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短編/んな猫いるわけねー/ブチャラtea

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 残暑の太陽がまだじりじりと地表に焼きつける九月。斉藤は自宅を出て空に浮かぶ太陽を仰ぎ見て溜息を吐き出した。
 ――今日も相変わらず暑いな。
 八月から永遠に続くのではないかと思われるような猛暑。お盆も過ぎ、また休日返上で続く毎日の仕事。早くも正月の大型連休が恋しくなってくる。
 その日もいつもと変わらない一日の始まりに辟易としていた斉藤だったが、玄関を出たところ奇妙なものに行き会った。
 一匹の猫。一見してただの野良猫だろうかと斉藤は思ったのだが、どうしてもその猫に目が釘付けとなる。目を引くのはその外見。体格はさして大きくもなく小さくもなくといった普通のサイズなのだが、特徴的なのはその毛の色だった。
 全身が白色の毛に覆われた猫だったのだ。全身が白い毛の猫というのを初めて見た斉藤にとってはそれだけでも充分特徴的だったのだが、さらに変わっているのが、その猫の右目周辺だけが黒い毛に覆われていたのだ。
 三毛猫か? と斉藤は最初思ったのだが、しかしよく観察してみても毛は白と黒。三毛猫というには一色足りない。などと考えているうちにその奇妙な猫は「なー」と一鳴きすると、ひょこひょことどこかに歩いていってしまった。
 珍しい猫もいるもんだなあと思い、斉藤もその場を後にした。斉藤の頭の中には早くも変わった趣味を持っている一人の後輩に昼休みにでも話してやろうなんてことを考えていた。きっとヤツに話したら喜んで食いつくだろうな、と。
 そんなことを考えながら歩いていた斉藤の前に不意なにかが落ちて、地面にべちゃっという音を立てた。見ると地面に白い液体が付着している。鳥の糞だ。
 ――うわ、危ねえ。
 顔を顰めた斉藤は鳥の糞を避けるようにして歩き出した。
 しかし、あの猫なんて種類の猫だろう。斉藤の頭の中にあるのは先ほどの奇妙な猫のこと。鳥の糞が目の前に落ちてきたということは早くも忘れさられていたのだった。
 
「昼飯食べに行きましょー、先輩」
 へらへらとした口調で話しかけてきたのは斉藤の会社の後輩、君嶋だった。
 ちゃらちゃらとした軽薄な男で、斉藤は当初あまり良い印象を持っていなかったのだが、なにかとこいつに付きまとわられるうちによく飯を食いに行ったり、飲みに行ったりするような仲になっていたのだった。
「ああ、もうそんな時間か」
 パソコンの右下に表示されてる時計に目をやると、もう十二時半を回っていた。斉藤は思いっきり伸びをし、凝り固まった腰や肩をのばしてからゆっくりと立ち上がった。
「いつもの場所でいいよな?」
「ういっす!」
 君嶋は鷹揚に頷いた。
 いつも贔屓にしている定食屋に入り、適当な席に腰を下ろすと、斉藤は君嶋の携帯に奇妙な物がぶら下がっていることに気が付いた。
「君嶋なんだそのストラップ? お札か?」
「ああ、これっすか? 呪い除け効果のストラップっすよ。最近物騒なこと多いっすからねー。いろいろと」
 君嶋は携帯電話を斉藤の目の前にかざし、ちゃらちゃらとストラップを揺すって見せた。
「またか」
 呆れたように呟く斉藤。そう、またなのだ。君嶋は所謂オカルトマニアというやつで、いつも胡散臭い厄除けやら呪い除けやらのグッズを身に付けていたり、いかにも怪しい装丁のハードカバーを読んでいたりと、少し風変わりな趣味の持ち主なのだ。
 君嶋が目の前で揺らすストラップを鬱陶しそうに手で振り払うと、斉藤はそこで今朝のことを思い出した。
「そういえば今朝変わった猫を見かけたぞ。お前なにか知らないか?」
「どんな猫っすか?」
 君嶋は携帯をテーブルに置くと、興味しんしんといった様子で身を乗り出した。
「なんというか、全身真っ白な毛をした猫なんだがな、右目周辺の毛だけが黒い毛なんだよ。最初は三毛猫かとも思ったんだが、違うよな」
 斉藤はそのとき、変わった猫とはいえ猫の話だしと、まさか君嶋が知っているだろうとは思っていなかったのだが、予想外にも君嶋はこの猫について知っていた。
 君嶋は、にやにやと笑みを浮かべながらいつもの軽薄な調子で語りだした。
「ああ、それ厄溜め猫っすよ」
「ヤクダメネコ?」
 斉藤が間の抜けた声で聞き返した。
「そう、厄を溜めると書いて厄溜め猫。ある地方では迷信として語られてたりするんですけどねー。そんな猫に会えるなんて先輩ラッキーっすよ。まあ、俺だったら御免被りたいっすけどね」
 くつくつと声を押し殺したように笑う君嶋。その含みのある言葉に斉藤は少し嫌な予感を覚えた。
「なんだそれ。何か悪いことでも起きるのか?」
「なに寝ぼけてるんっすかー。それは先輩に聞きたいっすよ」
 君嶋の軽口に少し苛立ちを覚えた斉藤だったが、彼の言っていることがよく理解できなかったのでなんでもないというふうに続きを促した。
「一体どういうことなんだ? もっと詳しく説明してくれ」
 君嶋はやれやれと呟き、顔から表情を消し、いつになく真剣な口調で語りだす。
「厄溜め猫はその名の通り、その猫に会った人の厄を貯めるんですよ。と同時にその人に災いを届ける。災いを届け終えたら猫は自然と消えるんですけどね。だから先輩に何か悪い事は起きなかったか? と聞きたかったんですよ」
 君嶋はにやりと嫌な笑みを浮かべた。斉藤はそれを見て見ぬふりをして答える。
「んー、そういえばカラスに糞を当てられそうになったかな。それ以外は特に」
 斉藤の答えを聞くと君嶋は口の端を吊り上げ、楽しそうに本当に楽しそうな表情を浮かべた。
「当てられそうになった。ということは糞には当たってないんですね? だったら猫は災いを届け終えていない。また先輩の前に現れますよ、厄溜め猫。今度はもっと大きな災いを届けにね」
「なっ……」 
 斉藤は言葉を失った。あの猫が自分に災いを届けているだと? にわかに信じられないような話だが、今朝鳥の糞に当たりそうになったのは事実だ。それになにより、君嶋のいつになく真剣な様子がその話に真実味を帯びさせた。
 どうしても、まさかと笑い飛ばすことができない。そんな斉藤の様子を楽しそう見ていた君嶋は最後にこう付け加えた。
「次に猫に会うときは、その黒い部位が広がっています。五回目に会うときは全身が真っ黒に。言いたいことは分かりますよね? 先輩気をつけてくださいよー、全身真っ黒になった厄溜め猫に会ったら、先輩と一緒にランチ行けなくなりますからねー。ふふふ……」
 その顔は獲物を嬲る肉食獣のような、最後に取っておいたデザートにありつくような、そんな嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 次の日、斉藤は家の前で顔の毛だけを黒くした一匹の猫に会った。
 ――やはり君嶋の言っていたことは本当だったのか?
 しかし、疑念は振り払えない。たかが変てこな猫一匹に出会ったことで災いを受けるだって。馬鹿馬鹿しい。それに昨日の鳥の糞だって偶然だったに違いない。
 一晩ぐっすり寝て冷静になった頭で考えた斉藤は、昨日の話がいかにくだらない妄言だったのかと思い至った。いかにも君嶋のやつが好きそうな作り話である。
 不覚にも君嶋の話にビビってしまった自分が恥ずかしい。今日はこっちがなにか君嶋の肝を冷やすような話をしてやろう。そんなことを考えながら歩いていた斉藤は、しかし突然かけられる声に再び自分の肝を冷やすことになる。
「危ないっ!」
 頭上から投げかけられる突然の叫び声。反射的に見上げた斉藤の目に飛び込むのは植木鉢の影。思わず身を引いた斉藤。その鼻先をかすめて地面に落下した植木鉢はがしゃんと大袈裟なほど大きな音を響かせて、ぐしゃぐしゃに砕け散った。
 斉藤は、先ほどまで自分がいた場所に落ちてぐしゃぐしゃに砕けた植木鉢を呆然と見下ろした。顔を青ざめさせ、その口からぼそぼそと声にならぬ声がこぼれる。
「嘘……だろ……」
 脳裏に浮かぶのは昨日の君嶋の言葉。
『当たってないんですね? だったら猫は災いを届け終えていない。また先輩の前に現れますよ、厄溜め猫。今度はもっと大きな災いを届けにね』
 植木鉢に当たらなかったのは果たして幸か不幸か。今の斉藤にはそれすら考える余裕がなかった。

 君嶋の言っていたことは冗談でもなんでもない。厄溜め猫は本当にいるんだ。
 厄溜め猫との二回の遭遇で、斉藤は半ばそのような確信を抱かされていた。
 その日、君嶋に相談してみたところ「厄溜め猫の災いを避けるのは簡単です。猫に会わなければいいんっすよ」なんて暢気なことを言っていた。
 そうは言っても猫に会わないでいるなんて簡単なことではない。猫に会わないためには家に引きこもっているくらいしか方法がない。しかし、斉藤は社会人だ。いやでも毎日会社に行かなければいけないし、有給なんてそうそう取れるものではない。それに猫の災いがいつ去るとも分からないのだ。
 斉藤がそう思って頭を悩ませていると、君嶋は相変わらずの暢気な口調でこう言ったのだった。
「大丈夫ですよ。多分猫はもう現れませんから」
 くつくつといつもの嫌らしい笑みを浮かべながら。

 斉藤は君嶋の言っていたことを信じていたわけではなかったのだが、予想外にもそれから何事もなく一週間が過ぎた。
 あまりにもあっさりと猫が現れなくなるものだから、斉藤は安堵したのだが少し拍子抜けしたような気にもなっていた。
 もしかしたら君嶋の悪戯だったのではないか、とも思ったのだがそれにしてはやたらと手が込んでいる。それにだとしたらいい加減ネタばらしをしてきても良い頃だ。では、あの猫はいったいなんだったのだろうか。斉藤は結局なにも分かぬままだった。
 厄溜め猫が現れなくなってから十日目。そのころには斉藤も猫のことを忘れ始めていた。
 その日斉藤は自家用車で通勤した。いつもなら電車で通勤するのだが、その日のうちに終わらせなければいけない仕事があり終電で帰れないことが予想できたので自家用車で通勤したのだった。
 偶の車通勤。残暑が続くなか冷房が効いた車内で快適に通勤していた斉藤だった。そして、大通りの交差点を右折してあと数分走ったら会社に着く、というそんな時だった。
 斉藤の先を行く乗用車が交差点に進入して右折しようとしたとき、その横っ面に大型トラックが突っ込んだ。側面に大型トラックに突っ込まれた乗用車は横転しながら吹き飛び、最終的にはひっくり返ったまま停止した。大型トラックの方もフロント部を滅茶苦茶にひしゃげさせブレーキ音を大きく響かせながらやがて停止した。
 斉藤は目の前で突然起きた事故を、半ば他人事のように呆然と見ていた。あるいはただ
眼球にその光景を映していただけかもしれない。しかし、思考停止に陥った斉藤はすぐに現実という闇に突き落とされることになる。
 斉藤の目の前に突如現れた上半身が黒い毛、下半身が白い毛の猫。つまり三回目の災いを届けにきた厄溜め猫が現れたのだった。
 猫は斉藤のことを見つめながら欠伸をすると、どこかに走っていった。運良く事故を免れた斉藤は独り車内で呆然となっていた。いや、運悪く、だったのかもしれない。

 それからさらに一週間後。今度は尻尾を除いて黒い毛の猫に自宅の前で出会ってしまった。結論から言えば斉藤はまたも災いを受け取ることが出来なかった。
 その日、たまたま斉藤は寝坊してしまい、いつも乗っている時間帯の電車に乗り遅れてしまったのだった。その電車が脱線事故を起こしたのだ。
 確実に迫り来る厄溜め猫の脅威。四度目の災いを運悪く逃れた斉藤は、もはや自らの死を覚悟することしかできなかった。
 そうして次の日、遂に斉藤は五回目の猫との遭遇を迎えた。
 斉藤が家を出ると、そこに一匹の黒猫がいた。黒猫はたびたび不吉の象徴として語られている。斉藤はなんとなくこの厄溜め猫がその由来なのではないかと思った。
 厄溜め猫との五回目の遭遇で斉藤の中には死の恐怖よりも、どこか清々しい気持ちが湧き上がっていた。自らの死を悟るとどこか落ち着いた心持ちになるのだろうか。それともただやけっぱちになっているだけのだろうか。兎にも角にも、もはや自分が死ぬことは決まっているのだ、今更馬鹿みたいに騒ぎ立てたってどうにもならないと斉藤は思った。
 斉藤はそのまま会社には向かわず、駅前のカフェに入った。自分に残された時間を有意義に使うために。
 だが残された時間と言っても自分はいったいいつ死ぬのだろうか。猫が現れたということは近いうちになにか災いが起こることは分かっている。しかし、いったい何時。いくら考えても結局分からないことだ。斉藤はあまり深く考えないようにして、運ばれてきた珈琲を口に含んだ。
 珈琲を飲みながら、斉藤はこれからどうしようかと考えた。会社になにも言わずにサボってしまったので、少し落ち着かない。やはりいまからでも会社に行こうかとも思ったが、死ぬ前になにが楽しくて働かなくてはいけないのだ。結局、会社には行かないことに決めた。
 親に連絡を取っておいたほうが良いかもしれないと、と斉藤は考えた。しかし、どう言ってこの状況をどう説明すればいいのだろうか。厄溜め猫に五回会ったから死ぬなんて言って果たして信じてもらえるのだろうか。それとも、なにも言わずに自分が死ぬことだけ伝えればいいのだろうか。どちらにしても両親をいたずらに不安にさせるだけだと思い、結局斉藤は両親に連絡はしないことにした。
 あれこれと色々考えたが、結局斉藤はこれから何をするかも決められずにカフェを後にした。いきなり自由な時間を与えられても存外したいことがないもんだなあ、なんて思いながらプラプラと街中を歩き回った。自分の死を覚悟したものの、やはりどこか実感が湧かない。これからどうするかも決められない。斉藤は地に足が付かないふわふわとした気分のまま、ただぼんやりと街中を歩き回りそのうちに自宅に帰ったのだった。
 自宅に着き時計を見ると七時を回っていた。
「もう七時か……まだ死なないんだな……」
 ぽつりと呟き、今更のように自分がまだ無事に生きていることに気が付く。結局なにも起きなかった。やはり、君嶋の言っていたことは嘘だったのか。いや、そんなことは有り得ない。だったら今まで起きたことはどう説明するのだ。
「……そうか安楽死なのか。それとも寝てるときに東京に核でも落とされるのか。……ははは……はっはっははは! 何で俺なんだよ! なんで俺が死なないといけないんだ! 俺がなにをしたっていうんだよクソヤロォー!」
 急激にこの状況に対する怒りが湧き上がってきた。迫り来る死の恐怖。どうすることもできない現実。どうしようもない事実。居ても立ってもいられなくなった斉藤は目に入るもの全て床に叩きつけ破壊し続けた。
「……寝るか」
 結局なにもすることができない斉藤はただ自分の死を覚悟して眠りつくことしかできなかった。小奇麗に整理していた部屋は見る影もないほど悲惨な状態になり、その中で斉藤は眠りについたのだった。
 次の日、斉藤はいつも起きている時間に目を覚ました。部屋の状況を見た斉藤は何事もなかったかのように目覚ました自分に違和感を覚える。
「なんで生きてるんだよ? まさか本当に猫の話は君嶋の嘘だったのか……だけど……」
 部屋の中を見渡すと見るも無残な状態が広がっている。自分がしたことだ、しかしそれ以外にはなにも変化はない。やはりどんなに考えてもなにも分からない。斉藤は身支度を済ませると会社へと向かった。君嶋に説明してもううために。

 会社に着くと、斉藤は周りの目を気にすることなく君嶋に飛び掛っていった。
「おい君嶋! どうなってるんだ! 厄溜め猫って一体なんだったんだ!」
 物凄い剣幕で掴みかかってきた斉藤に君嶋は困惑した様子を浮かべながら説明した。
「厄溜め猫? あー、アレ僕が仕掛けた悪戯っすよ。そ、それがどうかしたんすか?」
「嘘? 嘘なわけないだろ!」
「い、いや、だって言ったじゃないっすか。多分もう猫は現れないって……」
「ふざけるなっ! 俺は五回会ったぞ猫に! なのに、なんで……どうなってるんだよ!」
 斉藤の言葉を聞いた君嶋は驚いた様子を見せたが、少し考えるような素振りを見せるとまたいつものへらへらした薄笑いを浮かべた。
「偶然だったんじゃないんすかね? だって先輩、猫に五回会ってるのに生きてるじゃないっすか」
「いや……でも……」
 全身の力が一気に抜け落ち、斉藤はオフィスの床にドサっと座りこんだ。
 じゃあ、今までの出来事はなんだったのだ。あの猫は一体なんだったんだ。斉藤は今までの出来事を頭の中でぐちゃぐちゃに思い出したが、結局答えは見つからなかった。最後に思い出せれるのは昨日自分がしたこと。斉藤の口からおつっと力のない呟きがこぼれた。
「……あの部屋どうしよう」

 会社を後にした斉藤はやり場のない思いを抱きながら、自宅までの道のりをぼんやりと歩いていた。頭にあるのは猫のこと。あの一体猫はなんだったのか。君嶋は自分が仕掛けた悪戯と言っていたが、じゃあそれ以降に現れた猫はなんだったのか。そして、その後に起きた事件の数々は。
 やはりどんなに考えても答えは見つからない。そんな時、斉藤の視界に一匹の黒い猫が入ってきた。猫は斉藤のことを見ながら暢気に欠伸をしている。
「お前のせいで……」
 斉藤の中で膨れ上がるやり場のない怒り。斉藤は物凄い形相で猫に飛び掛っていた。しかし猫も斉藤が飛び掛ってくるのを見ると「なー」と鳴きながら逃げ出してしまった。
「待てぇ!」
 斉藤は猫が道路を飛び出して行ったのを気にも留めず、怨嗟の叫びを上げながらがむしゃらに追いかけていった。その時、斉藤の耳にけたたましいクラクションの音が響いた。

 仕事が終わり帰宅していた君嶋は今朝会社で斉藤が言っていたこと考えていた。
「まさか、本物の厄溜め猫が現れたのか? いや、まさか」
 君嶋は、あははと笑い飛ばした。いくら自分がそういうもの好きだからと言ってそんなものが実在するとまでは信じていない。それに斉藤に仕掛けたの最初の二回だけだ。それ以降の猫はどうせ見間違いかなにかだろう。
「ん? 事故でも起きたのか」
 信号を渡ろうとしていた君嶋は、道路の真ん中で警察がなにか作業しているの気が付いた。おかげ道路はものすごい混み具合だ。
 君嶋は特に気にも留めず、信号を渡っていった。と、信号を渡った君嶋の目に信じられないものが飛び込んできた。
 尻尾の毛だけが黒い毛の猫。その猫はただ君嶋のことをじっと見つめて地面に座っている。
「……先輩の仕返しか?」
 君嶋の呟きは辺りの騒音にとけて消えていった。
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