「大体、死神だってこんな明るい内に行動なんて絶対にしないわよ!」

悠木は素早く反論する。
まるで、この言葉タカコが言うのを待っていたかように…

「どーして、そんな事がタカコさんに解るんですか?僕の裏を書いて行動してくる事も十分に考えられますよね」
「それは…」
「もしかして…貴方が死神なんじょないんですか?」
「ち、違う!私はただ…」
「この様に疑われたりしますから、軽はずみな行動は絶対にしないでください」

そう…これは夢ではない…まだこの中に死神がいるのだ。寝たら全部なくなり、夢落ちでした!!みたいな展開には絶対にならない…
朝食を食べている時はみんな黙っていた、だがその空気はとても重くて悠木みたいに敏感な体質でなくても感じる事の出来る雰囲気…飯が不味くなる。

悠木の一言が効いたらしく、午前中は特に何も無いまま時間だけが過ぎて行く。

[午後]

「…」
「…」
「……」

昼間になっても、容疑者と部員の皆は一歩も外に出る事もなく大広間に籠ってばかりいた…
沈黙がこの状況の全てを物語っている。
皆口には出さないが本当はとても疲れているし、ストレスも溜まっているだろう…

「な、南条くん…もう…これくらいで良いんじゃない?」

この空気に耐えられず、セナが口を開く。

「……」

悠木は無視をした…
正確には無視しなければならないからだ。これは言わば死神との我慢比べ、死神がこの空気に耐えられず、何かアクションを起こして来るとするならば…それは…昼間だ。
朝の段階では死神は自分を行動を探ってくるだろうと悠木は考えていた。自分を頭の良い人間と思っているなら絶対に悠木の裏をかこうとするのが常套手段、だから朝の段階では犯人は行動を起こしてこない…

実は悠木のこの判断は正解。死神自身は死神祭りが始まるまで行動はしない予定だったが、そこにはある大きな誤算があったせいで計画は変わることになる。

「ちょっと…外に出て良い?」

タカコがうんざりした様子で悠木に話しかける。

「私も外に出たいんですけど…」

早貴もタカコに賛同する。

「実を言うと私も限界で…」
「もう良いでしょ?南条くん」

タカコの一言で場が一気に盛り上がる。
そして、皆悠木に視線を送る…

悠木は携帯で時間を確認した…もう午後4時を回っている。

「……解りました」

悠木はそれを承諾した。

「やっと解放されるぜ!!」
「疲れました…でも、死神祭りの準備しなくちゃ…」

皆が大広間から出て行き、部員だけになってしまった。

「良いのかい?悠木君?」
「もう、これ以上やった所で…大した成果は望めないので」
「何か…掴んだの?」
「証拠じゃないけど…かなり大きな手掛かりをね」

悠木はそう言って自分も大広間から出て行った。

「さて…俺もそろそろ準備するかな」

大きく手を上にあげて背伸びをし、悠木は歩きだす…

13, 12

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