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お題②/雨の日の帰り道/山田一人

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「傘持ってきてないよ……」
 降りしきる雨。下校中、突然の夕立に見舞われた裕太は慌てて屋根付きのバス停に駆け込んだ。髪や衣服、ランドセルが少し濡れてしまう。
「どうしよう。見たいアニメがあるのに」
 家まで走って五分。だが濡れて帰ると母親に怒られてしまう。裕太はどうしたものかとその場で考え込む。
 母親に怒られるのは嫌なので、アニメは諦めることにした。ベンチに座り、雨が止むのを静かに待つ。
 すると、一人の青年が裕太に声をかけた。
「ねえ、君。ここで雨宿りしているんだろう。よかったら僕の傘に入るかい? 家まで送っていくよ」
 見知らぬ人物からの突然の誘い。裕太は困惑してうまく返事ができない。学校では知らない人についていってはいけませんと教えらたような気がする。どうしよう。
「いきなり怪しい人に声をかけられたら恐いよね。ごめんね」
 青年は裕太の表情から心情を察し、謝る。その優しい声に、裕太の警戒心が薄れる。漠然とした感覚だが、この人は悪い人なんかではない。そう思ったのだ。
「それじゃあ、お願いします」
 裕太は青年がさしている傘の中に入った。
「よし、じゃあ行こうか」
 青年は笑顔で受け入れる。二人はゆっくりと歩き始めた。
「君はタイムスリップって知っているかい?」
「知ってるよ。未来に行ったり昔に戻ったりするんでしょ。ドラえもんのタイムマシン!」
「そうか。それじゃあ一つ、面白い話をしてあげよう」
 青年は語り始める。
「ある日、一人の科学者が時間を移動できるというまさにドラえもんのタイムマシンのような技術を開発しました。しかし、その科学者はそれを世間に発表することはしませんでした。同じ研究室の仲間だけで、この技術を共有することにしたのです」
「すごい! それ本当!?」
「さあ、どうかな? 続きを話すよ。科学者は自分を長にして、研究室の仲間と一つの秘密組織を作りました。科学者は過去に行って現代で語られている歴史が正しいものなのかを確かめたり、未来に行って新たなテクノロジーを見たり、さまざまな活動を行っていました」
「秘密組織かあ。かっこいいなあ」
「そんな日々が続きますが、組織の中で一部の人間の不満が高まり始めました。時間移動するのは長である科学者やそれに次ぐ地位や、能力のある人間ばかり。実際に時間移動させてもらえない人員が組織の大半を占めていたのです」
「独り占めはよくないよね。みんな平等じゃないと」
「そしてある日、とうとう組織の中で時間移動をさせてもらえない人間たちが反乱を起こしました。時間移動装置、つまりタイムマシンがある一室を占拠しようと暴れるのです。しかし、そのことを予測していた研究者はセキュリティに力をいれていたため、タイムマシンの占拠は思うように行きませんでした」
「仲間同士で争うなんて良くないよ」
「そんな中、一人の人間がこの争いに乗じて秘密組織の内部に忍び込んでいました。彼はある目的のため、どうしてもタイムマシンで過去に行く必要があったのです」
「目的って何?」
「昔死んでしまった大切な人を助けるためです。その男の人は、争いが起きている内にこっそりとセキュリティを潜り抜け、タイムマシンのある部屋に忍び込むことができました。そして、大切な人を助けるために、過去へ飛ぶことに成功したのでした」
「それで、助けることはできたの?」
「さあ、どうだろう。ほら、君の家に着いたよ」
 話に夢中になっていたためか、あっという間に裕太の家に到着した。すると、玄関が勢いよく開き、幼い妹の真菜が飛び出してくる。
「あー! おにいちゃんかえってきた!」
「どうしたんだよ真菜」
「えっとね、もうすぐアニメがはじまるのにおにいちゃんがかえってこないから、むかえにいこうとおもったの」
「一人で家から飛び出したら危ないじゃないか。真菜はまだ六歳なんだから」
「だってー……」
「でも、間に合ったからいいか。ありがとうお兄ちゃん」
 裕太は振り返って青年にお礼を言う。しかし、そこに青年の姿はなかった。
「あれ? お兄ちゃーん」
 裕太は叫ぶ。お礼を言いたかったし、何より話の続きを聞きたかったのだ。
「帰っちゃったのかな」
 そう呟くと同時に、家の前の道路をふらふらと、しかし猛スピードで自動車が通り過ぎる。そして電柱と正面衝突して大破した。
 非現実的な光景に、二人は唖然としながら、その場に立ち尽くした。
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