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去らば、母なる地球

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 2018年には惑星エウロパにおいて、知性こそ持たないが地球外生命体の生息が初めて確認され、その五年後には早くも、高度な知性を持つ地球外生命体とのコンタクトが、友好的な形で相手側からとられた。そこを皮切りに、人類は続々と、未知なる知性との邂逅を経験していった。後にContact Rushと称されたこの時代は、人類史上、類を見ない変革の時代となった。
そして400年もの月日が経過した現在、増えに増えた人類の移民問題が、天の川銀河系では最大の問題になっている。
 東京のJR新東京銀河駅のプラットホームは朝早くから、他惑星への移民希望者でごった返していた。
「お客さん、駅構内での刃物の・・その・・・」
「ああ、す、すいません、片付けます」
駅員から注意を受けた藤岡は、サバイバルナイフの研磨を中断した。
全てが機械化自動化されたスマートな時代には不似合いな、そのようなアナログ兵器を所持する理由、それは藤岡が一番信頼しているものは己自身の感覚・動作・判断であり、精緻なコンピューティングシステムではないということにある。
乗車予定の列車が、汽笛を鳴らしながらホームに入ってきた。
汽笛とはいっても、無機質な電子音によるものである。
藤岡が幼少期に聞いた汽笛のそれとはまるで違った。
かつての情緒は失われていた。
ベンチからゆっくりと腰を上げ、ベレー帽を被り直す藤岡。
行き先は、始まりの惑星エウロパ第三の都市フシダラ。
銀河中の悪漢・罪人はそこに集うといわれているほど、治安状態は最悪な場所だ。
そこでの藤岡の目的は一つ。
そう、危険な冒険を共にしてくれる屈強な男たちの発掘である。
藤岡は、このスカウト自体が危険な冒険になることを覚悟していた。
 地球をあとにし、宇宙空間を走りゆく列車。
藤岡は車窓から地球を眺めていた。
かつて人類自身が奇跡の星と呼んだ地球の、あの美しさは、汽笛の情緒と同様に、すでに失われていることを藤岡は悲しんだ。
そこには、熟れ過ぎた巨大なアボカドが浮かんでいるだけだった。
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