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神と人と

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 褒められたピザタが0点という事。それは、ナイトウが初めに着地した「このゲームはあくまで試験、だから神と民もただの俗称である」という考え方で合点がいく。神もまた『試験者』なのだ。当然、神も必要以上に褒められると点数は下がる寸法となる。
 では、何故その足場が危ういのか。それは神と民との総数を確認すると瞭然となる。
 神の数が二に対して民の数は六、こうして見ると民は神に対して三倍もの人数がいる事が分かる。そう考えると民を統べる神という立場は単純計算にして一人で民三人を掌握している事になる。やはり、神のポジションは是が非にでも獲得しておきたい。
 ――それは正しいのだろうか。
 ここでもう一度考えるべき事は『神と民もただの俗称である』という事と『ピザタの点数』の二点である。
 衆寡敵せず、大体において数の利とは優位性をもたらす。ではその理論を現状の面接ゲームにも当てはめた場合、多数という優位性は保てるのだろうか。その答えは無論、保てるのである。
 そして、ラグノの発言によりピザタの点数が落ちたという推察が正しければ、いよいよ事態は未曾有の危機を迎える事となる。その危機とは一体何なのか。
 それは、民による反逆である。
 単純に総力は二対六。面接形式をディベート型や自由討論式に変えてもらい、民が総数を持って神を褒め殺しにした場合の破壊力は想像に難くない。そして、例え面接形式を変える事が出来なかったとしても民は強行すればいいだけの話。天邪鬼というルールは、生きているのだから。
 数という優位性と天邪鬼の立場性、民は強力な土台が与えられている。ここまで考慮すると、必然的にこのゲームはいかに神を殺すか、という一点に絞られ作られているという事が分かる。それは、人類の軌跡を模している様に思えた。神が人を操っているのではない。人が神を操って歴史はつくられてきたのだ。この面接ゲームは、神と人との関係を明瞭に表したもの。神は、磔刑される運命なのだ。
(今思えばラルロのあの発言はおかしかったよな……)
 あの、とは一回戦目の点数発表時の事である。
 ラングが怒りをぶちまけた際、ラルロはその怒りに被せる形でこのゲームの本質<タネ>をバラした。そもそもそれがおかしい。
 天邪鬼のルール。それが例えゲームの本質だったとしても、なぜそれをバラす必要があったのか。なぜバラすタイミングが一回戦目終了時という早い場面だったのか。純粋に王の逸材が欲しいのならばそのままバラさずに静観していればいいはずなのに、ラルロはバラした。それは『まだこのゲームの裏には仕掛けが残ってるから』、と暗に示していたのではないだろうか。神は殺せるんだよ、と。
 そこまで思案して、ナイトウは臍を噛んだ。なぜあの時に気が付かなかったのか。どうしてあそこで感じた違和感を昇華させなかったのか。
 ――なぜ、ラグノが先に気付けたのか。
 自分よりも先に本質<タネ>を明かしたヤツがいる。
 ナイトウにとってはその点が実に腹立たしかった。
(……そういえばあいつ、ロウドウ島出身者とか言ってたな)
 ロウドウ島、それはこの世界で初の社会主義国。共産党による一党独裁制の形態をとっていたロウドウ島では宗教弾圧が酷く、無神論が国是であった。しかし、近年になってそれは瓦解したと聞く。弾圧されていた宗教を解放するという名目で、民主党が政権を奪う事に成功したからだ、と。
 民主党は弾圧され続けた中でも一番信者数が多かったロウドウ誓教を国教にすると約束し民主化を推し進めた。当然、そんな話を聞けば敬虔なロウドウ誓教の信者達から民主化を支持する声は波紋の様に打ち広がり、結果、民主化圧力を受けた社会主義体制は簡単に破綻する事となった。信仰に篤い人々を操り、この国は変わる事に成功した。そう、神は政治に利用されたのだ。
(そんな国の出身だからこそ、ヤツは慣れていたんだ)
 神は崇める対象なのではなく、疑う対象だとという事に。
 そんな事に気づいたところで今更事態は変わらない。未だ揺れる足場の上でナイトウは神と民との境界線を漂っていた。
 神は一人は決まっている。民は周りの反応を見る限り三人は確定している。
(神を引く確立は四分の一……! ベイズ理論を考慮すると神をオレが引き当てる確立は多分、三分の……いや、二分の一くらいになるのか……ッ!?)
 そう考えた途端、汗が身体中から溢れ出した。
 磔になる確率が二分の一というこの現実を、滲ませるて目を背けるかの様に。
(いやいやいやいやいや! 大丈夫だ、逆に言えば少ない回数とはいえオレは神を一度も引かなかったんだ、つまり次も神を引く可能性は低いとも言い換える事ができるんだ!)
 大丈夫、大丈夫とナイトウは深く呼吸をして、その右手に掴まれた未来<カード>をゆっくりと目の前へと手繰り寄せる。カードが視界に近づくにつれて、心臓がドグン、ドグンと高く脈打ち、汗がポタリ、ポタリと零れ落ちる。

 ――ドクン

 極度の緊張により頭の芯が熱を生む。
 視線は一点を見つめているつもりなのによろよろと中空を彷徨う。

 ――ドクン

 規則正しく音を刻む心臓の鼓動。
 まるで警鐘が頭の中で永遠と鳴り響いている感覚。

 ――ドクン

 そんな世界でナイトウは神に祈りを捧げ、一気に眼前にとカードを手繰りよせた。























 ――ドクンッ

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