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ハジマリ

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「嗚呼、アルマ様今日もどうか見守りください」
 私は一人礼拝堂の前で片膝を付きながら手を組み、目を閉じつつそう祈った。
 アルマ様はこの町の守り神。土地神といってもいいかもしれない。神は世界の各土地を司る。一か所に対し一柱がその場所を守り、住まう生物を育てていくのだ。
 この町の中心には教会があり、奥にはアルマ様の像がある。とても美しい像だ。私が女だからかもしれないが、その美しさは単なる美しさであって劣情を催すものではない。形こそ人の形だが、受ける印象は人でないのだ。芸術というのだろうか。まさに完成した印象で、人間ならばあるはずの欠落が無い。もっとも人と同じく欠けていたなら見守る立場に立てるものではないのだろうけれど。そして、だからこそ私たちは信じることができる。
「なぁにがアルマ様だよ。神頼みほど情けないものはないな」
 私が祈る後ろ、教会の入り口の方で声がした。あどけなさの残る高い幼い声。私はその方へと振り向いた。立っていたのは予想通りの、まさに子供だった。男の子。
「私たちは神頼みしているのではないわ。ただ精進するため、見守っていただくために祈っているのよ」
 私がそう言うと、その子供はヘッと嗤う。
「はん。でもなぁお前、結局最後は神に頼むんだろう? 家族が病に伏せったとき、人生を賭けた勝負をするとき……例えばコレとかな」
 拳銃。今時どこでも手に入るそれは彼の頭に突きつけられる。銃口の先は彼自身。上着の裏に入れていたのだろう、手を服の中へ突っ込み子供には不釣り合いのごつい銃を取り出したかと思うと、リボルバーへ弾を一つだけ装填しまわした。そしてその先を自身の頭へ向けたのだ。
「え、ちょっ……」
 ニヤリと口角を歪めたまま、彼は引き金を引く。
「ばぁん!」
 教会に音が響く。大きい彼の声は残響する。銃弾は彼の頭を打ち抜いてはいない。だから彼は立ったままで、相も変わらずこちらを不気味に見ていた。
「と、こんな感じだな。極限の世界じゃあ結局お前らは神に頼むんだ。で、駄目な時は神を恨む。どうしてこんなに祈りをささげているのに、背く行為などしていないのに、ってな。そんで無為自然とかまぁ、それはモノによるが、何かしらの屁理屈で仕方がなかったと理解させられる。神、神、神。自分の上位の存在を作り上げて諦める理由にしちまってることに気づいてないよなぁ。哀れ哀れ」
 高説を説くその顔は子供のものでもなく、全てを知り尽したような何かを企むような顔だった。あどけなさは微塵もない。気味の悪さも覚える。ただしその状況下で私は嫌に冷静だ。
「君は、どこの子? 見ない顔だけど、初めてここに来るのかな?」
目線の先にいる子供は待っていたというような顔つきで口を開いた。
「俺か? 俺は――カミサマ、だ。よぉ、アルマ」


 痛い子と、それが私の彼に対する印象だ。家に招き入れてしまったことを後悔した。しかし、気になることを言った彼とそのまま別れるわけにはいかなかった。こともあろうに私をアルマと呼んだのだ。
「まぁ、霊媒質ならぬ神媒質ってやつだな。鏡を見てみろ、あのアルマの像にそっくりじゃねぇか」
「そんなことありません」
 鏡を見てみても、貧しさを訴えるような痩せこけた顔とぼさぼさの髪が映るだけだった。
「見た目の問題じゃねぇよ。俺だってそうだ。実際はこんなお子ちゃまな恰好はしちゃいない。そうじゃないのさ。……っと、どういったものか。――そうだ、お前らの言葉で言えばうん、雰囲気だ。雰囲気が似ている」
「雰囲気? 随分曖昧なものですね」
「ばぁか。ちげぇよ。お前らの言葉で言えばの話だ。俺ら、つまり神位にいる奴はそれをもっと深く感じることができる。無理やり五感にカテゴライズするならやっぱり感覚に入っちまうんだろうけど、それこそ視覚並みに感知できる。お前もアルマが降りてくりゃあわかるさ」
「さっきから言っていますけど、どういう意味ですか? どうして私なんですか? そんなこと今まで一度もありませんでしたし、たちの悪い冗談にも程がありますよ」
「冗談じゃあねぇさ。ミカエルが言ってるんだから間違いねぇ。お前だって知ってるだろう? 大天使の名前くらい」
「ミカエル? あなたがあの大天使様だとでも言うんですか?」
「そーだよ。信じるか信じないかはお前次第だけどな。ま、実際大天使って言ってもこんなもんだよ」
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