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疑惑

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 これは楽勝だな、とナイトウは大きく不適に笑った。
 その『笑う』という行為は心の中で、という胸中を表してはいない。ナイトウはその言葉通り皆によく分かるように、悪魔が欣喜雀躍するかのような表情を露骨に見せ付けた。
 それは決してナイトウの集中が切れたから、等という陳腐な理由からではない。いくらこれが面接中とはいえ、「勝った、これは楽勝だ」という露骨な感情表現を『隠す』意味がすでにナイトウには無いから、だ。
 ナイトウは一回戦目に引き続き、二回戦目も試験を臨む者とは思えぬ高圧的な態度で面接ゲームに挑んでいる。現状、ラルロの言う通りならばこの面接ゲームとは本来の面接とは異なり、好印象と悪印象とが反転、つまり普通の面接時では許されざるナイトウのスタイルも今は逆作用。優良、優等、優秀。そう、今のナイトウの態度は大変素晴らしく、模範たる行動に当たるのだ。故にナイトウは昂ぶった感情を無理して抑えず、『逆』に堂々とアピールをしたのである。
(しかし……本当に楽勝だな)
 半ば演技を交えた仰々しい表情から普段の凛とした顔に戻ると、途端にその楽勝ムードに対して興が醒める。
 このまま行けばこの二回戦目もナイトウとラグノがトップ点数を取り、二人のアドバンデージは更に堆く築かれるであろう。それなのに……
 ナイトウは周りを睥睨する。
 鵜のまねをする烏、とは少々穿った物言いだとは思うが二回戦も終盤を向かえてなお、皆はオリジナルを主張するでもなく、保守的な態度で常に後手後手に回っている。それらは負けたら『消される』という脅迫と、実際にラルロによる『暴力』を目の当たりにしたからであり、腰が引けて安易な正解に飛びつく心境も察する事はできるが、
(こりゃあ三回戦目もオレとラグノがトップだな)
 と、勝ちに身を投じる事のできない者達を見てナイトウは勝利を確信した
 だからと言ってナイトウは気を抜くなんて事は絶対にしない。あくまで勝負は勝負、目的達成と享楽主義とは絶対に混交させない。
 勝利が、第一目標だった。
 それは、どんなに荒れ狂う波でも、どんなに強い磁器にも絶対に揺るぐことのない、強固な羅針盤である。だからナイトウは楽勝、と思う反面で一分の隙も見せる事は絶対に無く、凛とした表情で皆を見つめた。
 今、ゲームは時間的に見て最後の質問に入っている。そして神であるピザタとスパタが出した質問とは「ピザとパスタだとどっちが好き?」というモノである。
 なぜだろう、一見普通の質問にも聞こえるがとても「ピザが食べたい!」とも「パスタが大好き!」とも言いにくいこの質問に、ナイトウは少し頭を悶々とさせる。
 今回発言順が二番目となる席に座れたナイトウは結局、何故その言葉を言いにくいのかよく分からなかったのでとりあえず「ししゃも」と答えておいた。
 これに対して神の二人は一瞬顔色を悪くした様に見えたが、「ししゃもって美味しいよね」「ぷちぷち感がいいよね」「わたしもピザとパスタどっちが好きって聞かれたら……やっぱりししゃもだよね」なんて事を、ナイトウを褒めて殺すために頑張って言っている。
 思惑渦巻くこの面接ゲームは、混沌とした様相を呈していた。
 そんな中でナイトウは最後の質問を終えると、ししゃも好きと公言できた事に充足感を覚えているのか愉悦たっぷりといった表情で自分の席にと座った。
 これでこの試合、ナイトウは役目は終えた事になる。なのでこれから発言する民の答えと神とのやり取りを楽しく拝聴させていただこう、と短い享楽時間に嬉々として耳を傾けた。
 当たり障りのない応答が続く中で、この質問は応答最後の試験者となる金髪野郎、ラグノへとタスキが回ってくる。ナイトウにとっての清涼剤である、ラグノ・ディシリータへと。
「わわっわ、私はどどどど、どっちが好きかと言うと、え、え、えと」
 ラグノは相変わらずオドオドと身振り手振りさせながら顔を真っ赤にしながら答えた。
「し、ししししゃもが好きですっ!」
 空前絶後のししゃも旋風が巻き起こっている室内でナイトウは、ラグノのキャラを見飽きた、と飽和気味な空気に溜息を吐いた。
 自分のネタが他の人にも使われている事に多少なりの嬉しさ覚えるがここにきてラグノがオリジナルネタで攻めてこなかった事や、神とのやり取りも天然ボケ一色のテンプレート回答に落胆の色を隠せない。
 だからと、ナイトウは大きく欠伸をした。
 もう何もないだろう、そう思った時だった。
 神である二人がもうこれ以上追求する事はないな、と互いに視線を交えたその時、ラグノは急にそのふざけた表情を正していい放った。
「いやーけど流石ですよね、ピザタさん。ピザとパスタどちらが好きだなんて。こんな質問はそうそう考えられないですよ」
 ラグノは饒舌に続ける。
「これって、お二人方どちらが好きかってのを暗喩で聞いてるんですよね? おかげさまで答えにくいったらありゃしない。もうダメ。流石ピザタさんだ、試験中から賢い人だなっ思ってたんですよね」
 そういってラグノはお手上げです、と両手を頭上近くの高さまで掲げる。
(……?)
 その唐突に行われた不自然な言動にナイトウは困惑する。
(なんで急にあんな事言ってんだ? あれじゃせっかく手にしたキャラも崩れてしまうだろうに、というかそもそも相手を褒めるのは神の仕事だろ?)
 理解不能の行動にナイトウの脳下垂体からはストレスを緩和させるホルモンが過剰に分泌される。
(……もしかしてあいつは本当の天然種なのか?)
 そこでナイトウはラグノを一瞥すると、余計なストレスを抑えるために適当に理由付けをする。まるで、自分の思慮範疇外の出来事は間違いであるかのように、理解できない行動をとったラグノが不正解、間違いだと決め付けるように。
 しかし、ナイトウはすぐに違和感を覚える事となる。
 それは、二回戦目の点数結果の時だった。
(……? この点数は……?)
 ラルロの発表を聞いてナイトウは首を傾げた。
 今回の内訳はナイトウ+20pt。ラグノ、スパタ+10pt。ラング、ピザタ、チョコ0pt。ミート、ドシャ-10ptだった。
 ラグノはやはり最後の不可解な発言の為に10pt止まりになっている。それはいい、それはいいのだが……
 ナイトウはある一人の男、ピザタの点数を見て少しの疑惑を抱く。
(神が、0点?)
9

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